人狼議事


207 Werewolves of PIRATE SHIP-2-

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(ちっ、かすり傷、かよ……)

[喉を貫かれ、息が止まる。
激しい痛みの中、己のサーベルが当たった箇所が見えて、湧き上がったのは悔しさ。

男の中の眠ったままの獣は、結局目覚めることなく。
薄れゆく意識の中、道化の言葉を聞いていた。]

―――。

[悲痛にギリアンの身を案じていた道化。
船長にも事情はあったのだろう。だが、それでも。
それがわかっていても尚、引き下がれなかった。]


(当たり前だ、キティまで殺したら末代まで呪うわ)

[噛み付いてやれないのが残念だが。

大事な猫と、それから、長年の付き合いの副船長の顔が頭をよぎって。最後の生の意識も、消える。*]


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― 牢前 ―

……ひ、あ。

[喉からどくどくと血を流し、絶命するホレーショーを見つめて。
グレッグは声にならない声を上げ、ずるずると床に膝をついた]

兄貴、兄貴……。

[もうホレーショーは助からない。
医者でもないグレッグにも。はっきりそれだけは分かって。
ぽろぽろと涙を溢して、崩れ落ちる。

――絶望、だった。

普段は優しささえ感じていたあの道化師の背中に。
どす黒い絶望の影を感じ取って。
慕っていた者の死に。グレッグは只、慟哭をした*]


―――うるせえ。

何泣いてやがる。

[……そして。
存外時間もかからず。

グレッグの頭の上から、声がしたのだった。
もう少し寝ていようとしていたのに、泣き声がうるさいから、起きた。]


……ふぇっ!?

[突如、頭上から響く聞き慣れた声に。
思わず泣きやみ、頭上を見上げて]

あ、兄貴ぃ……!

[できればしたくなかった再会に、ふにゃりと顔が歪んで。
でも、兄貴だ。本物の兄貴だ。
ぶわり、と。大粒の涙が溢れた。
先ほど以上に、グレッグはわんわんと泣いた。大の男が。
もうどうせ死んでいるんだ。恥も外聞もなかった]

なんで死んじゃうんスかぁ……っ。
兄貴のばかぁ……っ。

[仇打ちなんて、どうでもいいのだ。
自分は、ただ。兄貴さえ無事でいてくれたら良かったのだ、と]


…………。

[声をかけたら、余計に泣き始めた。
男の体も当然、透けていて。]

うるせえ。

[グレッグの頭にげんこつごん。]

大体なんでお前は、俺に相談もしねえで。

[もう一回ごん]

挙句、目の前で殺されやがって……

[こめかみぐりぐり]


何で死んだって、お前……
…………

[ぐりぐりしていた手を止めて、言葉に詰まる。
本人を前に、仇討ちに行った、そして返り討ちにあったと説明するのも何となく気恥ずかしいような、腹立たしいような。]

……むかついたから、ケンカ売りにいっただけだ。
俺の気が済まなかった、そんだけだ。

[腕を組んで、そんな言い訳をした。]


[頭の上にげんこつひとつ貰って]

いたっ。

[抵抗する暇なく、もう一発]

ちょ、兄貴。いたいっ。

[こめかみをぐりぐりされて]

いだだだだだだだ。
兄貴、ぎぶあっぷ!ぎぶあっぷ!

[別の意味でグレッグは涙目になって]

はいぃ、申し訳なかったッス。
兄貴に相談もせず独断して、勝手に死んでしまいましたぁ……。

[自分の生前の行いを詫びた]


[ぐりぐりしていた手が、ぴたりとやんで。
グレッグはきょとん、と]

な。むかついたからって……。

[短絡的な言い訳をするホレーショーに。
グレッグは苦笑いを浮かべる。
死後ずっとホレーショーのことを見守ってきたのだ。
彼がただ“むかついたから”船長にケンカを売ったのではない事は、グレッグが1番良く知っている]

……ま。じゃあ、兄貴が言うなら。
そういうことにしておくッス。

[きしし、と生前のように笑ってみせた*]


ほんっと、お前ってバカ。

[もう一回、額を小突いて。
それから、頭へと手を置いた。]

……そういうことだ。だから、気にするな。

[グレッグの頭を撫でる手つきは優しい。
穏やかに笑んでいた。

……ずーーーーーっと、一連の行いを見られていたと知れば、こうも笑ってはいられなくなるだろうが。]


─ 船首楼 ─

  ……───  ォーーーン  ……

 ………?


[ゆるやかに昇る月に吼える。

 ふと。
 船の中に、新たな獣の気配を感じた。
 
 道化でもない、船医でもない。
 ただ、同族にしてはあまりに淡い。]


[何者か確かめようと、獣は、船の中へ戻ってゆく。]


[それにしても。

ヘクターが語っていたように、死者の声が聴こえるということは、死者がいる……らしい、ということだったが、実際にこうなるとは。自分の死体も転がっているし、何だか奇妙だ。]

あー……ヘクター……ヘクター、船長?
すまんな。約束、全然守れんで。

[十数年ぶりに、かつて使っていた呼び名を使ってみる。
果たして、気まずさと申し訳なさの混じった声は届くのだろうか。**]


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─ 船底 ─

[生前と同じく、いや完全な無音で、四足のままで船底まで降りてゆけば、牢の前から声が聞こえた。

 獣の匂いもここからだ。
 身を隠したまま、その姿を探り]

。o0(ホレーショー?)

[気配の出処を知ると、怪訝そうに耳が揺れた。]


……むぅぅ。

[確かに、自分に学はない。
しかも、独断して招いた結果は、最悪のものだ。
バカの言葉に反論できないでいると。
ふわり、と頭を撫でられて]

……っ。

[頭を直接撫でられるのは。“あれ”を除けば初めてのことだった。
生前だったら「ガキ扱いしないでほしいッス」とでも言っただろうか。
でも、そんな意地はもう張る必要がなく。
無理して背伸びする必要は、もうない。
すこし照れ臭そうに。それを受け入れるのだった*]


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……ん?

[ぴこりと動く、獣っぽい尻尾が見えたような気がした。

はて、見間違いだったか、とそちらを凝視している。**]


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 あ。

[ホレーショーが、こちらを凝視している。
 そういえば今は尾があったのだった。
 いかん、絶命してからというもの、少し気が抜けている。

 尤も、そう隠れているつもりもなかったので、のそりと、獣姿のままで、ホレーショーとグレッグの前に出ていった。]

 …………。

[グレッグをちらりと見て。
 それから、紅い瞳でじっとホレーショーを見る。]

 ホレーショー、おまえ。
 違うのか。

[言葉足らずに問いかける。
 人語話す獣の声が、毛色が、ヴェラーヴァルと同じことには、気付くだろうか。]


……ひ。

[突如現れた獣の姿に、グレッグは思わず後ずさる。
紅い瞳が、こちらを見つめた。緊張に、唾をごくりと飲み込む。
いつもの癖で、懐の投げナイフに手を伸ばそうとして。――ああ、もうないんだったっけか]

その声。まさか。

[ヴェラ、か。
先程のやりとりを思い出し、眉間に皺を寄せた]

……兄貴に何の用だ、化け物。

[普段の陽気な彼とは程遠い、冷たい声が出た。
ニコを殺した獣への怒りは、まだ静かに燃えていて**]


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グレッグが後ずさるのにも、ナイフを抜こうとするのにも、まったく動じることはない。
 この辺りも、ヒトの時とまったく同じか。]

 用?

 いや、違うのなら用はない。

[何となく獣の気配がしたから来てみたが、勘違いだったようだ。
 獣でなにのならば別に用はない。

 ……などと、懇切丁寧に説明するはずもなかった。
 生前同様、必要最低限以下の言葉ばかり。

 冷たい声で「化け物」と言われたところで、否定するつもりもない。
 世間的にいえば”化け物”だという自覚もある。

 静かに怒りを燃やしているらしいグレッグとは対照的に、茫洋としたまま、ゆっくりと尾だけが揺れている**]


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お、おう?

[のそりと出てきたでかい獣に、多少声が上擦った。
その獣が、聞き覚えのある声で喋り始める。]

お前……ヴェラ、か?
違うって、何、が……、?

[狼と化した死体も見ていたから、獣の正体はすぐにわかったが、問いかけは言葉足らずすぎてわからない。

しかし、「体」という、魂を覆い守っていた物が消えて、ダイレクトに獣の気配を感じた為か、眠りの獣も少々ざわめき。違和感を覚えて片目を押さえた。戸惑う男の深い海のような瞳は、僅かな時間、紅に染まる。]


[男の父方の先祖にいた人狼。

静かに暮らすことを望み、仲間と会うことによって起きる惨劇を回避しようとして、少しでも狼の少ない海に逃げ。人と交わり、なるべくその血を薄めようとした。

男の一族の教えには、「森に行くな」「海で生きろ」という物があった。男自身、そんな教えはすっかり忘れていたし、男の父親も、祖父母世代も狼の血は目覚めなかったから、何も知らなかったのだ。

それでも、薄められても、その血は確かに受け継がれていて。
既に覚醒している人狼から何らかの刺激を与えられていれば、男の中の獣も恐らく目覚めていただろう。]


[ざわついた水面は、やがて落ち着いて。
紅色も、元の海の色を取り戻す。]

……化け物、か。
まあ、見た目はそうだが、俺らあんまし人のこと偉そうに言える立場じゃねえからな。

ま、でも、一回死んでるんだ、これ以上は死なんだろ。
たぶん。

[グレッグの言葉に、気楽すぎる言葉を告げる。
自分たちはゴロツキであり、人殺し。
殺した死体を魚の餌にするか、自分達で食うかの違いか。]

まあ、そんでも、仲間殺しは頂けんがな。
最底辺に位置するにしてもよ。

[下っ端どもの仲間割れに寄る潰し合いを見れば、やはり偉そうなことは言えないが。]


……何ていうか、マイペースだなあ、お前。
その姿、グレッグが怖がってるみてえだから、
普段やってたような人の姿になれないか?

[さらりと弟分を子供扱いし、頭をかいて
ヴェラへと要請してみた。**]


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……え。

[一瞬、ホレーショーの瞳が。
獣と同じ紅に染まった気がして。
ぞわりとグレッグは背中を欹てた。
兄貴が。自分の知っている兄貴じゃなくなってしまう感覚がして]

……あ、にき?

[不安げに呟いたが、それも一瞬のこと。
すぐにホレーショーは元の調子に戻って。
グレッグに、いつもの気楽な調子で言葉をかけた
暗に矛を収めろと言われているのは、グレッグにも分かったので]


まあ。兄貴がそう言うなら……。

[多少不満げに、ヴェラへの警戒を解くだろう。
ちっ、兄貴に感謝するんスよ。なんてヴェラに毒吐きながら。
続いてホレーショーに子供扱いされると]

べべべ、別に怖がってないッス!
本当ッスよ!?

[濡れ衣だと言わんとばかりに。
ぷんすこ、とホレーショーに抗議した]


……ふん、だ。
どうせミナカも、おまえの“お仲間”なんだろー。
俺は知ってるんスからね。

[ヴェラとは目を合わさず、そっぽを向いて。
つんつんした口調は、そのまんま。
グレッグの部屋でのミナカの行いを見れば、少しは柔らかい口調になっただろうが。
生憎、グレッグは自分に供えられたワインを。まだ知らない。
化け物への憎悪は、ゆらゆらと揺れたまま。まだ燃え燻っていて]

ミナカが人狼だから、危ないって。
兄貴達に伝えたくってお手紙書いたのになあ。
ホントなあ……。

[もう少し真剣に字を教わっておけばよかった。後悔を口にする。
そうしたら、あんな言葉足らずじゃなくて。
別の伝え方ができただろうに。すべてが空回りだ。
伝えたかった兄貴は死んでしまったし、ミナカはまだピンピンしている。本当に、ままならないと思う**]


[ぷんすこ怒っているグレッグに、苦笑する。
彼が怒るのも無理のないことだから、それ以上は窘めないが。
子供を見ているようだと思うが、余計怒らせるだけなので伝えまい。

[グレッグが、ミナカに何を感じたのかは知れないが、それよりももっと放っとけない存在が居て、せっかくの忠告をスルーしたのは事実。]

ミナカが人狼って、何でそう思ったんだ、お前。

ま……何にせよ、お前の遺書は、生きてる奴に残してきたからよ。
俺が一番、信頼してた奴だ。
あとは、上手くやってくれるだろ。

[他人まかせの口調だが、実際もう、残してきた奴に任せるしかないのだ。

その、一番信頼していた奴が牢に現れたのを見て、本当に自分の声が届いたか、と苦笑した。**]


[ヘクターの独り言へ耳を傾ける。
淡々とした声は、そうとしか聞こえなかった。

我を忘れて、という言葉に、そうだったのかと思うのは、酔いで死に様を覚えていないせい。
死んだ実感もないせいか、半端にこの世へ残った体をベッドの上でごろごろさせて]

 本能かなあ。

[獣の体をしたヴェラを思い出しながら、ぼやりと呟いた。
あの淡泊なヴェラが、自分ごときにそんな風になるなんて。
己では制御できないそういうものに突き動かされたとしか思えない]


[周囲が騒がしいのも気にせずに、そばで手入れを眺めていれば。
不意に、ヘクターが険しい顔を上げる。

彼の耳が随分といいことなど知らないものだから、不思議に首を傾ぐ。
彼へ憑いて部屋を出れば、医務室の辺りが騒がしく。

ついそちらへ視線を向けたが、ヘクターは他の場所へ向かうようで。
少し迷った後、まあどっちでもいいかとヘクターへついていくことにする]

 ……?

[さて、彼はどこにいくのか]


―牢前―

 あ。

[血に沈む、船員がいた。
ホレーショーだ。グレッグの恩人。

そして周りにいる霊体たちを見つけて]

 あーあーあー……。

[疲れて諦めた声で嘆いた。

ホレーショーはいいやつだった。
自分が放り出したグレッグを拾って、生き返らせてくれたのはもちろん。
戦場でもなにかと面倒見がよかったりしていた記憶が、ぼやけてある。気がする。

酔っててよく覚えてない。
ああ、最低だな]


 せめて、弔いたいけどなあ。
 グレッグも世話になったし。

[ホレーショーの死を悼むヘクターの後ろから。
遺体を担ぐのを手伝いたくても出来ない手を伸ばし、すいと透けたのをぼやりと眺めてから、ホレーショーへ困った顔で苦笑した]


メモを貼った。


メモを貼った。


[ホレーショーの瞳の色が紅く揺らぐのを見れば、やはり同族かと、ぴるっと耳が動いたが、すぐに退いていったその色に、こちらの興味も同じく薄れる。]

 ……そうか?

[よく分からないが、グレッグが怖がるらしい。
 怯えさせる意図があってこの姿をとっているわけでもないのだが、別に要請を断る理由もない。]

 …………。

[絶賛講義中のグレッグがうるさい。
 何故ヘクターの近くにはこうもうるさいのばかり集まるのだろうと、かねてよりの些かの疑問を抱きながら、また人の姿になった。]

 これでいいか。

[確認取るよう、立った耳を動かした。]


[ぷんすこ怒って。拗ねて。
床に“の”の字を書いていたグレッグは。
ホレーショーの疑問に顔を上げて]

……血塗れで、医務室に入ってくミナカを見たんスよ。
兄貴と酒盛りした夜。自分の部屋に戻る時に。

[その時は気に留めなかったけれど、と付け足して]

それと。最近、繰り返し悪夢を見てたッス。自分が死ぬ夢。
ルイスが殺されるのも、なんとなく夢で分かっちゃって。
実際ルイスが死んで。夢の中でミナカが犯人で。
ああ、これ正夢じゃん。じゃあ、俺も死ぬなって。

[視線は俯いたまま。
口調は言い訳するように、しどろもどろで]


……死期を悟る、ってやつッスかね。
死ぬ前になにができるだろうって。慌てて手紙書いて。
兄貴に相談したら、なんか巻きこんじゃう気がして。
で。ああなった。っていうか。

[そうして、口を噤んで。話を締めくくった]

兄貴が一番、信頼してた奴……?

[こてり、と首を傾げて。
瞬間。牢前に現れたヘクターの姿に。
ああなるほど。合点がいった]

……ニコも一緒ッスか。
ふぁっきん、ってやつッスよ。

[あーあー唸ってるニコラスを見つめて。
誰かさんの口調を真似て、状況を簡単に説明した。
グレッグは肩をすくめてみせる**]


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 ? 仲間?

[そっぽを向くグレッグの言葉に、疑問符が浮く。
 同族かと問われたならば、「そうだ」と答えたかもしれないが、生憎”仲間”ではない。

 グレッグとホレーショーの会話の内容自体には、あまり興味はないので、適当にその辺りに視線を巡らせていた。
 ただ、会話の中で、ミナカが人狼という言葉が出れば、そうだというように頷く仕草を見せはしたが。]

 ん。

[やがて、やはり何かが聞こえているのか、ヘクターがこちらへ姿を見せると、その後ろにオマケもくっついていた。]

 …………。

[折角静かな奴になったと思ったのに、また何かうるさい。
 一瞬、瞳の紅が濃くなったが、嘆きはすぐやんだので、苛立ちもすぐに退いた。]


[やがてセシルも船底に姿を見せた。
 こんな場所にこれだけ集まるのも珍しい……と思ったが、生者は2人しかいないということに思い当たり、少しだけはっとした。]

 おまえ、ネイサンに殺されたのか。

[ヘクターの言葉で、ホレーショーの死因を初めて知った。
 少しだけ意外そうな訊ね方だったのは、あの船長が、というより、剣での所業だったから。]


 ……なるほど?

[簡潔な説明に、分かったような分かってないような顔で相槌を打って。
死体をじっくり見るような趣味も精神力もないので、つい、と床から視線を逸らす。
もちろん死体で遊ぶなど夢にも思わないとも。

代わりに、どうにもならない感情に嘆きの声を漏らして。
なにやらそばにいた加害者から殺気を感じ、大体理由は察せられたので早めに口は閉じておいた。
もう一度殺されるのはさすがに勘弁してもらいたい。

がしがしと頭を掻いて、新しく降りてきたセシルへ視線を向ける]


[そうだせいぜい生き延びてくれ、とは思ったが。
その後の荒っぽさには、少しばかり怯えた顔をしてグレッグの後ろへ隠れておいた]

 うひぃ……。

[やっぱり俺、海賊、向いてない。
すごく酒が欲しい。

セシルの他の乗組員に比べると細く見える体が倒れ、命までは奪われなかったことに安堵の息を吐いた。
やはり、仲間同士が戦ってるというのは、あまり見たい光景ではない。
自分が痛そうな顔をして、なにが出来るわけでもないがセシルのそばに寄って。
瞼の下、ちらりと見えた異様な青を確かめるように手を伸ばして、すり抜けて。

そういえばヴェラの目も赤いなあ、などと思って、ヴェラをちろりと見てみた]


―牢前―

あ、コラ、死人は労れ。

[己の体が小突かれるのを見て、思わず文句をつける。
だが、死ぬなと言われたのに死んでもいいくらいの気持ちで向かっていったのだ。大馬鹿野郎の評価も、多少の雑な扱いも甘んじて受けておこう。

叱られる子供みたいに、頭をかく。
重いだろうから自分の死体なんざ放っといていい、と言おうかと思ったが、自分もグレッグの遺体を一人で引き摺ってでも運んだ。気持ちは多分似たようなものなのだろう、結局止めずに。]


 なーんで自分から危ないことに首突っ込むかなあ……。
 いや、もし繋がってたら手っ取り早くやるには効率いいことも、逃げてちゃ解決しないこともわかるけどさあ。

[ヘクターも、見えた異様な瞳の色と人狼を結びつけたらしく。
わざわざ挑戦的なことを言い捨てて、階段を上る様子につい声を漏らした。
もちろん、聞こえないと思ってるから言えるのだけども。
俺みたいなチキン野郎には理解できない、と呑気にぼやいて。
セシルのそばに座ったのは、単純に心配だったから。

しかしヘクターもヘクターで心配なので、時折階段を見上げてみたが。
ヘクターが心配されてるなんて知れば、大きなお世話だと小突かれそうだと思えば苦笑とため息ひとつ。

二度と小突かれることがないだろうと思えば、胸がすうすうしたが。
二度と小突かれることがなければいい、と強く思う。

せいぜい生き延びてくれ]


お。

[牢前に新しく増えた霊体を、此方もすぐに発見する。
困った顔で笑うニコラスに、目を瞬かせ。]

ニコラス、お前……どうした。
飲みすぎて一周してまともになったのか。

[失礼なことを言っているが、素面のニコラスを今まで見たことはない。むしろ不気味ささえ覚える始末。]

弔い?
あー。まあ、バカやって死んだしなあ。
別にいらんけどな。
ま、お悔やみの言葉くらいなら聞けるな。
確実に届くぞ。

[冗談めかして笑った。]


メモを貼った。


……………………。

[振り向けば、人の姿をとるヴェラが。
しかし、なんか、獣耳生えてる。
しかも動いた。

お前は何処へ行こうとしているんだ。

思わず突っ込みたくなった。]

いや、まあ……うん、いいや。
ありがとよ……

[考えるをやめた。]

ん。そう。
船長に負けたよ。
かすり傷しか作れなかったんは情けねえなあ……

[ヴェラの問いを肯定しながら、ぼやいた。]


 んあー……。死んだら酒が抜けた。

[自分の狂乱を朧気に思い出しながら、そりゃあいつも酔ってる姿だけ見てればその反応になるだろうと納得しつつ。
酔いまでは持ってこられなかったらしい、まともになった頭をとんとんとノック]

 あー……。そ。
 じゃあ、あれだ。グレッグ泣かせないでくださいってだけ言っておく。

[弔いの言葉はいらないらしいが、十字を切るだけはして。
冗談に乗っかるように、できるだけ軽い口調で言っておく。
どこか強張りがあるのは、隠せなかったが。

ため息を吐いて。
なんでこんなことになったかなあ、と死人の集まる牢前で嘆いた]


[ヘクターの行動理念は、やはり自分には一番わかり易いし納得がいく。
 その裡に渦巻く感情を読み取ることまでは、獣にはできないが。]

[ヘクターがセシルに向ける、偽りのない殺気が、肌に心地良い。
 道化とはまた違う畏怖が、この男にはある。

 殺気を向けられた航海士は、まるで狼を前にした小動物のようにも思えた。
 だが、その時、セシルから感じた何かの気配に、身の毛がぞわりと逆立った。]

 ───!

[ややあって、ヘクターがもっともな理由を口にして、まさにそれを実行すべく、セシルへ槌を振るった。
 その一閃が、透けた身体を掠めてゆく。]


 ─────!!

[顔色は、今までと同じく、まったく変化しない。
 ただ耳と尻尾だけは、一瞬かなり大きく跳ね上がったが。]


 ……荒いな。

[そしてやっぱり、感情の薄い声で、そんなことを呟いた。]


倒れたセシルの瞳を改めて見てみれば、やはりどこか、違和がある。
 己の紅とはまったく違うが、若干似通ったような気配。

 悲鳴すら上げぬのは、この航海士が思いのほか強かったのか、それとも怯えて声が出ないのか。
 まさか呪いが影響しているとは気付かなかったが。]


 殺さないのか。


牽制だけで終わったらしい一撃に、見たままの感想を呟きながら、呻くセシルに視線を落とせば、瞳が徐々にいつもの色に戻り、やがて閉ざされた。

 あの色は何だったのか。
 疑問現すように、尾が揺れる。]


[その最中、セシルの傍に屈みこんでいたニコラスが、少しこちらを見た気がした。]

 何だ?

[目前の男は、今は静かだ。
 だから殺意も沸かない。
 瞳は、ただ無機質に「紅い色」をしているというだけだ。]


[喋った。
先程の殺気の件もあり、ちょっとビクッとする。

本気で殺したい気配って、素人にも分かるもんなんだな、なんてどこか呑気に思う。
普段の能天気さは、どうやら酔いのせいだけではなく元来の素質もあるらしい]

 いや。セシルの青い目と、人狼の赤い目はなんか関わりあるのかなと
 ……思いまして。

[とりあえず、いまは殺したそうな目をしてないので会話は続ける。
なにか知ってるか?と首を軽く傾いでみたりして。

やがて、心配で付き添ってたセシルが起き上がったのを見て、少し安堵した。
その目に宿った青を見れば、また眉が寄ったが]

 ……なーあ。その目、なんなんだよお……。

[聞こえやしないとはわかりつつも、背中に声をかけた]


 ?

[静かでいいが、変な喋り方だ。
 傾げられる首につられたかのように、耳が傾く。]

 知らないな。
 ホレーショーも違った。

 ……。

[主語欠けな返答。
 セシルが昏倒し、ヘクターもホレーショーを担いで上へ行ってしまった。

 ホレーショーは同族ではなかったし、もうここに留まる意味もあまりない。
 特に止められることがなければ、セシルが目を覚ます頃には、いつの間にかふらりと姿を消していたことだろう**]


メモを貼った。


[怪訝そうなヴェラの態度に、グレッグは眉を寄せ。
化け物同士つるんでいたわけじゃないのか、と類推する]

……もう訳が分からないッスよ。

[化け物は、みんな悪い奴ではないのか。だって、童話の中の化け物は、みんな悪い奴だって相場が決まっているだろう……?]

(それを言うなら、海賊やってる俺も相当な悪党ッスけど)

[先程のホレーショーの言葉を思い出し、むむむと唸る。
それでも、仲間をあんな理由で呆気なく殺してしまうヴェラを。許せない、とは思う。悪い化け物だ、と憤る]

(じゃあ、ミナカは?)

[ミナカは医者で、けっこう良い奴……だと思ってた。自分の命よりも、ギリアンの治療を優先したあの瞬間が。頭から離れなくて。
でも、ミナカも化け物だ。ヴェラと同じ。
考えるほどこんがらがって、しまいには考えるのを。やめた]


[ヘクターとセシルがいざこざを始めると。
グレッグの背中に、怯えた顔をしてニコラスが隠れた
時折、そーっとヘクターの様子を伺っている]

えー。あー。ニコ?
どしたんスか。

[チビのグレッグの後ろに隠れるニコの姿は、どこか滑稽で。
あれ。でも、こんなに臆病な奴だったけ、と。
戦場で嬌声を上げながら斧をぶん回してた奴がいたような。
ああ、でも。確かに昔は穏やかで蚊も殺せないような性格だったっけ]

ふっふーん♪

[普段はガキ扱いされることの多いグレッグだ。
ニコラスに頼られる立場になるのが。ひどく嬉しくて。
誇らしげに胸を張ってみたりした**]


[もしグレッグに普段との差異を指摘されていたならば、ちょっと自分が信じられなくなっていただろう。
自衛のために斧持って酒飲んで恐怖を忘れようとして、気がついたら全部終わっていた、が戦場に対する大半の記憶だ。
血塗れでいることが多いから、人殺しはしているんだろうなあとは思っているが。
まさかまさか、気狂いの手本そのままの状態で暴れまわってることなんて、夢にも思ってない。

知ったところで、遠い目をする以外やれることはないのだが。

逃げ込んだ先、グレッグがなぜか誇らしげな顔をしていたので頭を撫でておいた]

 そか。

[主語の抜けた回答。
なぜホレーショーが出てくるのかと首を傾いだが、とりあえず知らないという回答を貰ったので頷いておく。
止める理由もない、というかなんだか感じた殺気のおかげと殺害された身として話しかけにくかったので、それ以上話しかけはしなかった。
気が付くといなくなっていても、積極的に探すことはせず]

 ……やだなあ。

[セシルが去って行った後、ぼんやりと呟いた]


[少し大人になった気分で、胸を張っていたら
いつのまにかニコに頭を撫でられていた]

……結局、ガキ扱いッスか。

[口を尖らせつつも、嫌な気持ちではない。
そうこうしているうちに。ヘクターはホレーショーの死体を担いで、牢前を後にしようとする]

ああ、兄貴っ――

[一瞬、間をおいて。死体じゃない方のホレーショーのチラ見して]

――の死体が連れて行かれちゃうッス。

[急がないと、と。
ふわり。副船長の後を追った]


― 9号室 ―

副船長、優しいんスね。

[ベッドに横たわった2体の死体を見て、
グレッグはへにゃりと顔を歪ませた。
枕元には、いつのまにかワインが供えられていて]

……誰が供えてくれたんだろ?
粋なことをする奴もいるんスねえ。きしし。

[まさか送り主が、件の船医だとは思わず。感謝した。
目を閉じて眠ったような、兄貴と自分。
酒盛りが終わった後のような光景だな、と思い]

あの酒盛りから。まだそんなに時間経ってないのになあ。

[楽しかったはずの、あの晩の戦勝酒盛りを思い出して。
少しだけ寂しくなった**]


―少し前。―

お前……それ、立派且つ重要な目撃証言じゃ……

[顔が引き攣った……

はぁ、悪夢?そんなもん……

[と、言いかけて、内容は不吉なほど一致していて、笑い飛ばせない物であることに気づく。今は一致していたから信じられるが、生前に相談されても信じていたか怪しい。気にするな、自分の死など跳ね返せ、くらいの事は言っていたに違いない。]

一人で悩んでたか。巻き込むから、ってなあ……

[自分を巻き込まぬ為に、一人で不安と恐怖を抱え込んで、苦しんでいたのか。馬鹿野郎、と言いたい気分もあるが、弟分の苦悩に全く気づけなかった自分も腹立たしい。

……あ゛ー。お前もだけど、俺も大馬鹿だわ。
揃って。こんな所は似なくて良かったのにな。


[グレッグもとっくにいないし、ヴェラも気が付くといなくなってる。
一気に静かになった牢前、ふと牢屋へ視線を向けて
血だまりがみえて視線を思いっきり逸らす]

 ……ちみどろ。

[捕虜が殺されたとかなんとか、言ってたなあ。
あの捕虜は無事に天に召されたのだろうか。
では自分は天に召されずなぜ宙ぶらりんで自分はここにいるのか。死を実感してないせいか。

それとも、このふぁっきん現世に未練でもあるのか]

 ……。

[口の中で悪態を、ゆっくり呟いてから。
やれやれと立ち上がり、自分の生涯唯一最大の恩人を探すことにする。

心配してるなんて言ったら、ぶん殴られるだろうけどさ。
なんだかんだで恩は感じてるし。
この状況で飼い主見捨ててさっさとどっか行っちゃうほど、薄情にはなれないんだよ]


 へーくーたーぁー。

[さて、どこに行ったのやら]


メモを貼った。


―少し前。―

……それ悔やみじゃなくて、
娘を嫁がせる親からの釘刺しに聞こえるぞ。

[しかも、盛大に泣かせた後に言われたものだからばつが悪い。
くそう、酒飲みまくって酔っ払ってふらふら危なっかしかった奴に説教食らうとは。むかつく。

こんなことになっていった原因については、もうわからないから沈黙を守るが。]

……まあせめて、これからはな。
この後があるかは知らんが。
あれ以上泣かせることもねえと思うし。

[泣いていたグレッグの声を思い出す。
あんな声で泣かれたんじゃ、例え死んでても泣き止ませる為に起きるしかない。*]


―少し前。―

[セシルとヘクターのやりとり。
グレッグはともかく、己は船長に、決闘を挑んだ上で負けた。納得した上での敗北死だったから、弔い合戦なんて余計にしてほしくない。というか、そんなことされたら間違いなくキレる。]

……そうだな。
乱暴だが、わかりやすいな。

[ヘクターは、強い。元々は船長として慕っていた男。
ネイサンへの畏敬とはまた違った種類の。
生き延びて継ぐと言ってくれた事が、素直に嬉しかった。
ただ、どうしても血を伴う……しかも、仲間の血が。
そればかりはどうしようもなくて、心は痛む。]

…………。

[早速、セシルが痛い目にあわされているのを見て、内心十字を切った。
生きているだけ、まだマシか。]


―9号室―

[じゃあな、とニコラスに手を挙げて、急ぐグレッグの後をマイペースに追いかけて、たどり着いたのはグレッグの部屋。

……狭そうだな。

[寝ているような自分たちの姿。しかし、一人分のベッドに並べると、何か窮屈そうにも見えた。]

酒盛りか。
あん時は、今頃死んでるなんて想像もしてなかったなあ。

[首を落とされたグレッグと、喉を貫かれた自分と。
奇妙な気分だが、夢ではない。グレッグの体の首元を、じっと見つめて。]

……なあグレッグ。四六時中一緒に居ろ、とは言わないけどよ。もう、あんな風に勝手に……手が届かない所で、消えるなよ。

[届きそうなのに決して届かない位置で、弟分の命が消えた、抉られるような痛みは、忘れられない。もう二度とあんな思いはごめんだ、と思う。*]


─ 船首楼 ─

[地下牢前を離れたあと、獣はまた船首楼にいた。
 誰か会いたい相手がいるわけでもなく、思い残した場所があるわけでもない。

 なのに、魂はまだこの船にある。]


   ───……オーーーン。


[朱い月は、先程よりずっと高く昇っている。

 何故、まだ連れて行かないのかと問うように。
 高くなった月に向かって吼える。]

[甲板に、ヘクターとミナカの声が聞こえれば、ちらりとだけそちらを見たが、すぐにまた、他人事のように背を向けて、月を見上げた。]


メモを貼った。


―甲板―

[一番低いマストに腰かけて。
ぶら、と足を揺らす。
眺めてるだけだ。お気になさらず。

怪我も血も酒臭もなくなった半透明の物体は、副船長と船医のやり取りを見下ろす。
なぜ副船長と船医の間に緊張が張り詰めてるのかは知らないが。

持ち主のやることに、拾い物が疑問を挟むはずもない。

ファッキン俺の神様。
あなたのやりやがることはすべて正しいとも]


[ただ心配くらいはさせてくれ]

 ……ん。

[月光をその身に透かしながら、顔を横にやれば。
遠吠えをする獣の背中があった。

お静かに、と。
自分の口を軽く掌で塞いでおいた]


確かに狭そうッスね。
まあ、お肩並べて仲良さげで何よりじゃないッスか。

[ホレーショーの言葉に、苦笑して。
死んでも仲良いのは良いことだ。うん]

……兄貴?

[グレッグの死体をじっと見つめて、難しい顔をしているホレーショーの顔を覗きこんで。続くホレーショーの言葉には、穏やかな顔になって]

了解ッス。もー勝手に独断して消えたりしないッス。
だから、兄貴も。先にいなくなったりしないで欲しいッス。

[上目遣いに、小指を差し出して]

約束ッスよ?

[きしし、と笑って。成仏するときは一緒だ、と]


メモを貼った。


……はあ?

お前、俺に指切りやれってか。
小指出せ、と……?俺に……?

[子供か。いや子供だった、こいつは。
額を抑えた。
大の男に、泣く子も黙る海賊をやってた、30を超えた男に、指切りか。
さすがに、羞恥心が勝った。そんなの出来るか。]

……おら。五倍でいいだろ。

[グレッグの小指を、全部の指で掴む。妥協。
文句は言わさねえ、と上下に振って、乱暴に離した。]


ん?……んん?

[気づけば、まだ9号室にいるキティが、じっとこちらを見ていた。まるで、見えているかのような……?
試しに猫の前で手を振ってみるが、目線がついてくる。そういえば、以前にも何もない所をじっと見たりしていたが、あれはもしや……]

見えてんのか、気配感じとってんのか?

[手を伸ばしても、もう猫には触れられない。
ぬくもりを感じることもない。]

……キティ。もう、好きな所行っていいからな。
帰れなくて、すまねえ。

[にゃあ、と返事をするように猫は鳴いた。]


[猫の頭に、撫でるように手をかざし。
それから、体を起こした。]

副船長は、どこ行ってるかねえ……

[生者の中で最も動向が気になる男を探す為、立ち上がる。
狭い船の中だ、程なくして甲板にたどり着くだろう。*]


[乱暴な指切りに、兄貴らしいやと苦笑して。
やがて手が離れれば、室内のキティを見遣った]

……キティの面倒。これから誰が見るんスかね。

[心配そうに、ぽつりと呟いて。
主のいなくなった猫の将来を案じた。
透き通るホレーショーの手が、キティの頭に触れる。
なんだか見ていられなくて、思わず目を逸らした。
触れられない悲しみは、この1日で嫌というほど味わった]

……そうッスね。副船長のところに。

[ホレーショーに頷いて、やがて共に甲板に辿り着くだろう]


―甲板―

キティは優秀な猫だから、必要とされるだろ……
ま、自分で餌もとれるし。

[そんな話をグレッグにしながら、登ってきた甲板。]

………。

[言葉を忘れて、目の前の光景を見つめていた。
月に照らされる、双頭の狼。
対峙するのは、槌を握る男。

まるで、御伽のような。
子供に話すには少々、血生臭いが。*]


[双頭の獣と副船長の闘いは、始まりから見下ろして視界に収めていた。
珍しく怪我なんかする副船長を見て、つい腰が浮いたがまた腰かけ。

大丈夫だ、と自分に言い聞かせる。
何度も、何度も、言い聞かせる。

彼が負けるはずがない。

信頼感というよりは、そう信じてないと酒もない今は気が狂いそうだと、そんな感覚だが。
ともかく、そう信じて。

マストの上、足を垂らしたまま。
じっと、身動ぎもせずに見守っていた]


― 甲板 ―

……ミナカ、なんスか?
はは。マジッスか。

[禍々しく気配を放つ双頭の狼に、乾いた笑いが出る。
夢の中で見たものの、実際に見るまでなかば半信半疑で]

……だから。
ガキじゃ、ないッスよ。

[小さく呟く。
あの言い草は、間違いなくミナカだった。
自分の遺したものも、無駄ではなかったのだと。
ぎゅっ、と拳を握りしめて。
副船長とミナカの勝負の行方を。
固唾を飲んで見守った]


 ───!

[槌の振り下ろされる音に、尾と耳先がぴんと伸びる。
 船首楼の端に寄り、ゆるく見下ろせば、今まさにヘクターがミナカに追撃をくらわせようとしているところだった。]


 ……荒いな。

[もう何度目か。
 普段のヘクターとミナカであれば、勝負は火を見るよりも明らか。
 しかし、もしミナカが本性を現したなら───

 ───と思っていた矢先


 !??

[その姿に、この獣にしては珍しく、船首楼から身を乗り出した。]


[ヘクターの腹に突き刺さる牙。

歯を食いしばって戦いを見守る男は、その場から動かない。
何も出来ないのがわかっていたから。
その代わり、目を逸らしもしない。
拳をただ、ぐっと握りこんだ。

ヘクターと、双頭の狼の戦いの行方を、見据えている。]


[甲板に現れた新たな気配も、ずっと前からあった見張り台の気配にも、気付きはしていた。
 だが今は、それらは眼中にない。
 獣の意識は、目前の戦いにのみ向けられている。

 ただ視点は、彼らとは違ったろう。
 おそらく、ヘクターを見守っているであろう3人と違い、獣は、純粋に戦いの行く末のみを見つめていた。
 ミナカが同族であるからとか、ヘクターの行動理念に頷けるところがあるからとか、今は蚊帳の外。


 ─────どちらが、より強い畏れをもって、畏れを喰らうか。

 弱肉強食の理念。
 弱者は強者の糧となり、強者もまた更なる強者に喰らわれる。

 残るのはどちらか。

 紅い瞳が、静かに焔を宿したように揺れる。]


ヘクターッ!!!!!!!


[じっと耐えて、黙って戦いを見守っていた男は。

ヘクターが甲板の縁に押し付けられたのを見た時、
つい、その名を叫ばずにはいられなかった。]


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