126 生贄と救済の果てに〜雨尽きぬ廃村・ノア〜
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風来坊 ヴェラは、メモを貼った。
2013/06/19(Wed) 00時頃
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―イアンとの別れ―
[空中でイアンに接した瞬間、激しい電撃の余波が狼へと襲いかかった。 ぶすぶすと焦げ付く臭いを発しながら、背に触れる熱い体。 力を失った『人』の肉体。 肉体を貫く雷電に全身を痙攣させながら、辛うじて地面に着地し、四足を踏ん張った。
恐らくは、周囲の全てが水に覆われていたためだろう。 着水すると同時に、一時的な雷撃は周囲に拡散され弱まっていく。 呼吸を整えろ。そう言い聞かせ、歯を食いしばりながら狼の早い呼気を収めていたところで。 背中の上から、よく聞きなれた声が自らの名前を呼んでくる>>3:149]
……………………。
[初めて背に乗せた>>3:123>>3:124時よりも、はるかに力を失っている。 あの時も同じように呼びかけられたが、それとは異なる状態なのは了然のこと。 狼は、答えない。ただ、挙げられていく名前の一つひとつを、痛みに耐えながら耳にする。 やがて、聞きとれない声を1つ挟んで挙げられた、知らない名前が――――]
(10) 2013/06/19(Wed) 01時半頃
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[「人それぞれだ」>>2:44。再びヴェスパタインの声が蘇る。 ジョージ。それが何者>>1:121>>1:122>>1:124なのかは、狼に悟ることはできない。 ただ、今際の際に呼びかけずにはいられない、そんな相手なのだと理解した。 今際の際……イアンはもう、助からない。 いや、ひどく冷たく言うならば、無事に殺害に至れる、という言葉にもなりはする、が。 二度と触れ得ぬだろう背の感触が口惜しく、体の痺れを言い訳として、しばらくはそのまま立ち尽くす]
約束を、守るぞ。
[どれほどそうしていたことだろう。 やがて人の姿に戻ると、ツェツィーリヤの隣にイアンを横たえた。 口にしたのは、この村で最初に出会った時>>0:145>>0:156の続き。 あの頃は、その言葉通りになるとは思ってはいなかったが。 彼にかざすは、右手の右手。おそらく……そうゆう割り振りだったのだろう。
選択の、余地はない。 右手に再び力を込めて、イアンを『生贄』として、取り込んだ。 自らの、『糧』として]
(11) 2013/06/19(Wed) 01時半頃
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[供物の破損は修復されなくても、内包する力は回復されていくのを感じれば、もはや動かない2つの体を、じっと見つめる。 イアンの魂も、彼が取りこんだ魂も、先ほどよりさらに赤黒く染まる腕に取り込まれていることだろう。 その時ふと、彼のシャツのポケットに、『死神の指先』>>2:13が収められていることに気がついた。 その意図>>3:56は、ヴェラには明確に知ることはできなかったが……その気持ちは微かであれ、分かる様な気がした]
……これは、お前の家族か?
[気がついたのは、ロケットつきのペンダントの存在>>1:121。 手にとって、中を開いた訳ではない。たまたま開いていたのを覗いてしまっただけのことだ。 すでに命の光を失ったイアンは、当然問いかけには答えない。 ただ、返答を待つように、少しの間、焦げついたイアンの顔を見つめていた。 その時間も長くはない。 血の臭いを嗅いだ下級魔物が集まってくる気配を察知して、ヴェラは白狼の毛皮へと手を伸ばす]
(12) 2013/06/19(Wed) 01時半頃
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[そのまま、立ち去ろうとする。 2人の肉体は、これから魔物に喰われるか、もしくはやがては消滅することになるのだろう。 ともあれ、立ち去るヴェラに新たな所有物などありはしない。 『死神の指先』も、『鉤爪の破片』も、『雷の矢尻』も、そのままに。 もちろん、イアンの持っていたペンダントも]
いつか、全部聞かせてくれ。
[そう言って、2つの遺体に対し背を向ける。 告げているのは、軽く持ちあげた右手に対し]
いつになるかは分からんが、私の隣で、話して……。
[ヴェラは、それ以上は言葉にせずに。 小さく嘆息をついた後、もの言わずに済む狼へと変化した。 そして、感情により涙腺を働かすことのない傷ついた狼は、魂だけを携えて、2人の遺体を後にした]
(14) 2013/06/19(Wed) 01時半頃
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風来坊 ヴェラは、メモを貼った。
2013/06/19(Wed) 01時半頃
風来坊 ヴェラは、メモを貼った。
2013/06/19(Wed) 01時半頃
風来坊 ヴェラは、メモを貼った。
2013/06/19(Wed) 01時半頃
[其処に横たわった彼女の身体。
隣にイアンが横たえられ、彼の死に瀕した息遣いは
もう彼女には聞こえない。
彼女の魂は、其処にはないのだから。
生贄にされた彼女の身体は、
もう暫くすればおそらく霧散する。
其処に、遺体は残らない。
彼女が羽織っていたローブだけが、残るのだろう。]
ヴェラは、この先で、何者かに遭遇するのだろうか……?**
2013/06/19(Wed) 02時頃
風来坊 ヴェラは、メモを貼った。
2013/06/19(Wed) 02時頃
― 同族に向けて ―
…ホレーショ、さん。
[薄れ行く意識の中で三人の名前を呼んだ後、彼が自分の名前を呼んだような気がした。
恐らく、ヴェラは約束通りに自分を糧にしようとする筈。
此処に来るまでの自分なら、迷うことなくそれを望んでいた。
けれど今は、ヴェラと比べればほんの一時を過ごしただけに過ぎない同族の方へと意識は向かう。
距離が離れたホレーショーの右手に宿る事は叶わないか。
それでも。
自分は此処だ、とヴェラには聞こえない声で彼を呼ぶ。]
― 森の奥・ヴェラと ―
[名前を呼びながら、脳裏に彼らの顔を思い浮かべた。
目は霞み、雷の衝撃で麻痺した身体は自力で動かす事はもう叶わない。
混濁していく意識の所為で痛みはあまりなかったが、背中にヴェラの感触をうっすらと感じていた。
―あぁ、懐かしいな。
淡く口元だけに笑みを浮かべる。
魔物になってからは、自分からヴェラに触れる事は無意識に減らしていたように思う。
それを彼は気付いていたかどうか。
死んだらもう味わえない感触を忘れないように頭に刻み込む。
ヴェラはじっと黙っている。
まだ糧にしようとしないのを少しだけ不思議に思いながら、少しは哀しんでくれているのだろうかと考えていた。]
[約束を守る、というヴェラの言葉に同族の気配を探そうとした。
―彼はソフィアと一緒にいると言っていたけれど、近付く気配はしていた。
まだ間に合わないか。
自分の身体がツェツィーリヤの隣、地面に横たえられる。
人の声で彼の名前を呼びたくなるのをぐっと我慢した。
ヴェラはホレーショーが魔物だとまだ気付いていない筈だから。
これ以上、足手まといになるわけにはいかない。
けれど、自分に残された時間は残り僅かで。
それを察したらしいヴェラの右手が翳される。
あの時は自分達がこうなるのはもっとずっと後だと思っていて。
ヴェラ達以外にその右手に宿りたいと願う人が出来るなんて想像もしていなかった。]
[やがて自分はヴェラの右手に宿され、肉体から完全に魂が切り離される。
その内に自分の肉体は霧散するのだろうか。
下級の魔物に食われるなんて癪だから、そちらの方がましだと思いながら。
魂を失った肉体は、此処にまだ辿り着かぬ彼にとってはもう無価値か。
ヴェラが『死神の指先』の存在に気付く。
墓を作る代わりに拝借したそれを、ヴェスパタインは許してくれるだろうか。]
―そうだよ。
[不意に掛けられた問いかけに、ペンダントの事だと察して答えたけれど、恐らく彼の耳には届いていないだろう。
自分も弟に何度か話し掛けたけど、答えは聞こえてこなかったから。
或いは拒否されていたのかもしれないけれど。
血の匂いに魅かれてやって来た下級の魔物の気配。
―あぁ、お前達なんかお呼びじゃない。]
[魂はヴェラに寄り添って、二十年と数年使っていた肉体に別れを告げる。
自分の右手に呼び掛ける言葉には、両腰に手を当てているような気分で彼に返す。]
―いいけど。
俺を糧にしたんだから、少しでも長生きしてよ。
[出来たら違う人が良かったんだけど、なんて。
ヴェラが聞いたら怒るだろうか。
同族に生きながらえて欲しいと思うし、彼にも同じようにそう思う。
―それは自分が彼らと共にいられなかったのと同じで、両立し得ない願い。
同様に彼の右手に宿ったツェツィーリヤは今、何を思っているのだろうか。
やがて狼の姿になったヴェラと共に、森の奥を後にした。**]
風来坊 ヴェラは、メモを貼った。
2013/06/19(Wed) 19時半頃
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―広場―
あいつめ……一体どこへ行ったのだ。
[ヴェラは、ぬかるみの中に置き去りになっている革袋>>2:194をつかみ上げ、ゆっくりと周囲を見渡した。 そこに、人影は見当たらない。「あいつ」と示した少女が握りしめていただろう革袋>>3:45だけが、雨に赤く染まっている。 「持っていろ」と言われていたものを、無下に放り出す人間には思えない。 それだけの事態が、なにかここで起こっていたというのだろうか]
まったく。すべてが終わったことを教えてやろうと……ぐっ。
[革袋を手に取り、胸によぎる不安を払拭するように吐き出した呟きが、中途で途切れた。 袋を掴んだ、右手が熱い。 思えば、通常の動植物や人間ではない、短時間の間に2人もの魔法使いを生贄としたのだ。 おそらくは、彼らに宿っていた魂と共に。 伸ばされた右手は、赤い雨でもその色を隠せないくらいに、赤黒く明滅している]
(19) 2013/06/19(Wed) 20時半頃
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喰い過ぎだな。こんなことを言うのは、お前たちに悪いが。
[伸ばしたままの右手に向かって、そう言ってから、苦笑した。 魔法使いの生命の延長の1つに、魔物がある>>3:115。 群れを好むヴェラは『狩り』の頻度に比べれば、分け合う分だけ得てきた『餌』は少なかったのかもしれないが。 もともと変身に慣れ親しんだこの体は、いつ変貌を遂げてもおかしくはない状態だったのかもしれない]
ま、私は強いから問題なく背負えるが。 …………ん?
[ふと、何かの気配を感じた気がして、ヴェラは革袋を抱きしめ、再び周囲を見渡した。 それはただの気配。ヴェラの鼻は雨に絶たれているのだから。 何かが、決して小さくない何かが、自分が立ち去ってきた方向へと、突き進んでいく>>気配>>13。 ピキッ……パキッ……と。 生まれるは疑念から、やがては滾る思いへと。今、狼の姿であれば、背の毛が逆立っていたことだろう。 ヴェラは革袋を胸に抱くと、迷わず毛皮を解き放った]
(20) 2013/06/19(Wed) 20時半頃
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―森の奥―
[ヴェラは、目の前の状況を、熱く、そして一方では冷静に受け止めていた。 先ほど、天の裁きの如く降り落ちた雷撃の元の場所>>13。 イアンとツェツィーリヤを取り込んだこの場所に、氷の魔物が舞い降りている。
イアン。お前はまっすぐなヤツだったからな。
蘇るのは、魔物と化したイアンの言葉。 最初に再会した場所で、ヴェラの命を奪わなかったことを、「何でダと思う?」>>3:41と問いかけた声。 あの時は、迷うな、と、過った疑念を振り払ったけれど>>3:66。 彼は口での駆け引きなんて、得意としているヤツじゃない。
単純なことだ。それだけの理由ではなかったのかもしれないが。 イアンは、『対象』と目されていた存在ではなかった>>3:55のだろう。 そうであれば、能力をよく知りつくした相手を、あの場で見逃したりはしない]
(21) 2013/06/19(Wed) 20時半頃
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お前が、『対象』だった>>3:84んだな……。
[まるで蜥蜴のようにも見える雹を携えたこの魔物が、ここで何をしていたのかには、今は触れない。 ヴェラの目に見えている光景にも、特異であろう相手の視界>>2:188にも。 ただ、ホレーショー、コリーン、ヤニク、ソフィア。 4人の魔法使いの誰かであろうことは、ヴェラにはしっかり理解ができた。 理解した上で、迷わない。イアンの時と、同じように]
その姿、『聖杯』とやらに魅入られたのか?
[仮にここまで、魔物がヴェラの存在に気づいていなかったとしても。 ひときわ大きく張り上げた声は、相手のもとへと届いただろうか。 ヴェラは、『聖杯』などという不確かなものを、それほど信じているわけではない。 ただ、思い出したのは、似たような蜥蜴の魔物を討伐した時のこと。 瀕死に追い込まれた元魔物は、うわ言のように『聖杯が』と呟いていた。 もっとも、その魔物は今目にしている相手より、一回り小さく、冷気も纏っていなかったが]
(22) 2013/06/19(Wed) 20時半頃
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怨むならそいつを怨め。まぁ、別に私を怨んでも構わないが。
[表情には決して出さないが。声を上げるたびに、体が軋む。 白狼は寒さには強い。相性としては悪くないのかもしれないが……それは大した慰めにはならないのかもしれない。 雨により奪われた体温。血を流し続けた背の切り傷。 削がれた頭の一部。そして、雷撃により引き裂かれたであろう、体中の筋繊維。 回復もかなわず、体も物質としての供物の姿も、満身創痍ではあったけれど、それでも強気で言い放った]
諦めろ。お前はもうお終いだ。 私は強い。だから、決してお前を逃さない。
[革袋をその場に捨てると、一歩踏み出し半身を晒し、白狼の毛皮を右手で掴む>>3:42。 目宿るのもあの時と同様、確固たる揺るぎない殺意>>3:43。 傷つき、おそらくは通常の人型魔物であっても満足に対抗できないであろう、熱い獣の殺気を放つ魔法使いは……この魔物の目には、一体どのように映るだろうか。
毛皮を掴んだ右手。 それが、崩れ去ったあの廃屋にいたころ>>1:109と比べ、何かを取り込み、激しく赤黒さを増していることには……魔物は気づいていただろうか*]
(23) 2013/06/19(Wed) 20時半頃
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ヴェラは、仮に相手に攻撃の意図を感じたら、狼として飛びかかっていくかもしれない**
2013/06/19(Wed) 20時半頃
風来坊 ヴェラは、メモを貼った。
2013/06/19(Wed) 20時半頃
風来坊 ヴェラは、メモを貼った。
2013/06/19(Wed) 22時半頃
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―森の奥―
[ヴェラの目に映っているのは、次から次へと下級の魔物を捕食していた氷の怪物>>37の姿。 鞭のような舌で絡め取る……それが見られたのは幸いか。 何も知らずに向かって行けば、狼の小さな体など、いとも簡単に捕食してしまうことだろう。 距離が測り辛いな。 そう思いながらも、いくつか言葉をかけていく>>22>>23。
氷の魔物に、反応はない>>40。 現れた者に気づけないほど飢えているのか、それとも、現れた者も他の下級魔物と等しく、目を向けるに値しないと考えているのか。 いや、やることは変わらない。それでも構わない……か。
ただ、無言で供物の毛皮を解放すると、一匹の狼となって突進した]
(42) 2013/06/19(Wed) 23時頃
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[白い頭部から、赤い一部と僅かな髪をはみだしたまま、氷の魔物へと向かって行く。
と、宙を走る巨大な尾>>41。 狼は回避すべく上空へ舞い上がる。尾の届かぬほどの高さを目指して。 ほとんどの動物に対して有効な、真上からの急襲を狙い……]
……ちっ!!
[体を無数に撃ち抜いたのは、雨が凍結した無数の槍。 追おう毛皮が削られて、思わず本体があらわになる。 空中では対応できない、無防備な体。ヴェラの麦だしの右手は、魔物の視界に入っただろうか。 もはや空中での軌道修正は無理だ。 数多くの創傷を身に刻みながら、このまま氷の魔物の真上に降り立つことへと目標を変更する。 仮にうまく降り立つことができれば、そのまま変化をして反撃を狙うべく……]*
(43) 2013/06/19(Wed) 23時頃
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― 広場→森の奥 ―
[ヴェラは広場で誰かを探している様子。
その相手がソフィアだとは当然分からない。
全てが終わったとヴェラは思っているようで、そっと安堵する。
―大丈夫、まだばれていない。
ヴェラの意識が向いた右手は、自分とツェツィーリヤの分も魂を呑み込んで赤黒さを増していた。
…一気にやると、きついよな。
まだ魔物になって間もない頃。血に酔ったように派手に糧を求めた時の事を思い出す。
あの後は身体が熱くて堪らなくて。
けれどもっと、と暴れる本能を鎮める為に…近くにあった湖に入水した。
魔物姿の自分が纏っていた色は紅。血の色だ。
頭から血を被ったような有様だったから、周囲の水が赤く染まったのを見て、一気に冷静になったのを思い出した。]
[不意にヴェラは何かの気配を察知する。
それはまだ姿を見た事のなかった同族の気配。
―向かっているのは、自分達の躯が残る場所。
其処に彼の求める魂…力の根源はもうない。
迷うことなく其方に引き返すヴェラを制止したくとも。
言葉を伝えるすべがないから、進路はそのままに。*]
― 森の奥 ―
[其処には、氷蜥蜴の姿をした彼がいた。
長い舌で下級の魔物を捕らえ、喰らっている。
―自分の魂を取り込み損ねたからか。
乾きはまだ収まっていそうにない。
そしてそんな魔物の姿を目にして、ヴェラは件の魔物が目の前の存在と認識したらしい。
―あぁ、僅かな時間さえも稼げなかった。
自分は全然上手くやれなかったのだ。
満身創痍のヴェラは、やはり迷わずに魔物に立ち向かおうと。
―あぁ、自分の想像した最悪の事態だ。
魔法使いの右手に宿された自分には何も為せず、行く末を見守るのみ。*]
―…。
[三人一緒か、と。
ヴェラが森の奥へと向かう道すがら、耳に届いた彼の声。
ヴェラの右手には、当然、自分が糧として取り込んだヴェスパタインの魂も取りこまれている。
―彼は今、何を思っているのか。
確かに感じるその存在に触れるのは怖くて…自分は目を背けていた。]
[そして、あれ程言葉を交わしたいと願った魂の存在を同じ右手の中に感じていても。
ヴェスパタインと同じく、まだ向き合えそうにない。*]
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[ぎょろりと、こちらを捉えた視線に気づいた>>44。 左右の目が、別々に。一瞬感じる背中の悪寒]
ふん。視界が広いな。器用な目だ。
[いや、正確には、悪寒が走ったのは……その次の行動か]
はっ。ははっ……。
[氷の蜥蜴が、立ち上がる。冷たい体が急速に近づく。 背面を狙って落下していた体に、重たい衝撃に襲われた。 掴まれているのは、自らの足>>45。鉤爪の喰い込む痛みが走る。 次の瞬間、圧力と共に、感じたことのない浮遊感が……]
お前……ご自慢の、体だな。
(48) 2013/06/19(Wed) 23時半頃
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ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
[冷たい雨が降りしきるぬかるみへ、背面から叩きつけられた。 飛び散る泥混じりの赤いしぶき。 感じるは、雷《イカズチ》に撃たれた時とは異なる、ひどく直接的な衝撃と痛みか。 視界が一瞬真っ白になり、呼吸が詰まり、息ができない。
足は、まだ鉤爪が捉えているのかどうか。 それは、一時的なものだったのかもしれないが、それすらも、感覚を失った今は分からなかった]*
(49) 2013/06/19(Wed) 23時半頃
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[感情を不要だと彼女が思うのは。
彼女が抱いた躊躇いと迷いと
喪失感の所為だ。
感情がなければ、其れを感じることは
二度とないはずだと。
彼女はそう思っていたのだから。]
[昔話には、続きがある。
そう、彼女の左目が光を失ってからの話。]
[彼女は代償によって、見える世界が狭くなった。
相棒は、彼女の目となることを望んだ。
音で状況を見ることに、彼女が馴れるまでの間
彼女を助けた。
尤も、彼女は必要以上に相棒を頼ることはなかったが。
彼女の努力によって、彼女は目を取り戻す。
音という、新たな目だ。]
[初めは簡単な要請からこなして行った。
そして、段々と元のような要請を
相棒と二人でこなすようになる。
そして。
――あの日も、雨が降っていた。]
[その要請を受けた日。
この村の雨とは違う、通常の雨が降っていた。
雨音が彼女にとって問題になることはない。
初めは、問題なく攻撃を仕掛けていた。
彼女が遠距離から狙い、相棒が切り掛かる。
丁度、ホレーショーと共闘した時と同じだ。
二人は、問題なく倒せると思っていた。
追い詰められた魔物が、攻撃パターンを変えるまでは。]
[突然の咆哮。
音の攻撃。
その衝撃波で、彼女と相棒は吹き飛んだ。
素早く体制を整えた相棒が、見た物は。
彼女へと飛ぶ、魔物と
音の攻撃によって、『見えなく』なった彼女の姿。]
[相棒は、雷の姿となり
魔物と彼女の間へと飛び込んだ。
彼女が受けるはずだった攻撃が直撃し、
相棒は致命傷を負った。
己の所為で彼女が代償を負い
その為に危ない目に合うなど、
相棒には耐えられなかったのだ。
それ以前に、彼女の為ならば死も厭わなかった。
魔法使いである前に、相棒、だったから。]
[しかし、彼女は再び相棒を救済しようとした。
相棒は最期の力を振り絞り、叫んだ。
生贄にしろ
と。
彼女が再び救済をすれば
また代償によって何を失うのか分からなかったからだ。
その叫びに、彼女は涙を零した。
綺麗な、涙だった。
そして。
彼女は相棒を『生贄』にし
強力な生贄魔法をもって魔物を倒した。]
[相棒の肉体は消え去った。
残されたローブを抱き締め、彼女は泣いた。
相棒の名を、叫びながら。
雨に濡れた彼女の髪が、
乱れていたことを私は今でも覚えている。]
[彼女の、相棒の名はセシル。
――……私の、名だ。]
[それから彼女は、残された私のローブを羽織り
何事もなかったように、魔法使いを続けた。
あれから何年が経ったか。
私は彼女の右腕の中で、彼女を見守っていた。]
[――……妙に、昔のことを思い出す。
彼女の魂がその體から離れ
私も、彼女の右腕から離れたからだろうか。
彼女の魂は既にヴェラの右腕に宿っているのだろう。
ならば、私も其処へ行くのだ。
私がまだ其処に居なかったのは、
彼女への執着のようなっものだ。
しかし、彼女の身体が霧散した今、
私も其処へ行く。
それは魔法使いの理だからではなく。]
|
[もし、狼の姿であったなら。 掴まれた足から伝わる冷気>>52は、ある程度緩和すること>>23ができたのかもしれない。 しかし、今はただの人の身。 動けぬ体にピキリ、ピキリと、足から這いあがってくる凍結の音。 恐らくは、表層。完全に凍りついているわけではないだろう]
……ぐっ。
[魔物を尾で払う姿に、隙あらばと思えども、おそらく片目はヴェラを捉えたまま。 いや、例えそうでなかったとしても、今、動くことは叶わない。 振り下ろされる、刃の尾。
裂かれ、叩き砕かれる、我が身のイメージが一瞬脳内へと過る]
(54) 2013/06/20(Thu) 00時半頃
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[彼女がイアンの攻撃を受け、
魔法使いの生贄になることを願った理由。
それは――彼女自身が語るはずだ。
彼女の言葉で。
代わりに、私は少し眠ることにしよう。
彼女の魂の傍で。*]
|
ぬぁぅっ!!
[精一杯の咆哮をあげ、咄嗟に上へと突き出したのは、自らの左手。 刃を纏った氷の尾が、手のひらから手首までへと深々と突きささる。 おそらく、そのまま手が落ちなかったのは、同時に『凍結』により補助されていたためか。
いや……ヴェラの細い左手一本で、巨大な尾が防げるはずがない]
……っ
[左手をそのまま叩き折るように、氷の尾がヴェラの胸を押しつぶした。 肉体を庇った左手が、今どうなっているのかは分からない。 ただ、勢いのない血反吐を吐きながらも、斧をしのぐだろうその一撃で致命傷を免れたのは、犠牲にした左手のおかげか。 おそらくは、胸骨も幾本か叩き折られたことだろう。
薄れる意識の中。ヴェラは、体を潰す分厚い尻尾の隙間から、震える右手で白狼の毛皮に触れようとする。 たった一つ、唯一の供物に触れる得ることができるとしたら、おそらく、対峙した魔物の次の一手の時]*
(55) 2013/06/20(Thu) 00時半頃
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[―何やってんだよ。
下級の魔物なんか放っておけばいい。
あんたは一人なのに。
ホレーショーが戦闘中に、自分達の躯に群がろうとする魔物を追い払っているのに気付く。
目の前の戦いに集中しろとも、ヴェラを逃がしてやれとも、自分は言えなかった。]
あ…っ…。
[ホレーショーの鉤爪はヴェラの足に食い込んでしかと捉え、彼の身体を地面に叩きつける。
直接触れる事で魔物の纏う冷気は、人の姿のヴェラに伝わっているだろう。
感覚は繋がっていないから、それがどれ程のものかは分からないが。
やがて氷纏う尾がヴェラに振り下ろされ、突き出した左手で防ぎきれずに彼の胸に至れば。
既に肉体を失って感じない筈の胸の痛みに顔を歪めた。]
|
[凍りついた足。それは凍結し、感覚は失えど、まだ捨て去るほどのものではない>>57。 潰れた左手は捨て、魔法発動のトリガーとなる、右手に神経を集中する。 叶うなら、裂かれた胸の深さを手で触れてはかりたい衝動に駆られるも。 今は、そんなことをしている場合ではない。
次の、攻撃が。再び降り上がる尾……>>58。
その、胸への圧力が消えた瞬間を狙って、白狼の毛皮を発動させた。 一匹の狼となり、狙うは距離を測ること。 人のサイズからさらに小さな狼のサイズと変化した足が、鉤爪をするりと抜けた。
左の前足と、一方の後ろ足は使えない。 だから残る2本を駆使して飛び、氷の蜥蜴から距離を……]
(60) 2013/06/20(Thu) 00時半頃
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[べしゃり、と倒れ伏したすぐ脇に、重々しい振動と共に、巨大な尾が叩き下ろされた。 ヴェラは、すでに狼の姿を維持していない。 肉体の限界か、狼でいられたのはほんの一瞬の出来事のこと。 叩き落された尾の傍で、右手と片足を駆使して旋回し、氷の魔物と向かい合った]
……負けん、ぞ。
[ぬかるみに這ったままの、弱い人間の姿のままで、魔物を見上げて言い放つ。 掠れた声。 ヴェラの胸にある思いは一つ。 ここで負けたら、潰えたら。 群の仲間に、引き継いだ右手に宿った魂たち>>3:108に、合わせる顔がない]
私、は……強い。だからお前を倒……し、て。
(61) 2013/06/20(Thu) 00時半頃
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私は……もっと、強くなってみせる。
[その姿はひどく血まみれで、きれいとは程遠いものではあったかもしれないが。 そうでならねばならない。そうでありたいというまぎれない意思を瞳に宿し、まっすぐに魔物を見据えて言い放った。
おそらくは、発動できても一瞬だろうと推測されるも。 再び、無理を承知で、白狼の毛皮に手を伸ばす……]*
(62) 2013/06/20(Thu) 01時頃
|
―当たり前だろ。
俺はずっとあの人達の背を追いかけてたんだから。
[応じる言葉は、少しだけ誇らしげに。
ホレーショーとヴェラの消耗の差は激しい。
けれど傷ついた彼にもうやめろとも望めない。
―例えこの声が聞こえたとしても聞かないだろう。それは彼の矜持に関わる事だから。
ヴェラは、かつて自分を片腕と呼んでくれた男は、気高く強い。
どれ程傷ついても闘志を失わないその姿は、自分が追おうと決めた背から少しも変わっていなかった。]
……。
[―けれど、それが今は胸の痛みを増す。**]
|
[瞬きを繰り返す氷の魔物>>64を、じっと見つめて宣告をする。 唱えたものは、もはやヴェラにとっては自縛する呪文のようなものだったのかもしれないが。 四足に戻った異形の蜥蜴が、こちらの様子を伺い始めた>>65 おそらくは……とどめを刺しにきたのだろう。 狩猟を行う動物には、獲物が弱った時にこそ、本来の姿勢に戻り仕留めるにくる。
ツェツィーリヤの体が風に舞い、纏ったローブが舞い上がる。 視線でそれを追うこともなく、毛皮に手をかけ最後の牙を潜めさせる。
間をローブを遮った時、来る、というのは察知できた。
飛んでくる尾と、地を這う舌。 同時に、ヴェラは白狼の毛皮を、精一杯の力で振りほどいた]
(66) 2013/06/20(Thu) 01時頃
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[ローブが視界から消えた時、魔物が目にするものは。
前のめりに倒れたヴェラと、宙を舞う、白い毛皮――――**]
(67) 2013/06/20(Thu) 01時頃
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風来坊 ヴェラは、メモを貼った。
2013/06/20(Thu) 01時半頃
[―早く消えてしまえ。
未だ地面に横たわった自分の躯を見つめる。
それで魔物の意識が逸れなくなればいい、と思いながら。
ツェツィーリヤの肉体が霧散し、風に舞うローブ。
それと同時に、場は動く。
供物である毛皮を手放し、前のめりに倒れ込んだヴェラ。
無言で彼に近付いていくホレーショー。
―魔物の鉤爪が、ヴェラへと向かう。]
―…っ。
[その結末を知りたくない、とでもいうようにイアンの躯は崩れる。
魔に落ちた所為か、うっすらと紅に染まった砂は風に煽られ霧散した。
其処に「死神の指先」と「鉤爪の破片」、ペンダントを残して。**]
風来坊 ヴェラは、メモを貼った。
2013/06/20(Thu) 19時頃
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―氷の魔物と―
[飛びかかる意思は、確かにあった。 たとえ一瞬であろうとも、その後に供物が砕け散ろうとも。 白狼となり、獲物の命脈を絶つ意思は、細胞の隅々まで沁み渡らせていたつもりだった。 狼として、群れのため。魔法使いとして、これまで貪ってきた魂のため。 だから、毛皮を解き放った右手は、最後の力を振り絞った全力で>>61。
耐えられなかったのは、2度の激闘と、身に得た過重な魂に叫びをあげた、肉体の方だった。
供物を解放した瞬間、全ての感覚が一度に消えた。 張り切った糸が、ほんの僅かな衝撃で、いとも簡単に千切れるように。
もう、視界には何も映らない。聴覚はなにも捉えない。
感じるは、ただ全面に広がる闇ばかり。 上も下も、分からない。 遊離した意思の中では飛び舞う毛皮>>67さえも、認識することは、もうできない]
(81) 2013/06/20(Thu) 20時半頃
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[それは、ほんの一瞬の出来事だったのだろう。
ヴェラは、冷たく濡れた前面の感覚により、ぼんやりと意識を取り戻していた。 倒れこんだ衝撃と、打ちつけてきた地の水たまり、そして赤い雨の冷やかさが、千切れた糸を僅かに繋ぐ。
体が、まったく動かない。 まるで、鉛の中に閉じ込められてしまったように。
ひどく低い視界の中で、遠くにかすんで見えたのは、先ほど投げ捨てた革袋>>23。 ヴェラは知らないことではあるが、それはソフィアが意図的に、広場に置き去っていったもの>>73だ。
彼女は過去の自分のことを、その中に詰めていたけれど。 ヴェラは、あるはずの未来>>0:36を詰めていたはずだったのに。
聞こえてくる、重々しく亀裂の走る、巨大な足音。 氷の魔物が視界に割り込み>>71、遠くに見えていた架空の未来を、遮った]
(82) 2013/06/20(Thu) 20時半頃
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[視線を送るは、圧倒的な巨体で見下ろす氷の蜥蜴。 彼が、一瞬でも毛皮に目を取られて>>70いなければ、ヴェラがこの光景を目の当たりにすることはなかっただろう。 この状態に至ることも、きっとなかったことだと思う。 声はもう、出てこない。体は変わらず、動かない。 見てみたかった未来はかき消され、迫る予感は、終焉の予感。
震えるヴェラの右手が、魔物に向かって伸ばされる。
軋む体を、意思で動かした訳ではない。 それは、ほとんど本能に従ったものだったのかもしれない。 ぴくり、ぴくり、と痙攣する右手を差し出し。 魔物に向けて『止めてくれ』と、助命の懇願をしているかのように。
魔物は沈黙でそれに答える。 そして、おそらくはヴェラの命を絶つために、鉤爪を振り上げて>>71……]
(83) 2013/06/20(Thu) 20時半頃
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[ヴェラは同時に、差し向けていた『右手』に力を込めた]
(84) 2013/06/20(Thu) 20時半頃
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[それは、今から1年くらい前のことだっただろうか。
人型魔物の殺害を終えたヴェラは、狼の姿でそれこそ死んだように丸まって、疲弊しきった体を休ませていた。 そこへ、遅れて訪れたヴェスパタインが通りがかり。
瀕死と勘違いした彼は、おもむろにその右手をヴェラへと差し出したのだった。
「や、やめろ馬鹿者!」と、慌ててヴェラは飛びあがり、彼に厳重に抗議した。 早とちりに気付いたヴェスパタインは、「紛らわしいことをするな」と言いながらも、緊張していた頬を緩ませて……。
これは、そんな他愛もない、昔話。 物騒とはいえ、魔法使い同士らしい、ちょっとした笑い話だ。
ただ、ヴェラはあの時に触れた感触を、今でもしっかりと覚えている。 発動しかけたヴェスパタインの力は、生に満ちたヴェラでさえも、体から何かを掻っ攫っていく荒波を受けたように感じていて。
……死に瀕した者であれば、たやすく飲み込まれていくものなのだろうなと。 そう、体感したのだった]
(85) 2013/06/20(Thu) 20時半頃
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[あの時の感覚は、『喰われる』という意識がもたらした、単なる錯覚だったのかもしれない。
それでも、ぎりぎりまで追い込まれた体がとった行動は、その記憶に委ねたもの。 魔法使いの力は、平時の者に対してさえも、何らかの作用をもたらすのではないかと。
そんなこと、できる訳がない。そんなことは分かっている。 けれど、これだけ接近してきた魔物に対し、今ヴェラが向けられる力は、一つしか残っていない。
ツェツィーリヤも、イアンも封じ込められた右手が、強く赤黒く明滅する。 多くの魂を帯びた右手が、目の前の魔物と対峙する。
供物を手放した狼の、最後に残された本当の牙>>66。 それは、多くの魂が宿った、魔法使いの原点、『右手』。
『死の淵に立つ者』に対してではなく……『生の途上にいる者』に対する、『生贄』]
(86) 2013/06/20(Thu) 20時半頃
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[それは、まったく徒労に終わる、無駄なあがきだったのかもしれない。 このまま鉤爪が振り下ろされれば、抵抗することは叶わない。
そうでなくても、このまま未来を歩むことすら、できるかどうか危うい体だ。 だから、多くは望まない。
獲物はあいつだ、と、自らの右手に告げた。 できるなら力を貸してくれ、と右手の魂に呼びかけた。
例え、その一欠片でもいい。表面を打ち割るだけでもかまわない。 厚い氷で閉ざされた内側。おそらくは、その深く深くに眠っている……
『何者かの魂』に、力の限り『喰らい付け』、と。
振り下ろされる鉤爪の、風斬る音は聞こえてくるか。 薄れてゆく意識の中、ヴェラは最後に力を振り絞り。
生者に対する『生贄』の力を、発動させた**]
(87) 2013/06/20(Thu) 20時半頃
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風来坊 ヴェラは、メモを貼った。
2013/06/20(Thu) 20時半頃
― ―
[ツェツィーリヤは其処にいた。
彼女が覚えているのは、
魔物と化したイアンの武器を受けたこと。
其れから先は、千切れたように曖昧だ。]
……嗚呼。
私は……。
[千切れたような記憶を手繰り寄せ
ツェツィーリヤは、ヴェラの右腕に居ると知る。
傍にいる気配を探ろうとすれば、
其処に感じる気配は、イアンの物。
イアンもまた、同じように生贄にされたのだと知れば
彼女の魂は悲しげに揺れる。]
風来坊 ヴェラは、メモを貼った。
2013/06/20(Thu) 22時半頃
―ヴェラさん…っ?
[地に伏したヴェラが、右手を氷を纏う蜥蜴に向ける。
自己を生贄とした術は知識としては知っているが、使用したことも目にした事もない。
だから右手に向けられた彼の声が、何を意図してのものであるかは分からず。
けれどそれまで静かだったツェツィーリヤの声が聞こえれば、其方に意識は映った。]
…ツェツィーリヤさん。
[途方もない願いの為に、ヴェスパタインと同じく、自分が瀕死に追いやった魂。
名前を紡いだだけで、それ以上は何も言えない。]
…っ。
何してんだよ、ホレーショーさん…!
[彼の心中が分からない故に、コリーンの乱入が予想外だったのか、という考えに至った。
彼らを置いて走り去るホレーショーに、声を投げかける。]
[ツェツィーリヤはその名を呼ばれ、微笑む。]
……貴方も、此方にいらしたのですね。
[それは、感情を隠すことを止めた彼女の
何処か寂しげな笑み。]
|
―右手と鉤爪の対峙―
[そこで行われたのは、ほんの一瞬の出来事だったのかもしれない。 『生贄』を発動させたヴェラに対し、振り下ろされた氷の魔物の鉤爪>>88。
そして、割って入る誰かの姿>>89。
視界はかすみ、姿はおぼろげではあったけど。 それがコリーンであることは、聞き馴染んだ声で分かった。
馬鹿者。詫びて撫でろ。
鈍った神経伝達を受けて、心の中でそう呟いた。振り下ろされる鉤爪のイメージ。 切り裂かれる自分と群の仲間の姿……]
(94) 2013/06/20(Thu) 23時頃
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[けれど、鉤爪の動きは裂かれる寸前でぴたりと止まった。 近くで霧のように散って行ったのは、なんだったのか。 視界がかすみ、それすらも判別できない。ただ、呼応するように右手が脈打ったように感じ……。
……お前か? 礼を言うぞ。
その脈拍が、かつてよく触れあっていた相手のように感じて。 ただの気のせいだったのかもしれないが、そう思わずにはいられなかった。
先ほど何かが散った場所と共に、右手に撃ち落とされる、氷の鉤爪>>92。 もはや、痛みは特に、感じない。
ただ、宿らせていた『生贄』の力が、その場で消滅していった。 ぬかるみに打ち込まれた右腕は、もう動かない。魔物がどうなったのかも分からない。 ヴェラはただ、持ちあがる力さえないその右手を、ぼんやりと見つめることしかできなかった]
(95) 2013/06/20(Thu) 23時頃
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[コリーンの声が聞こえてくる>>96。 話しかけられるということは、当面の危険は去ったと言うことなのだろうか。 あの魔物が、ホレーショーかもしれない。 その言葉はすんなりと受け入れ……続く言葉の意味までは、朦朧としているせいか、ヴェラにはうまく受け止めることができなかった。 ただ、『生贄』という言葉に、伝えなければならない事実を思いだす]
イ、ア
[イアンと、ツェツィーリヤがこの手にいる。 途切れ途切れに発した2人の名前と、無理矢理持ち上げようとした右手の腹で、彼女に意味が通じたかどうかは分からない。 それでも、伝えておかなければならない。 おそらくは……自分も群から離れる時が、近づいてきているのだから]
(97) 2013/06/20(Thu) 23時頃
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……うん。
[ツェツィーリヤは微笑んでいる。
けれど、それは自分が何度か目にしたそれとは違い、何処か寂しそうだと感じた。]
……。
…ごめんな、さい。
[震える声でやっと紡いだのは、謝罪の言葉。]
[生と死の狭間を漂っていた時に聞こえていた魔物の声は、
今もまだツェツィーリヤに聞こえている。
それは、魔法使いの右腕が
魔物に近いものであるからなのだろうか。
或いは、他に理由があるのかもしれない。
聞こえた氷蜥蜴の声に
何処か言い訳のような響きを感じていた。]
[短い沈黙の後にイアンが紡いだ声は震えていて。]
……何を、
謝るのでしょうか?
[返す言葉は、あの時と同じ言葉。]
|
[謝るコリーンの声がする。微かに顔をあげて彼女を見やる>>98。 聞こえてくるのは詫びの言葉。 狼であれば、赤い雨の薄まる頬の筋を、舐め取っていたのかもしれないが。 詫びるは……むしろこちらの方だ]
……っ。
[イアンとツェツィーリヤのことが通じたかどうかは分からない。 右手を受け止められ、そのまま運んでくれようとしていることは分かった>>100。 体を動かす力は残っていない。 小柄でも、脱力した体は重かろうと、精一杯首を振ろうとする。 おそらくは、もう長くないことは、自分でもしっかりと理解している。 だから、精一杯の力を込めて、訴えた。「頼、む……」と]
(101) 2013/06/20(Thu) 23時半頃
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[返される言葉は、生前の彼女が言ったのと同じものだった。]
…だって。
貴女を倒して、生贄にしようとしたでしょう。
[自分の足音を聞きつけて後を追ってきた彼女を、魂を取り込もうと狙った。
もし彼女があの時自分を追わなかったら。
ヴェスパタインの血を服に付けていた彼女に、嫌疑がかかっていたかもしれないけれど。}
|
[泣き声が聞こえてくる>>103。ヴェラは困ったようにシュンとなる。 頼みたいこと。それは、『喰って』くれ、と。 私が受け継いできた数々の魂を、かわりに受け継いでやってくれ、と。 そう伝えたかったが、コリーンが泣いているからか、それとも単純に口を動かす筋力が残っていなかったからか。
言葉はこれ以上出てはこなかった。
体が冷えて行くのを感じる。訪れる時が、すぐか先かは分からないが。 こうして看取られるのも悪くはないな、と動かぬ体は彼女に委ねた。 女はいい。温まるし…………などと思いながら、やがては瞼をゆっくりと閉ざしていくことだろう]
(105) 2013/06/20(Thu) 23時半頃
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私は、魔法使いです。
魔物を討伐することが任務です。
その際殺されることも覚悟していました。
対して、あの時の貴方は魔物でした。
魔物が魔法使いを殺そうとするのは、自然でしょう。
[ツェツィーリヤは、淡々と事実を告げる。
イアンが魔物ではないと知らなかった時。
ツェツィーリヤ自身を魔物と思って
攻撃しようとしていたとも思っていた。
どちらにせよ、其れは自然な行動だったと。]
…っ…。
ヴェラさん…っ。
[宿主の異変は右手にも伝わってくる。
彼の傷ついた身体が限界に近い事は分かっていた。
ツェツィーリヤの身を生贄にした魔法がなければ、或いは自分が手を下していたかもしれないけれど。
今まさに、途切れそうになっている命を想い、顔を歪める。]
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[悪くない。誰かに看取られて終えるのは悪くない……が。
ただ、叱られそうだな、とは思う。 群れの仲間に対してか、右手に込められた魂たちに対してか。
だから、ヴェラは心の中で、すまんと一言詫びを入れた。 それは、傍にいるコリーンや群の仲間に対してと、ツェツィーリヤや、イアン。 この右手で受け継いできたはずの魂たち。
あんまり先の事を考えず、大言を吐き続けてしまったものだから。 今更引っ込めるのは、相当心苦しいのだが。
これ以上、群を守ることも、魂を引き継ぎ続けることも叶わない私は]
(108) 2013/06/21(Fri) 00時頃
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|
私……は、弱かっ、た……。
[吐き出す息と、ほとんど聞き分けられないだろう声。 すまない。
最後に口惜しげにそう呟いて、そのまま意識は遠ざかって行った]**
(109) 2013/06/21(Fri) 00時頃
|
…ツェツィーリヤさんは冷静ですね。
[淡々と事実を告げる彼女。
それは魔法使いとして正しい思考だ。
けれど。]
―でも、何で俺にやり返そうとしなかったんですか?
魔物になる前から、俺は貴方を狙ったでしょう。
[戯れに彼女に斬りかかったわけでない事は分かった筈。
あの時に彼女が自分の身を守ろうとしなかった事に対する疑問を口にした。]
ヴェラは、遅いではないか。そうは思ったものの、耳に聞こえた言葉>>107に、私もだ、と小さく首を……**
2013/06/21(Fri) 00時頃
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