167 あの、春の日
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……それは、旅立つ人目線の歌だもの。
[小さく、誰かが呟く。]
(*0) 2014/03/03(Mon) 00時半頃
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[ぺたり。 無意識に、数学書を支える手とは逆の手が、木肌に触れる]
……ああ、そうだったな。
[ぺらりとページをめくりながら、低い声で呟いた]
僕には、やりたいことがあったのだった。
(*1) 2014/03/03(Mon) 00時半頃
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[木肌に触れていた手は、一度するりと撫でて。 ごく自然な仕草で、その手を持ち上げてひらりとマユミに向かって振った]
(*2) 2014/03/03(Mon) 00時半頃
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――……風邪引かないように気をつけてくださいね。
それだけ、言えばいいのに。 申し訳ありません、ハルカ先輩。
[木肌に触れた手をこちらに向けてくれたハルカ>>*2へ、申し訳なさそうに紡いだ。 この声はきっと、届かない。そう思ったから。
どうして?]
(*3) 2014/03/03(Mon) 01時頃
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世の中は 夢かうつつか うつつとも 夢とも知らず ありてなければ
[26歳の自分と、16歳の自分。 唇から零れたそれは、詠み人知らずの和歌**]
(*4) 2014/03/03(Mon) 01時頃
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別に謝ることはない。 言いたいことを、言いたい口調で。 そこに謝る理由など存在しない。
[かくいうハルカも、上級生にすら口調はぶれず、一人称は「僕」である。 偉そうだとか敬意が足りないとか言われるハルカより、よほどいいんじゃないだろうか]
(*5) 2014/03/03(Mon) 01時頃
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[届かないはずの声が届いたことに、最初違和感は覚えなかった。 それくらい、自然で、当たり前のことのように感じたのだ。 おかしい、という理解は遅れてやってきた]
む?
[数学書を抱えなおし、わずかに首を傾ぐ]
君も、なにか後悔しているのか? ……僕のように。
(*6) 2014/03/03(Mon) 01時半頃
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えっ、……――――?
[食堂へ行くと、ハルカは確かに口にした>>28。それを聞き届けて窓を閉めたというのに、また彼女の声がする>>*5。 振り返れど、眼前にあるのは外界と隔たるガラス窓。
続けて、彼女は問うた>>*6。 「僕のように。」 そうだ、ハルカは女性であるけれど、一人称は「僕」であった。 けれどどうだ、自らの中には、「私」>>0:17と言葉にする彼女の姿も存在している。
数度、黒眼を瞬く。大きく、息を吐く。]
……はい。 とても、……とても大きな、後悔を。
[言葉に滲んだ苦味を、溶かしていくかのようにゆっくりと紡いだ。]
(*7) 2014/03/03(Mon) 16時半頃
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―裏庭―
そうか。
[マユミとの会話が成立する。>>*7 冷静に考えれば、どう考えてもおかしいのに、やはりそれは、ごく自然な、当たり前のことのような気がした。 そうだ、今のこの状況に比べれば、これくらいの不思議はどうということはない。 当たり前のように、10年前の春にいる、この状況そのものの方がよほど不思議だ]
そうか。僕と同じなのだな。 後悔を抱えて、なぜか10年前のここにいる。 これは、夢なのだろうか。
(*8) 2014/03/03(Mon) 21時半頃
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[夢だとしたら、誰の? 己の見ている夢か。それともマユミの? それとも……皆の見ている夢なのだろうか? 考えても、答えは出ない]
後悔を抱えているなら、やり直してみてはどうだろう。 人生に「もしも」はないというが、今僕たちは「もしも」の世界にいる。 後悔しなかったバージョンを体験してみるというのも、悪くないかもしれない。
[10年前の自分には、踏み出す勇気が足りなかった。けれどその結果を知っている。嫌というほど味わった、苦い苦い後悔の味を知っている]
うまくいっても、いかなくても。 どうせ、夢なのだから。
(*9) 2014/03/03(Mon) 21時半頃
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夢 ――――……なのでしょうね。
[ルーカスとぶつかる少し前。 考え事をしていたのは、帰ってきたハルカの言葉>>*8を考えていたからだ。 こんなことが、現実に起きるはずがない。 目の前には、ルーカスが居る。10年前のまだ、幼い面影を残したクラスメイト。 26歳の自分自身が、それを懐かしいと見つめている。]
やり直し、そうですね。 できることなら、……
[口にしかけたそれは、未だ飲み込むように沈黙に流し けれどハルカもまた、同じように苦く思うところがあったのかと、ほっと綻んだ口元は彼女にはつたわらないけれど]
ええ、やってみましょうか。 素敵な夢にできるよう、頑張りましょう。
(*10) 2014/03/03(Mon) 23時頃
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私にできることがありましたら、仰ってください。 今の私なら、昔の私より頑張れそうです。
[その声は、弾むような音色をしている。]
(*11) 2014/03/03(Mon) 23時頃
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ああ、夢の中でまで後悔を繰り返すのも、詰まらないからな。
[弾むような声で、やってみようというマユミに、こくりと頷く。 その様子までは、見えなかっただろうが]
せっかくこうして会話もできるのだからな。 僕にできることがあれば、いつでも言ってくれたまえ。
(*12) 2014/03/03(Mon) 23時半頃
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[後悔。 そう、己は、後悔している。 いろんな感情がない交ぜになって、 後悔しない道がどれなのかわからなくて、 結局、選ばなかった。ただ流されただけだ。 だから、ずっと後悔している]
(*13) 2014/03/04(Tue) 00時頃
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[付き合いが長すぎた。 幼馴染で、腐れ縁で、クラスメイト。 抱く感情はひとつではない。
ある時は、母親のような、 ある時は、姉のような、 ある時は、友達のような、 そのどれもが本物で、だからどうすればいいのか、戸惑うのだ]
(*14) 2014/03/04(Tue) 00時半頃
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[男のような言葉遣い。一人称の「僕」それは自然に身についた。 彼は女性が苦手だから。 男のように振舞えば、女性を感じさせなければ、彼は脅えることはない。 深く意識したこともない、それは呼吸をするように、当たり前にハルカに根付いた]
(*15) 2014/03/04(Tue) 00時半頃
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[女性が苦手な様子は、気になっている。 爪を噛む癖の次ぐらいに、改めてもらいたい。 だから彼が恋を覚えたなら、それはハルカにとって喜ばしいことだ。 頬を染めてジリヤに相対する姿。苦手克服の一歩。 ハルカの中の、母親のような感情が、姉のような感情が、友達のような感情が、確かにそれを喜んだ]
(*16) 2014/03/04(Tue) 00時半頃
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だから10年前の僕は、胸の痛みに気づかない振りをした。
(*17) 2014/03/04(Tue) 00時半頃
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[この感情に名前をつけることを恐れて。 彼に女性という警戒対象であると認識されることを恐れて。 彼にとっての、母親で、姉で、友達。 そんな存在であり続ける方を選んだ]
(*18) 2014/03/04(Tue) 00時半頃
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[腐れ縁という名の鎖が、いつまでも続くものではないことに気づけず。
だから――――ずっと、後悔している]
(*19) 2014/03/04(Tue) 00時半頃
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……、私のこと、苦手だったのでしょうか。
[つい、そう口にするのは過去を振り返るマユミ。]
(*20) 2014/03/04(Tue) 01時半頃
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[1年生だったあの日々、 その行動は幼さがはっきりと見て取れる。 だからある意味、この日々こそが後悔の塊でもある。
もっと自由に、もっと素直に、もっと明るく。 そう振舞えていたら、別の高校生活を送れていただろう。
けれど――]
(*21) 2014/03/04(Tue) 01時半頃
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[ぺらりとページをめくりながら、この場所ではないところの声を聞く>>*20]
マユミが苦手というわけではないのだよ。 シーシャが苦手なのは、女性という人間そのものだ。 ……いや、程度の差はあれ、人間という生き物すべてが苦手なのかもしれない。
[ぺらり]
だから、気にすることはない。
(*22) 2014/03/04(Tue) 01時半頃
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[ポケットの中の封筒。 そしてこれから綴るであろう、――。
この先を知る自らの行動を、夢とはいえ、覆す。 本当に、できるのだろうか――?]
(*23) 2014/03/04(Tue) 01時半頃
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……、あ
[聞こえたハルカの声>>*22には、紙の擦れる音が混じる。 その言葉を聞いてふと、口元に笑みが浮かんだ。]
私、シーシャ先輩のことって…… 言いませんでしたよ?
当たり、ですけれどね。
[告げるのは10年前のマユミは言えなかった、そんな言葉。]
(*24) 2014/03/04(Tue) 01時半頃
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ハルカ先輩はシーシャ先輩のこと、よくわかっていらっしゃいますよね。 ああいう関係、いいなと思っていました。
[彼と彼女の間に、独特の空気感があった。 腐れ縁、そんな関係を男性と築くことができなかった自らには、とてもまぶしかったことを記憶している。]
(*25) 2014/03/04(Tue) 01時半頃
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マユミのことが苦手なんて人間は、シーシャくらいしか思いつかなかっただけだ。
[口調がやや言い訳がましくなってしまったのは、マユミの声が笑みを含んでいたからだ>>*24]
いい……? いや、別に羨んでもらうようなことは何もない。
[続く言葉には、苦いものが混じる]
この世界が夢だと知っているマユミなら、知っているだろう? 10年後のシーシャがどんな風だったか、覚えているだろう? 結局僕は、シーシャになにもしてやれなかったのだよ。
(*26) 2014/03/04(Tue) 01時半頃
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[近しいと思っていた。 母のように、姉のように、友達のように。 しかし腐れ縁という名の鎖は、やがて途切れる日が来て。
爪を噛む癖も、女性に、そして人間に脅える様子も。 10年という時を越えて、シーシャは何も変わっていなかった。いやむしろ、悪化していたと言ってもいい。
ハルカには何もできなかった]
(*27) 2014/03/04(Tue) 02時頃
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[だから、後悔している。 胸の痛みに気づかない振りをしたこと。 その感情に名前をつけることを恐れたこと。 女性という警戒対象であると認識されることを恐れたこと。 ハルカは逃げて、結局己を守ることを選んだのだ。
想いが通じるなんて思っていない。 けれど、あの時伝えていたなら、シーシャの中で何かが変わっていたかもしれない。 己が彼に、自信を与えることができたかもしれない。 そうしたら、もしかしたら10年後のシーシャの未来は、もっと違っていたかもしれないのに]
……なんてな。そう思うことも、うぬぼれだろうか。
[けれどもう、「やればよかった」という後悔はしたくない]
(*28) 2014/03/04(Tue) 02時頃
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[やや渋く聞こえた声音>>*26に関して、 それ以上言及することはせず。 シーシャの印象については、少しばかり考え込み]
……ええ、確かに印象はあまり、変わっていませんでした。 変わらずいらっしゃったんだなと、私は思っておりましたが……
[何もしてやれなかった。 その言葉の意味を、汲み取る。 何しろそれが、今の自らの職業でもあるのだから。]
変えて、さしあげたかったのですね。
――あなたの、手で。
[その意味が、どんな感情からくるものなのか。 生徒に問題を出すときに、「あなたがたなら、どう考えますか」まずはそう問いかける。 自らもどう考えるか、既に答えは導けたけれど、それが正解かどうかはハルカに採点を求むことでしかわからない。
その採点を求むことを、自らは実行できない。]
(*29) 2014/03/04(Tue) 02時頃
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