人狼議事


68 Trick or Treat? ― Battle or Die ―

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[捕えた首は、もううたない脈の震えでも伝えるかのように
震えている。そう男は思う。
人差し指でその首を真横になぞりながら、壁のこちら側から男は問いかける]
ここ――食われたんでしたっけね。

ああ。
死んだら、生きながら食われた苦しさは無くなったでしょう?
……もう一度死んだら、
[もう片方の手も壁から突き出て、長身の男の首元へ]
もう苦しくはないのかもしれません、ね?

[右手で首を抑えながら、左手は首筋をなぞるよう]
それか、痛い原因をすべて取ってしまえば。
良いんじゃないでしょうか。
食われた指が、後を引くなら。指を。
千切れた皮膚が泣くのなら。皮膚を。

[ね?
静かな、低い声は壁を通り抜けて。ただ根拠のない発想を投げかける。
口調も視線もどこか酩酊に引き込まれたように、蕩けかけて]


……あ、……あ……

[首を指先でなぞられる。男の体は、瞳は、声は、震えて。体を強張らせたまま、もう一本の手が首に触れるのを感じた]

……お、……俺は……
俺は、……もう……

[死にたくなんてない。死んで尚死にたくなんて、ない。そう口にする事は簡単な筈だった。だが、喉が詰まったように、言葉が出てこなかった。本当に、この恐怖から、絶望から、悪夢から、開放されるのだろうか。開放、されるのなら。
 そんな、泡沫のような思いが浮かんできて]

俺は……

[首を横に振りも、縦に振りも、相手の手を払いも出来ず。
 ひ、と、引き攣った吐息のような音が口から漏れた]


「俺は」……?
貴方は、どうしたいでしょう?
[首を締める手はあくまでも、力を込めずに添えるだけ。
身体の緊張が喉元に全て集まったような、そんな音が聞こえて。
左手はゆっくり上がっていく。
途中戦慄く唇に触れることはあったのだろうか。
途中ピアスに触れることはあったのだろうか。
恐らく目のあたり、そんな曖昧さが支配した世界で男は左手を止めた。
視界を覆ってしまうよう、暗闇に引きずり込むよう。]

もう一度死ぬか、思い出すものを

[首触れたままの右手が肌をなぞる]

取ってしまうか。

どちらが、助かる道だと思いますか。

[その二つしかないのだとでも言うように、繰り返して
選択をしろと迫る。波風たたぬ声のまま]


……、

[左手が体に触れていく。クロスのペンダントの鎖に、顔の輪郭に、揺れる髪に、薄く開かれた乾いたような唇に、ピアスを失った左耳に。ふっと、視界が奪われて]

あ、……

[闇に落ちた世界。かちかちと己の歯が鳴る音が聞こえた。荒い呼吸や鼓動の音が聞こえてくるかのように錯覚した]

……俺、は。……
……何……だよ、……思い出す、もの……って。
なんて、……

わかんねえ、よ……

[弱々しい、半ば涙混じりのようにも聞こえる声を零す。迷子になり、途方にくれた小さい子供かのように]


あの男に、食べられたところ。
取ってしまえば、食べられた痛みなんて
思い出さないんじゃないですか。

[困惑に塗れた声に返すのは、それまでと同じ静かな音。]

首、噛み切られてましたよね
指、無くなってましたよね

[男はその死体を観察まではしていないから
自然、部位もあやふやで。
けれど左手で視界を覆ったまま、呼吸の必要のない気道を探るよう
右手は緩く首に爪を立てる。]


甘い匂い、させてましたよね。
[けれど声に反するよう、右手はその首を離れる]


……食べられた……とこ、……

[そう繰り返した時には、声の震えは一際増して。首、噛み切られて。指、無くなって。損なった部位を並べていく言葉を聞くと、映像が鮮明に浮かんで、苦痛が半ば反復されて、強く歯を食い縛った。結局下ろされた拳も、握り締められ]

……甘い匂い、なんて……
俺は、……

[なんで、あいつも、こいつも。俺を、おいしそうだなんて、あまそうだなんて、いうんだ。だから、俺は、あんな羽目に。こんな羽目に。どうして、俺は、こうなった、んだ。
 切れ切れの恨みめいた思考が渦巻いて]

……本当に、……思い出さなくなるって……
怖くなくなるって、……言うのかよ……
助かるって、……言うのかよ……

[言葉は、独り言のように]


[未だ視界を覆ったまま。壁のこちら側で、男は口端を持ち上げた。ゆる、と口を開きかける。
声だけでも理解できる震えは、喉に触れていたらより知れたことだろう。離した右手を少しだけ後悔した。

尋ねられる言葉に、男は視界も解放させた。すうと壁にのまれて消えていく両手を、長身の男は見たのだろうか。
選択肢だけ与えて、それ以外は知らないと。
少しく開いた口元で男は言う。声音にも少しの笑いが混じるよう]

さあ……?
俺には、保証できません。

ですが。
死んだはずなのにこうして“生きて”
いつ終わるか分からない、苦しい思いをするよりも。

[とん、と壁際から離れる。声はさらに遠く、静かに。]

救われるのでは、ないでしょうか。

……試すときは、教えてくださいね。待ってますから。


メモを貼った。


……っ、……あ、……あ……

[視界が開ける。体から手が離れていく。壁に消えていく手が、刹那、見えた。震えの一端のように視線を彷徨わせる。口からは、呻きとも喘ぎともつかない、弱く掠れた声が漏れて]

……お、俺は……
俺は、……俺は……っ、……

[呟く。ぐるぐると捩れ回る思考を、そのままに]

……っぐ、……ぐえ、
っえ……は、……かは……っ、

[不意に、口元を押さえ、前のめりになった。体中に激痛を、胃の奥に甚だしい吐き気を、喉に熱さを感じて。
 えずく男の口から、吐瀉物や胃液が零れ落ちる事はない。代わりに、肉片や内臓の欠片のような得体の知れないグロテスクな物体が、赤黒い血のような大量の液体と共に、幾つも吐き出されて]

……が、……はあ、……
ひ、……あぁ、……ひ……っ、……


[吐き出された全ては、床に落ちると間もなく跡形もなく消えていった。男は口元を押さえたまま、よろりと踵を返し]

い……いぃ、……あぁ、……

[呻きながら、蹌踉と何処かへと歩き出した。男の内は黒き思いに、絶望に満ちて。死して尚、気が触れそうだと、思った。もう、触れているのかも、触れかけているのかも、しれないと、思った。死しても開放されない、地獄。
 呪いのかけられたお菓子を口にした男の陥る、
 それはまさに、*呪いのように*]


メモを貼った。


メモを貼った。


[すうと引いた手が可視範囲に帰ってきて、男は一度緩く握る。
開きながら、再びの屋根の上を目指して歩き出す。今度は通り抜けるのではなく、階段を使って。
途中キッチンを抜けた。誰もいないのに掛かっていた薬缶は暖かかった。途中寝室を抜けた。赤ずきんよろしく、狼の化け物が寝台で寝ていた。途中子供部屋を抜けた。クラウンの布人形が落ちていた。]


子供には、クラウンは人気なんでしょうか。

[止まってしまった足はなかなか歩き出さない。ふ、と手を伸ばすが決して触れることはない。
埃の被った白い肌と赤い口、頬には涙と星のペイント。彩り鮮やかなクラウンは、にっこりと笑っている]


[メイクが為されているような手付きで、男は頬に触れた。赤い笑んだ唇を、全てを隠すペイントを想像した。なぞるように、反対側まで引っ張ってから。
力を抜いた。]


[男は再び歩き出す。階段を登り終えれば、天井を抜けて屋根の上に出た。足音を立てない散歩を開始しながら、ゆっくりふらふらと。]


メモを貼った。


[歩きながら、爪を心臓付近の皮膚に立てる。だいたいこの辺だろう、突き刺さったのは。
凍えるほどに熱かった一瞬を思い出そうとして、男は眉を寄せた。]

――ああ、やはり分からない。
思い出せるのは、少なくて。

……あんなに怯える気持ちが分からない。

[この手にまだ爪があったなら、皮膚を引き裂き体験出来たろうか。まだ粘着質が溢れ出ていたなら、染み込む毒液から辛さを思い出せたのか。]


ねぇ、貴方は何にそんなに怯えていますか。

[言葉を放りなげた先は、]


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