[腕から引き抜いたのはまだ柔らかな新芽だった。根ごと毟ってやったけれど、傷口は縫合が必要なほどでは無かったようで
綺麗に巻かれた包帯の上を、反対の手で無意識に強く握り締める。肌の上であれば爪が食い込む程に。]
……オレ行く。メシの邪魔してごめん、センセイ。
[スティーブンと幾らかの遣り取りをした後、青年は腰を上げた。
本当に言いたかった謝罪は飲み込んだまま、食事の邪魔をしたことを詫びて診察室を出る。その瞳に扉の前にいた時程の虚ろさはないが、翳りは晴れぬままで。
後ろ手に扉を閉めると、変わらず漂う芳ばしい匂いと、聴こえる歌。>>44
窓の外、夏の名残の光に灼かれた空気と、庭に溢れる花を揺らす白い風。
目を閉じて。息を吸う。匂い。音。温度。瞼の裏に映り込むひかり。空気。感触。肌を撫でる、その。
開いた目が、その視界に映る世界を凝視する。一秒。二秒。惜しむように。三秒。忘れないように。四秒。忘れない、為に。────五秒。]
(69) 2014/09/01(Mon) 15時半頃