――いい、寝ない。
[どうぞという言葉にはすげない返事をして。とてもじゃないが眠る気分になんかなれない。
吐かれたため息と、伸ばされた手に、ちらと視線をやる。耳朶へ触れられれば、多少の痛みを伴えど、ただ眉を寄せるだけでそれを受け入れた]
おい、言いたい事があるなら言えよ。
[気不味げに逸らされた視線と、無遠慮に伸ばされた手と。そこに何かの意思がある事は分かったから、まるで躊躇っている様な彼に促しの言葉を投げた。
――一体何を取り繕おうというのか。どんな事だって、無理矢理従わせてきたくせに。今更それを躊躇うだなんて。しかも此方は何でもしてやると、暗にそう言ってやったのに。
ふん、と。一つ鼻を鳴らして。引かれそうになった彼の手を掴む。勿論、そんな手はすぐに振り払えただろうけれど。振り払われたとしても、それを追ったりはしなかっただろう。
彼の手が取れたなら、それを支えにして体を起こす。取れなかったなら、ただ自分の手で起き上がるだけだ。
そうしてベッドの上で立て膝をついて、椅子に座る彼の対面に座っただろう]
……はやく言え。
[そうしてもう一度促してやれば、彼はどうしただろうか]
(93) 製菓 2014/07/08(Tue) 16時半頃