[男はいつも茶色のジャケットを羽織り、箒とキャスター付きの小洒落た移動式屑籠を持って仕事に励む。
もっと前は何の面白みもない作業着姿でゴミ袋を直接手に持っていたが、ある時から彼らも身なりに気を遣うようになったのだ。
同僚たちの大半は"また上司の思いつきで何か新しいことが決まったな"くらいの反応であったが、男はこの姿を密かに気に入り、誇りに思っていた。
"街の景観を守る者が見窄らしい格好をしていてどうするのか"と演説した上司の言葉にもいたく感動したものだ。
そう、つまりこの男はよく言えば仕事熱心で勤勉であり、悪く言えば単純で少々梼昧であった。
華やかで高給な役所の受付事務に就かなかったのも、本を正せばそういう理由である。
だが男は今の日常に満足していた。
問題があるとすれば"そろそろ良い歳なのだから身を固めろ"という周囲からの見えない圧力くらいだろうか。]
(2) 2014/07/05(Sat) 07時半頃