276 ─五月、薔薇の木の下で。
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─どこかの部屋─
[ そこがどこかも理解せぬまま、微睡みに身を預ける。 ドアが開いた音(>>1:317)も聞こえないでいる。 むにゃむにゃ、何か謂っていたかもしれないが どうせ空箱みたいな、内容のないものだったろう。
ただ、かすかに見た夢の中で声を聞いた。 おぼろげな輪郭は女性とも男性ともつかない。 わかるのは、髪が長かったこと。
それから、微笑んだ顔。 ]
(49) 2018/05/19(Sat) 03時半頃
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[ そりゃあそうだ。 声の主の悲しげな顔を覚えていない程 俺の記憶は、その人物を笑顔で覚えている。 花について聞いてくる時も、先輩のことをあいつ呼びした時も。 くるくると変わる表情だったが、そのだいたいが笑顔だったはず。
だから夢の中で手を振り返した。 おやすみ、と。
連動して眠る身体も 意識の無いうちに、ひらと手を振ったようだが。 ]*
(50) 2018/05/19(Sat) 03時半頃
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ユージンは、イアンの夢を見たかも知れないし
2018/05/19(Sat) 04時頃
ユージンは、モリスの夢も見たかもしれない。
2018/05/19(Sat) 04時頃
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い っ
(55) 2018/05/19(Sat) 04時半頃
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[ 目が覚めたのは、固いものが頭に降ってきた所為(>>34)。 神の鉄槌は本の角だったらしい、知らなかった。 そこまで声を上げなかったことについては褒めてほしい。 いや、称賛してほしいところだ。
落ちてきたのは、本──聖書。 見覚えのある表紙の、その色に身体を起こせば これまた見覚えのある、パン捏ね大臣が落ちている。 ]
わぉ。 ケヴィンの部屋か。 おっと、静かに静かに。
[ 勝手に入っておいて悪びれもせず、パラパラと聖書を捲り 目に留まった頁の端を折り込んだ。 それは主の弟子が信徒に宛てた手紙の一節。 ]
(57) 2018/05/19(Sat) 04時半頃
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Each of you should use whatever gift you have received to serve others,
as faithful stewards of God’s grace in its various forms.
(*1) 2018/05/19(Sat) 04時半頃
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[ 子守唄のように読み、眠るケヴィンの肌に触れる。 百合の香りはなく、漂うのは薔薇の香。 なぞる指先は清いはずの無い≪穢れた≫悪魔の指。]
──── kevin、 "美しい子"
[ その声は、揺り籠で眠るその男の 何を揺り動かそうか。 ]
(*2) 2018/05/19(Sat) 04時半頃
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[ 首筋に、そっとそっと唇で触れ 甘い素肌を吸い上げれば その肌には薔薇の花びらが落ちる。
おかげで少し、精を得る。
生を、得る。 ]
(*3) 2018/05/19(Sat) 04時半頃
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あー……寝てちょっとすっきりしたな。 どーもなー、ケヴィン。
[ 聖書は枕元に置き、眠っている相手を起こさぬよう軽くだけ撫でた。 声も潜めて小さく。
部屋を出る時も、音を立てぬように。 ]*
(58) 2018/05/19(Sat) 04時半頃
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─中庭─
[ わりと寝たと思っていたが、月の位置は動きもしていない。 違和を感じながら、向かうのはいつもの場所。 中庭に、モリスから頼まれていた枝を乾かしに。
足取り軽くさくさくと進んでいけば、人影が二人肩を寄せ合うところ。 目を凝らせば影はいっちゃん(>>48)とモリス(>>53)で それはどうみても。
ひとつ軽く息を吸い込み、殺すのは気配。
射干玉の小さな瞳は逸らすこともなく 月光の下、薔薇の花が咲き乱れる庭の二人を見る。 重なる手も、見詰め合う眼差しも。 ]
(59) 2018/05/19(Sat) 04時半頃
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[ 狂ったような月明かり。 噎ぶような薔薇の香。 衝動に駆られる、人の子。 ]
(*4) 2018/05/19(Sat) 04時半頃
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[ 月明かり、帽子の下に隠す──── ]
(60) 2018/05/19(Sat) 04時半頃
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[ 弧を描き、歪んだ唇。 ]
(*5) 2018/05/19(Sat) 04時半頃
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≪それ≫が、キミの 紫陽花?
[ 『こっち見ろ、莫迦』と、謂いたい相手? 彼と彼の瞳は合っているように思う。 ]
ならば、もうあとは奪うだけ。 多少強引にだって、いいんだよ、今は。
───だって、手に入れたいんだろ?
[ どろどろと甘い、胸を焼くような 薔薇の匂いが、モリスを包み込む。 ]
(*6) 2018/05/19(Sat) 04時半頃
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[ 声も出さず。音も立てず。 かすかな呼吸さえ、二人に届けぬようにして。
絵画のような甘い風景を
射干玉が、見ている。 ]**
(61) 2018/05/19(Sat) 04時半頃
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ユージンは、まだ気配を殺したまま聞こえぬ二人の会話に──
2018/05/19(Sat) 17時頃
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[ 悪趣味な俺はどのくらいそこにいたか知れない。 モリスがいっちゃんを、いっちゃんがモリスを 視線は繋がったり離れたり。 その手は重なったり、逃げたり、追ったり。
互いの切なる願いが(>>87>>93)溢れ落ちたとき。 漸く、小さな眼孔はその風景に蓋をする。 瞼を閉じ、息をひとつ吐き出し。
背を向けた足音が、緑を踏む。
足元にはひらり、薔薇の花弁が落ち。 ]*
(95) 2018/05/19(Sat) 19時頃
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[ 去る間際の表情など 誰も知らない。 ]**
(96) 2018/05/19(Sat) 19時頃
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─談話室─
[ 普段賑やかなその場所には、この時誰も居らず。 残されていたタルトをみつけて頬張る。 あ、うまい。作ったのはラルフだっけ? なんて思いこそすれど、言葉に出ることもなく。 マークから貰った、置き去りにしたままのクッキーやなんかを探して。 カップを探しハーブティを淹れる。
咀嚼する音。 あるいはクッキーの割れる音。 穏やかな薔薇以外の香り。 ]
(97) 2018/05/19(Sat) 19時半頃
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[ 人より花が好きなのかと、問われるほど。 俺の回りに人はない。 花ばかりが咲き乱れる。
寂しいとは思わない。 羨ましいとも思わない。
まるで風景のように。 俺はそこに、ただ、在るだけ。
《俺》は中庭に、ただ、在るだけ。 ]*
(98) 2018/05/19(Sat) 19時半頃
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─落ちた、花弁─
[ 呼吸のように落ちた一枚、緑を踏んだ足音。 それは泡沫のように淡く。けれど、確かに鳴った音。
見つけたのは去りゆく背中か、あるいは落ちた花弁か。 どちらにしろ同じことなのだろう。 微か呼ばれた名前に(>>101)、気付かぬフリをしたのだから。 振り向かなければ、届いていないのと同意。
薔薇はいつだって中庭(そこ)に佇む。 触れなければ傷付かない、けれど
手を伸ばさない限り、それはただの、風景。 ]*
(104) 2018/05/19(Sat) 20時半頃
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───ね、いっちゃん。
(105) 2018/05/19(Sat) 20時半頃
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[ 薔薇の香りは慣れすぎて、自分自身じゃわからない。 ]**
(106) 2018/05/19(Sat) 21時頃
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[ 少し冷えた体に、熱いハーブティは驚くほどに温かい。 やがて聞こえるのは入り口からの声(>>139)。 しかし視線はこちらに向いていないようだ。 ]
綺麗に? ならんねぇ。
[ いくら洗っても、染み付いた汚れは落ちやしない。 ]
そう思うなら付き合いなよ。 まったく、キミのどこが優等生なのかね?
[ 周りの評価はそんなものらしいが、俺にはこんなに厳しく当たるのにねえ? 何か棚をがさごそとやる姿に近付けば、棚の上に用があるのかと ギリギリ届くか届かないかのそこへ、ひょいと手を伸ばしてみた。 ]
(144) 2018/05/19(Sat) 23時半頃
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ユージンは、「これ?」と布巾を軽々取ってよこす。
2018/05/19(Sat) 23時半頃
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仕方ないねえ。
[ それでも以前よりは手を洗うようになった方だ。 尻ポケットに入ったままのハンカチが汚れるくらいには。 頭から爪先まで優等生だという(>>155)、オスカーを見る。 四六時中、薔薇と土の匂いをさせた俺が そのたった1センチを拾い上げてしまう。 ]
世渡り上手、口も上手い、後輩の粗相も許す。 キミにはそんな風にうつってんのね。 器用さならそれこそ、画家先生や演奏家の方が器用でしょ。
俺になったってなにも手には入らんよ。
[ 見上げ、正しく笑う顔を見て(>>156)。 ]
(166) 2018/05/20(Sun) 00時半頃
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オスカー。 キミの表情(かお)は美しいね。
[ 土で汚れてはいない、ザラザラの指を伸ばす。 逃げる素振りを見せなければ、それは頬に触れ やわやわと、撫でる。 ]
美しすぎる。 花は咲きすぎると、狂うんだよ?
[ 正しすぎて。 まるで泣いているようだ。 ]*
(167) 2018/05/20(Sun) 00時半頃
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[ 中庭の二人と、図らずしも同じ構図をとっていると思いもしない。 緑を踏んだ時に呟かれた言の葉(>>*12)を ただ、思い出していた。
手に入れたいのは、紫陽花の隣。
紫陽花そのものではなく、その隣の場所だと。 人はおかしなことを考える生き物だ。 それもまた人の──彼の 想う、心の、かたちなのだろう。
悩み、押し殺し、隠して生きれば生きるほど 彼らの中には美しいものが詰まっている。
俺はどうやら、空っぽだ。 ]
(*13) 2018/05/20(Sun) 01時頃
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[ 独白めいた響きであったから 言葉を返すことなど、なかったけれど。 見せずにいた顔は確かに
笑っていた。
モリスが望むものを手に入れたなら。 いっちゃんが望む姿を見せられたなら。 それ以上の事が、あるはずもない。
その形がどうであれ。
風景の《薔薇》は彩りに変わるだけ。 ]*
(*14) 2018/05/20(Sun) 01時頃
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[ 良い子にしていると呟いた(>>*8) あの幼子(おとこ)はどうしているだろう。 首筋に降った薔薇の花弁は 洗い流しても、そうそう落ちはしまいが。 罪も、水で洗い落とせるものじゃない。
彼に詰まったものも、中身は知らねど ぎゅうぎゅうと美しいものが詰まっているんだろう。 ]
(*15) 2018/05/20(Sun) 01時頃
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[ ひらり、夜風は凪いでいるのに はらり、薔薇の花弁が舞う。
ふたつ、ひとつ。 ]
(*16) 2018/05/20(Sun) 01時頃
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けんそん、ねぇ。 謙遜じゃなく事実だし、なんなら 最初に比べたのはキミじゃないか?
[ 自嘲するように揺れる肩(>>188)。 強張った体が、腕を振り上げさせる。
呟かれる言葉は聞き取れないほどに、歪んだ(>>189)もので。
1センチ──実際はそれ以上の──背丈の差が 俯く表情を見せやしない。 ゆっくりと解かれていく拳だけが、見える。 ]
(194) 2018/05/20(Sun) 02時半頃
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キミでも驚いたりすんのね。
酔うとか、俺らまだ未成年よ? まあ、休暇に嗜むくらい多目に見てほしいとこだけど。
[ 冗談めかして謂ったが、オスカーに向ける目は。 絡む、自分よりも柔らかで綺麗な指。 その先が肌に食い込み、ぷつりと皮を裂く。
穢れの無い指先にこびりつく、薔薇の香。 噎せ返る匂い。
眉を潜めることもせず。 声を上げることもなく。 まるで痛みなど、感じていないかのよう。 ]
(195) 2018/05/20(Sun) 02時半頃
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