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[――――ぐちゃり]
[歪められた魂が堕ちる、醜い音]
[何もかも忘れ、皆と過ごしていたシメオンの"虚勢"
忘れていた、忘れたままでいたかったことを思い出した亡霊の"狂気"
今はどちらも無い、まるで抜け殻のような表情で。
ここは何処で周りに誰かいるか、何か思考することもなくぼんやり立っていた]
……。
[けれど一つだけ、しなければならないことがまだあるのを覚えている。
もう一度だけ、柔らかな金髪を探した]
『君は自分が思っているよりも強い子だ』
『そして、君との記憶は…私にとってかけがえもないものだった。』
[見つけたレティーシャがこちらを見て悪魔と罵ろうと、怯えて逃げようとしようと、はたまた無関心だろうと
無表情に暗い瞳で、彼女へ淡々と口にする明らかにシメオンの口調ではない言葉達。]
……あの人が、伝えてほしいって
[悪魔は手紙代わりの役割を済ませれば反応を見ることも無く、早急に彼女の前から立ち去った。
認めさせられてしまった今は、彼女にしたことがどういうことか、拒絶された理由は何か、全てといかなくとも理解している]
―― クラリッサの定位置 ――
[虚ろな瞳を天井に向け、寝転がっている**]
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[こうなってもまだ聞こえるらしい。
あの人の自分の名を何度も口にする声が、敵討ちは成功したと呼び掛ける声が]
……
ひとりじゃ ない。
[そう呟く声が]
[でも、お願いだからこちらには来ないで
自分の叶えられた願いが、望まない形だったとしても。
貴方の願いまでそうとは限らないから、幸せになってほしいから]
[グロリアはいつもの夢をみる。
鳥籠の金糸雀はいつものように囀る。
ラルフは亡霊ではない、と。
夢の中、グロリアはそれに安堵した。
みつけられなかった事に落胆しながらも
ホリーが気にしていたその人が
そうでなかったことにほっとしていた]
[これまでは其処で夢は終了。
サイモンの始めた魔女狩りの舞台に引き戻されるのが常。
けれど今度は、夢からさめず、それは続く。
道標のような金糸雀はグロリアに似た少年の姿に変わっていた。
柔らかな微笑み湛える少年がグロリアに呼びかける。
「姉さん」と。
夢なのだと理解しながらもグロリアの心は揺さぶられた。
ずっと望んで願ってきたのは少し歳の離れた弟の回復。
眠り続ける弟に付き添い名を呼び続けたけれど
人形のように反応はないままだったあの日々が思い返される]
[「あれは事故なのです。
お嬢様がそのように御自分を責め続けては」
長年仕えてくれた執事が眠り続ける弟に視線を向けて
「姉思いの彼の方は哀しまれるでしょう」
そんな事を言っていた。
グロリアが後悔し続けている過去を執事には伝えてある。
それでもなお責める事なく忠実に仕え続けてくれるひと。
誰もグロリアを責めはしなかった。
だからこそ、自身を責め続ける。
自分のあの一言がなければ弟が眠り続けることはなかったのに、と]
[魔女に願いを叶えてもらいに行くとグロリアが言った時、
執事はそれを止め、かわりに自分がいくと言い出した。
対価に命を差し出す覚悟をしていたグロリアは首を振る。
自分がそれをなせなかった時を考えて別の頼み事をした。
新たな当主を支えて欲しい、と。
今度は弟に尽くして欲しい、と。
グロリアはそれを我儘だと知りながらも、
彼はそれを受け入れてくれると知っていた。
そんな枷さえ受け入れてしまう優しいひとと知っていた。
執事と過ごした時間は弟と過ごした時間よりも長い。
戦友として並び立つ事はなかったけれど
陰から支えてくれる存在があったからこそ
グロリアは魔女と取引する覚悟をきめることができた]
[――今も彼は別の方法をさがしてくれているだろうか。
グロリアは夢の中、ぼんやりと思う。
魔女の書架に眠るこの宝。
眠る前にみつけた希望を。
彼は何処かでみつけてくれるだろうか。
そう考えて、夢続く現状を訝しむ。
もう目覚める時間のはず。
夢はいつか終わるはず。
遣り残したことを思い
夜に輝く星を思い
そうして、本を手にする戦友の姿を思い浮かべて]
[目覚めたいと、強く思う。
目覚めなければと思うのに
グロリアの望む目覚めは訪れない。
もどかしくて遣り場をなくして
悪夢に苛まれるような思いのまま金糸雀が啼くのを聴いた**]
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[グロリアはボリスの声
最初に言葉交わした時とは違う力強い声。
見違えるようなその声に微かな、――安堵]
[人形のある場所にグロリアの魂は引き寄せられていた。
魔女の呪いが及ぶ事を何処かで覚悟していて
それでも何処かで――別の未来を願っていた。
大事に思えた存在はひとつきりではなく少しずつ増えてゆき
のこしてゆきたくないと、思っていた。
――そんな我儘はゆるされはしなかったけれど]
[どうしてと問い掛ける声
ルーカスの声音にまじる息遣いは少し苦しげにも感じた。
駆けてきたのか上がる息。
何が彼をせかしたのか知らず不思議に思う]
――――。
[グロリアの魂が微か震えた]
……、……。
[夢にたゆたう意識が現へと戻る。
悪夢から目覚める感覚に似ていた。
息が詰まり、それから漸く肺を満たして、夢だったのだと実感する。
夢でよかったと安堵してはじまる朝も今は遠い**]
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―サロン―
[並ぶ人形は四体
その中にグロリアは自身に似たそれを見つける。
嘆くでもなく、ただ残念そうな顔をして息を吐いた。
ピッパの声
私には出来なかった証明を、ありがとう。
[微かな笑みを浮かべる。
聞こえないだろう声は常より弱く]
――…あなたが霊能者。
あなたが、亡霊でなくて、良かった。
[ルーカスと親しい彼女。
二人が対峙せずにいられるのをせめてもの救い思う]
[私はずっとオズワルドの足下にしゃがみこんでいました。
すると何かが落ちてくる音がします。
音のした方向を見ると、何かがこちらにやってきます。
あれは、シメオンです。
私はおびえました。]
…………っ こないで!
悪魔!シメオンを返して!こないで!
[私は猫足ソファの後ろに回って、彼から身を隠そうとしました。
だってあれは私の知っているシメオンではないからです。
シメオンは私には優しく微笑んでくれていたので、それは仄暗い優越感を私に持たせたものでした。天使はどこにいってしまったのでしょうか。
悪魔に関心なんか持たないわと言わんばかりに、私はぎゅうと目をつぶります。]
[すると、彼は口を開いて何事かを伝えてきました。
私は思わず目を丸くして、悪魔の顔を見たのです。
なんて暗い瞳でしょう。
だけど、何よりも]
……な……
なに、それ……
[私は彼のもたらしたメッセージによって、落とし穴に放り投げられた心地になったのです。]
……いや……
いや、いや!いや!!
知らない!!「あの人」なんか知らない!!
そんな伝言、いらない!!
[私は叫びました。
伝言が私に連想させたものは、
それはそれは恐ろしいことだったからです。]
悪魔!!これ以上、私をいじめないで!!
いや!!嘘よ、嘘よそんな言葉!!
信じないわ!!シメオンを返して!!嘘!!
[私は、シメオンがとっくにいなくなってしまったことにも気づかず、喚き立てていました。]
私……私、強くなんかないわ……
それに……そんなことを今言われても、知らないわ……
[私は肩を落とし、それから思い切り叫びました。]
だって、私、もう死んじゃったんですもの!!
…………。
…………
オズ……オズにあいたい……
私、信じないわ……オズ……
[ホリーの告白
守護を名乗るホリーを見ながら思うのは
鐘が鳴る前の事。
守護に言及し惑わせただろうか。
ホリーを悩ませてしまっただろうか、と。
そうして抑止力としてホリーが紡いだ言葉を思う]
――ホリーは、やさしい。
私は、そんなあなたが好きよ。
[ホリーの抱えていたものは配役だけではないだろう。
ヒトゴロシと自らを称するホリーにはまだ何かありそうで
何をきいたとしてもその思いは変わらないとばかりに
そんな言葉を紡いで夜色へと手をのばす。
けれど届かぬまま、指先はおちてゆく]
シメオンを返して、か
[何もその言葉に返さなくても、聞こえて無かったわけではなく
耳に残った声はいつまでも響いていた]
そうだったら良かったのにね
[悪い魔女は双子の弟を人形に、兄の魂を奪って彼の姿をした悪魔を代わりに用意しました。
だから彼らは被害者なのです何も悪くないのです。
――そんなおとぎ話は無いのだ。]
[
ここにいるのは悪魔じゃなくて
目の前の現実を認められず、狂気に逃げていたただの哀れな亡霊だ。]
[始まる生者の議論。
サロンの片隅でグロリアはそれを見守る]
――ラルフは、亡霊じゃないの。
[届かぬ声を向けるのは戦友。
ホリーとピッパを信じるならば
グロリアには二択なれど、それを伝える術は無く]
[自分も弟も幸せなのだから人形になることは幸せだ、自分の為積み上げた嘘を崩さない為レティーシャにそれを押し付けて。
そうして笑っていたのだから。
全てを知れば誰も、被害者だとは思わないしピッパも自分を抱き締めはしなかっただろう。
しかしあの人は――狂気の声を聞きながら正常を保ち願いの為諦めはしない亡霊は
今もあの場所で人間を騙し人形にする為言葉を紡いでいるであろう"彼"は……]
[オズワルド、何かおかしな冗談を言ってくれないかしら?
そしてこれはただの悪夢だと。
ただの悪夢だけど、目を覚ましたら窓から朝が見えるよ、と。
レの音がくっついてたって構いやしないわ。
私の目を見て、名前を呼んで、]
オズ……。
[戦うことなんてできませんでした。
誰かを殺すこともできませんでした。
だから私は逃げようとしました。
忘れたかったのに。
忘れられなかったのに。
思い出したくなんかなかったのに。
誰か嘘だと言ってください。]
[オズ、嘘でしょう?ね?]
[ルーカスの推測
グロリアはやわらかく目を細めて、頷いた]
――…ええ。
ルーカスを護ってくれて、ありがとう。
あなたが謝ることなんて、ないの。
[濡れる夜色に微か困ったように眉を下げる]
……嘘だべな?
[魂が紡ぐのは、たった一言]
[誰に向けてか]
[何に向けてか]
それでも……
おらが馬鹿だと嘲笑れても……
[その願いが叶うならば]
……違うべな。
おらは、望んだ。
んでも、レティーシャや……グロリアは、そうでなかったんだ。
[嘆息は、新しいひかりに]
メモを貼った。
メモを貼った。
[名を呼ばれたような気がして
グロリアは視線をめぐらす]
――…。
[その声
カトリーナ。
[グロリアが殺したひとの名を、紡いで揺れる眸]
[グロリアはオズワルドに狂人の可能性をみた。
けれど自ら名乗るをきけば違うのだろうと思う。
彼は狂人を“我々の思考を乱そうとする者だ”
彼が狂人とするならばその言とは相反する行動をとっている。
ならば、他に狂人を気にする存在は――?
辿り着いた配役に、吐息を漏らし戦友を見詰む]
「占い師」だったべな。
……災難だったなぁ。
[揺れる瞳の奥の感情を、愚かな田舎娘は理解しない]
[触れられないのに、レティーシャにしたように、撫でる恰好で手を伸ばした]
災難というなら、此処に居る魔女以外の全てに言えるわ。
――…あなたも。
[災難、と言いかけて言葉を詰まらせる。
カトリーナの手が近づくのを感じ、無意識に細まる双眸]
あなたに撫でてもらう資格、私にはないのに。
自分が生きる為に、私はあなたを殺した。
頼んだのはおらだべ。
グロリアは優しいなぁ……。
苦しませて申し訳ねえ。
[自分がこうなったのは、自業自得だと、今は分かっている]
[努力を怠った 罪]
カトリーナが謝る事ないわ。
あなたは自分の心に従い選んだのでしょう?
あなたの頼みはきっかけで
結局、あなたの命を奪う選択をしたのは私。
[グロリアはカトリーナが自らの信じた道を進んだと思う]
誰かの命を奪わないために、選んだ。
――それなら、きっと、あなたの方がやさしい。
頼んだ事は後悔してねえだ。
んだども、それでグロリアが痛えのは…おらはやっぱりやんだ。
[意識ある内、最後に言葉交わした相手]
お互い選択に後悔せんとぉ、謝るんなら、痛み分けだでな。
一緒に、残ったもんを、見守らんけ?
後悔しない道を選べたのね。
[カトリーナの言葉
優しいがゆえに選んだことで
寂しい思いをして泣いているのではと
罪悪感の中、そんな風に案じる思いがあり]
――…ええ。
一緒に見守りましょう。
[謝罪の言葉は飲み込んで、カトリーナに頷いて
生者の話しに耳を傾ける]
――、――……
ごめんね……
[いつまでもそこからシメオンは動かず、ただ返ることのないと分かっていて届けられる声を聞いていた。
自分が、自分が見つかったから、彼は今一人で全て背負ってあの場所にいる]
[逃げた私が何を言えるのでしょうか。
私はただただオズワルドの足下にうずくまって、両手で顔を覆っていました。]
オズ……?
[ふと、苦しげな呻きが聞こえた気がして、目を丸く]
[何故だろう酷く届く声が気になる。
似ている筈が無いのに、自分のようだと思う……]
[それでも、きっと自分のように味方なく責められているであろう姿を見に行く気にはならなかった。
何の抵抗も出来ず彼らに見破られていく自分達の姿は、魔女には滑稽に映るだろうか]
[ああ、また]
[もう一人の亡霊も――オズワルドも――ゲルトのように自分のせいで死んでしまうのだ。]
[――横たわる亡霊の指先が黒く、影のように変色した。]
『嫌な子……』 『あっちに行きなさい』 『どうして――――家にこんな子が』
『弟のほうはいい子だったのに』 『黙ってろ』 『嫌だ嫌だ、全く……』
『お前もいなくなれ!』 『あんたのせいで……』 『近寄らないで』 『お前なんて』
『生まれて来なければ良かったのに』
『全部全部、お前のせいだよ』
………………。
嘘よ、オズ……。
嘘と言って……。
嘘じゃないんだって、私の手を握って……。
[オズワルドが亡霊だなんて嘘です。
彼との思い出は嘘ではないんですから。
……。]
やめて……。
オズをころさないで……!
嘘、は、辛いべな……
[断罪を見ているだけで、もう動かない心臓が痛い]
[知っています。
みんな、自分が一番大好きなのです。
だから、自分の望んだ通りにならないといてもたってもいられないのです。
それは他人を蹴落とすということ。
殺すということ。
私は自分が嫌いです。
だから逃げました。
私の思い通りになんかなってほしくないからです。
でも、私はそんな自分を憎みました。
もし私が逃げなかったら、私は自分がどうなろうとオズワルドのために精一杯働いたことでしょう。
オズワルドが今こうして攻められることもなかったでしょう。]
みんな嫌いよ、大嫌い。
ボリス……
[友だと言ってくれた]
頑張ってる、なぁ……
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