俺だけの為に舞台に立ってくれるのなら、俺は必ずそれを観に行こう。
…俺の贈る名で、演じてくれるなら。
――……その調子で、こうして居る時は演技なんぞしてくれるな。
ただし、他ではちゃんと演じてくれよ?
こんなお前を知るのは…俺だけでいい。
[膨らむ欲は、止まる所を知らず。
溢れ出る言葉は、それは何とも子供じみた欲に満ちた言葉だっただろうに。
髪に埋めた手に、僅かに力が篭るのも厭わずに。今迄のように啄ばむようにではなく、荒く唇を重ねた男は、そろそろ味見だけでは飽き足らなくなってはきたのだろう。
触れた唇の間へと舌を差し込み、唇の裏をなぞったのなら。嗚呼その唾液の、何と甘美な事だろうか。
……チャリ、と。首に掛けた時計の鎖の擦れる音を聞きながら。蜘蛛が蝶へと迫る、その針の音を聞きながら。
口付けはまるで――獲物を貪るようなものへと。]
(65) ねこんこん 2014/10/12(Sun) 03時頃