――――……貴女も” 人間 ” では?
[ ひとに見えると。 彼女を目前にして幾度も思った事柄。
男は彼女の言葉を繰り返した。 ――そう、” 繰り返し ”た。人間、と。
いつの間にか人間にまで進化していた、と依然歴史の教科書を思い浮かべながら。さて今は何世紀か、なんてズレたことさえ。
「猿では無いのですねえ」、 言おうとした言葉は、喉元に留めた。 ]
? ……悩むということは、少しでも――” そんなわけあった ” 、ということでは。
まさかその上着を気に入って頂けるとは、思いませんでしたが。
[ 聞き返され、弾かれたことには彼女を薄く見遣りつつ。
しろとくろが ――逃がした犬の名と同じ色が好きなのだろうか。 男は彼女に掛かった上着に視線を落とし、自身のスータンのポケットへと手を差し込んだ。
かちり、鍵束が声を出す。 それを緩々とした動作で拾えば、連なった鍵を彼女の目前に晒しては。 くるりと指で鍵を回したなら、彼女はまた別の衣服を欲しがるさまでも、見せただろうか?
―――先より言葉を詰まらせる彼女に、男はあざといまでに首を傾げてみせた。 貼り付けた笑みは、未だ穏やかなまま。 ]**
(12) 2015/07/14(Tue) 11時半頃