[日は殆ど沈んで、夜が近付いている。必要な『力』も満ちている。
ならば、すべきこと、出来ることは、こうして歌うことなのだ──善きひとを、より良き結末へ、導く為に。
未来が見える訳ではない。何が起こるかはわからない。
故に、彼が今贈れる『祝福』など、ささやかなものだが……無いよりは、ずっと良い筈だ。
クラシックギターの伴奏が、夕日の中にフェードアウトする。
赤みを増した教室に、無音とまではいかない、自然な静寂が戻ってくる。]
……ちゃんと、聴いてたね?
じゃあ終わり。
ペンケース取りに来たんでしょ。
俺も、もう帰るから。
[普段、昼間に聴けるよりも、かなりはっきりした声でそう言うと。侑伽は鞄を手に、さっさと教室を出ていこうとする。]
また明日。
[ひらり、振り返らずに手を振って、立ち去った。*]
(72) 2022/09/03(Sat) 01時頃