22 共犯者
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>>4:315 いえ……
[ 彼は言いよどむ。 オスカーがその直後にホリーを見失ってしまったことを知っていれば、掛ける言葉が見つからないとしてもおかしくはない。]
あの……無理はしないで。
[ それだけをようやく搾り出したように。]
(1) 2010/08/06(Fri) 00時頃
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>>2 [ オスカーの怒りの視線に、彼は今度こそ完全に沈黙した。 唇が痙攣したように震えたが、そこから言葉が出ることはなかった。 項垂れ肩を落とした影が、ランタンの光の輪の中に浮かんでいる。**]
(4) 2010/08/06(Fri) 00時半頃
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―深夜の森>>0>>3― [ ――背後に立つは、薄暮の髪と月の瞳の男。 それは、円に近付きつつある天の月と同じく、淡い金色に輝いていた。
見下ろす白い貌は、冷たく硬く仮面のよう。 ただ、同胞の濡れた瞳には気付いていたか、眼の光はやわらかくやさしかった。]
(26) 2010/08/06(Fri) 06時半頃
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―深夜の森>>11― [ 下草を踏む音が近付いてくる。 その足音が誰であるか見当はついていた。
木立の中からイアンの姿が現れた時、彼は顔だけをそちらに向けた。 その彼を、記者の視線から彼を隠そうと同胞が前に立ちはだかる。 樹木の間から零れる月星の僅かな光の下では、人間であるイアンの眼には死角となるであろう位置だ。]
(27) 2010/08/06(Fri) 07時頃
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―深夜の森― [ だが、それもどこまで意味があるのだろう? 既に、何も与えられずに彼を求めてここまで辿り着いたイアンに?
同胞は今のところイアンをすぐに殺す気はないらしい。 どころか、恐れる様子もないイアンに却って興味を引かれたようだ。 彼は影の中から一足踏み出し、ヘクターを間に挟んでイアンと相対した。 月光に照らされ、薄闇の中に彼の白い貌が浮かび上がる――それ自体が仄かな光を放つように。]
(28) 2010/08/06(Fri) 07時半頃
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―夜の森>>31― [ イアンの微笑に対して、彼は唇を横に引いて笑みの形を型づくる。]
――ああ。良い月だ。
[ 愉しげな声音、月の黄金を深奥に秘める冷冽の双眼。]
(38) 2010/08/06(Fri) 12時半頃
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―夜の森>>39― [ 同胞を制し、前に出た。 イアンを挑発するかの如く両腕を組み、冷たく唇を歪める。] 何を驚く必要がある? お前たちの宗教の書では、アブラハムは最愛の子イサクを燔祭の生贄として捧げようとしたと記されているではないか。 遠い過去から現在に至るまで、最愛の者を神への供物として殺してきたし、現にこの村の人間たちも、数百年に渡り、子やきょうだいを我らに差し出してきた。 何も珍しいことではない。
(40) 2010/08/06(Fri) 18時頃
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だが、
[ と間を置き、]
……お前の言いたいのはそういうことではない。 違うか? [ 先程の嘲笑が嘘のように、莞爾として笑った。]
(41) 2010/08/06(Fri) 18時頃
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―翌朝・広場― [ すっかり日が昇り朝靄も晴れた頃、すっかり疲れ切った様子のヴェスパタインが森から戻って来る。 木の枝で作った即席の杖に縋り、片脚を軽く引き摺っているのが目を引く。
誰とも言葉を交わさず柊の葉を供物台に置き、力尽きたようにその傍らにへたり込んだ。]
(44) 2010/08/06(Fri) 20時頃
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―朝・広場>>46―
ああ、テッドさん…… ちょっとね……堪えます。連日これでは。
[ 首を振り、弱々しい声で答えた。]
他の方はどうしました……? 皆戻ったのですか?
(47) 2010/08/06(Fri) 20時半頃
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―朝・広場>>50―
いいえ?
[ 簡単にすらりと偽りが口から零れる。顔色すら変わらない。 それどころか、物思わしげな表情まで作ってみせる。]
オスカーさんが私に怒って走っていったのは知っています。 そうですか。その後にニールさんが……。
マーゴさんはヘクターさんと一緒だったと思いますよ? 途中から姿を見ていません……と言っても、ご存知の通り私はかなり遅れて一人で歩いていましたから……。 ああ、記者さんは途中お会いしましたけど。
(52) 2010/08/06(Fri) 20時半頃
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―朝・広場>>54― そうですね……家に帰りますよ。 後で教会へ行くとトニーに約束したので、人眠りしたら行こうと思っています。
[ よっこらしょ、と弾みをつけて立ち上がる。 思い付いたように供物台を眺めて]
そう言えば、ニールさんが亡くなるなんて意外でした……私は彼が仕掛け人の一人だと疑っていたんですが。 [ 独り言めいた言葉を洩らした。]
(56) 2010/08/06(Fri) 21時頃
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―朝・広場>>57― そうですか。そんなことが……。
しかしそれよりも今心配なのは、オスカーさんですよ。 ホリーさんのことがショックだったのはよく分かるのですが……。
[ テッドの動揺など素知らぬ顔で眉を顰める。]
まさかとは思いますが……。
[ その先は言葉にしないが、オスカーも疑っていると言っているも同然だ。]
(60) 2010/08/06(Fri) 21時半頃
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>>59 [ 目を半眼に閉じ、憂いの表情を浮かべる。]
そうですね。 もし本当にニールさんが犯人で、もう殺人が起きなければ……
[ そうとは信じ切れないが、その可能性に縋りたい。そんな瞳だ。]
(62) 2010/08/06(Fri) 22時頃
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―夜の森>>64― [ 刻んだ微笑の形は変わらぬ。 だが、イアンを見据える双眸が。
月の黄金に輝き、炎と化して燃え上がるように見えた。]
(65) 2010/08/06(Fri) 22時頃
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―朝・広場>>63― すみません。私、疲れているんですね。 あんなに「村を変えたい」と言っていたオスカーさんが、陰謀に加担している訳ないですよね……。
[ 首を振ってやつれた笑みを見せ、また後で、とテッドに囁いた。]
(66) 2010/08/06(Fri) 22時頃
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―夜の森>>76―
なるほど? そうやって偽装するつもりなのか。
[ 片頬に浮かぶ皮肉な微笑。 組んでいた腕を解き、指を開くと、爪が鋭く薄い刃のようなそれに変わる。]
顔だけでは大して変わらん。 どうせなら、
(81) 2010/08/06(Fri) 23時頃
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―夜の森>>81― [ 一瞬だけ、同胞を鋭く睨めつけた視線に殺気が篭っていたように感じたのは錯覚であろうか。 すぐに相好を崩し、]
――冗談だ。
[ くつくつと喉奥で笑い、示された箇所に爪を走らせた。**]
(83) 2010/08/06(Fri) 23時頃
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―夜の森― [ 生贄たるマーゴの亡骸を聖なる樹に捧げるのを見守った後。 ヘクターと別れ、ぽつりぽつりと村へ帰る。 その道すがら、イアンを追い、彼の背に話し掛ける。]
イアンさん。 私はふたりだけで話したいと言った。 その話はまだ終わっていない。
(101) 2010/08/07(Sat) 00時頃
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―午後・教会― [ 開け放たれた教会の扉、そこに細身の影が差したのは、日の傾きかけた頃。]
こんにちは…… ブルーノ司祭? トニー?
[ ひっそりと静まり返った礼拝堂の奥へ、控え目な声を掛ける。]
(105) 2010/08/07(Sat) 00時頃
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―午後・礼拝堂― お邪魔します……
[ おずおずと中に踏み込んだヴェスパタインが見たのは、テーブルの上に並べられた料理の数々、そしてその前に突っ伏す少年の姿。 トニーのその陽に焼けた頬には涙の痕があり、閉じた睫毛は滴で濡れていた。]
(108) 2010/08/07(Sat) 00時半頃
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―夜の森>>101― [ そう話しかけた時の彼は、イアンの言う『かれ』ではなく、「ヴェスパタイン・エーレ」の顔をしていた。]
あなたは……
[ 全く同じ顔、同じ色なのに、全く異なる淡色の瞳が揺れる。 物問いたげに開いた唇は、だがそこで噤まれた。]
――いえ。すみません。
[ 小さな呟きを残し、彼は森の闇に消えた。*]
(129) 2010/08/07(Sat) 01時頃
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―午後・礼拝堂― トニー、トニー?
[ 彼はそっと少年を揺さ振ってみた。……どうにも起きる気配が無い。 暖かい季節のこととて、転寝しても風邪を引きはしないだろうが……。
ヴェスパタインは少年の隣の椅子に座ると、ポケットからハンカチを取り出し、少年の目の縁に溜まった涙を拭った。]
(135) 2010/08/07(Sat) 01時半頃
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―午後・礼拝堂>>141― いえ。大丈夫ですよ。
[ にっこりと微笑み、もう一度トニーの頬を拭ってからハンカチをしまう。]
夢を見てたんですか? 良かったら私に教えてくれませんか?
(144) 2010/08/07(Sat) 02時頃
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>>146 [ 僅かに頭を傾けて、不思議そうにトニーを見遣る。]
「ミツカイサマ」ではない…… 何故そう思うのですか? ニールさんが他の人と違うと言うのはとても重要なことだと思うのですが。 トニーは「ミツカイサマ」はどんな存在だと思っているのですか? やっぱり嫌いですか?
(149) 2010/08/07(Sat) 02時頃
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>>151 そうですか……ニールさんがそんなことを。
[ 少し考え込むように目を伏せ、指を唇に当てる。]
もし良かったら、その聞きたい事を私にも聞かせてくれませんか。 私ではどうにもならないかも知れませんが。**
(154) 2010/08/07(Sat) 02時半頃
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[ 「大丈夫か」とは尋ねなかった。 ありきたりの慰めの言葉を掛けることもしなかった。]
満月まであと少し。 あと少しでこの儀式も終わる。
[ 労うようにか。励ますようにか。 マーゴの件には触れず、淡々と事実と希望だけを述べた。]
(*1) 2010/08/07(Sat) 06時半頃
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―真昼の森― [ 教会に現れる(>>105)数刻前。
彼は、先日イアンが枕にしていた倒木に腰掛けて空を見上げていた。 幾重にも絡み合う枝の隙間から覗く青空をぼぉっと眺め、端然と腰掛けている様は如何にも無防備で無力に見えた。
森を吹き渡る風が梢を揺らし、木洩れ日の複雑な文様を白い顔や膝の上に揃えて置いた手の上に散らす。 背に流された髪が、そよと揺れた。]
(165) 2010/08/07(Sat) 10時頃
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―昼間の森>>166―
来てくれたんですね。
[ 彼は顔を上げ、やって来たイアンに微笑んだ。 その透明な微笑は、彼の求める「かれ」よりは普段村人たちに対して見せる「ヴェスパタイン」のそれに近かったけれども。]
待っていました。あなたを。
(168) 2010/08/07(Sat) 12時頃
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―真昼の森>>170― [ 悲しげな微笑を浮かべるイアンを見据えるのは宵月の瞳、 ひたむきななかに、少量の苦味を帯びた。]
あなたは、形容する「言葉」を見つけたいと言った。
あなたが欲しいのは「言葉」。
あなたは私が何であるか知りたいと思っている。 私を観察し、分析し、記録し、分類し、保存したい。 それがあなたの望みだったのではないですか?
それなのに何故、「眠る」ことを厭わなくなったのですか?
(171) 2010/08/07(Sat) 13時頃
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