―廊下―
[館に入って早々、一本の煙を立ち上らせる。
煙はか細く、所在無さげに、天井に着く前に消え去った。
この場所で火を付けると、昨晩の花と蝶とのやり取りを思い出す。他の蝶とは日頃からあまり出会いたくない心持ちではあるが、今日は一層、特に男の客でもある豪胆な蝶>>36には会いたくないと強く願う。
足早に進んだ廊下の先に見つけたのは、今朝花主に奨められた藤の色>>44。
中庭で戯れる蝶と花。その存在はまだ目に見えていないだろう。
綺麗な色だと、本物の花を見るように内心溜息をつく。しかしその様子は、着物云々以前に何処か薄ら寒そうで]
よ、藤色の。
着物と肌の色は態とお揃いにしてんのかね。
今朝、花主にお前をオススメされたんだがよォ。ありゃ嘘か?
客の前ではいい顔してくれよ。
[楽しみにしてんだから、と昨晩相手が苦手そうだったタバコを一本叩き出して、差し出す。
せめてその顔が変わってくれれば男も救われる気がして。]
(59) 2014/09/17(Wed) 22時頃