――――10:03
[やはり首周りが落ち着かない。咳払いと共にタイを正し、綺羅びやかな高級宝石店へ足を踏み入れた男は、安賃金を慎ましく積み上げて、恋人へのプレゼントを買いに来た幸せ者にでも見えたか。宝石なんざ、女から毟り取るもんだがね。
まるで場違いの様な素振りでキョロキョロと、物珍しげに見渡すのは、警備員の配置や監視カメラを探るのにお誂え向きだ。
小さな商店やガススタンドに押し込むのは手慣れたもんだが、鉄パイプでカチコミやらかすのとはちっとこのヤマは規模が違う。
ひぃ、ふう、みぃ、小洒落たダウンライトに隠されたカメラを数える。成る程ヨアヒムが何処ぞより仕入れた図面と合致する。赤子の頃から親も呪っただろう程の醜貌だが、仕事の腕前だけは確かなようだ。
そのまままるで、こんな場所に訪れる機会はもうありませんから、との素振りであちらこちらのショーケースを覗き込む。天鵞絨に収められて煌めくばかりのジュエリー。これ一個で、何年くらい遊んで暮らせんのかねェ…。*]
(9) 2016/04/08(Fri) 00時半頃