84 戀文村
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[ベネットが、自分の名に書き換えろと言うのを聞いて、女も、ダーラ同様ベネットへ片方の手を伸ばし、ふ、と笑って頭を振る。]
無理だろう。 名前を書き換えて済む問題なら、 誰かがとっくに試している。
でも、気持ちは嬉しい。 私も同じ気持ちだ。
[ベネットとダーラ、交互に見て]
わかった、ダーラに来た時はそうしよう。 いっそ、一晩だけの祭りを開いてしまおうか。 その瞬間だけでも、皆が忘れられるように。
[ダーラの返答に、安心したように溜息をついた。]
ありがとう。ダーラになら、安心して任せられる。 本当に、ありがとう。
(1) 2012/03/26(Mon) 00時頃
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そろそろ、日が暮れるな。 完全に暗くなってしまう前にナタリアの家に行かないと。
私はこの辺で帰るよ。 ベネット、美味しいお茶をありがとう。
…───さっきの話、現実にならないように祈ってる。 だけど、もし本当になったとしても、 二人のお陰で、心残りなく逝けるよ。
本当に、感謝してる。
それじゃあ、またな。
[名残惜しげに両手を引いて、カップに残ったお茶を干す。 それから、二人にそれぞれハグをしてから店を出た。]
(6) 2012/03/26(Mon) 00時頃
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─ 本屋→ナタリアの家 ─
[日が落ち、急速に薄暗くなりゆく中を急ぎ足で歩く。 目的の家に着いた頃には既に陽は落ちきっていただろうか。]
ナタリア、いるかい?
[女は扉を軽くノックして、様子を窺った。]
(10) 2012/03/26(Mon) 00時半頃
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[しばらくして、返事があったので中へ入る。]
こんばんは、ナタリア。 先日ね、いい薬草を見付けたんだ。 滋養がつくから、ナタリアにも分けたくて。
──おや、また手紙を読んでたのか?
[中へ入ると、勝手知ったる自分の家とばかり台所を借りて薬湯を準備した。戻って来ると、老婆の手には手紙が握られていた。 もう見慣れた手紙。 それにまつわる話も、クラリッサを通じて聞いた事がある。]
(19) 2012/03/26(Mon) 00時半頃
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[薬湯の入った器を渡し、ナタリアの肩に手を添える。]
…───手紙を読めたあなたの孫は、 幸せだったのかもしれないよ。
戦争で、どことも知れぬ場所で、 一人で死んで行くのと比べれば──…、 愛しい人を追って自ら命を断つのも、 悪くないのかもしれないと、 そんな風に、思ってしまう──…。
……いや、すまない。 あなたに言う事ではなかったな。
[申し訳なさげに謝って、空いた器を綺麗にする。]
今日はもう遅いから帰るけど、また来るよ。 風邪を引かないように、温かくして寝てくれ。
[幾つかの薬草を置いて、老婆の身体を軽く抱き締め家を出た。]
(25) 2012/03/26(Mon) 00時半頃
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[ナタリアの家を出た女は、夜道を足早に酒場を目指す。 今日みたいな日は、ヤニクのピアノでも聞きながら酒を飲み、一時でも楽しい気分に浸りたい。
そんな事を考えながら歩いていると、ブローリンとホレーショーが何かやり取り交わしているのが目に入った。 昼間ホレーショーから聞いた、ブローリンが酒に強いという話を思い出し、これから共に酒場に行かないか誘おうと、遠慮もなしに近づいて行く。]
(29) 2012/03/26(Mon) 01時頃
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ヨーランダは、ホレーショーとブローリンを見たのは酒場から戻る時……だった、かもしれない。
2012/03/26(Mon) 01時頃
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─ 酒場 ─
[酒場に着いた頃には既に辺りは真っ暗だった。 扉を開けて中に入ると、暖かな空気と静かなピアノの音が迎えてくれる。 戦争の気配を感じさせない落ち着いた空気に表情が和らぐ。]
やぁ、来たよ。
[ダーラの姿を探して月白の瞳で店内を見渡し]
おや、セレストも来てたのか。
[もう一人、昼間顔を合わせた娘がダーラと寄り添っているのを見て軽く首を傾げた。]
(35) 2012/03/26(Mon) 01時頃
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[二人の傍に寄って、近くの席に腰掛ける。]
…──うん、わかるよ。 私も一緒だ。
[もどかしげに不安を訴えるセレストの表情に、ずきんと胸が痛んだ。セレストの髪を撫でるダーラの手を、信頼と共に見る。 この村の人達はとても心優しく、血が繋がっていなくても本当の家族みたいに接してくれる。身寄りのない女にはそれが心からありがたく、同時に村の人達を守りたいという想いを強くさせる。]
(41) 2012/03/26(Mon) 01時半頃
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ヨーランダは、ダーラに頷いて、「じゃあそれを」と頼んだ。
2012/03/26(Mon) 01時半頃
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はは、本当だな。 ってそれじゃダーラが生活出来なくなるぞ?
[出された料理をフォークで口に運び、うまいな、と笑う。 ホットミルクを一口飲むと、温かい温度と甘さに、沈んでいた気持ちがほっと緩んで行くのを感じた。]
ヤニクはもう少ししたら出て行ってしまうのか?
[ピアノを演奏する男に、なんとなしに水を向けてみる。 彼のような旅人なら、戦争に召集されずに済むのだろうかと。
もしそうなら、各地を転々とする、そんな生活も悪くはない。]
(44) 2012/03/26(Mon) 01時半頃
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ヨーランダは、セレストの涙に気付いて、フォークを置いた。
2012/03/26(Mon) 01時半頃
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さぁ、わからない。
ただ──、それで、戦争を逃れる事が出来るなら、 そうした方がいいと、思っただけなんだ。
[セレストの質問に緩く頭を振って答える。 どうなんだ?という視線をヤニクに向けて]
(47) 2012/03/26(Mon) 01時半頃
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…───。
[不思議そうな顔を向けるセレストに、なんと答えてみようもなくて、フォークを置いた手で、セレストの黒髪を撫でようとした。 口許に僅かな笑みを乗せて。]
(48) 2012/03/26(Mon) 02時頃
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[ダーラと一緒になってセレストの髪を撫でながら]
なんだ、タダじゃないのか? 残念だな、今夜から早速越してこようかと思ってたのに。
[ニヤリと唇を歪めてみせた。]
(52) 2012/03/26(Mon) 02時頃
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セレストが? 嬉しいな──それじゃあ一緒にここに住もうか。
って、それじゃ私は駄目な大人になってしまう。
うん、本当に、セレストはもっと甘えていいんだぞ。 心を許せる相手がいるセレストを見て、 私もダーラも幸せな気持ちになれるんだから。
[ふと真面目な顔になってそう言って。
それからしばらく、他愛のない話をしながら料理に舌鼓を打ち、ミルクだけでは足りないと強い酒を頼んで、最初の一口だけぐいとあおった後は、長い時間を掛けて、この時を楽しんだ。]
(56) 2012/03/26(Mon) 02時頃
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[酒場にいる面々に別れを告げて、帰る道すがら、ホレーショーとブローリンを見掛けて話し掛けようと近付いたが、二人共こちらを一瞥したきり何も言わず、背を向けて歩き去ってしまった。]
…───?
[女は酒で浮かれていた気分がスッと引いて行くのを感じた。]
(57) 2012/03/26(Mon) 02時頃
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[得体の知れない不安が胸を占める。
いつもとは違った表情と態度。 彼らは軍人だ。何か軍の機密に関わる事かもしれない。
もしそうなら、聞いても答えてはくれまい。]
────…。
[女はひとつ溜息を吐いて、ストールをぎゅっと掻き合わせた。 家までの道を、俯いてのろのろと歩く女の脳裏に、夕方ダーラとベネットに語った話が、現実感を伴って甦っていた。**]
(58) 2012/03/26(Mon) 02時頃
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─ 村役場 ─
[ヴァイオレットとハワードの葬儀の準備が整った。 とは言っても、空の棺を埋葬するだけの、簡易葬儀。 それも、重なる訃報と徴兵で人手不足な村で今まで通りの形式に則った葬儀を行うのは難しく、今回は二人の合同葬儀の形を取ることになった。 ヴァイオレットと仲が良く、ハワードの部下でもあったセレストも、葬儀への参列を希望するかもしれないと、この日女は、セレストが職場に顔を出す時刻(エリアスが役場に顔を出すよりも前)を見計らって役場を訪れていた。]
────帰った? なぜ。体調でも、悪いのか。
[しかし、定位置に彼女の姿はなく、不思議そうに役場内を見回す女に職員のひとりが教えてくれた。
曰く『セレストに赤紙が来た』──と。]
(85) 2012/03/26(Mon) 16時頃
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──────え?
[一瞬耳を疑った。]
なぜ? そんな、セレストはまだ20だぞ!
[ヴァイオレットのように通信の知識があるわけでもない。男のように戦えるわけでもない。 戦争に行って何が出来ると言うのか。
知人の手紙に書かれていた事が現実味を帯びる。 昨日ダーラ達と話して心の準備は出来ていた筈なのに、こうして目の前に突き付けられると、到底納得など出来ない自分がいた。]
くそっ、あんたじゃ埒があかないっ。
[女は血相を変えて役場を飛び出した。]
(87) 2012/03/26(Mon) 16時頃
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ベネット! ベネット!!
[女が最初に行ったのは年近い青年の店。]
ベネット、セレストに赤紙が来た──。
昨日、言ってたよな? もし赤紙が来たら、名前を書き換えてしまえって。
私もダーラもそんな事出来る訳ないって言った。 けど、お前なら、もしかして、なんとか出来るんじゃないか?
だからあんな事を言ったんだろう?!
[無理と知っていて尚、縋るように問い掛ける。]
なぁ、私は、あの子を行かせたくないよ。 あの子が生まれたときから知ってる、 私の家族みたいな子なんだ──…ッ。
(89) 2012/03/26(Mon) 16時頃
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[ベネットはなんと答えたか。 どんなに縋っても、無理なものは無理なのだ。 不可能を可能にする力は、今の青年にはあるまい。
結局、幼子のように駄々をこねた後、再び外へと飛び出した。]
(91) 2012/03/26(Mon) 16時頃
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[次に女が探したのは、飲み仲間でもある軍人の姿。 いつも村の中をふらふらしている男は、今日は何処にいたか。]
──ッ、ホレーショー!!!
[女は、男の姿を見つけるやいなや駆け寄って、男の右頬目掛けて渾身の力で拳を振り抜いた。**]
(92) 2012/03/26(Mon) 16時半頃
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[ホレーショーが拳を止めたなら反対の拳で反対の頬を狙う。 当たれば女の拳の方が裂けるであろう、遠慮会釈のない殴打。 それも止められたなら、身体ごとぶつかって、がむしゃらに拳を振り上げ、男の胸に何度も何度も振り下ろす。
いつしか、女の目からは滝のような涙が溢れ出していた。]
──なんで、 ────なんでなんだッ!!!
(100) 2012/03/26(Mon) 17時頃
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お前達はいつも、私から家族を奪って行く──!!
セレストだけ、ッ、じゃない、 ここの村の人達は皆、支え合って生きてるんだ!!
これ以上、奪わないでくれ───…ッ!!!
[嗚咽混じり、啜り上げながらの訴えは、抗議というより懇願に近い響きを持って、周囲に集った者の耳に届くだろう。
女はわかっていた。 男に決定権はなく、それ故何の責任もないことを。
それどころか、彼が戦争に村人を取られることを心から憂えていることさえ知っていた。 知っていて尚、こうして無様に泣き喚いて縋ってしまうのは、この男なら、己の激情を受け止めてくれるかもしれないと、そんな風に思っていたからかもしれない。]
(102) 2012/03/26(Mon) 17時半頃
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[ブローリンに銃口を突きつけられても、女は離れようとはしない。 それどころか、銃口を握って己の額に押し当て]
撃てばいい──!!
どうせ、いずれ私も招集される。 意味のない戦争の駒になって、 いずことも知れぬ場所で死ぬんだろう?
[嘲るように嗤って、両腕を広げて挑発した。]
(103) 2012/03/26(Mon) 17時半頃
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[銃を下ろしたブローリンに腕を掴まれれば、男勝りの性格をしていても所詮女の力。抗いようもなく騒ぎの中心から離れた所へと連れて行かれる。]
離せ──っ!
[女が掴まれた腕を振り解くのと、男が手を離したのがほぼ当時。]
なんでだ、ブローリン! お前だって、こんな事望んでいるわけじゃないだろう?
[身振りで帰るよう促され、再び銃口を突きつけられても構わず喋りかける。]
(104) 2012/03/26(Mon) 17時半頃
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[そこへ──]
──ッセレスト!!
[細い腕が肩に触れ、抱き寄せんとする力が掛かり、振り向いた女の目に、困惑したような表情のセレストが映り──。]
(105) 2012/03/26(Mon) 17時半頃
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行くな──…!!
行かないで……くれ……っ!!
[思わず、セレストの細い肩を、思い切り抱き締めていた──。**]
(106) 2012/03/26(Mon) 18時頃
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─ 村外れ>>118 ─
──…すまない。
取り乱してしまった──。
[どの位、セレストを抱き締めたままそうしていただろうか。 背を撫でられ、ようやく落ち着きを取り戻した女は、色素の薄い瞳を地面に向けて、申し訳無さそうに謝った。]
わかっているんだ。 一番辛いのは、セレストだって。
なのに、何も出来ない自分がもどかしくて、 ホレーショー達に八つ当たりをしてしまった──……。
(130) 2012/03/26(Mon) 20時半頃
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え───…、罰──?
[続けて言われた言葉に。 悟ったような眼差しに。
顔を上げて、聞き返した。
問いに、答えはあったのだろうか。 意図を図りかねて、じっと、隠された心の内側を覗こうとするようにセレストの瞳を見詰めていると、少し離れた所からクラリッサの声が聞こえてきて、慌てて袖で目許を拭った。]
(132) 2012/03/26(Mon) 21時頃
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[ひとり眠る姉を見るのが辛いからと、あまりここへは足を運ばないクラリッサが来たのは、やはりセレストを探しての事なのだろうかと、駆け寄るセレストから少し遅れて、ゆっくりとした歩調で近付いて行く。
抱き合う二人の華奢なシルエットに、酷く胸が痛む。]
(134) 2012/03/26(Mon) 21時頃
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[セレストの語る言葉の端々から、彼女が生きてここへ帰って来る気のない事が伺える。 まだ20歳になったばかりの、うら若き女の身の上で、どうしてこんな悲しい決意をしなけばならないのだろう。]
セレスト──…、 何か、して欲しい事はあるか?
私に出来ることなら、なんだってしてやる。
お前が、帰って来たくて堪らなくなるような、 そんな願い事を───、
────どうか、私に叶えさせてくれ─。
[女の声が、切なげに墓地を揺らす。]
(137) 2012/03/26(Mon) 21時頃
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