――七坂町:柴門洋装店――
美味しい…
[雇い主が買ってきたロシヤケーキを一口して、翠は溜息を零した。]
贅沢な異国の焼き菓子に温かい紅茶…ふふ。
私、柴門さんとこうしている時が一番幸せです。
[丁寧に淹れたお茶も、舶来セイロン茶と呼ばれるこれまた異国から輸入されてきたもの。
一般庶民には贅沢品のひとつである。
最も、湯呑みに淹れているので微妙に風情に欠けていたりするが、翠は顔を綻ばせて雇い主を見つめた。
柴門は外出する際、よくこうやって手土産を買ってきてくれる。
気弱で人が良すぎる面もありはするが、異国文化や衣服に関する知識は豊富で、何よりとても優しい雇い主を翠は信頼していた。]
カフェでは多くの人が珈琲を嗜んでいるらしいけれど、
私は紅茶の方が好き…
[翠は目を閉じて、しみじみ至福のひとときを味わっている*]
(35) 2010/12/31(Fri) 16時半頃