人狼議事


8 DOREI品評会

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視点:


[チリンと近くで鈴の音が鳴る。
 懐かしい東洋の音。口にした言葉に耐えきれず、鈴の音の方角に視線をそらすと──舞台で見掛けた少女が居た。キモノ──日本人か、日本人の格好をさせられたアジア人。彼女はグロリアの弟に買われたのか。また、黒髪の客の側にも身憶えるの有るおんなの姿が有る。
 イアンも含め、買われた奴隷達。NO.4も売れたらしい。]


― →舞台袖 小部屋 ―


―――――…

[入れと押し込まれた部屋は狭く小さい。
ジャラリと鎖の音と共にその中へ。

鍵のしまった扉を開く、買い手の姿が見えるまで
その扉を唯、静かに 睨みつける金の瞳。]


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―― 舞台袖の個室 ――

[少女はただ、買った主を――現状命の恩人を、慎ましやかに佇んで待っている。]


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[硬翠から落ちた涙は、またきぬを勝手に濡らしたと怒られるだろうか。
けれど、今はそんなこと言われようが構わなかった。
手の甲で、ゆっくりと拭う。瞬きを何度か。
それでもときどき思い出したように落ちてきた。

それは、そんなに長い時間ではなかった。
翡翠に袖を通して、不快ながらもちゃんと穴に房飾りを通す。
顔をあげても、まだ硬翠は時折雨を降らせた]


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[背筋を辿る指に甘やかな声を漏らして、髪を引かれるまま逸らす白い喉。
首に触れる手には、ことさら敏感に反応する身体。
痛みと怯えに眉を歪めて、ほぅ…と熱い吐息をこぼした。

いつだって、すきなことができる。
その言葉だけで…もう、何をされても構わないとそんな気持ちになってしまう。
女は自分を求める方に、お仕えするためだけに育てられたのだから。]


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[奴隷を買って欲しく無いのかと問われ>>6:*94、イアンは頷く。
 勿論、そのまま奴隷として連れて来られた人間が現世に戻れるとも考えていない。イアン自身を含めて。寧ろ、外で自分達が生存者として扱われてるのかもあやしいものだ。イアンのように名も無き移民ならいざ知らず、何百年も歴史をたどる事の出来る貴族の家ならなおさら。]

育て、躾け、
作り替えずには 居られないの かな。

[絡んだ指が外される。グロリアの名を呼ぼうとする、イアンの声は口の中で消える。]


― 客席 ―

―――…はい。

[共に、と言われれば素直に従う。
よろりと力なく立ち上がれば、一度身を軽く身じろぎして。
りりん、と鈴は二箇所で啼く。

主人が歩き始めればそれについて後ろを歩む。
あまり速くは歩けないが、主人の歩む速度が速ければ、親に置いていかれまいとする子猫のように必死に歩いた。

まだ、気付いてはいない。
買われた奴隷に、明るい未来など―――ないということ。]


女モノの服の方が良かった?
なら着替えるよ、僕は『買われた』んだしね。

[肩を竦める。現れた姉の方が破瓜の時の約束通り自分を買ったようだと、遅まきながら理解した。]

ビジネスパートナーとして求められたわけではなさそうだ。
……僕は何をすれば?

[枷を外されるのに、抗いはしない。
出られないし捕まる、との言葉にも頷く。
そもそも少女は腕っ節が強い方ではないし、舞台で疲労困憊していたのは現在進行形だ。

ガチャン、と長く戒めであった鉄枷が外される音がした時。
果てしない安堵と、何かが心の中で壊れてしまった気がした。
一度だけ、自由の空気を噛み締めた後は、また奴隷の末路。
華奢な左足首は走るのも無理そうなほど、赤く擦れて血が滲み、腫れていた。]


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 ふぅん。

[水玉の出来た翡翠に袖を通し、此方へ顔を上げた青年
男は一連の動作に口を挟むことなく見ていたが
着替え終えた彼の瞳にまだ雫が浮かぶのを見て鼻を鳴らす。
精神的なものの方が堪えるのだろう、と思いつつも口には出さず]

 着替えも終わったし、食事の後で散歩にでも行こうか。
 先ずはその首輪に鎖を付けてあげようね。
 屈んで。
 このままじゃ首輪に届かないだろう。

[控えている召使に鎖の先を持たせ
男はソファーに座ったまま青年を手招いた]


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― 舞台袖/個室 ―

[ノックの音に視線を上げて見据える。
入ってきたのは紳士服を着た あの灰青。
優しそうな仮面を被った、男の声色に カッと血がのぼる。]

ッ…てめェが――――  ! 



          …シノ、どうして。

[ジャラリと鎖を鳴らして殴ってやろうかと思った矢先
背後に見えたのは、異国の女の姿。
漆黒の瞳に、金の瞳が一寸奪われるけれど すぐに逸らす。
駄目だ、と 自分に言い聞かせるような態度で。**]


[それから、気を紛らわすように 言葉を続ける。]


…俺が確かに買われたなら
  ――家に…、親父に金が入るはずだ。


確認させて欲しい。**


ふうん、随分といい待遇なんだね?
勘違いしちゃうよ?

期待なんて、最初からしていないけれど。

[いまいちはっきりしない様子のグロリアを怪訝そうに見やりながら、手当てを受ける。
どうやら彼女の興味は、あまり自分にはないようだと知れるか。
少なくとも、同室でやりとりされる、もう一人の買われた者に比べれば。]

今は吐き気が酷くて、あまり何か食べられる気はしないな。

[ふるりと首を振ると、一緒に漆黒の羽も揺れる。貴婦人のカメオで留められた、鴉の濡れ羽色。]


そう、ビジネスしなくても、お金が有り余るような生活なんて、夢のようだね。


[目元を擦る仕草は、少しだけ子供みたいだっただろうか。
相手が何を考えているかなど知らない。
ただ、暫くは押し黙っていた]

…。

[まだ涙が完全には引かない瞳はぼんやりと男を見た。
少しぎこちない足取りで、男の傍らによる。
それからしゃがむ。しゃがむ、というよりは、ぺたりと坐り込むといったほうが正しい]


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[濡れた瞳を此方へ向ける青年
眼差しに鋭さが欠けているなと思った]

 おや、力が入らないかな。

[座り込めば後ろへ埋めている玩具が奥を刺激してしまうだろうに。小さく笑い、濡れた頬に指先を伸ばす]

 どうして泣いているんだ?
 答えなさい。


[落札した奴隷を迎える為に、優しげな笑みを浮かべながら舞台袖へ向かう紳士。先に買われた紅い着物の少女が、複数の鈴の音を響かせながらあやうげな足取りで仔猫のように追い縋る。
 それから、グロリアの背。ドレスは最初とは異なり露出の少ないもの。
 グロリアの名前を飲み込んだまま、イアンは取り残される。その場に突っ伏してしまいそうな程、手足がガクガクと震えていた。]


…… 分からない。
嫌だ。

[形を変えて、繰り返さなくてはならないその歪な行為が、受け入れ難い。
 だが、もしもグロリアがそうせずには居られない、それが血だとでも言うのならば。グロリアのものになってしまったイアンには如何とも出来ないのだろうが。]


[やたらと弱気なグロリアに、首を傾げる。
少なくとも以前に感じた女王然とした威厳すら、損なわれてしまったよう。
消毒液が傷に沁みて、使用人を蹴飛ばしそうになっても、お咎めなし。
舞台に比べて、何とも平和な心地。]

そう、客席から見る舞台はどんな悪趣味なのかな。

[興味は半々といったところ。素直に頷いて彼女に続いた。足元は、矢張り覚束無い。
最後にちらり、テッドを振り返り、唇だけで「じゃあね」と形作った。]


メモを貼った。


― 舞台袖・個室 ―

―――ちりん…。

[鈴の音が止まって。
個室の中へと進む主人に倣って、同じように部屋の中へ。
そこに居た彼は。
数刻前と変わらない、力強い金の瞳を湛えて。
その光る金を見れば熱いものがこみ上げてきた。
安堵する暇もなく、青年が主人へ掴みかかろうとするのを見れば]

…あ、っ!

[思わず声があがる。
青年も此方に気付いたのだろう。
じゃらりと鳴った鎖は勢いを消して、拳が振るわれる事は無い。]


え……、…?

[名を呼ばれて驚いた。
どうして彼が知っているのだろうと思った。
大方、主人が舞台に上がった時に彼に囁いたか。
複雑な想いを抱きつつも漆黒は金の瞳を見詰めていたが、ふとその視線が逸らされれば、少しだけ眉が下がった。]


[座りこめば、中に自然と押し込む形になって、
少しだけ喉が震えた。
伸びてくる指先を、また落ちた涙が濡らす]

『…かなしい、から』

[呟く言葉は何処かぼんやりとしていて。
男の事もまともに把握できているのかどうか、定かではない。
ゆっくりと瞬きを繰り返しても、瞳に精彩は戻らないまま]


[指先で頬を拭い、雫を舐めろとばかり彼の唇へ運ぶ]

 何が悲しい?
 地下室と比べたら随分破格の待遇だろう。

[召使に視線を送る。
髪の短い片割れが彼の首元に手をかけた。
かちゃ、と金属音。
蛇の口に鎖が嵌まる]


メモを貼った。


小僧 カルヴィンがグロリアに続いて、客席にやってくる姿を見付ける──。


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[車椅子は断ったが、低めの身長に合わせたステッキは必要だった。
まるでその棒切れに縋るようにしか歩けない。そのことに、矜持がまた疼く。
思い詰めた表情のグロリアにも、こちらはどこ吹く風。呟きは届かない。
客席から見た舞台は、ドギツイ照明に照らされて悪夢の見世物小屋のよう。未だ使われていない器具も雑多に並べられ、よくも、と溜息しか出てこない。
椅子のように四つんばいになったツィーを見つければ、その唇は更に歪むことになる。]


『───服』

[ただ一言だけ、小さく呟いた。
首筋から聞こえる金属音。
けれど、それにも表情は変わらない。
口元に運ばれた指先に、何の抵抗もなく、口付けて赤い舌をちらつかせる。
その姿は、まるで猫が指先を舐めるに似ていた]


[許されるのならばそっと、まだ腫れているだろう彼の傷をいたわるようにそっと撫でる手。
踏まれた痛みに中指と薬指は動かなかったけれど、それでもその手つきはあまりに優しく。

口にせぬまま願うことは、せめて飽きられるまでの短い間でも自分で愉しんでもらえたらと。
その手で壊されてしまっても、きっと構わないのだろう。]


メモを貼った。


 服を着せただけだろう?
 そんなに嬉しかったかい。

[的外れと知っていながら、低く甘い音で囁いた。
服に対してした事といえば、ナイフで丸く切り裂いた事
祖国を思い起こさせる一つにキズを付けた事
それほど堪えたのかと
指先を舐る姿に瞳を細めながら]

 そろそろ自覚してもいい筈だよ。
 御前の名前を言ってご覧?

[召使から鎖の先を受取り、首を傾ぐ。
濃い金糸が頬にかかった]


お互い五体は満足みたいだね。
ここから見る舞台はどう?

[グロリアが縋る様に手を伸ばす先の長身に、軽く片眉を上げて見せる。
まるで情夫のようだ、という感想は奴隷に抱くには不相応なもの。]


メモを貼った。


メモを貼った。


[一見、寄り添う二人は仲睦まじい恋人のようにも見えなくもないのだろう。
けれども女は薄い上等の絹一枚だけを身につけて、胸郭を縦に裂くような色鮮やかな蚯蚓腫れの傷を刻まれている。
やがて貴婦人が新たな奴隷を連れて戻れば、そちらの方へとやわらかく笑みを返すだろう。

それはあまりに幸せそうに満ち足りて、けれども哀れなものかもしれぬ。]


[そう、きっと…
この立場と状況が、とても幸せなのだと思えることが、
不幸な女の幸せであり、幸せな女の不幸なのだろう。]


そこの、開いている席も駄目?

[帰ってしまったジェレミーの分と、ツィーに座っているヴェスパタインの分。二脚の椅子が余っているけれど、立っていろと言われるなら立ち続けるのが奴隷。
グロリアの苦悩も知らず、柱に体重を預けるようにして、底冷えのする瞳で舞台を見詰めている。]


……。

[少しだけ、首を横に振りかけて、少し間が相手から小さく縦に振った。
頷かないと怒られる。またひどいことをされる。
服だけじゃなくて。他にも。きっと。
また、一つ涙が落ちて翡翠を濡らした]

……『 يشم(jade)』

[違う。本当は、別の名前。
だけど───もう、痛いのは嫌だ]


[くつくつと、耐えられぬと言った風に哂う]

 そう、わかってるじゃないか。
 御前の名は他に無い。

 それで、もう一度聞いてみようか。
 何故俺の許しもなしに泣いているのかな?
 嬉しい時はもっと別の反応をするべきだ。

[軽く鎖を引いた。
座った彼の体制がずれるなら、下半身にまた
嵌まったままの玩具の存在を感じるだろう]


分かったよ、大人しく立ってる。
何か他に命令があったら聞くよ。

ないなら会場以外も見て来ていい?

[許可が得られたなら、放し飼い状態の少女は、好奇心の赴くまま館を闊歩するだろう。得られないなら、柱を支えに立ったまま。**]


メモを貼った。


[笑い声が落ちてくる。
でも、もう、それでよかった。
いっそ、このまま何も感じなくなってしまえばいいのに。
頭の端で、そんな事を思った]

や…っ…

[小さく、声が零れた。
背筋が軽く撓った。微かに、喉が震える。
小さく息を吐き出すと、目元を手の甲で拭った]

『…ごめん、なさい』


[戻って来たグロリアの手を取り、吸い寄せられるように彼女の背に腕を回そうとした。
 舞台で行われている全ての残酷劇の場にあって、奇妙な行動。奴隷として買われた男が、女主人を抱きしめようとする。]

… … グロリア。

[と、呼んではいけないのかもしれない名を小さく耳元で呼んでから。
 随分と長い時間合わなかったような気がする、カルヴィナの小さな背に視線を落とした。折れそうに華奢な身体を見て、外に出せないなら、猫の子のように道端に捨てるか、保健所に連絡をする事しか思い付かない。カルヴィナの問いには答えず、肩を竦めた。]


女装は止めてステッキ。
きみ、もう女の子は止めたの?

[以前にポンポンと話したようには、カルヴィナに対して言葉は出て来ない**。]


 うん、それから?

[謝罪が聞こえた。
男は首輪に繋がる鎖をもう一度引く]

 感謝の言葉は「ありがとう」だよ。
 尻尾付けられて、服着せてもらって嬉しいんだろう?

[頬にかかる金糸を払いながら、足を組み替えた]


ご主人様が、女の子の方がいいと言うなら、
そういった努力はしてみるよ。



今は、どちらでもいいと言われたから。

[自分の処遇は彼女の意向次第と言いたげに、よくできた「奴隷」のフリをする。
舞台を見ていた者は、もうどこにも少年らしさなど見出せず、ちぐはぐで滑稽な格好に映るのかも知れないけれど。]

それで、僕の処女と引き換えに買ってまで、
アナタがしたいことって何。

[あくまで奴隷同士。イアンとは会話少なくとも気にせぬまま、グロリアを真っ直ぐに見詰める。その葡萄酒色は、照明のあまり射さない客席にあっても昏く翳り、復讐心を秘めて揺らめいていた。]

後、偽善的な事を考えているなら、余計だと言っておくよ。
僕の望みは知っているんでしょう?
ここから、這い上がる気だから。精々、足元を掬われないようにね。
僕を懐柔なんかしても、「今は」得はないんだから。


……っ、ふ

[ひく。もう一つ、喉が震えて声が落ちる。
そのまま揺れそうになる体を抑えて、頷いた。
唇は、甘く掠れを帯びた声を作る]

『ありがとう、ござい、ます…ごしゅじん、さま』

[言われてもいないのに付け足す言葉。
それは何を意味していたのか解らないけれど、
ただ、少年の口からそのまま零れ落ちたものであることは確か]


 ……良く出来ました。

[手にしていた鎖を放し、ぱちぱちと拍手を送る。
乾いた音が私室に響いた。
彼が堕ちた瞬間を見た気がした]

 本当に嬉しそうだね、御前

[瞳を細めて間近に座る彼の頭に手を伸ばす。
犬にでもするようにその髪を撫ぜる]

 ご褒美をあげるよ。
 餌が用意出来るまで、楽しむといい。
 
[ソファに身を沈めたままの男は、一部始終を無言で見詰めていた双子に視線を流してトレイを顎で指す。心得た風の召使が差し出したのは尻尾に繋がる玩具のスイッチ。カチリとボタンが押された]


― 舞台袖・個室 ―

……?

[交わされる二人の言葉は、全く理解のできないものになっていて。
その内容はわからない。
主人が使用人に何かを告げて、何かを持って戻って来た時。

夢は――――覚める。]

ひ、っ……!

[瞬時に恐怖が顔に張り付いてたじろぐ。

――…りん、りりん。

異なる箇所で啼く、二つの鈴の音に青年は気付いただろうか。
相変わらず主人の紡ぐ言葉はわからない。
でも、男がしようとしている事は何となくわかった。
あの時、あの部屋でされた恐怖が、蘇る。]


― 回想・道化の部屋にて ―

イっ―――、ぁ  あ  アぁあ!!!

[扉を抜けて廊下の先まで届きそうな悲痛な叫び声。
それは、灰青の男が針を動かす度に奏でられる。]

…っはぁ、……は…――

  ―――っ、あぁ゛!!痛ッ!!

[しかしそれは針の時だけでは納まらず。
鈴のついたリングの継ぎ目を押し付けられれば、
更に痛みを訴える叫びが部屋に響き渡る。

その苦痛も、針を通された時と同じく。
後二回繰り返された。
違ったのは、男の手が動く度にちりりと鈴が啼いた事位か。]


――〜〜…う、っ…  ひぐ、っ…

[全てが終わって、男が消毒をし始めた頃。
恐怖と痛みとで泣きじゃくり、顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。
話しかけられる言葉も、何もかも頭に入らない。
わかるのは、消毒液が沁みる痛み。
男に抱く恐怖心と嫌悪感。]

……っ、…

[それでも、金目という単語が出れば微かに反応して。
はらはらと涙を零した。

ゆっくりと身を起こされればそれに従って。
乱れた着物を整える。

りん!とまた懐から鈴のついた首飾りが転がり落ちて。
灰青の男はそれを拾い上げると、今度は手渡さずに
そのまま鈴を私の首へとつけた。]


―――ちりん…。

[大事な鈴の首飾り。
初恋の相手から貰った思い出の品。

それも、買われた奴隷が身につければただの飼い猫の首輪。


その時啼いた鈴の音は、心なしか儚い音だったかもしれない。**]


― 回想・了 ―


良家の娘 グロリアとイアンの一挙手一投足を、刺すような視線で観察している。主人と奴隷の立場を越えた雰囲気を感じ取って。


― 現在・舞台袖・個室 ―

あ…あぁ、…!

[鈴の音がまた記憶を呼び出す手助けをして。
がたがたと身体が震え始める。

何て事をしてしまったんだろう。

冷えた頭の中で、自分の声がした。]

…、っ……!

[声をかけようと思ったけれど、主人の事を何と呼んでいいかわからなくて。
ただ、縋るような瞳で見詰める。

男は此方を見ただろうか。
尤も、気付いてもらえたところで事態が良い方向へ向かう事はないのだろうけど。**]


どうやってか、教えてしまったら阻止されるでしょう。
そこは智慧比べだよ。

[唇の前に、小悪魔めいて人差し指をたてて見せる。
生意気な奴隷だと詰り仕置きを受けてもいい。
少女は心も身体も正直なまま。
御する主人の力量を計ろうと、不敵な笑みを浮かべている。]

僕が負けたら、ずっと奴隷の地位に
甘んじて人生を過ごすだけだろうね。


僕も、ここに来る前は。
お金があって、チヤホヤされて当然だと思っていたよ。
グロリア様も、一度奴隷やってみれば、有り難味が分かるんじゃない?


メモを貼った。


[乾いた音。鎖の音。褒め言葉。
ちっとも、嬉しくなんかない。
ただ、頭を撫でられたから、きっと怒られてはいないのだろう。
痛くなければ、怒られなければ、今はそれでいい。
だから、頭を撫でる男の言葉に小さく頷いた]

……『ご褒美』?

[ぱち、と音がしそうなほどゆっくりとした場また気を繰り返す。
長い睫毛の作った影の濃淡は一瞬。
かち、という小さな音に、体が揺れた。
昨日の夜の痛さを思い出したから。けれど]

───っは、ぁ──ぁ、あ…っ

[声が零れる。中で動く玩具。
眉を潜めて、堪えるかのように自分自身を抱きしめた]


[溜息交じりに笑う。
一瞬身を強張らせた彼を見遣り、唇が歪んだ]

 電気ショックは無いよ。
 これはJadeがいい子だったご褒美なんだからね。
 御前は後ろを弄られるのが好きなんだろう?
 たっぷり楽しむといい。

 ……ただし、その尻尾が落ちたり
 服や床を汚すような事があったら……
 わかるよね。

[座り込んだままの彼に無茶な声をかける。
双子の召使は一礼の後部屋から出て行った。餌、と言う男の言葉に反応し、朝食を用意しに行ったのだ。
一通りの用件を終えると自身はソファに寝そべり、彼の痴態を間近で眺める事にした。
スイッチを切ったり入れたりを繰り返し、彼を絶頂に導く事はしない。行き過ぎた快楽が苦痛になるのは*何時か*]


メモを貼った。


じゃあ、僕が受けたのと同じ仕打ちを、舞台で受けてくるといいよ。

僕がここで、ちゃあんと見ていてあげるから。

[いっそ凄絶に凍りついた笑みを浮かべる。
巫山戯ている。悔しさで噛んだ唇からまた紅が滲んだ。
簡単に言われたくなかった。あそこを堪え抜いたことを。
それより辛いことを少女は未だ知らないし、この先知りたくもない。]

僕に大事なことを教えてくれたのは、パトリシアだ。
「ご主人様」からの有難い言葉は、僕には欺瞞に聞こえるね。

[主人の自覚があるのだろうかと、やや猜疑心で訝る様子に変わる。何が彼女をここまで変えてしまったのか。それは――利用できるものかも知れない、と算段しながら。]

僕がどんな想いだったかなんて、
簡単に知った風な口を利かないで。

[未だ温もりの失せない繋いでいた手が、ステッキを緊く緊く握り締めた。]


どうとでも、ゴシュジンサマの命じるままに。

[気怠い四肢でも一番サマになる男の会釈をして、相変わらず鋭い瞳でグロリアを射抜く。]

よっぽど気に入られたみたいだね、イアン。

よ か っ た ね 。

[唇にこびり付いた鉄錆を舌先で拭う。
少女は体躯には不似合いな妖婉な笑みを浮かべて、二人を眺めていた。]


…『で、も』……っ

[嬉しいかどうかも解らない。
確実なのは、きもちいい、それだけだ。
けれど、汚してはいけないという、男の言葉。
刻一刻と、快楽に蝕まれていく頭で、考える]

…っ

[少しだけ、体勢を変えた。
咥えこんだを素足の踵で押し込むように栓をして。
前も、出来るだけ汚さないようにと、翡翠の裾から
両の手を滑り込ませて、性器の根元を指できつく抑える。
自分で自分を追い詰める行為だと解っていても、
他に服も床も汚さない方法なんて思いつかない。
ただ、赦されているのは快楽に苛まれながら主の歪んだ娯楽の為に狂うことだけだった*]


メモを貼った。


そうだね、僕とイアンは奴隷で、アナタは主人。
分からせて欲しいな。

嗚呼、椅子の件でもそうだけど、
勿論奴隷は他の奴隷と差別しないんだよね?


メモを貼った。


そう、大層な金額を賭けて随分と損をしたね。
そうさせたのも、此処にいたせいだけど。

[或いはもう少し、買われるのが早ければ、とは言わない。言っても詮ないことだ。]

何なりと、どこへなりと。ゴシュジンサマのお好きなように?


メモを貼った。


僕も変わったけれど。

アナタも随分と変わってしまったよ。

[ねぇ、と同意を求めて首を傾げる目線はイアンへ。]


[主人の腕の中で、猫の捕らえた虫のようにいたぶられながら、
それでも意地を張って背筋を伸ばす少年姿の少女へと向ける視線は何処か蔑んだ哀れみ。

値を吊り上げて買われたことを聞いていた視点からでは、彼女が買われて来たことは、お情けを掛けてもらっただけなのだと判るから。

要らない子だけど、かわいそうだから。
貴婦人の様子は、そうとしか見えない。]


メモを貼った。


済まないね。
慈善家に振る尻尾は持ち合わせてなくて。

堕ちたのではなく、強くなったんだよ。
そうでないと、生き残れなかったから。

[グロリアがもう少女を必要としていないことは、何となく分かっていた。それに唯々諾々と従うよりは。]

どうされても、文句が言える立場でないのは分かっている。
さぁ、何なりとご命令を。

[グロリアの前に膝を折り跪く。今なら靴だって舐められる気がした。
ツィーにすら哀れまれる少女の命運を左右するのは、婦人の一言。]


メモを貼った。


[女は少女に見せつけるように、恭しく主人の手へとくちづける。
その手が女をまさぐり容赦無く痛めつけるたび、嬌声とも悲鳴ともつかぬ声が漏れた。

一見すれば、きちんと上等の服を着せられて、拘束を解かれたその少女は、舞台の上にいた時よりも破格の扱いに見えるだろう。
けれども、興味を失われて必要とされない所有物になんの価値があるのだろう。
僅か薄布一枚だけの姿で虐げられ続ける女の方が、奴隷としては価値がある。
命令を乞うその様子に、僅かに浮かぶは優越感か。]


メモを貼った。


まぁ。
[ことさら驚いて見せたのは、そういう侮辱を主人は好むから。]

奴隷がお嫁に行くなんて。
それとも婿に出されるのかしら?
相手は、翡翠のお姫様?

…あぁでも…、もう壊されてしまったかもしれませんね。
あのお客様は、彼にえらく御執心でしたもの。


奴隷の文句なんていちいち耳を傾ける必要もないでしょう?
結局は逆らえないのだから。

[棄てられるのは、また矜持に傷をつけるけれど。
不要と思われてまで置いておかれても、少女はいずれ牙を剥いただろう。
堕ちて墜ちて、それでも飼い殺されるほどに落ちぶれてはいない。
電話の先の名前を聞いて、跪いた少女は承諾の証にゆっくりと葡萄酒色の瞳を*閉じた。*]


貴族の矜持を失っていないからこそ――、
僕を羨ましいなんて高見から謂う人を赦せない。
期待に添えないほど擦れてしまって悪かったね。

[ちっとも悪いとは思っていない表情で、踵を返す。
今ならまだ、乞えばその下に置かれるのだろうか。
けれど、舞台であれだけ堪えられたはずの少女の矜持はそれを許さなかった。
生命を惜しむなら、他の選択肢もあったろうけれど。
結局、グロリアの望みも意図も知らぬまま、少女は会場を去る。]

やっぱり僕は……欠陥品なんだ。


[そうして、準備のために数日。
チェンバレンの名義でジェレミーの元へ花束が届けられた。
何十本もの薔薇と共に、生花を頭やジョーゼットのドレスに飾られた、カルヴィナという名の花が。]


メモを貼った。


メモを貼った。


― 舞台袖/個室 ―


『…代償、だと?』


[枷が外れて隙さえあれば、脱走は出来るはずだと
心のどこかでまだ思っている事を見透かされてるかのよう。
灰青の言葉―――、電話の代償に用意されて品々に目を疑う。]


…… シノ に?

[見れば彼女から鈴の音が響いていた。
見た目では解らないけれど、何か施されたのかと思案する。]

つくづく、卑怯な奴だ…。

[吐き捨てるような言葉と睨みつける金の瞳。
それでも、手術めいた事が個室で行われ始めれば

こくん

と、喉を鳴らした。]


[下に履いてものは脱がされて、棒を取り巻く茂みは
丁寧に除去されていけば感じた事のない涼しさが襲う。
立ったままでは暴れかねないと思われたか椅子に深く腰掛けた。]

っ…

[そしてメスの刃が薄い皮に筋を入れると赤い線が走る。]

づ…! 

[ぴりりと走る痛みに声が思わず毀れるが、緩く唇を噛み
必死で痛みと唯、戦う。
ごろりとした球体が入りこむのが解る。冷たい心地が
肉に直に伝わって ――― 同時に痛みが襲う。
しかもそれが麻酔なしで、3度繰り返されれば
伸ばされた皮は悲鳴をあげているかのようだった。]


う゛ぐ…ッ ―――は 、ァあ… い゛…ッ

[声にならずの呻きが3度目の真珠を埋め込む際には毀れる。
知らずのうちに金の瞳には薄ら涙も滲んだ。
糸により、縫合されていく感覚にも顔が歪む。
鋭い針の先端が皮に触れていくたびに痛みを与えていった。]



…はァ、…ハ… っく、…

[下半身を汚していた血液も拭われて消毒をされれば
腕が良いのか縫った僅かな傷しか残ってはいなかった。
それから、異物感を感じながら荒く息を吐いた。

最後の仕上げと言わんばかりに、包帯がわりにバンド状の
バイブレーターが宛がわれれば使用人は離れた。]






…… ッ、電話を。


[必死で声を振り絞り、代償を払ったのだからと
――― 自宅への電話を再度要求した。**]


メモを貼った。


―― 会場 客席 ――

[もの言いたげな椅子だった女と香を纏う男に、冷ややかな目線。]

何? 人が払い下げられたのが、そんなに楽しい?
そうだ、あなたは先に帰ったあの人と、親しいのだっけ。


……彼も、アナタの奴隷?

[単純に思いついた関係を口にしてみる。]

でも今、友達って言った。
…………?

[いまいち理解できない、と首を捻る。表情はどこまでも正直だ。
敢えて前半のくだりは黙殺した。]


メモを貼った。


奴隷以下の扱いなんてあるの?

[ツィーの横顔を見詰めながら、思案に暮れる。
少女の世界は、まだまだ狭い。]

僕はそんなに会いたいとは思わないけれど。
壊される……か。

[物思いに耽る表情で、舞台をへと視線を移す。
あれ以上に壊れることがあるだろうか、と。]


……そうなの?
僕を落札して、どうするつもりだった?

[主人から棄てられた身、興味が湧いてきて一歩香の濃度が高くなる彼の方へと近づく。クン、と自身の唇と同じ鉄錆独特の匂いを嗅ぎ付けて、不審が強まった。彼はどこか怪我をしているのだろうか。]

……心の準備程度に、なら。

[彼がテッドに舞台でした仕打ちは覚えている。何かに魅入られるように小さく頷くも、頭の片隅では警笛が鳴りっ放しだった。]


……一人で歩けるっ。

[ステッキをつきながら、気丈にブルネットの女が伸ばす手を遮った。
悪魔に魂を売り渡してしまったような錯覚が過ぎる。
滑り流れるような彼の歩幅を追って、未知への扉を潜った。
ぱさり、扉の前に落とされるのは、黒い羽飾りのついた帽子。]


メモを貼った。


メモを貼った。


[巣のように薄布が張り巡らされた男の牙城、香が鼻腔だけでなく喉まで燻す。]

遅かれ早かれ、だろう?
彼女が僕を「擦れた」と称した原因の一端は、
アナタも担っているのだし。

彼女が僕に興味を失っていたら、
もしかしたら、アナタに買われていたかも知れない。

[全てはifの話。けれど、恐いもの見たさもあるのだろう。
ツィーのような柔軟な価値観は有していないが、必要とされる感触は悪くはないもの。その先が底なし沼でも。
この部屋は色々な匂いがする、と。自分の足首からと同じ匂いには鈍く気付かぬまま、歩を進めた。
囚われる、紗に覆われた真綿のような檻の中に。]


皮肉なものだね。
奴隷に邪魔だからって、処女までくれてやったのに。

[男の前で、恭しくさえ見える手つきでツィーが着衣に手をかける。
脇腹や、浮いた肋骨のラインを撫でてゆくのはきっとわざと。
随分と舞台上では真っ裸のまま行動していたが、矢張り服は奪われた直後には羞恥を覚える。湯浴みのようなものだと、自身に言い聞かせるけれども。視線に弱い少女は、秘所を隠すように僅か内股でそこに佇む。
確認するような台詞には、一つ顎を引いて頷きを返した。]


……処女じゃなくても、恥ずかしいものは恥ずかしい。

[憮然と吐き捨てるも、たしかにじくりと膿んだような痛みを訴えているのは事実。小部屋で適切な処置は受けたのは、着衣の上からでしかなく。
柔らかな椅子に腰を落ち着ける。素肌が触れると少し擽ったい。
最初は頑に閉ざしていた膝を、それこそ処女のようにゆっくりと、男の前で開いていった。それでも角度はまだ直角に満たない。]

……! 樹液じゃない、だろうな。

[すっかり蟲がトラウマになっていた少女が一度、弾かれたように腰を浮かせた。]


[ひりひりと痛む入り口は、多分痛々しく腫れ上がっていたのだろう。確認したくもない。
冷たい液体が塗りこめられていく。ツィーの指先も手伝うなら、やがては少女自身の蜜も混ざり始めるだろう。痛みが冷却されたのは一瞬、やがては甘い疼きとなって気怠い下肢を覆っていく。]

……え、

[問い返す間さえなく、眼前にバンドのついたディルド。]

またこんな、……。

[甘いものでコーティングはしてもらえないかと、少し期待を込めた目線で見詰めるけれど、叶わずとも仕方なしに稚拙な舌を絡め始める。]


[ぷんと濃く香る血の匂い。破れた皮膚に滲む、鮮やかな赤。]

……ッ、

[男の愛撫の手つきを視界におさめながら、翻弄されるツィーに同調し、ぞわぞわと産毛が逆立つ感覚。教えられた動きで彼女の股間に生やされた男性器の模造品に唾液を塗す。
その間にも、少女の泉もまた潤い行き場のない熱を溜め込みつつあった。]


メモを貼った。


メモを貼った。


[青年が体勢をかえる。
踵で押し込む玩具は押し込まれる度、
振動と共に彼の敏感な箇所を幾度も抉っただろう。
その先についた柔かな毛皮は足裏を擽ってしまわないだろうか]

 いい格好。
 ……自分で扱くんじゃないよ。

[横になったまま、スイッチを戯れに止めて
彼の熱が引きかけるとまた振動を与える]

 我慢出来なくなったら、どうするか
 やり方はわかるよね。

[随分従順になったなと思いながら
行き場の無い快楽に終着点を示す。
男のスラックスの下、半身に変化は*未だ無い*]


メモを貼った。


[燃えるように熱くて、そして痛い。
それなのに感覚が麻痺しているかのようだった。
ぼわんと下半身だけ異常だと、訴えている。]


――…っは


[部屋の中で電話を掛けることを許されれば、備え付けの電話が外部へと繋がる。
痛みを堪えながら、ダイヤルをして――――]


[コールの数すら解らないくらい体は疲弊していた。
やがて、がチャリと音と共に聞こえた声の主は―――]



――……ソフィア…

[妹だった。

兄の声だと気付けば電話越しに女の声がやや漏れる。]

うん…、そう…。

親父は?


[主人に伴われて行く女からは、咲き乱れた蔓薔薇の絡みつく錆びた鉄柵の香りがする。
哀れみを持って差し出した手を遮られても、微笑ましげに目を細めるのみ。

落とされた帽子をふわりと拾い、薄布と香に煙る空気の中へ歩み入れば、
幽玄なその空間は、夢か現か幻か。時の流れすらも判然とせぬ。

女は静かに頷いて、少年の足元へ帽子を置き、
背後からそっと包み込むように腕を回して、ボタンへそっと手をかける。

仕立ての良い生地の微かに擦れる音。
左手の中指と薬指は歪に立てたまま、残りの指が衣を解く。
服の上からその肌を撫でて、一枚一枚剥ぎとる度に、
少年として繕った姿は、少女の身体を暴かれていく。
静かな部屋に漏れ聞こえる溜息は、いったいどなたのものだろう。]



[椅子に腰掛ける少女の前に傅いて、薬を塗りこむ指はあくまでも優しい。
無残に爛れた小さな花弁に、ぷっくりと膨れて腫れ上がった芽に、引き裂かれ引き伸ばされて緩んだ裡側に。念入りに塗られる冷たい薬は殺菌と収斂作用の強いもの。ムズ痒く窄まり締まるような刺激が、ジンジンと塗られた箇所を冒していく。
その間に少女の身体を緊縛していく男の手際。共同作業は息のあったものと思えるだろう。]

…あ……ぁぁ……
[腰に模造品の男根をつけたまま、背後から男に抱かれて豊かな胸を揺らすように玩ばれ、
首の後ろを辿る舌に、うっとりとした声を漏らす。
白磁のような白い肌に赤い筋が刻まれるたび、女の太い眉は痛みに震え、恍惚に染まっていった。
椅子に緊縛された少女に、熱帯びることも萎えることも無い紛い物を奉仕させながら、肌に刻まれた赤い痛みを嬲られる。
香る薔薇は、焚き染めた香と薬液の匂いに溶けて…]


[耳元に囁かれる甘い甘い声に、ふるりと小さく震えて素直に頷く。]

……! …うぅ…ッ、…ん…、…やぁ……ン……。
[ぶつりと皮膚を裂き、肉へと食い込む犬歯は、ただひたすらに熱い。
散り落ちる花弁のような赤。
拍動と共に滲むそれは、白い肌を伝って床の絹を濡らす。

頬へと飾られた朱は、なにより女を艶めかしく彩る色。
男の胸に背を預け、傷口へと施される愛撫に身を震わせて喘ぐ。
裂かれた皮膚の間へと捩じ込まれる舌。ゆっくりと食いちぎられる皮膚。
その様はどこか破瓜を思わせ、痛みとともに訪れる施された行為への満ち足りた思い。]


…かしこまり、ました。
裂いてしまっても、構いませんか?
[女の腰に生えた玩具は、萎えることも達することも出来ぬ責め苦の道具。
感じることが無いがゆえに、狭さに締め付けられてに勢いを削がれることも無い。
それを少女の広げられた足の間へとあてがう。
少女がおそらく内心で期待していた位置とは違う場所。それに気付けば、どんな顔をするだろう。
塗込められた唾液と、はしたなく少女が零した愛液だけが潤滑。
促されるままに、無理にこじ開けるように力をかけた。

少女の小さな窄まりには、解きほぐすような愛撫は施されていない。
もしも彼女ではなくて、今もまだ舞台の上で震えている売れ残りであれば、
内部を清められ入り口をしっかり解されていたのだから、倒錯した快楽に溺れ悦むこともできたろう。
もしくは、幾度も使われ慣らされてすっかり緩んだ女陰であれば、悦んでそれを飲み込むまでに成っていたかもしれないけれど。

そのどちらでもないその場所は…]


メモを貼った。


親父、…俺



……あぁ。


[静かな会話。
間を置いて、ぽつぽつて]


解った。
それ下ろしとくんだぞ。


―― ぁあっ

[疼きに堪えられず自身の手を伸ばそうか迷っていた矢先に、足指の刺激。
思わず舌を出しながら喉を仰け反らせる、否定したくとも犬の反応。]

好きな……わけ、じゃっ……
クスリで……

[必死に言訳を探す。全ては矜持を保つため。
身を捩るとギシギシと椅子が鳴る。そういえば最初も椅子に縛られていたな、と思い出しつつもその姿勢の違いに、カッと頬に血が上った。その頬は、ツィーの暖かな血で朱を刷かれる。]

は、まるで吸血鬼だな……。

[失血死するほどではないだろう、けれどツィーの顔色が青褪めたものでないかが気になる。涙のように頬を伝い、顎先へ、首筋へと流れ浴びる紅。唇の端をぺろりと舐めると、鉄錆に混ざって薔薇の香がした。不可思議な薬のように、血の匂いにこそ、酔わされていく。]


も、……ぅやっ なに……!?

[裂く、という不穏な言葉が耳に残った。未だ解れつつある段階でしかない、繁茂の奥の夜露と混ざって、張り型に少女が溢した唾液が、尻の間の窪みで混ざる。
ぞわり、今度こそ全身の毛という毛が逆立った。排泄の機能しか知らないそこに、異物が押し込められるのを舞台では見ていたけれど、]

や――そんな、入るわけ――!!

[逃げようと暴れても、どっしりとした椅子が倒れるようなことはない。全身の筋肉を突っ張らせて――それも挿入に抗うだけの逆効果になるのだが――全身全霊で拒絶した。容赦なく押し込まれていく、血色を失った貌には苦痛と絶望しか表れない。処女膜とは違い、柔らかな肉の繊維がぶちぶちと引き千切られていく、狂いそうな痛み。食い縛った歯の奥から、怯えきった悲鳴しか出てこない。]

や、やだっ、や――抜いて、 無理、 むり――ッ

[張り型には処女のそれのように、菊座の裂けた血が纏わりつく。]


メモを貼った。


[紛い物の男根は感じることなど無いけれど、狭く小さな穴の必死の抵抗が、ぶちぶちと裂けるたびに身体へと伝わる。
苦痛と絶望に染まり、悲鳴はまさに引き裂かれるがごとく。

後ろからぐいと押されて促されるまま、更に奥へと捻じ込む楔。
裂けた傷口から流れ出した血が、新たな潤滑となって張型を誘射込むのは、少女に取って幸か不幸か。]


メモを貼った。


ふた、ご……?

[不可思議な意匠の部屋と異国の香、吸血鬼のような男が、一時は聖職者の姿だった女を貪るように食んで啜っている。倒錯的な絵に、これからを思い出させる言葉。頭がガンガンした。]

――ン ―― いた、 ったい、 裂ける裂けちゃ ッッ

[快楽など一瞬で吹き飛んでいた。全身からどっと冷や汗が溢れる。
背後に埋まる異物に押し出されるように、生理的な反応として夜露は分泌されるが、割れ目を伝って排泄孔まで到達しても、決して痛みを和らげる結果にはならなかった。
少女は過呼吸を起こしそうになりながら、痛い痛いと涙ながらに訴える。
男の細い指先が弄る刺激も、痛覚に消されて届かない。
びくんと陸にあげられた魚のように、跳ね回る体。けれど命令とあらば、ツィーが思い留まることもないのだろう、じわりじわりと広げられていく菊座に、異物が埋まってゆく。]


…えぇ……、かしこまり…まし……ぁッ。
[指示への返事は、こぼれた嬌声に消える。
深く食い込む歯。与えられる痛みに、女の芯は甘く熱い疼きを抱いていた。

少女の華奢な胸へと手のひらをあて、薄い膨らみの上で色付く突起を親指で転がしながら、残りの指で擽る腋。
椅子へと滴る二度目の破瓜の血を潤滑に、ねっとりと長いストロークで嬲る引き裂いた排泄孔。
男の手が少女の腫れ上がった花弁から離れると、その動きを真似るように同じようにたおやかな指を這わせた。]

…はぁ、……はぁ……。
[緩やかな抽送と共に、大きな胸は揺れ、荒い呼吸が漏れる。
腰に押し付けられる男のモノの反応に、慣らされた不浄の孔も、未開通の生殖器も、ふるりと怯えと期待に濡れた。]


メモを貼った。


……ッ ぃ ――ん゛ ――

[反論の言葉も出てこない。息が詰まる。目眩いがする。
自分の姿がどれほど淫らなものかも頭に上らない。ただただ、痛みがある。
けれど、滑りをよくする血と蜜に混ざって、薄まってはいたが薬も傷口に塗り込められれば、そこからじんじんと熱い疼きが這い上がってきて、混乱する。
痛みと快楽が、交互に寄せては引いていく。身体はいつしか痛みをやり過ごすために、官能だけを追いかけるようになっていた。]

ぅん…… い゛た――ぃのに ぃ

[磨耗し痲痺した痛覚を越えた先に、悦楽を覚える。心より先に身体だけが、勝手に痛みを摩り替えようと、腰を動かし始めた。]


[溝を弄る手が男から女のそれに代わったのにも気付かぬほど。緊張に凝る胸の先端に、膨れた花芽に、柔く与えられる刺激で、身体は痛みを塗り替える。
視界の端で踊る白い双丘、瀝る血潮。]

――んん、

[強張っていた四肢が、全てを受け入れた方が楽だと気付くまでに幾許の葛藤。]


…はい。

[従順な女は短く答え、奥まで飲み込ませた凶器をぐいと引く。
押されるときより引くときの方がよりいっそう悦いことは、自分の体が知っていた。

繋がった箇所を遮りたいのか届かないところへ伸ばそうとする少女の両手を、こっちですよと教えるように薄い胸へと当てさせた。
肉の擦れる音は次第にぬちゃりと湿っていき、腰を振り誘うような少女の様に、動きを次第に早めていく。

幾度も受け入れて快楽を知り、物欲しそうに涎を垂らす少女の女陰に手のひらを当て、入り口を揉みほぐすようにするけれども中へは触れることはなく。
リズミカルな抽送にあわせて指の間で突起をこすっていくのは、何処が感じるのかを惑わせて、後ろの刺激で気持ちよくなっていると錯覚させるため。

幾度も押し込まれては抜かれる薄い内壁越しの刺激は、少女の胎にも伝わるか。]


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メモを貼った。


メモを貼った。


あっ……あぁ ……、

[ゆっくりと抜かれていく際に、排便にも似た一種の恍惚が訪れる。知らず声は無残な悲鳴でなく、甘やかな艶を帯びて。痛いのと悦いのが繰返される、それは淫夢のよう。混濁した意識で、導かれるままに自らの少年のような乳房を、引っ掻くように弄り始める。
そして、ツィーの思惑通りに、直腸付近で感じる刺激を、身体は官能だと思い込もうとしていた。決して膣には届かないのに、奥へと誘うように腰がひくつく。けれどその度に、めりめりと肉を押し広げられる苦痛も伴って。少女のキャパシティは容易く凌駕された。]

や、も――わか、 らな……

[頭を、上半身を振りたくって身悶える。短い髪はぐしゃぐしゃに乱れ、浅ましさと陶酔を孕む貌に汗で張り付く。]


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……。

[こちらの口数は少なく、電話越しに低い男の声が続く。]


……っ、…気にするな。

[それから、淡々と返答する男の金の眼が一寸開いて]



……そうか。
 解った、それが いい。


切るよ。親父。

       ――― …じゃあな。


[静かに痛みを堪えながら そう最後に言って電話を受話器の上に置いた。
―――チン、と高い音が鳴ったけれど その音がどこか遠い。

まだじんじんと痛む下半身の傷口からぷくりと血の玉が浮かんでいたがバイブが巻かれているのでそれを確認する事も出来ないまま、脱がされた服を傷口を広げないように着させられた。]


んっやぁ……、


どこっに、 ……なに……?

[少女の語彙に、性器を指す単語はあまりに少なかった。
苦痛を伴う抽送に、気が変になってしまいそう。
時折乱される前後運動が、予期せぬ箇所を刳っていく。]

はぁ……ぁっ、 ここ、に……、

[できるのは、胸から臍に、下腹にと滑らせた自らの指先を、茂みの奥に埋めようとすることだけ。とぷり、また押し出された露が椅子に染み込んでいった。]


な、でもいいか、ら……
挿れて ほし、 ――っ

[ぶるぶると華奢な全身を震わせて、裡は男の細い指をぎゅうと締め付ける。裡が熱くて蕩けてしまいそうで、今は逐一伝わってくる指の動き、それを逃すまいとするように。]

……しろ、は、 ゃっ ……やだ、 抜いて

[指示語ではあるが、はしたない要求を、強気な言葉しか発しなかった唇が勝手に紡ぐ。淫蕩な悦びに平伏した身体は、少女の意思で自由にはならなかった。
縋るものが欲しくてのばした手は、男の髪すら掴めずに宙を泳ぐ。]


[その後、電話の内容を問われればある程度応えはする。

歩き始めて、彼の背後に居るシノへと向ける顔に笑みは浮かべない。特別な感情を消すかのように、痛みに耐えるように
―――唯、静かにルーカスが客間に戻るのに付いて行く。]


…………ッ!

[その威容には、さすがに目を見張った。人工の採掘機にも似た細長いドリル。最早人間の器官の一部とも思えぬ凶器が天に向かって聳える様に、少女の瞳は釘付けになる。]


なに……ソレ、 ……ひっ、

[この舞台で見慣れたかに思っていたけれど、ちっともそうではなかったもの。きっと突き刺されるのはツィーだろう、そう虚しい期待をしてみる。
相変わらず、ぎりぎりの苦痛と快楽が鬩ぎ合って少女を嘖むけれど、それより。
畏怖と恐怖を通り越して、贄のような怯えが、はっきりと少女の瞳に揺れていた。]


や、やだっ……、

[ぶんぶんと怯えきった顔を凄い勢いで横に振る。
正に蜘蛛の巣にかかった蝶の心境を今味わっていた。]

――――あ゛っ ――

[視界が真っ赤に染まった、気がした。
大きく一突き、排泄以外の役目を知らない秘孔が貫かれる。
押し上げられた内臓が、口から出てしまうのではないかと錯覚するほど。
その実、少女の大理石のようだった乳白色の肌を覆っているのは、男の墨色の髪と女のうねるブルネットで、耳元で弾ける女の嬌声とともに、火照った肌を愛撫していく。]

んぁー あぁっ、ぁっ、やぁ――ッ


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[主人が傷を嬲るたび、少女の尻を凶器がえぐる。
奇しくも少女の嫁ぐ先では、翡翠の姫が飼い主に同じ箇所を抉じ開けられているところか。

主人の取り出す絢爛な細工物は、今までに見たどんなものより鋭くて、思わずその異様さにしばし目を奪われた。
いよいよ直々にその槍が振るわれるだろうと、身を引こうとした腰はその手に捕らえられ…]


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あああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!
[未だ誰も触れた事のないその部分は、鋭い宝石飾りの槍で、一気に奥底まで貫かれた。
大きく弓なりに体を反らせ、突き上げられた腰は深く少女の奥を突く。
僅かに遅れて重なる悲鳴の奏でる和音。

熱い箇所を無数に切り裂かれ、薔薇色に染まった蜜が内腿から床へと滴る。
激しい痛みと充足感。
体の底まで主人のものになった女は、少女の華奢な体をすがりつくように抱きしめて、
激しく揺さぶられながら、掠れた嬌声をあげ続ける。
幾度もその内側は、きゅうきゅうと男の槍を締め付けながら切り裂かれて。


[少女ごと椅子に押し付けられるように、男はぐいとひときわ強く貫く。
子宮口に刺さるほど深く打ち込まれたモノが、ドクンと大きく脈打って、
灼熱をぶち込まれたと感じたのは、繋がった裡側と食いちぎられた肩の傷。]

はぅ……ぁ!!!!!!!
[その痛みにか絶頂にか、はげしく硬直し痙攣する身体。
息も詰まったまま真っ白に飛ぶ視界。

熱情を中へ受け止められたことと、消えることの無い証を刻まれた歓びに、打ち震えたまま意識を手放した。]


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[何処をどう歩いて連れてこられたのかすら覚えていない。
気がつけば舞台の下で主人の膝へと寄り添い、やさしい手に撫でられていた。
肩に焼き付けられた痕と、裂かれた裡側が酷く痛んだけれど、
胎内をまだ満たしたままの男の精に、心の中も満たされていた。

うっとりと目を閉じ、躾のいい犬が甘えるようにその膝に頬を寄せている。]


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― →客席 ―

[足取りは痛みのせいもあってのろりとしたもの。
ルーカスが歩く数歩後ろを静かについて歩く。
シノが来ているなら、鈴の音でそれを知る。]


――――… 相変わらず、…

[悪趣味だ。
舞台上で、両手足を広げてられた女達の末路。
金の瞳を半眼にして 静かに 陰鬱な男を睨んだ。]


[穿たれる衝撃は椅子の背に吸収される。
ガクンガクンと引っくり返りそうになりながら、ぎりぎりの均衡を保って三人分の体重に椅子の脚が浮いた。]

は、……っ、っ、

[少女はもう揺さぶられるままに、一刻も早く尻孔から異物が取り除かれることだけを願う。手は弱々く、ブルネットの合間から女の肩を押し返そうとするけれど、

その脇を掠めていく灼熱。

ゆら、と空気に陽炎がたった気がした。そして。
肉を焼く異臭が香を打ち消す。じゅくじゅくとケロイド状の皮膚が、眼前に入って、我が事のように叫んでいた。]

い゛っ――――やああああぁあぁ!

[火傷の苦痛に、ツィーが身体を強張らせた、その肩越しに見た男の笑みは、道化のそれと重なって感じられた。少女は到れぬまま、女の身体が重く圧し掛かってくる。
幻想的だった部屋は、一瞬にして地獄絵図の悪夢と化していたのだった。]



―――…っ、 理解し難い …ご趣味だと 思ってな。

[瞼を落として半眼のまま、言い放つけれど
痛みがまだ癒えるわけもなく 言葉はたどたどしい。]


[立つこともままならぬ少女は、後方の孔に模型を突っ込まれたまま、椅子に拘束されていた。
愚かな好奇心の代償、摘まれた二度目の喪失の証に、漆黒の羽根付帽子だけが、置き忘れたように客席に戻ることになる。]


─ 回想 舞台 ─

[肌を震わせたグロリア>>*14のうなじに軽く鼻先を埋めて、イアンは小さく息を漏らした。
 椅子に座るグロリアは主人。後ろに立つ買われたイアンの手は、グロリアのたおやかな手に恋人同士重ねられたまま。カルヴィナの返答には、]

女だから買われたんだろうに。

[詳細を説明する気の無い呟き。カルヴィナの葡萄色の瞳は客席ではイアンの濃茶色と同じく、黒に塗りつぶされたように見える。
 グロリアとカルヴィナ、立場のまったく異なる貴族の女同士の会話が始まる。イアンは口を挟まず、カルヴィナを観察する。傷、痛み、快楽、屈辱、嫌悪、復讐心──今は恐怖は見えない。カルヴィナを会話した時の事を思い出すに、世間知らず故の無知と、想像力の欠如が、完全なる恐怖から少女を遠ざけているように見えなくも無い。]


─ 回想 舞台 ─

[「心持だけは、どんな地位にしても誰にも壊されない>>*16」と言うグロリアの言葉に、イアンは声を立てずに笑った。その言葉を口にしたグロリアをでは無い──イアン自身の辿り着いた現実と。
 自分はまだ矜持を保てているのだと信じているらしきカルヴィナを。
 心を壊して生きのびる事と、誰にも壊されない死人になる事と。
 嗚呼、とイアンは呟く。

「よっぽど気に入られたみたいだね、イアン。
 よ か っ た ね 。
 カルヴィナを見下ろして、イアンは今度ははっきりと声を立てて笑った。]


カルヴィナ、お嬢ちゃん。
きみには理解出来ない事を言おう。
俺は、きみと違って、グロリアの奴隷で構わないんだ。
運良く気に入られて卑屈に安堵してる?
別にそう思われても問題無い。


俺も変わってしまったんだよ。


メモを貼った。


― 舞台袖・個室 ―

[それから。
金目の青年に施される細工を、震えながら見守った。
目を背けようとすれば主人から声が飛んだか。
何度か意識が遠のきそうになったけれど、それも青年の悲鳴で引き戻された。

施術が終わり、青年が電話を手に取る。
自分が電話をするということ。
そんな思考は全くといっていい程頭に無かった。
異国に着き次第、連絡を入れると言っていたのに。

ちらちらと、電話をする青年を見遣る。
主人がその様子に気付いたなら、おずおずと要望を伝えて。
私が電話をかけることができたかどうかは、さておき。]


― →客席 ―

…、りん。

[今は無言で主人と青年の後ろについて、客席へと向かって歩いていた。
ゆったりとした歩みに倣って、鈴がちりんと啼く。

青年と再会してから。
彼が此方に向ける表情に感情は無くて。
それは私の罪悪感を酷く煽った。

私が、頼みさえ。
願いさえしなければ。]

……、っ…。

[心が軋んで、小さく息を吐く。

何が最善で何が最悪か。
もう、よくわからなくなってきていた。]


メモを貼った。


― 客席 ―

―――… 。

[っ、と 小さく息を呑む音。
鈴の音が 奥に響く。

視線は陰鬱な男へと向いたまま
背後で確かに感じる 彼女の存在。

どんな形であれ 傍に居れる事は

良いのか
悪いのか


――― 今の、自分には 解らない。

      父親の言葉が  頭からまだ抜けてなくて。]


メモを貼った。


[悦楽と苦渋の中で遠のく意識で思う。
奴隷を羨ましいと宣うおんなと、その奴隷になったおとこのこと。]

…………っは、

[死から逃れるために、魂を売り渡すくらいなら。延々続く責め苦の中で死んだ方がマシだと。散々嬲られた少女は未だ消えぬ思いを抱きながら、そのどうしても守りたかったものと相反する結論を下す。]

誇りを捨てた僕が、再興する家に何の価値があると謂うんだ。
――いい。僕はシルバーバーグ子爵にして、最後のウィングフィールド当主。

当主の誇りとともに、 僕 は 逝 こ う 。


[暫し、思考をしてから

―――つい、と視線をやや背後の鈴の鳴る方へ。
金の瞳は相変わらず、感情を込めないようにして]


シノ。

[短く名を呼び、それから ゆっくりと
 彼女に聞き取りやすいように発音する。]



  ――… テ ッ ド だ。


メモを貼った。


僕は変われない……変わりたいと思えない。




けれど、誇りが死んだらその時は。
残ったこの屍骸は初めて、ただのカルヴィナという名の少女として、

……………………。



奴隷のままじゃ、何も望めない、な。


メモを貼った。


メモを貼った。


メモを貼った。


─ 回想 舞台 ─

[グロリアにも声を掛けたヴェイスパタインと言う客。声から男性である事が分かる──の腕の中に居る、忠実で従順な犬のような、あるいは家具のようなツィーと言う奴隷。最初、舞台の上でおそれ嫌悪した彼女と、近い所へ来たのかもしれない、とイアンは想った。
 悪魔に誘われるように、彼等の部屋へ行ったカルヴィナの華奢な少年のような背。それよりも、扇子の下に僅かに見えたグロリアの自己嫌悪の表情に、すぐ側の後ろから見ていた所為でイアンは気付く。身体の内側からじわりと燃え広がる炎のようなものが有る。
 見上げた彼女に無言で顔を寄せ、それから肩を抱きしめた。]

嫉妬深く愚かな男奴隷が望むから
仕方なくあの子を手放した
って考えるのはだめかな?

[後ろから扇子を持った手に手を重ねる。扇のちいさな影に隠すようして、グロリアの襟元を探り、落とすくちづけは白い肌につけた紅い花の上。]


メモを貼った。


…、……!

[ぼんやりと青年の後姿を眺めていると、金の瞳が此方を振り返って。
急に向けられたその感情を宿さない瞳にぎくりとする。

咄嗟に視線を逸らしそうになったが、名を呼ばれて、漆黒は金の瞳を見上げた。]



―――…テッ ド?

[ゆっくりと伝えられた言葉を復唱する。
あまりに唐突で、漆黒は不思議そうに瞬いた。]


メモを貼った。


メモを貼った。


メモを貼った。


メモを貼った。


メモを貼った。



…… そうだ。


[漆黒が瞬くところまで見て
そしてすぐに背を向けるように視線を外していく。

顔を向けずの侭、背中側に向けて ぽつりと]


俺の、…名前だ。


メモを貼った。


[買って欲しいと懇願する女の声が響く。

――― 取り残された者の末路が死ならば…]

…っ

[何も出来ずの 自分が不甲斐なく思う。
表情は険しい。]



『貴方の なまえ…。
 なぜ 急に…?』


[名前を教えてくれた事は、素直に嬉しかった。
もっと言えば、話しかけてくれた事すら嬉しかった。
心のどこかで、もう話しかけて貰えないような気がしていたから。

だから、視線が外され、向けられた背中にはまた壁が出来た気がして。
少しばかり不安は募る。
急に名を教えてくれた事。

何か、意味があるのだろうか。]


[陰鬱な男の笑い声に、ぎり、と奥歯を噛んで
両手を力いっぱい握りしめた。]



…ッ、痛

[びり、と力めば身体に残る痛みに響いた。]



……

[呟かれた異国の言葉は解らない。
ただ、解らないけれど予想はついた。]


――― … 、…

[唯、この場で理由を言う素振りは見せずのまま
背だけを彼女に向け続ける。]


メモを貼った。


メモを貼った。


[舞台上の少女の悲痛な願いは客席に、私の耳にも届いて。
じくりと胸は痛む。

客席の男と主人が入札する様子も無く。
恐らくこのままでは、あの子は―――。

自然と眉が下がる。

無情にも時は過ぎ。
道化師のアナウンスが響き渡った。
落札されたNo.は…5。]


メモを貼った。


メモを貼った。


―――…。

[問いかけても、返らない答え。
その理由を知る由は無い。

ただ、向けられ続ける背中に漆黒は徐々に翳って。

俯き、りん――…と鈴が啼いた時。]



『ごめん、 な さ、…。』

[唇から零れ落ちるように紡がれたのは。
彼の背だけに向けられた、謝罪の言葉。

小さく、震えたその声は彼の耳に届いたか。]


[痛い。
―― 痛い。

―――― いたい。]


……


[だから 尚、痛みを与えてはいけないのだと
振り返らない。

振りかえれない。


耳に小さく届くのは鈴の音と、 謝罪の言葉。]

ッ…

[唇を 静かに引いて   堪える。]


─ オークション後 用意される花束の話

[ジェレミーの元へ送られる花束。何十本もの薔薇で埋められた柩のようなもの。装飾的な箱の中に、かぐわしい薔薇とジョーゼットのドレスで飾られたカルヴィナが横たえられている。]

清らかなまま死んだ乙女か、
女装の少年のようにみたいだね。
後、スカートをめくらなければさ。

[梱包は奴隷品評会の主催者ヨアヒムに完全に委任する事も出来た。グロリアは最初そのつもりだったかもしれない。けれども、今、イアンが梱包の最後を仕上げようとしている。]

ねえ、カルヴィナ。
手枷と足枷は、会場に運ばれた時も付いてたっけ。
意識があるまま、箱詰めされて運ばれるのは怖いかな。


メモを貼った。


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