75 サプリカント王国の双子
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[赤い毛織をそっと入り口に置く。 カップに注がれたキャンブリックティーを受け渡し、眉をほんの僅かに寄せて、表情を造る。]
お加減はいかがですか、女王陛下。
[青い顔をしていた。 当然のことであったが、それでも表情は渋くしておいた。 どれだけの薬を、僅かずつこの女王に盛っていったかもう数えるのも面倒だった。 それから先程の"紅茶"が効いていれば、本来は今体を起こしていることも苦しいはずだ。
この女がファントム・グロリアと呼ばれ臥せったのはとても都合が良かった。 薬を手に入れる機会はごまんとあったのだ。その度、バレないようにくすねるのはスリルがあったものだが。 それも今日終わる。――きっと、シメオンという男の人生も今日終わる。]
(18) 2012/01/12(Thu) 01時頃
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[女王はあまりよくない、と、下がっていい、と言ったろうか。 はい、とその場は下がり、一歩引く。 女王が紅茶に口をつけるために俯いて、目を伏せた、その瞬間が勝負だった。 選んだ凶器は燭台。蝋燭を立てるために先端の鋭く尖った、金色に輝くそれに素早く手をかける。 白い手袋をはめ、強く握りしめて、まっすぐに女王の喉元へ向かう。 まずは声を潰した。]
(19) 2012/01/12(Thu) 01時頃
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[金色の燭台の重さに任せて、次は太腿を狙った。 がりがりと剣先が女王のドレスを引き裂いて白い太腿を三つに裂いた。 これで逃げ足を封じた。 女王は叫び声をあげようとぱくぱくと口を開いては閉じ開いては閉じとしていたが、はじめに潰した喉はひゅうひゅう空気を漏らし、そこから赤いものを噴くばかりだった。 最後だ。 大きく振りかぶった。強く振り下ろした。 幾つもの薬に縮こめられた、女の命の灯弱き心の臓を貫いた。]
(20) 2012/01/12(Thu) 01時頃
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――さような、ら。
[誰に対してだったのか、わからない。 ぽつり、口から漏れた。
目の前の女王にだったろうか。 きっと今日という日で別れることになる愛おしい少女へだったろうか。 この国へ、だったろうか。]
(*0) 2012/01/12(Thu) 01時頃
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[顔に飛沫が飛んだ。 ち、と舌打ちひとつ。びくりびくりと脈打つ女の身体を見下ろしながら、手袋を脱ぎ捨てて頬の赤を拭った。
動かなくなった女王の亡骸。 その傍に捨てられたのが、貿易商の愛用する白い手袋であったこと。 その傍で倒れたのが、作家のよく使うインク壺であったこと。 その傍に落ちたのが、鮮やかな金の髪であったこと。 それらはきっと、不運な偶然にすぎない。 使用人には、今日の参加者は知らされてなどいなかったのだから。]
(21) 2012/01/12(Thu) 01時頃
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――廊下――
[万が一にも赤が飛散しても構わぬと用意した赤い羽織を拾い上げ、僅かに冷めたキャンブリックティーのトレイを手に持った。 誰が知っているだろうか。 どこまでを誰が見たのだろうか。 はじめに淹れていた紅茶のカップが二つに減ったこと。 身につけていた手袋が、普段のものと違うこと。
滲む鉄錆の匂いを薔薇香の紅茶に隠して、応接間へと歩いていく*]
(22) 2012/01/12(Thu) 01時頃
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――応接間――
……ミッシェル様? お一人、ですか。 お待たせして申しわけございません。
この部屋は冷えますでしょう。 お身体は大事ございませんか。
[紅茶は応接間の円卓にそっと並べ、羽織りは手渡そうと腕から手元へとすべらせる。]
(31) 2012/01/12(Thu) 01時半頃
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ミッシェル様……
[シメオン、と名を呼んで上がる顔。 王女の微笑の抜けた表情に、少しだけこちらの表情も曇った。]
申し訳ありません。
[自身をかき抱くようにして応接間に一人居残る王女に目線を伏せる。 "一つ多く仕事をこなしてきた"とはいえ、このような失態は許されるものではなかった。 大丈夫、という声にはこちらの胸にも安堵がぽとり落ちる。 そして、羽織りを渡してからもう一つ、失態に気づく。]
――お色が悪うございましょうか。 別の羽織りをお持ちいたしますか。
[白と浅緑のドレスに赤を合わせるのは、好ましさから言えばどうだろう。 利便性だけを考えた色選びなど、落ち度としか言いようがなかった**]
(37) 2012/01/12(Thu) 03時頃
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よろしいのですか? ――それでは、仰せのままに。
[確認のように聞き、そしてちら、と抱きしめられる羽織り(>>49)を見やる。 おそらく、ただのひとしずくも赤い染みなどないはずだ。 問題はない。きっとだ。]
そうですか。 この雨ですからね、多少慌しいのも仕方のない事でしょう。
[ミルクのたっぷりと入った甘い紅茶は、応接間にやわらかく香る。 罪のにおいなど、感じさせないように。]
(64) 2012/01/12(Thu) 19時頃
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[やがて、シルヴァーナが戻り。 二人か、という言葉には、はい、と短く答え。 女王が戻ったか、という言葉には、いいえ、と苦く首を振った。 女王は戻らない。戻るはずがない。 まだ手が感覚を覚えている。白い脚に刺さる、引き裂く、あっけなかった。]
――、は。
[シメオン、と呼ばれ、命に応えるよう心構える。 しかし、続いたのはミッシェルの様を問う言葉。 予想と外れた言葉に、ぱち、と一度黒曜石を瞬いてから、静かに答えた。]
……ええ、雨も酷いので、念の為に、と。 キャンブリックティーと羽織りをご用意致しました。
[宜しければシルヴァーナ様も、と言いかけて、しかし女王の様子を見に行く、と言い去るのを止めることは出来なかった。 ミッシェルをお願い、と言われてしまった上で、まさか自分が見に行くほうが都合が良いなどと言い出せるはずがない。 ハンスがシルヴァーナの傍を離れている理由も、傍で見ていた故に知っている。 彼を呼ばれる方が何かと面倒もあるかと、その場では口にしなかった。 ほぼ同時にミッシェルが、ハンスは、と問うたのに同調した程度。]
(65) 2012/01/12(Thu) 19時頃
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そうですね。 先程もあまりお顔の色がよろしくないようでした。
[応接間に二人、という状況に戻ってから。 女王の身を案じる様子に、ゆっくりと頷いた。 紅茶を、というのには、ほんの僅かだけ心臓が跳ねたが、顔色に出すようなことはない。]
ええ、私もそう思いましたので、このキャンブリックティーは三人分淹れたのですよ。 女王陛下の元へ、お届けしてきたばかりです。 その際も少しお悪いようで、カップをお渡しすると直ぐにお部屋にお戻りになられましたが。
[残念だ、とばかりに苦笑を浮かべる。 カップは残してきてしまったから、その点で嘘を付くことは考えていない。 逆にそれがあるが故、犯行に及ぶだけの時間が無いことを立証する手がかりにもなり得るかもしれない。 否、もともと逃げ通すことはあまり考えていない。どうせ検死の手が入ればすぐに長期犯行だったことが透けるだろう。 たった一日、いや数時間、この王女役を外へ連れ出す、その時間さえあれば良いのだ。 この子は何も知らない。国の王女でもない。なればただ巻き込まれただけの悲運な少女だ。]
(66) 2012/01/12(Thu) 19時頃
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[そして、絹を裂く、ような。]
ええ――シルヴァーナ様、でしょうか。 何が……
[理解出来ない、といった間の抜けた表情を作る。 それから、す、と扉の方へ踏み出し。]
――様子を、見てまいります。 どうかミッシェル様、お待ちくださいますよう。
[これだけの悲鳴が聞こえたなか、難しい話とは思うが。 見せたくはない、と思ってしまった。 彼女を救いたいがための、己の犯したエゴを。]
(67) 2012/01/12(Thu) 19時頃
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――応接間より――
――では、私の後ろを。 絶対に離れぬように。
[危険があるならなおさら。頑として動かぬその少女の声を、こくりと生唾を下して受け入れた。 確かに本来なら一人になどしておける状況ではない。自分は王女の世話係だ。彼女を守るのが、すべての努め。 それが一番の"危険"の傍となることとなっても、だ。]
(76) 2012/01/12(Thu) 21時頃
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[ここから女王の私室はさして遠くない。 が故に、事を運ぶことができたわけだ。 程なくして取り乱したような悲鳴が聞こえた。 お母様が。そうあの女のことを呼ぶのは、今後ろにいるこの少女と、それから一人しかいない。]
シルヴァーナ様!
[声を張る。 そこにハンスの姿が見えれば、そちらへ歩み寄った。]
(77) 2012/01/12(Thu) 21時頃
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何が。
[同じ使用人同士。問いかける言葉は短い。 王女の前であること忘れたようなその声は、取り乱しを装えたか。 この問いに、ミッシェルを連れたままの今答えはあったかなかったか、どちらだったか。 どうにせよ、シルヴァーナを任されたなら、神妙に頷いた。]
――シルヴァーナ様。シルヴァーナ様。 何が、あったのですか。落ち着いて。
[かける言葉は静か。まだ、あの惨状を知らぬふりのまま。]
(78) 2012/01/12(Thu) 21時頃
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[蒼は、裾と袖を真っ赤に染め直されていた。 弱く、細く紡がれる事実。変わりようのない己の犯した罪。
なのに。 取り乱すシルヴァーナの姿に、思わずずきりと胸が疼くのだから、人間というのは不思議なものだ。]
お母様――つまり、グロリア、陛下が。 どう、して。
[自らの裡に落ちる奇異な感情に驚いてしまって、唇から出たのは戸惑いに満ちた細く端的な言葉。 黒耀も見開けば、死に驚くのと何ら変わらなかった。]
(95) 2012/01/12(Thu) 22時半頃
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[こちらに向く、青い顔。 それでようやく自分も、は、と我に返った。]
っ、いけません!
[漂う死臭。あかい鉄錆の香り。 呆然とするミッシェルの、時の止まったような言葉に、咄嗟に制止の言葉が出た。 この期に及んでなお、何がいけないというのか、理性は嘲笑う。 それを肯定するかのように、シルヴァーナすらをも振り切ってミッシェルを追うほどの瞬発力も出なかった。]
(96) 2012/01/12(Thu) 22時半頃
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[使用人が、「盗人」が出たとの建前で動き始めていた。 なんと言い得て妙な、と内心でだけ笑う。 その「盗人」を十と三年も前から城の中に飼っているのはどこの国だったか。]
――シルヴァーナ様。 少し、ここを離れましょう。
使用人たちが集まってきています。 私達に任せ、僅かでも心をお休め下さいませ。
[シルヴァーナの纏う赤は、盗人の所業とは言い切れぬいろだ。 あまり客人にまで疑心を持たれるのはよろしくない、実際のところ理由はこのようなものだったが。]
(99) 2012/01/12(Thu) 23時頃
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シルヴァーナ様のお召換えはどうなさるおつもりで。
[応接間に向かう、と言ったハンスに眉を寄せるも、彼は行ってしまった。 憔悴している、という様子が見て取れた。 如何な時もシルヴァーナのことが第一だった男だ。酷く違和に思う。 何せ、彼は当の犯人ではないのだから。 それともこのように使用人としての我を忘れぬ自分のほうが彼にとってはおかしいものだろうかと思ってしまうほどだった。]
――シルヴァーナ様、まずは、衣装部屋、いえ、せめて手洗いに。 それから召し換えましょう。 私の手腕では不満もあるやもしれませんが、お許しください。
[シルヴァーナにかける声は、いささか事務的なものになってしまったか。]
(114) 2012/01/13(Fri) 00時頃
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――洗面台へ――
お足元にご注意を。 お怪我など、されていらっしゃいませんか。
[シルヴァーナを先導するように、廊下をゆっくりと歩む。 ミッシェルを止めそこねたことへ疑惑を抱いているなど知らぬまま。 洗面台につけば、まずは手を清めることを提案した。]
――大事、ございませんか。
[ないわけはないのだろう。それでも問う。]
(132) 2012/01/13(Fri) 00時半頃
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――失礼致しました。
[身内が死ぬのは初めてではない。 そう、その身内が死ななかったらこうして女王を殺すことも、そもそも自分がこのように動くことの出来る立場につくこともなかったのだろう。 なんて皮肉な話。
シルヴァーナの意識にある死への思考は、皮肉に己を嘲れば思い至ることはない。]
お召換えはいかが致しますか。 ハンスを呼ぶことも出来なくはありませんが。 ミッシェル様にお会いになるにも、そのお姿では痛ましゅうございます。
[もしもそれでも行くというのならば、まずは使用人を呼びつけ、自分がミッシェルを先に見に行く、と提案するつもりだ。 何のことはない。傷心のミッシェルに血にまみれた"姉"の姿を見せるなど、耐えかねる。それだけだ。]
(141) 2012/01/13(Fri) 01時半頃
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――シルヴァーナ私室:衣装部屋――
それでは、非礼をお許し下さいませ、シルヴァーナ様。
[歩みは、先程よりは少しはしっかりとしたものになっていたのだろうか。 シルヴァーナの内心通り落ち着いたのかも知れず。 私室の方へと先導し、独りにすることを詫びてから衣装部屋へ入る。 "姉王女"の衣装部屋へは、数えるほども立ち入ったことがない。 ここはハンスの領域だ、と己は認識している。 それでも、ふと目に付いた夏の薄絹のドレスをひとつ選び出す。 今まで着ていた色と差の少ない、藤紫色のドレス。 あえて明るい色を選ぶことも考えたが、シルヴァーナの意志が伴わないならばあまり意味を成さないだろう。 ならば、と。また客人の前にも、ミッシェルの前にも行くことを考えたなら、いま着ている服と近しい色を選ぶほうがよいだろう。]
(155) 2012/01/13(Fri) 04時頃
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御身、触れさせていただきますね。
[着替えはハンス程は手慣れぬにしろ、常頃ミッシェルの側付であればさほど手間取ることはない。 あかく濡れたドレスを下ろし、浅い紫のドレスに袖を通すよう導いて。 蒼を藤紫に差し替えれば、シルヴァーナとふたり応接間へと向かう。
辿り着いたのは、庭師の連れ来られるのとほぼ同刻頃か。 新米庭師の後ろに立つ形になったかもしれない**]
(156) 2012/01/13(Fri) 04時頃
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――応接間へ――
[押し黙ったシルヴァーナが、まさか自分の邪魔をしないように、などといった理由だとは考えておらず。 会話を避けたいのだろうと、こちらも無駄言はひとつも口にせず、事務的な幾つかのやり取りだけでシルヴァーナの着替えを終えた。 無論、要望のあった紫水晶のチョーカーも忘れない。
応接間に向かう間も、シルヴァーナの歩みはしゃなりと凛としたものだったか。 強いな、と思った感情は、王女としての評価か、それとも。]
――不審者? ベネット、ですね。 彼が何を? 歩き回っていただけ、とでも言うならシルヴァーナ様の仰るとおり、何ら不可思議なことはありませんでしょうに。
それでも彼をここに連れた理由は?
[応接間の前、連れ来られている庭師に瞬く。 遠目であったので間違いの可能性はあったが、出で立ちとはっきりとした覚えのなさから間違いないだろう。]
(170) 2012/01/13(Fri) 21時頃
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[はっ、と意識がガードから中へ向く。 細く紡がれる声。姉様、に続いてシメオン、と己の名を呼んだ。]
ミッシェル様。
[切なく歪んだ笑みにこちらの表情も崩れそうになった。 駆け寄りたくなったのを抑えて、シルヴァーナに一礼してからガードの横を抜け、中に歩み入る。]
ミッシェル様こそ――ご無事で、なによりです。 ……ご無理なさらず。
[震える細い肩、口元を覆う手。 無理に耐えることはない、と微笑みを作ったまま小さく首を横に振った。
この涙を誘ったのが自分だとしても。]
(172) 2012/01/13(Fri) 21時半頃
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お休みください……どうか、本当に。 貴女様が苦しまれては、私も心苦しい。
[起立を保つ姿に、座ってよいのだと促す。 このような場で立たせてたままでおくなど、普段でも許されない。 羽織りを握り締める手(>>175)に触れそうになって、けれど周りで上がる声にその手は止まった。]
(191) 2012/01/13(Fri) 22時半頃
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[新米庭師を告発するようなガードの言葉。 幾つもの違和感を含むそれは、確かにただ訪れていたから、というだけでこの場に呼ばれた客人たちよりはよほど犯人らしく思えた。 なんて不運な。 それでなくても遅刻とリリィとの大騒ぎで目玉食らったろうに、その上容疑者だなどと。 残念、と思うのはどこか深くに。]
――ベネディクト、事実ですか?
[問う言葉はひどく端的だった。 強く否定をしないところ、虚偽は含まれていないのだろうが。]
(196) 2012/01/13(Fri) 23時頃
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[ベネディクトから返答はあったろうか。 それを聞くか聞かないか、頭痛を訴える金の髪の――紅茶を受け渡しそこねた――青年を見やる。 部屋と頭痛薬を、とシルヴァーナに言われれば一歩進み出た。]
大事ありませんか、エゼルレッド様。 至急、部屋の手配とお薬をお持ちいたします。 それと、先程お渡しできませんでしたお紅茶をお持ちいたしましょう。 少しは落ち着かれるかと。
ハンス、シルヴァーナ様とミッシェル様をお願いします。 ――どうか、心休めていただけるよう。
[そうして、応接間を離れようと。 近くの使用人に任せず、王女付きの使用人自らが動くことの違和感に気づくものはいたろうか。 それでもまずは、一人になる必要があった。]
(200) 2012/01/13(Fri) 23時頃
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――ミラ?
[呟かれた名を思わず繰り返し、振り返る。 そうすれば更に皺の深まった眉が視界に入ったろうか。 それで、聞いた名のことは意識からそれていく。]
酷く、痛みますか。 少しお休みください。 お部屋には使用人を一人つけます。
[そうして、空き部屋に向かう。 途中、使用人を一人呼びつけながら。]
(218) 2012/01/14(Sat) 00時頃
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[なぜ、その名を。 そう思って振り向いた。 それは十年前に失われたはずの名前。
凍りつくミッシェルの貌のいろが見えた。 そうだろう。 それは、もうだれも知らないはずの名前なのだから。]
(*3) 2012/01/14(Sat) 00時頃
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