[もし彼女が、サイモンとの対話を前に再び固くなってしまったら。
その時は、お前が背中を押してやってくれないか……そう言いかけて、やめた。
暗闇を経て、カリュクスの様子は劇的に変わった。
木村邸へ現れた時の、あの思いつめたような表情は最早どこにもない。
その理由は一つではないだろう。人の心は複雑で、案外単純だ。
だが、好転のきっかけとなったのは、姿を消した彼女にたった一人手を差し伸べた、青年の純粋さではないだろうか。
心から彼女を案じ、彼女の心中に踏み込んで「当事者」になってやれる人が、あの時の彼女には必要に思えたのだ。
惰性や強制で屋敷中捜索したところで、カリュクスが心を開くことはない……少なくとも、男にはそう見えた。]
(ま、だからって言って、放っといたのは事実だし。
…今になって外野があれこれ口出すのも無粋か)
[そもそも、何も言わずとも彼らなら大丈夫だ。きっと。
お節介心に蓋をして、彼は青年の甲冑を軽く小突く。]
…お姫様、迎えに行ってくれてありがとな。
[いやーさっすが騎士様だわー、すってきー、と冗談めかして口の端をつり上げると、居間の方へ戻って行った。]
(78) 2013/06/18(Tue) 18時半頃