194 花籠遊里
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[拒絶許さぬ圧は、悪辣な害虫とは違うもの。 方や蛾一匹、方や花の主。 囁き際、後ろより耳朶に冷え切った唇を霞めさせる。]
(*10) 2014/09/20(Sat) 00時半頃
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……いえ、そのような事は、決して。 唯、陽のある時間帯にこうして御声をかけて頂くのは珍しい、ので。
[背後の小さな笑い声が、空気を揺らす。>>44 冷たい感触が素肌に触れれば、背がびくつくのは反射。]
……冷えて、おられますね。 暖めなくては、風邪を引いてしまいますよ。
[植物の蔓が如く首に纏わった指先へ、そっと手を重ねた。 冷たすぎる温度に、じわりと熱を奪われる。]
(45) 2014/09/20(Sat) 00時半頃
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[そのままで取れぬような響きを持った返しに>>40暫しの間口を閉じ。 ゆっくりと瞼を下し、尽かぬ息をまた小さくはく。 こげ茶も蔦色と共にゆるりと揺れ動き、半分程瞼を明け映すのは美しい射干玉ではなく己の足元。
厚い雲は微かな月光さえも通す事無く。]
俺は、花である事に誇りも無ければ後悔も無かった。今までは。 だが、昨日は………止める事が出来なかった。 手を掴んで、もっとましな言葉を伝える事ができなかった。 俺もあいつも『花』であるがゆえに。
なぁ、櫻子。花は『大事な物』は何一つ、持ってはいけないのかもしれないな。
[それは彼に向けながらも朧の独り言にも近い言葉。 櫻子が聞いても何の事やらわからない言の葉に困らせてしまったかもしれない。 それでも誰かに聞いて欲しくて。今の朧は『花』としてなっていないと言われたかったのかもしれない。
『大切な物』を持つのがこんなに苦しい事だなんて、知りもしなかった。]
(46) 2014/09/20(Sat) 00時半頃
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丁は……雨に消えるような花では御座いません。
[更に冷えた感触を耳元に、肩が跳ねた。
花籠の主は、植物等では決してなく。 逃がすまいと、その圧が、蛇が如く絡みつく。
逆らう事など、決して出来ない。]
(*11) 2014/09/20(Sat) 00時半頃
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[見詰めていた朧月は、ゆるりと瞼を伏せられました>>46 吐かれた息は『しあわせ』が逃げてしまうような呼気。 射干玉とは違うこげ茶色は、蔦色と共に揺れ やがて再び開かれたそのお眸は、足元を映しておられました。
連なるお言葉の意味は、よくよく考えても 僕にはわからないものでございました。 けれども幾つか判ることもございます。
朧さんは、何かを悔いておられるようです。 何かを悲しんでおられるようです。 何かに苦しんでおられるようです。 それは『大事な物』が、原因であるのでしょう。
そしてそれはきっと、藤之助さんなのではないでしょうか。 『あいつ』などと呼ばれる御方は、藤の花しか思い浮かばなかったのでございます。]
(47) 2014/09/20(Sat) 01時頃
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僕は、たくさん『大事な物』を持っておりますよ?
亀吉さんは僕が教える、大事な花のお一人です。 丁助さんは不器用ですが、気を使ってくれる大事なお一人で。 藤之助さんも、大事な甘いもの仲間ですし。 朧さんも、数少ない同い年の、大事なお人です。
中庭の花々だって大事です。 此処へ来ては花にとまっていかれる『蝶』も。
[話の内容がわからないだけに、何をどう伝えていいのか 僕に出来る限りの言の葉を、僕は口に致します。]
(48) 2014/09/20(Sat) 01時頃
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それらを捨てろといわれても、きっと僕には出来ません。
朧さんの『大事な物』は そんなに容易く捨てられるものだったのですか?
[指先をそっと、お膝の上に伸ばしましょう。 触れることを許していただけるのならば 慈しむようにそうっと撫でて、微笑むのです。]
『大事な物』を、なくされてしまったのですね?
(49) 2014/09/20(Sat) 01時頃
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[反射には、機嫌よさげに唇の端を吊り上げる。 口裂け女とでも比喩できそうな程。]
他の花なら声は掛けないさ。 お前はすこうし、特別だからね。 素直で可愛い沈丁花。
風邪を引くのは莫迦だけだ。 それとも何かい、お前が暖めてくれるとでも?
[重なる手から伝わる温度。 奪うよに冷えすぎた氷の指先が、熱を求めて掴む。]
(50) 2014/09/20(Sat) 01時頃
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この…奥?
[影が落ちれば毒蛾の表情は少しだけ読み取りづらくなって。 胸に圧を覚えながらのその言葉の指し示す意味に思い当たることがなく、微笑が固まる。
鳥籠の中のようなそこで生まれ育った金糸雀が、宵闇の蜜を求めて訪れた花籠で出会った毒蛾は真理を突いた。
なに不自由ない生だったはずなのに 何故鳥籠の外に蜜を求めたのか。 何を識りたいのか。
孤を描く唇に答えを探して視線を這わせた。]
(51) 2014/09/20(Sat) 01時頃
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そうかい、ソウカイ。 私の知る“丁”は、雨に根腐れを起こしてね。 狂い咲いてしまったものだから。
お前もそうなってしまうんじゃないかと思ったのさ。
[蛇が絡みつき、ぞろりと耳を嘗め上げる。 知っているぞ、見ているぞとは言葉裏。]
(*12) 2014/09/20(Sat) 01時頃
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―――丁は“蝶”でもないんだよ?
(*13) 2014/09/20(Sat) 01時頃
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[この花が何を思い、“丁”の字をとったかなど知らぬ。 そして男が知らぬように。 “丁”を手折ったのが男の手だということは 誰をもが知らぬことであろう。
先に告げた通り、少しばかり特別な花。
丁に丁を重ね。 蛇は首筋を緩やかに締め付けて。 後ろより首筋に残す、朱の花ひとつ。 無論、逃げることも拒否することも赦さない。
優しく、冷たく、甘美に、落つる。]
(*14) 2014/09/20(Sat) 01時頃
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私を置いて、飛んでなどいかないでおくれ。
(*15) 2014/09/20(Sat) 01時半頃
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[まるで棒読み、或いは抒情詩。 どちらにとるかは、“ちょう”次第。]
(*16) 2014/09/20(Sat) 01時半頃
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左様で御座いますか。
[疑問符は幾つか。 其れを全て、言葉の隙間に押しつぶす。 訊く事を躊躇うのは、相手が籠の主であるがため。
冷えた冷えた感触に掴まれ、]
今宵は、花主様が丁を買っていただけるのでしたらば。
[欲する対価を素直に口にし、もう片方の指先を重ねる。]
(52) 2014/09/20(Sat) 01時半頃
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お前に買い手がつかないのなら。 “また”私が、教えてあげようか。
[冷えた手を首から離し、意味深に囁くは去る *間際*]
(53) 2014/09/20(Sat) 01時半頃
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――――――もう、男は“慣れた”かい?
(54) 2014/09/20(Sat) 01時半頃
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……いいや。 俺には『最初から』大切な物は無かったと、言い聞かせてはいるんだが。 捨てる事も忘れる事も、容易では無いな。
[朧に伸ばされた指先は暖かく優しい。 沢山の大切な物を両の手に抱える事ができる櫻と>>48 不器用で全てを手放そうとする月。
……同じ長い年月を過ごしてきた身にも関わらず、こうまで違うかと先程より柔らかな笑みと少しの苦い色を浮かた。]
無くした、のだろうな。この身じゃ探す事もできやしないが。 ……女々しいと笑うか? 一つ失くしたくらいで上手に振る舞えない、枯れてしまいそうな勢いの『花』を。 忘れろと言われたのに、最初から無かった事にできない月を。
(55) 2014/09/20(Sat) 01時半頃
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[………こんな事をただ美しく凛と咲き誇る櫻へとぶつけても仕方がないと言うのに。 器からあふれ出た言の葉の勢いはようやく止まり。 一度射干玉を見つめると、自然な淡い笑みを灯らせて小さく謝りの言葉を。]
……わけの分からない戯言をはいて悪かった。 『忘れて』くれ。**
(56) 2014/09/20(Sat) 01時半頃
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開いたことも、抉じ開けられたこともねぇんだろう。 ―――…識っているぜ、ニコラス坊や。
[着衣の上からそろりと撫で上げる心臓の上。 彼の空いた胸を確かめながら、男の指が染みていく。>>51
彼の微笑みも甘言も、本質的なものだとしても、己の鼓膜には留まらず、流れていく。本当の鳴声は、きっと、この奥に在るのだ。
揺らめく夜蛾は鳥篭の傍を飛び、胸を淡く弾いて茶化す。 言葉で刺した直後の刺激は、更に微笑へ変質を促して。]
(57) 2014/09/20(Sat) 01時半頃
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懐刀 朧は、メモを貼った。
2014/09/20(Sat) 01時半頃
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[彼の手首を不意に捕らえ、エスコートなど知らぬように強く引いた。踏鞴さえ踏ませて傍に侍らせる。彼の長躯は己の傍らに映えて、有無を言わせない。 掴んだ五指は、初めて彼に掛けられた束縛と代わり、顔を起こして小姓を呼ぶ。]
――…手隙の花を一輪つれてきな。 誰でも良いとは言わねぇが、花主に告げりゃ見繕うだろう。
[采配を花主に任せ、白羽が立つのは蝶と同じ響きを持つ彼だろうか。覗かせる悪趣味の深淵は今宵も深く、傍らの蝶の否は聞かずに足を踏み出す。
慌てるように小姓が目的を問えば、野暮天と詰りつつも、 白い歯を覗かせ、うっそりと笑みを刻んだ。]
―――ああ? 決まってるだろう、 可愛いニコラス坊やの躾に使うのさ。
[子供を躾ける折檻を思わせる声。 また、美しい彼が知らぬ世界を、夜蛾の閃きが開け放つ。**]
(58) 2014/09/20(Sat) 01時半頃
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以前の"丁"の話は、耳にしております。
[舌這う感触に息を呑んだ。 きゅ、と触れる指先を軽く握る。]
……ええ。 丁は、蝶では御座いません。 真似事をしても、決して飛ぶ事は出来ぬ花。
[首に痕残す感触にさえ、逆らえずに居る、哀れな花。]
(*17) 2014/09/20(Sat) 01時半頃
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[彼が何を思い"特別"だ等と告げるのか。 気付ける程に彼や"丁"を、己は知らず。
この己を閉じ込める花籠の主を、好ましく思う事は無く。 けれど、逆らい立場を危うくする賭けに出るでもなく。
行きません、とは言わず。 この花籠の外を望む唇で]
花は、飛べはしないのですよ。
[とだけ、繰り返し。]
(*18) 2014/09/20(Sat) 01時半頃
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[大切な物は『最初から』なかったのだと、言い聞かせるという言葉は>>55 どうしてでしょう。 微かに僕の胸の裡を、漣立てて行きました。]
『大事な物』なら、そう簡単には捨ても忘れも出来ません。 だって、大事…なんですから。
[そうでしょう、そうであってほしいのです。 僕はそう思いながら、朧月を見上げました。 厚手の雲がかかっているように思います。 これがもし、琴爪弾く指先ならばきっと違ったのでしょう。
僕の手は、両方に大切なものを抱え上げます。 それはとても我儘で、何一つとして捨てたくはなくて。
そして一番拾い上げたいものに伸ばす指先を失くすのです。]
(59) 2014/09/20(Sat) 01時半頃
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[冷えた温度が離れる。
息苦しさに開放された心地。 花主様に気取られぬよう息を吸う。]
……ッ。
[ひゅ、と微かな音をたて、肺が酸素を求めた。
脳裏に過ぎる過去は、決して落ちぬ穢れが如く。
去り行く黒へと振り返り、深く頭を下げる。 言葉を返せずに、其れを代わりにする事を、許されるかは判らないけれど。
唯、苦いものを噛んだかのような表情を、隠す。*]
(60) 2014/09/20(Sat) 02時頃
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[そうして拾わぬものから目を背け それは『大事(しあわせ)』ではないと、謂い聴かせるのです。]
(*19) 2014/09/20(Sat) 02時頃
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[無くしたのだと判ったのなら探しに歩けばいいはずなのに。 行けぬ理由があるのでしょう。]
『大事な物』が少なければ少ないほど。 ひとつを失くせば、辛く思います。
[飽和するほどに抱えた僕と 少ないものを大事にする朧さんと>>55 同じ歳月重ねていても、幾分違うものでございます。 苦み走った笑みに、そして続いたお言葉に>>56 僕は、射干玉を向けたまま 微笑むことなく、真っ直ぐに告げるのです。]
判りました。 『憶えて』おります。
[小さな身体を傾かせ、朧さんへと寄せましょう。 叶うのならば、その身をきゅうと抱いて差し上げるのです**]
(61) 2014/09/20(Sat) 02時頃
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もし、違えば。 縁起でもないことをと、櫻の花を叱ってください。
[何故、探すことが出来ないのか。 何故、謂い聴かせねばならぬのか。 何故、大事な物を持ってはならなかったのか。
判らぬなりに拾う言葉と、判らぬ僕に聴かせる言葉で 綾取りのように完成した言葉を紡ぎました。]
(*20) 2014/09/20(Sat) 02時頃
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―――藤之助さんに、何かございましたか?
[きゅうとその身を少しばかり 強く抱きしめたのでございます**]
(*21) 2014/09/20(Sat) 02時頃
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看板娘 櫻子は、メモを貼った。
2014/09/20(Sat) 02時頃
半の目 丁助は、メモを貼った。
2014/09/20(Sat) 02時頃
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[一階部屋の奥深く。 淀んだ穴倉に、小間使いの一つがやってきた。 言伝は蛾からの悪辣な鱗粉。 思い返すは背に聞いた喉の微かな音。]
本当に躾がいるのはどちらなものかね。
[しかして歪むは唇。 歪、歪にゆがんでは。]
丁にお伝え。
お前は二匹も引き寄せた。 魔性の花よ。
相手が出来ず悔しく思うよ、と。
[棒読みが愉悦を *滲ませる*]
(62) 2014/09/20(Sat) 02時半頃
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