197 獣ノ國
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……アタシはね、チョコレートが好き。
後は、ココアとか、ホットミルクとか。甘くて、安心出来る物が好き。
[身を乗り出し彼と向かい合ったのなら、軽く右手を上げ、一つ彼に教える度に指を折っていく。ひとつ、ふたつ。彼が教えてくれたのと同じ様に、自分の事を、少しずつでも彼には伝えてゆく。
たったこれだけで、胸が弾む様に高鳴った。たったこれだけで、満たされてしまう]
それと、やっぱり舞台は外せないわね。
アタシ、人に見られるのが好きなの。舞台に立って、役を演じて。……そこに向けられる視線が、堪らなく好き。
……そして、
[指を折るのを止め、ふと視線を彼に向ける。指先を握るその手を一度離したなら、絡める様に手を繋いだ。
そうして満足そうに口元を緩ませて、そっと。その手を自らの胸元に当て様としただろう]
――アナタの事が、すき。
きっと、これがアタシの中でいちばん大切なこと。
[押し当てたてのひらに、高鳴る鼓動は伝わるだろうか。張り裂けそうなくらいの、この気持ちは。
微かに震えてすらいる手を、ぎゅっと握り締める。少し冷えた指先でも、きっと彼よりはあたたかいんじゃないだろうか。ほんの僅かでも、この熱から。彼への想いが伝われば良いのに。
伏せた瞳を縁取る睫毛が、ふるりと震えた。それでも口元は柔く微笑んでいる。
ああ、愛しさというものは。……こんなにも、泣きだしそうなくらいに、胸を締め付けるものなのか]
……アナタにとっての、いちばんじゃなくても良いから。傍においてね。
[向かい合うのを止め、彼の肩に頭を乗せる。ゆるりと胸元から手を離して、重ねたままその手を降ろす。手袋越しの体温は、何とももどかしいものではあったけれど。柔く伝わる彼の体温が心地良くて、離す事など出来やしない
――そうして小さく小さく呟いた言葉は、彼に届いたかどうか。届かなくたって、別に構いやしないけど]
[コンコン、といつかの悪夢を思い出させるような音:334に、ベネットは身体をびくりと緊張させた。
そろりと窓を見ると、銀いろの―――銀河の岸のすすきとおなじいろの紙がはためいていて、声を失った。
半ば取りつかれたようにカララ、と乾いた音を立てて窓を開ける。]
君は…………
[つぶやいてから手を取って列車に招き入れると、折りたたまれる翼に、ふっと目を細めた。いつか落ちていた羽根は、彼女の物だったのかもしれない。
窓に腰掛けてつま先をゆらし、なにもいわない。本当に彼女だろうか。ジョバンニが見たカムパネルラのように、いつか消えてしまうまぼろしだろうか。]
『ぼく、白鳥を見るなら、ほんとうにすきだ。川のとおくを飛んでいったってぼくはきっとみえる。』
[音もなく列車が止まったとき、おもわずそう言った。彼女は振り向いたろうか。]
[音もなく列車が止まった。
振動も何もないのに確かに『止まった』と思ったのは
車窓から光の尾を揺らし、後ろに流れる赤や橙の灯火や
燐光の三角標が後ろに止まって見えたから。
息をすることも忘れて、列車の止まった先を見つめ
窓から停車場に降り立とうとした時、ふと後ろから聞こえた声
こくんと息を呑み、声の主を振り返り。]
時計は11時かっきりですか?
[彼の方を見つめ、そう問いかけた。]
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