223 豊葦原の花祭
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さら、さら。
春のはじめの、絹糸みたいに柔らかな、雨。
冬の名残の雪は疾うに溶け、まだ寒い頃に土を割った小さな芽たちは、今やしっかりと新緑の色で背を伸ばしている。
三寒四温も最早過ぎ。今は丁度、桜の季節。
山里は、人の住まう場所もそうでない場所も、そこかしこに咲いた花々でほのかに色づいていた。
時間と次元の交差する最果ての海。
そこに滔々と存在し続け、様々な世界線と時間軸の生物達が行き交う『豊葦原國』。そのとある平原に、伊那と呼ばれる村がある。
人の出入りも疎らな小さなその村では、農耕を主に生業とする村民たちが、穏やかな日々を送っていた。
目立った産業がある訳でもない、代わり映えの無い日常。
しかし、年に一度、そんな日々が「代わり映え」する時季が訪れる。それも、沢山のお客たちを引き連れて────。
(#0) 2015/04/16(Thu) 23時半頃
「 雨、ちゃんと降りましたね。うすずみ様──、あれ?」
凛とした少女の声が、朝靄の中に響く。
夜半に止んだ雨の名残りで、まだ湿った土に触れていた両手を軽く払って立ち上がる。年の頃、十ニ、三、だろうか。
キョロキョロと辺りを見回すも、目的の何某かは見付からないようで、気の強そうなその顔が困惑に曇る。
そうして眉を下げたまま、目の前の、凡そ木という言葉では足りそうもない程の巨木──花の咲かない桜の幹の周りを、ゆっくりと歩き出した。
「あれ。あれ。可笑しいな、さっきまで御姿見えてましたのに。
……うすずみ様!うーすーずーみーさーまーーーー!」
(#1) 2015/04/16(Thu) 23時半頃
くるり、少女が歩を進めれば、周囲の景色も変わる。
どうやらそこは村の外れで、北側を半周、堀で囲まれた空き地のようだった。
一周400メートル程度の円が引けるであろうその空き地は、ぐるりと満開の桜の木々に囲まれている。足元の土にはところどころ、苔生した石畳が一定の規則で持って並んでいた。
見るものが見れば、それが城址であることに気が付いただろう。
「隠れん坊なんて、今時流行りませんよ!近頃はもう妖怪集める時計のゲームが最先端で────、……ん?」
首を廻らせながら小言を宙に放つ少女の動きが、ぴたりと止まる。
堀の手前、今が盛りと咲き誇る花霞の下、降り積もった薄桃色の絨毯。その中に埋もれて、確かに人の影がある。あれは────、
(#2) 2015/04/16(Thu) 23時半頃
人か、けものか。はたまた鬼か。
(#3) 2015/04/16(Thu) 23時半頃
『 豊葦原の花祭 』
(#4) 2015/04/16(Thu) 23時半頃
二人の少女は手を繋いで朝靄の中を歩き出した。
撫でるように吹いた風が、さやさやと未だ花をつけない巨木の枝を揺らす。枝の隙間で、人知れず誰かの影が笑う幻影。
それに気付く者もいないまま、徐々に日は昇っていく。
やがて小さな村が真昼の柔らかな陽光に包まれ、春雨で湿った土もすっかり乾いた午後。
村はずれの広場には徐々にひと気が増え、次々と屋台が組み立てられてゆく。
そうして、各所に吊り下げられた桜色のぼんぼりに灯りがともる頃には、伊那村に年に一度だけの「代わり映え」する一日──人や、けものや、あやかし──そして、外神たちが一斉に集う、花祭の夜がやってくるのだ。
(#5) 2015/04/17(Fri) 00時頃
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