―回想・商店街―
[向けられた指先>>10は重なることもなければ、男が絡み取ることもなかった。
下ろされていく様をただ眺めるのみ。
チクタク、チクタクと、均等に針を進める銀時計。
時間に急かされることのないチェシャ猫ならば関係はないのだけれど、目の前にいる人は御伽の國の住人ではなく、現実の世界は誰彼構うことなく平等な進んでいく。
商店街で、同じ台詞を。
彼女は気付くだろうか。あの時と違って紅葉は咲いていないけれど。
迷子のような瞳が男に向けられた。
笑みのようなものが、影を踏んでいく。溶け合う二人分の影の中、迷子の顔を見た>>11]
私? 私は赤ずきんを返しに来たの。これは私が身に纏うものじゃないから。だって私は赤ずきんじゃないから。
[いらないと影を見つめる彼女に童話じみた口調で男は赤ずきんを演じる。そして懐から赤ずきんを手にすれば――…]
(16) minamiki 2014/10/11(Sat) 11時頃