……っな、
[手応えを感じられなかったのは、突然傾いだ弟の身体のせいか、それとも自分の精神状態のせいか。
どちらにせよ、頭を伝って落ちた腕に気付けば、咄嗟に手を伸ばして、崩れる身体を支えた。小柄な身体に腕を回して、蒼白な顔色を認める。]
………、悪い、…辛いか。
[今の弟が、とうてい健全とは言えない状態なのは承知の上での行為だったけれど。
それでも確かに感じる罪悪感に、今更とは知りつつ謝罪を落とす。
抱えるようにして引き上げながら、静まり返った室内に視線を巡らせた。
一角にだけ奇妙な空気を残したこの場所に、これ以上留まるのは気が引ける。
何より常の発作ならば、そのまま部屋に戻して休ませてやるのが一番だと。
どうせ話などろくに頭に入らないだろうと、そう自己完結させれば、当事者へと再び目を戻した。
歩けるのならば手を貸して、無理ならば背に負って。そうして移動する旨を、抑えた声で告げる。
肯定されれば、もしくはめぼしい否定が無ければ。そのまま弟を連れて部屋を離れるだろう。
にわかに医者として回り始めた思考の中で。
――いつかは置いていかれる、と。そんな仄暗い不安が、再び顔を覗かせはしたけれど。]
(63) 2014/07/05(Sat) 06時頃