[そして日記は、ある日の前日で日付を止める。
だからそれは、私の記憶の中にだけあるもの。]
ある日、一緒の任務で、兄さんに危険が迫った時。
私は確かに、兄さんを庇って、守れたはずだった。
目の前が真っ暗になっていく中。
私は凄く、幸せな気持ちだった。だけど。
兄さんの腕の中に抱き締められている、安心感の中。
目を開けたら……死んでいたのは、兄さんの方だった。
兄さんはきっと、私を《救済》して、多分戦う事ができなくなって。
腕の中で、私を守るだけで、精一杯だったんだと思う。
[ツェツィーリヤと初めて言葉を交わした時、兎に触れたのは。
視力を失った彼女の瞳に、《救済》を連想して、兄と重ねたから。]
だから、私の右腕に兄さんは居ないの。
ううん。間に合ったなら、迷わず《救済》していた。
[そこまで告げて、色を失った瞳からは涙が零れる。]
(89) doubt 2013/06/25(Tue) 21時半頃