22 共犯者
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―前夜・祈りの後― [ 厳かな雰囲気のうちに祈りも終わり、村人たちが三々五々家路に向かう頃。
広場から少し離れた木立の中で、ヴェスパタインはその根方に丸くなって眠っているのを、探しに来た友人に発見された。 いささか乱暴に揺り動かされ、目を開けた彼は、]
……や、あ。ボリス。
[ 眼を擦りながら寝起きのぼんやりした声で答えた。]
待ってたら……眠くなっちゃって……
[ そう言った端からうとうとと、また目を閉じて眠りの境に落ちていこうとする。 「しょうがないなあ」と呟く友人に抱きかかえられて、ようやく立ち上がると、よろよろと帰途に着いた。]
(71) 2010/07/29(Thu) 08時半頃
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[ ……友人の肩に凭れた頭、背に流れる髪は、一本の綱のようにきっちり編まれて揺れていた。
そして翌朝。]
(72) 2010/07/29(Thu) 08時半頃
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―朝― [ 村を囲む巨木の一本の根元に、それは置いてあった。
それとはすなわち、人間の腕と脚と胴体。 軟らかい肉が粗方が剥ぎ取られ、白い骨と変色した断面を晒す肉塊が、供物のように樹木の前に置かれていた。 肋骨が籠のように開かれ、ぽっかりと空洞が覗く。 一緒にある筈の頭部は、見当たらなかった。
奇妙なのは、損傷の様子から肉は刃物で削ぎ取ったのではなく、明らかに生き物が歯で食い千切ったと思われるのに、捥ぎ取られた手足が整然と対で揃えて並べられていることだ。 それは、知性のあるものでなければできない類の行為だ。]
(76) 2010/07/29(Thu) 09時頃
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[ そこだけ原形を保つ手首から先、ほっそりした薬指に嵌った指輪が、きらりと朝の光を反射して光った。*]
(77) 2010/07/29(Thu) 09時頃
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―自宅― [ 朝日がようやく森の際から顔を出した頃。 村はずれの一軒家、ヴェスパタインの家の扉を激しく乱打する音が響いた。 怒鳴り声を伴う騒音に、渋々といった様子で彼が扉を開いたのはそれから暫く後。まだ目が覚め切らないらしく、今にも閉じそうな目蓋をしょぼしょぼと瞬かせた。]
(122) 2010/07/29(Thu) 17時頃
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……え。ソフィア、ですか。 来てませんが……
[ 寝乱れた長い髪を撫で付けながら、ソフィアの父の問いにぼそぼそと答える。 ソフィアは昨夜から自宅に帰っていなかった。
亡くなった親方とソフィアの祖父が兄弟と言うこともあって、生前は妻子の居ない親方のところにソフィアの家族が食事を届けることがたびたびあった。 親方の死後、ヴェスパタインが一人で住むようになってからはそういった届け物は無くなったが、それでもたまにソフィアが余ったからと菓子や季節の恵みをもって訪ねて来た。 特に親しい会話をする間柄ではない。ただソフィアなりに孤独なヴェスパタインを気遣っていたのだろう。]
(123) 2010/07/29(Thu) 17時頃
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[ 本来であれば、ヴェスパタインの家にソフィアがいる筈もない。 だが、家族は万が一を考えたのだろう。 落胆よりも焦燥の色濃いソフィアの父親に、彼はおずおずと切り出した。]
あの……僕もお手伝いしましょうか? 一緒にソフィアを探させて下さい。
[ 申し出は素っ気無く断られたが、気遣わしげな瞳を見て気が咎めたのか、ソフィアの父はそれでも一応の礼を言って出て行った。
扉がバタンと閉められた。]
(125) 2010/07/29(Thu) 17時半頃
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―広場― [ ヴェスパタインが広場に現れたのは、イアンが巻き起こした騒ぎが随分と拡大してからだった。 自警団と野次馬(と呼べるのかどうか)が既に現場に向かった後で、広場に残った人々は不安な面持ちでひそひそと囁き交わしていた。]
何があったのですか?
[ 彼は村人の一人を捉まえると、不思議そうな――そして穏やかならぬ顔をして尋ねた。]
(139) 2010/07/29(Thu) 21時半頃
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―ソフィア発見現場―
ソフィアが!?
[ 村人から聞き出した顛末に、目を見開いた次の瞬間。 自警団が向かったと教えられた方角へ弾かれたように駆け出した。
しかし、走り出して間もないうちに見る見る速度が落ちていく。 終いには片足を引き摺り、時折足を止めて休みながらとぼとぼと歩く始末だった。]
(148) 2010/07/29(Thu) 22時頃
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[ 後ろからやって来た村人が何人も彼を追い越して行く。 彼は荒い息を吐きつつ、黙って見送った。]
(151) 2010/07/29(Thu) 22時頃
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―ソフィア発見現場― [ ヴェスパタインが着いた時には、そこは集まった村人で人垣が出来ていて、到底何があるのか覗けるものではなかった。 未だ呼吸が整わないといった様子で立ち尽くし、遠巻きに遺骸を囲んだ人の頭を見詰めていた。]
(157) 2010/07/29(Thu) 22時頃
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ランタン職人 ヴェスパタインは、飾り職 ミッシェルの視線には気付いていなかった。固く強張った表情で通り過ぎて行った。
2010/07/29(Thu) 22時頃
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―ソフィア発見現場― [ 何があるか確かめるためには、人を押し退けて前に進まなければならない。 それが出来ぬ性分なのか、青年は何とか人の頭越しに見ようと、人垣の後ろの方でうろうろしている。
ふと、昨夜の来訪者──新聞記者イアン・マコーミックと名乗る男が目に入った。]
(181) 2010/07/29(Thu) 23時頃
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[ 宵の月の色した瞳が、イアンの姿を追う。 記者はソフィアの遺体の傍で、自警団に何事か話していた。>>179]
(184) 2010/07/29(Thu) 23時頃
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[ 踵を返したイアンの視線がこちらに向いた。>>183 次の瞬間、イアンの瞳に浮かんだいろを、彼は見逃さなかった。]
(188) 2010/07/29(Thu) 23時頃
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[ 『それ』は月の瞳をイアンから逸らさぬまま、緩やかに動き出した。]
(189) 2010/07/29(Thu) 23時頃
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[ 肩の上で、宵闇の髪が流れる。]
(194) 2010/07/29(Thu) 23時頃
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[ ──不意に『それ』は視線を逸らした。
彼は顔を背け、人垣を離れて元来た方へと歩き出した。]
(200) 2010/07/29(Thu) 23時頃
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[ 途中、何を思い付いたか、井戸の方へと向きを変えた。 僅かに足を引き摺り、今は人気の無い枝道を歩いた。]
(204) 2010/07/29(Thu) 23時半頃
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─井戸─ [ ランタン職人の青年が井戸のある水場に姿を現した時、そこにはまだピッパとオスカーは居ただろうか。 彼は、少し疲れたように奇妙な足取りで、井戸端に向かい歩いてくる。]
(211) 2010/07/29(Thu) 23時半頃
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[ 三人の姿を認めると、軽く会釈した。]
やあ。どうも……
[ 続く言葉が見付からない様子だ。]
(212) 2010/07/29(Thu) 23時半頃
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>>218 [ ミッシェルの問い掛けに戸惑いの色を見せたが、ひとつ頷いた。]
……ええ。 でも人が沢山居て、どうなったのかまでは……
やっぱり、本当にソフィアが亡くなったんですね…… でも殺されたってどうして……
[ 血の気の薄い唇が震える。]
(224) 2010/07/30(Fri) 00時頃
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>>214 [ そうですね、とこくんと頷いて、いまだ幼さの残る青年を見下ろす。 オスカーの目にほんの僅か宿る憧憬には気付いていない様子だ。]
(228) 2010/07/30(Fri) 00時頃
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>>229
生贄? いけにえ、てどういう意味ですか?
[ 唐突に飛び出したミッシェルの言葉は、彼に驚きと途惑いをもたらしたようだ。 酷く混乱した表情をしている。 場所を譲ってくれたオスカー>>231にちらりと視線を移し、短い礼を言ったものの、井戸から水を汲む間も落ち着かない様子だ。*]
(236) 2010/07/30(Fri) 00時頃
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―井戸― [ ミッシェルの説明>>245を聞く間、桶の水の表面をじっと睨んでいた。 やがて、意を決したようにひとくちだけ啜ると、顔を上げ彼女を見る。]
この村は、一体、
[ 何が起こっているんだ、とか、どういう村なんだ、と問いたかったのだろうか。しかしその先は声になることなく消えた。 くしゃり、と端正な貌を歪めて固く目を瞑る。 口元を押さえた手。 シャツの胸元を掴んだ拳が震えていた。]
(287) 2010/07/30(Fri) 08時頃
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[ 先刻のオスカーの忠告>>231もショックだったのかも知れない。 傍で続く彼らの会話を、拒絶するように俯いて背を向けた。*]
(288) 2010/07/30(Fri) 08時頃
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>>290 [ ホリーの無邪気な物言いに、びくりと肩が震えた。 恐る恐るといった様子で振り返ってホリーを凝視するその瞳には、あからさまな恐怖と不信の色が湛えられていた。]
(292) 2010/07/30(Fri) 12時半頃
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ランタン職人 ヴェスパタインは、じり、とその場に居た村人全員から距離を置くように、井戸の側を離れた。
2010/07/30(Fri) 12時半頃
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>>294 [ 呼び止めに一応は足を止めたものの、ホリーが駆け寄ってくると、僅かに身を仰け反らせて後退った。 続くホリーの『忠告』も、彼の恐怖を更に煽ったに過ぎないようだ。 蒼白の顔が凍りつき、ホリーの無邪気な微笑を見つめ返す。 やがて諦めたように踵を返すと、答えることもせずによろよろと歩み去った。**]
(299) 2010/07/30(Fri) 13時半頃
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[ 井戸端を離れた彼は、村外れに向かって黙々と歩いた。 僅かに足を引き摺る足取りは決して軽くない。 だが、少し俯き加減の顔は、真剣に思い煩っているというよりは、思いを全て封じ込めたように無表情だった。]
(306) 2010/07/30(Fri) 21時頃
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[ 教会の高屋根が見える辺りに来ると、丁度自警団を中心とした一団が布で覆った担架を担いで入っていくのが見えた。 あの白い布の下には、ソフィアの無惨な遺骸があるのだろう。
彼はしばし足を止めて見送った。]
(337) 2010/07/30(Fri) 23時半頃
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[ 教会の扉はその奥の暗がりに担架の一団を飲み込んだ。 甲高い鴉の鳴声が一声、二声、尾を引いて響き渡る。 彼は中天を見上げた。 日は既に高くなっていた。]
(358) 2010/07/31(Sat) 00時頃
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