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― 街の通り ―
[男が街の通りへ行くと、少女はいつものように街角へ立っていた。小さな籠にとりどりの花をあしらい、儚げにひっそりと立っていた。 まるで、路端に咲く小さな花のように。 人気の少なくなった通りに、ひっそりと、いつものように]
……お嬢さん。 花を売って頂けませんか。
[恭しく一礼する。彼女――メアリーは痛ましげな笑みを浮かべ、そっと籠を差し出した。 どの花でも同じ値段。 恋の花を優しく手折り、彼女の髪に飾った]
――綺麗だ。
(117) 2010/07/05(Mon) 12時半頃
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[彼女はいつものように困った表情を浮かべる。 少しだけ頬を赤くして。 もう何度となく同じことを繰り返したのに、それでも慣れたり、驕ったりしないのだ、彼女は。
男は言葉を見失って――曖昧な笑みを浮かべる。 綺羅びやかに装飾された言葉も、彼女を称える情熱の炎も、姿を表すことはなく。
何度か、言葉を口にしようとして、男は弱った笑みを浮かべた]
(118) 2010/07/05(Mon) 13時頃
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――彼女に、嘘は付けない。
(=0) 2010/07/05(Mon) 13時頃
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[>>1:235 放ったあの言葉。 あれが、彼女自身にも突き刺さったことが、よく分かっていた。 彼女は村外れの花畑の一角に住んでいる。
花売り――
この時代で妖術使いの一種として、差別を受けている職業を持つ彼女だから]
――
[あの時浮かび上がった男の底意。よく分からないものへの。信仰から外れた者への恐怖。 そう。めぐって、想い人への好意に含まれた恐怖を晒してしまったから。 彼女の傷付いた表情は――今でも男の胸に焼き付いている]
(119) 2010/07/05(Mon) 13時頃
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『嬉しくないわけじゃ、なかったのよ』
[口火を切ったのは、少女の方だった。 いつも彼女が対応出来ないほどに、男は言葉を、好意を並べ立てていたから。
それは――なぜ?
男の情熱故だろうか。 男の傲慢さ故だろうか。
――男の臆病さ故だろうか]
『あなたと一緒に暮らしていくことを 夢に見ないわけじゃなかったの』
(121) 2010/07/05(Mon) 13時頃
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――敵わないな。
――かなわない。
(=1) 2010/07/05(Mon) 13時頃
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『愛し、愛されて。子どもを授かって――』
[彼女と一緒に暮らす――それはきっと困難だ。
偏見も、何もかも飲み込んでこの村で暮らすことも。 稼業も、何もかも捨てて村を出ていくことも。
出来なかったろうから]
『あなたと、子どもと、花と。光の中で』
[何のしがらみもなく、二人だけ。 そうなるには、ふたりは余りに重すぎた。
謳うように、言う彼女。 男を揶揄する遊び心を見せる彼女は、とても魅力的に過ぎて、眩しかった]
(122) 2010/07/05(Mon) 13時半頃
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僕は――僕は!
『――うん』
[そっと、遮られる言葉。 男の言葉が――宙に浮く]
『いつか、本当に私が受け入れられて』
『この村で、あなたと暮らせる日がくればよかった』
[男が滑稽に少女の気を引くたび 村人は彼女への恐怖を忘れたはずだった]
『私たちの子どもも、何の心配もなく暮らせるの』
[花売りとの子だなんて偏見も薄れさせて、幸せに]
『あなたの作った灯りに囲まれて』
[それは、いつかあったかも知れない日々]
(124) 2010/07/05(Mon) 13時半頃
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『でも――ダメだったみたい』
[困ったように笑う彼女。 村を襲った悲劇は――時間というものを尽く奪い去ってしまった]
『罰かも、知れないね』
[何の罪があったというのか。 原初からある人の罪だというのか。 信仰への罰だというのか。
生まれが、門地が。 それすらも神の采配だというのに。
ならば。
"お互いに叶わないと分かっていた恋"
それに溺れた罰なのか]
(128) 2010/07/05(Mon) 14時頃
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ああ―― ああ。
[頷く]
――はじめは、確かに一目惚れだった。
あの子がくれた花。 あの子がくれた笑顔。 あの子の細い身体。 あの子の儚い笑み。
あの子の――
(=3) 2010/07/05(Mon) 14時頃
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[そよそよと風がふく。 爽やかに晴れた空。
小さな村で何が起こっても
天は、いつもと変わらない]
メアリー……。
[彼女の瞳には、涙が浮かんでいた。 深い琥珀の瞳。きらきらと波打っている]
僕と――。 僕と!
(133) 2010/07/05(Mon) 14時頃
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一緒に――!
(=5) 2010/07/05(Mon) 14時頃
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[はしと。
口元を、抑えられる。 彼女の方から触れられるのは、これが初めての経験]
『――ダメだから』
[俯いた彼女の表情は見えない。 細かに震える声で彼女は男を押しとどめた]
『それは、言わないで』
――。
[懸命な、言葉。真摯な、願い。 それは、この世に生まれることを許されなかった]
(135) 2010/07/05(Mon) 14時頃
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『私、そんなこと言われたら、頷いちゃう。
でも――そうじゃ、ないでしょう?』
[彼女は、微笑んで。泣きながら微笑んで、そういった。 男は、答えを返すことが出来なかった]
『――かえる、ね。
――ありがとう』
[さよなら。
男には、そう声が聞こえた。 去っていく少女の姿が、どんどんと小さくなっていく]
(137) 2010/07/05(Mon) 14時半頃
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メアリー!!
(138) 2010/07/05(Mon) 14時半頃
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[背中に、呼びかけた。
彼女が、ゆっくりと振り向く。 彼女の姿が揺らめいて――逆光。 光のなかで、見えなかった]
――好き、だったんだ。 君のことが、好きだったんだ!!
[叫ぶ。
大声で。 普段は出さない声はひび割れて 決して格好のいいものではなかったけれど]
(140) 2010/07/05(Mon) 14時半頃
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[少しだけ遠い距離。 少女が息を吸う気配がした]
『私も! あなたのことが、好きだった!!』
[叫び。 大きな叫び。
透き通った声。
ふたりの視線が、絡む]
"――でも"
"それだけじゃ ダメだったね"
[お互いに、意思を交し合う。
交歓――。]
(142) 2010/07/05(Mon) 14時半頃
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[そして
女は立ち去った。
男は、見送った――]
(144) 2010/07/05(Mon) 14時半頃
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――はぁ。
[がくりと膝を落とし、手を付いた]
はあああああああああああ。
[深く、深くため息を吐いて]
ふぅ。
[立ち上がる。手のひらや膝についた土埃を 払った]
(147) 2010/07/05(Mon) 14時半頃
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[気だるげに髪の毛をかきあげる。 例え彼女がその場にいなくても、染み付いた伊達や酔狂が消えるわけでもなく。 男は相も変わらずにさして周囲を気にせず身を整えた]
――
[女が立ち去る気配。周りに人がいることくらいは知っていたが]
――は。
[兄に気がついたのなら、皮肉げに肩を竦めた]
(159) 2010/07/05(Mon) 15時頃
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知らないな。 神のみぞ知る――というとこだろ。
[ラルフの言葉に笑い]
最も 自死や他殺が絡めば明日は変わるかも知れないが。
[興味がなさそうに、物騒な言葉をさらりと呟いた]
(160) 2010/07/05(Mon) 15時頃
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そう、か――爺さんが。
[雑貨屋の主人。何度だって世話になった。 叱られたことも、笑いあったことも――でも、もう、いない]
――そうか。
[現れたミッシェルに、眼で挨拶する。会釈すらも省略して。兄の口からサイモンのことを聞けば不機嫌そうに顔を顰めた]
――サイモンが?
[続けられたラルフの思わせぶりな言葉に、目を細める]
なんだラドルフ。 言いたいことがあるなら、言え。
(169) 2010/07/05(Mon) 15時半頃
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[どこにでもありそうな草臥れたぬいぐるみ。 それに表情を綻ばせるラルフに目端をひくりと動かした]
――
[心当たりがあるようすの兄とラルフに交互に視線を動かした]
(170) 2010/07/05(Mon) 15時半頃
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――兄貴のしたいこと、ね。
兄貴は、何がしたいんだろうな。
村を出ていって オルガンで地位を掴むのを諦めて この村に篭って 時折お前の顔を見て
――それから?
(=8) 2010/07/05(Mon) 16時頃
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……分かるよ。 分かるさ。
いや、まだ、あったんだなって な。
[ミッシェルも、ラルフも そして兄も、自分も。 それぞれの思いをぬいぐるみひとつに抱いている。 これひとつを取り合ったことだってあったのだ]
そうか。
[言うつもりがないのなら。 その程度の気軽さで、ラルフを追求することはなく>>176]
物騒――ね。 何をどうしろというんだか。 それで、満たされるわけでもないのに。
(182) 2010/07/05(Mon) 16時頃
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兄貴の行きたいところ。 兄貴の傍にいたい人。
――どこに? 誰と。
――聞くことも出来ない?
だから―― 送り出すフリをするのか?
(=10) 2010/07/05(Mon) 16時頃
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――。
二年。
長いようで、短い。
兄貴があのひとのことを忘れるってことは
ないだろうな。
(=13) 2010/07/05(Mon) 16時半頃
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忘れるなんて ありえない。
――そんなことは分かり切ってる。
でも――
だからといって 何を選ぶかは別の話だ。
(=14) 2010/07/05(Mon) 16時半頃
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――選ぶ、ね。
[卑屈に背を曲げて立ち去るラルフを、静かに見送った。 彼女と同じ琥珀色を暗がりに淀ませて]
――僕も、選んでここにいる。
[独り言のような呟きは、口の中で掠れて]
(188) 2010/07/05(Mon) 16時半頃
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――ふ。くく。
背中を 押して欲しいのか?
(=17) 2010/07/05(Mon) 16時半頃
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