[触れられた頬に上書きする様に己の手のひらを添える。彼の残した体温が酷く不快で、その瞬間だけは怯えを忘れ、強く強く目の前の相手を睨み付ける]
……もう、見舞いは済んだだろ。
いい加減帰れよ。
[彼が何をしてくるか分からない。そう思うと、素直に座る事も出来ず。
会話も、何もかもを拒絶する様にその場に立ち尽くした。
どうせ言っても帰らないとは分かっていたけれど、淡々と皮むきの準備を始める相手にため息を一つ。けれど彼がポケットから取り出したナイフを見れば、ひゅ、と。息を詰めた。
――人を刺したナイフで林檎の皮むきだなんて、どういう神経してるんだこいつは。
呼吸が浅くなっていくのが、自分でもよく分かる。意識して深くしようとしても、震える喉は言う事を聞いてはくれない。青褪めた顔で口元を覆う様は、酷く滑稽に映っただろう。
彼が椅子に座り、林檎を剥き出すのを見れば、詰めていた息が漸く正常を取り戻して行く。
とはいえ、いつその切っ先が此方を向くかと思えば、安心する事は出来なかったけれど]
(+26) 2014/07/02(Wed) 09時半頃