88 吸血鬼の城 殲滅篇
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[薔薇色の闇を注がれて、 緩やかに灰は凝る。
生き物の様に始祖の血液は石床を這い回り、 さらさらとした砂を赤黒い泥に変えていった。 ――ゆるり、と、泥がその表面を震わせる。 紅色の泥は表面を泡立たせながら流れ、 混ざり、自らを攪拌していく。 ゆっくりと――ひとりの男のカタチへと。]
(267) tatsuru 2012/05/06(Sun) 22時頃
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………、――
[ばさりと、 ……羽ばたきのような音。 立ち尽くす男の姿は、 砂となる前と、殆ど変わらないように見えた。
左眼を覆う眼帯。 纏う実用的な軽装は色を漆黒に変じて、 蝙蝠の羽の様に長い裾を、 ゆるりと引いている。]
(268) tatsuru 2012/05/06(Sun) 22時頃
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………。
[わずかに頤が上げられ、 酷く無表情な、昏い紅が、 眼前の男の顔を見遣る。 ――隻眼の男は優雅に膝を付いた。 祈るように頭を垂れる]
我が君。 ――みたびの祝福に感謝いたします。
(269) tatsuru 2012/05/06(Sun) 22時頃
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>>272 ――…、…。
[紡がれた名前に伏せた瞼が震えた。 頭は更に深く垂れ、 翳された掌は信徒に祝福を与える聖者のものの様。]
――我が主。 我が父。 我が魂を泥より創りし者。
……して、――
[最後に、小さく唇が震える。
それは、きちんとした言葉にならず消え 薄い唇がゆっくりと引き締められた]
(278) tatsuru 2012/05/06(Sun) 23時頃
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[腕を掴み、引き摺り上げる手に 僅かに跳ねる息。
――両腕が背に回り、 囲い込まれる様に抱きしめられる。 暫く身を硬くしていたが、 ……やがて委ねるように力を抜いた。]
…………。 光栄です。
[酷くのろのろと、そう答える。
ぎこちなく逸らされた視線。 抑えた声音。]
俺は、……貴方のお傍に。
(285) tatsuru 2012/05/06(Sun) 23時半頃
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[男の腕が離されると、 まるで安堵したように息が漏れる。
触れられる事は、予想外だった。 鼓動が跳ねる事を知られては、ならなかった。
生まれ変わる前の自分が出した、 ――臆病な結論を、繰り返さない為に]
(287) tatsuru 2012/05/06(Sun) 23時半頃
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不満はありません。 ……貴方が選んだ事なら、……俺は。
………俺も、其れを選んだ。
[ぎこちなく笑み、彼の紅を覗き込む。 隻眼はやわらかく細められ]
………大丈夫です。 もう失敗はしない。
(まっさらな俺なら、) (……アンタをもう裏切らない。) (だから)
(294) tatsuru 2012/05/06(Sun) 23時半頃
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[どこまで通用するのだろうと思いながら、 ゆっくりと目を伏せる。
もう、気づかれてしまっているのかもしれない。 けれど今己が出した、これが結論。]
………俺は、アンタの傍にいたい。 ……ヘクター…。
[彼の望む自分を演じ。 ――彼の望むように、魂を殺しても]
(295) tatsuru 2012/05/06(Sun) 23時半頃
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[ぼんやりと唇を動かす。
闇の躯がかたちづくられる、その時に。 己が最後に思考にのぼせた言葉を]
……それでも、俺は。
(………ヘクター) (アンタを覚えていたい)
(――この想いを、忘れたくはない、と)
(296) tatsuru 2012/05/06(Sun) 23時半頃
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………っ、…ヘクター…。 違う…。
[顎に触れる手に、ふるりと睫を震わせる。
視線は何かを耐える様、 目の前の男に向けられた。] ……… 俺…、……決めた、んだよ。 アンタと一緒に行くって。
[よわよわしく、笑う]
もう俺は、アンタを憎んだり、しない。 ………アンタの忠実な、僕でいる。
だから、……
(299) tatsuru 2012/05/07(Mon) 00時頃
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