─ 現在 グロリア寝室 ─
[薫き染められた香がかすかに鼻孔に辿り着き、イアンの意識はリアルタイムに呼び戻される。覗き込んでいるのは、今、横たえたばかりのグロリアの貌。
目蓋を開いた彼女が笑うと、艶やかな衣擦れの音が聴こえる。]
──…ッ!
[主人/恋人/奉仕ではなく。
落札されたと言う現状から想像もしなかった言葉に、イアンは視神経の奥が軋むような、言いようの無い苦痛を感じた。それが自分にとって酷く残酷な言葉になっていると言う事が、理解出来ない。
空白の時間。呼ばれる自分の名。イアンと言う名前がある限り、まだイアンと言う人間は過去と地続きであるのだろうか?
恋人を抱くと思って。その言葉に、新しく何かを目の前のおんなに奪われたような、或いは逆に完全に自由を得たような錯覚に陥る事になる。]
… あ あ
[此処は何処で、自分は誰なのか。
朱唇が微笑む。今までもそうであったように、世界が遠ざかる。]
(+50) 2010/04/09(Fri) 11時半頃