25 花祭 ― 夢と現の狭間で ―
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はい。
[華月の名に返事をする。故に今は花。
主の浮かべる微苦笑に、浮かぶ感情――哀しい。
心配、その単語に頷きを一つ返す。
続く言葉に、緩く唇を噛むのは否定か、それとも。
少しの間、俯く。]
[けれど、途切れる言の葉に、苔色を黒檀に合わせた。
沈黙を持って、先を待つ。
まだ、鵠とは手をつないだままだったろうか。
そうであれば、少し握るを強めた。]
御意。もちろんや。
[主の願いに惑うことなく告げる。
鵠の言葉は聞かずとも判る。
それは、主の言葉途切れた時の、鵠の言葉にも見てとれる。
もしかすれば、
また双花の答えは重なったのかもしれない。]
あるじと呼ぶ
其の時から
繋ぎとめられるのは
花だけでなく
[静かに呟く
瞳は現世を映し]
迷い断ち切れぬのは
キミも、同じじゃないのかい明之進
[熱さは感じず。ただ花主と花の様子を見ている。
抱いた花の頭を撫でる。
もうすぐ――]
お前の歌を、もう一度聴きたかった。
[眸に移るのは寂しげな色]
[秋色の髪に触れた手
気付くに間が空いた]
主さま
歌も、笛も、足が治れば舞いも
この身が覚えた芸事は
幾多もありましたのに
[腕の中、背を靠れさせたまま
主の顔は見えず]
…――
───ああ。
[冬の花の言葉。
己にはそれで十分。
そう思えば、何処かから聞こえる喧騒。
───姿は消え。
そしてある場所に降り立つ。
視界には、歎く椿の姿]
[彼は、椿の事を何と呼んでいたか。
その椿へと、一つ、二つ。
足音のない歩みは近づく。
少しためらったが迷いはない。
椿の背から、そっと。守る様に両の腕を伸ばして、包むために。
確か研師はこう呼んでいなかったか]
───明。
[一度で反応がなければ、もう一つ。
自分に気づけば、合わせるようにと鉄色の瞳は無言で告げる]
聞こえる自分の扇の音に少しだけ口元を緩めたが、笑みはすぐに消える。
―――――御意。
[ごく丁寧に、答え。
それさえ重なり、しろい鷺の花が
小さく揺れた。]
屋敷なくしては
保てぬ
……きっと
[琥珀伏せる姿に
ぽつり、囁き落とす]
[二つの声、重なった返事が戻れば黒檀を伏せて]
―――…うん、
[少し、幼い頷き。下りた髪が揺れる。
安堵したかのように浮かぶ笑みは、
死に際にも浮かべた憂いの乗らぬ穏やかな…]
[少し遠くから聞こえるのは儚き花を呼ぶ声。
炎は止まぬ、花を留めようと呼ぶ声も。]
生者は、生者の道を
死者は、死者の道を
もし
同じ道を望むなら
生者死さねば
叶わない
[呟き、溜息ひとつ
視界が紅くあかく]
望みはひとつ
願いはひとつ
ふたつ心懐いたなら
[するりと。
手元に残ったものは何もない。
椿は既に、向こう側に]
───。
[驚きのあと、小さく苦笑が零れた]
こちらへと招く手は、必要なかったか?
[椿に尋ねる。
主と呼ばれた男に、決別を進めたのは自分。
そこまで情が深くなったというのであれば、行方知れずの椿の主のかわりに
椿をこちらへと招くための手を差し伸べてこそと思ったけれど]
[2つの同じ返事、受けて主は幼く頷いた。
それに愛惜の念を持つ。
―――2つが花であるとき。
それは、主が花の名2つ呼ぶ時。
鵠と呼べば白鷺が。
華月と呼べば胡蝶が。
それぞれ花に身をかえて、糸を頼りに蒼穹より舞い降りよう。]
[今は花として、主の隣に控え、同じものを見る。
駒鳥の啼く唄に想いを馳せながら。
望みはひとつ――蝶でありたい。
願いはひとつ――花でありたい。
ふたつ心懐いて。]
[邦夜達が無事な場所まで辿り着けたのを確認して。
ゆらり光は人影に。
手には主が持つ笛を強く意識して構え。
別れ告げる長い音色]
されど。
こころはきえることなく。
[現の風には乗らぬ一音を吹いた**]
[――朧月は、笑む。
憂いの乗らない笑みに、
自然、つられるように顔がほころぶ。
頷けば
――りん、と鈴が鳴る。
双翼は蝶であり白鷺。
華月であり鵠。
朧なる月の傍に舞う。]
繋いだ手はここに。
見失う事は無いでしょう
死期を悟ったそのときに、体は勝手に動くもの
[虎鉄の笑みに混じるいろ
あの微笑み方を知っている]
燃える、もえる
あかく、紅く
黒煙のぼる その先は
現し世か 移し世か
ゆく先は、ありやなしや?
[遠く、唄う声が聴こえた気がした。
―――…気のせいかもしれない。
辺りを包むは触れることできぬ現世の業火。
唸る焔の唄に周りの音は掻き消され
――…りん、
傍に在る鈴の音が炎の中涼やかに鳴る。]
[弟弟子の、自嘲気味な言葉を拾って尋ねた。]
死にたい場所が、あったんやろか?
なぁ、ずっと手は繋いでられへんけど。
そゆ場所があるんなら、連れていったりたい。
[片手は鵠と繋いだまま。
けれど、もう片手を、
誰かに暫しの間、伸ばすことは出来るだろうと。
ええやろか?と言葉なく尋ねるのは、
鳴る鈴の音の元に。]
[其処を離れようと思わないのは願いがあるから。
重なる二つ、添う花主と花。想いあう月と鳥。
その二つが燃え尽き消えるその時まで、
ちゃんと寄り添えていれるようにと…。
蝶と鳥の名を持つ花達がこの場を離れようとも
主は何も言わないだろう。離れても繋ぐ糸は此処にある。
月の片割れは、業火に混じる唄を聴きながら二人の姿を見守っている。]
───好きにするといい。
どうせお前も、私とはゆくところが違う。
[空っぽの手をひらりと振って。
まるでそれは好きにしろと、
冬の花をからかっていたあの手に似ていた]
[相方の是を貰えば、柔らかく微笑む。
瞬く琥珀に、苔色を合わせた。]
わてと鵠さんが、一緒に探したるし、運んだるわ。
なぁ、花と花主の絆って、そんな柔いもんやろか?
よう、自分の周り見てみい。
まだ縁(よすが)が、のこっとるかもしれへんやん。
[細く細くなっていたとしても。
もしかすれば、虎鉄にも糸が絡んでいないかと。]
還れんおもたら、還れるわけないで。
なんや、そんな後ろ向きなん、虎鉄らしゅうないわ。
[ほら、と差し出す片手。]
[柔らかな笑みに笑みを返す。
主の方を、一度見て。
それから、琥珀へ視線を移した。]
……探そう。
[と、言葉 繋いで。]
[薄れていく椿の姿。
どうせあの研師は生きるだろう。
どんなに死に急いでも生き残るものというものはいるものだ]
───時間か。
[がら、と遠くで崩れる音がした。
廊下の美しかった色硝子は熱と煤で見る影もなく]
[倒れ伏せる同じ顔の月に話しかけることもない。
花達が弟弟子の姿の元へと行くのを見届け、
―――…業火の中、静かに佇む。
焔が二つの姿を包んでいく…
溶けて、白から赤へ…赤から…ひとつに。]
[焔の向こう側、離れた廊下に佇む背が見えた。]
―――…本郷、
[一瞬脳裏に浮かぶ、不思議な記憶。
童の傍に添う、獣の姿。]
[一際大きく聞こえる、崩壊の音
冬色の瞳を静かに閉じる]
現し世のゆくさきに
ひととけものの交わる道はなけれども――
[視界は紅い あかい]
逝く先に
みちは……
[翳んで]
執事見習い ロビンの手を離す事なく、寄り添うように引いて
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