[もしあの子が、奪ったぬいぐるみへ愛情を失っていたら、
あの子を好きなままでいられただろうか。
もし彼が、絵画へ向ける視線を途絶えさせたなら、
この恋は、恋のままでいられるだろうか。]
……ホント、馬鹿馬鹿しい。
[願うことも奪うこともせず、ただ求め、乞い、飢えて。時に痛みに身を折りながらも、それこそが幸福と言わんばかりに欲望を揺らす。
最初から破綻しているものを恋と呼んだ。
誰も認めてくれない恋を、している。
この恋は、朧の中で永遠に微睡むだけだ。
鍵を捻った。夜更けの廊下に引き戸の滑る音が響く。
戸の縁に寄りかかり、彼の訪れを待つ表情は、普段のそれより僅かに柔らかいかもしれない。しかし、それ以上の違いはどこにもない。大田竜海に恋をしてからずっと、停滞している。今宵はそれがほんの僅かに乱れているだけ。それだけだ。
何もかもを身の内へ飲み干して、男は想い人を埋葬地へと迎え入れる。]*
(65) Pumpkin 2021/02/20(Sat) 22時頃