[彼が告げた茶番にこくりと従順に頷いて、花になった自分というものを想像してみる。
あくどい客とは目の前のこの男のことだろう。自分で自分をあくどいと称するとは。
可笑しさに笑みが漏れそうになるが、おそらく売られてきたばかりの花はそんなことをしない。
代わりに眉を下げて不安そうな顔を形作って見せると、裸体を晒すことを命じられた。]
分かりました…。
[今夜の自分はニコラス坊やではない。
その呼称に実感すると、まずシャツの一番上の釦に細長い指をかけゆっくりと外した。
暑い夏の日ですら折り目正しく閉じられているはずのそこに、霧雨で下がった地下牢の空気が触れる。
続いて二つ目、三つ目と釦を解いていくが、薄い肌に触れる寒気に反比例するように身体の温度は上がっていくようだった。
釦を全て外しシャツを脱ぎ捨てる段になって、隙間から僅か見えてるばかりに過ぎない肌を覆うものがなくなることに不安を覚える。
不安を気取っていただけの表情は本当の羞恥に歪む。
それでも、一呼吸置くと僕はシャツを床に放り捨て、細い白い躯幹をあくどい客の視線の下に捧げた。]
(70) 2014/09/20(Sat) 15時頃