[あの時、ヴェスパタインが何を思っていたのかは、ヴェラには推し量ることはできないが。
時間をおいて返ってきたのは、常と変らず言葉少なく「人それぞれだ」の一言だった]
ありふれた答えだな。つまらぬやつめ。
そんなんでは一生つがいになどなれんぞ。
……ぬ? 今、何と言った?
[人それぞれだ……が。
アヴァロンに属する魔法使いとして、共に出会えた。
己が知るはそれだけであり、それだけで十分すぎる僥倖だ、と。
一語一句は違えども、そんな内容だった気がする。
それは、アヴァロンでしか生き方を知らない、閉じた男の孤独な独白にも思えたが。
ぎりぎりまでは押し広げた門戸の内側に、話した男と話に上がった男の2人を受け入れようとしているように思え。
こそばゆくなったヴェラは、言葉を語らずに済む狼へと変身し、しばし無言の時をすごしたのだった]
(44) 2013/06/15(Sat) 18時頃