156 カイレミネ島の雪
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[何故?と聞かれれば、言葉がつまる。 口が鉛になったように、それを口にすることができなかった。 いっそ、昨日ヒューの次は私って約束したでしょ?と嘯いてしまいたかった。だが目の前の青年は、そんな言葉では決して納得しないだろう。 だから告げる。自分が分かったことと、それによって考えたことを。 そうでなくとも、おそらく自分が誰かにこれを伝えるチャンスは、ほとんどないだろう。]
あのね、ブローリン。聞いてほしいの。
―――――――――ヒューは、冬将軍だったわ。
(61) 2013/12/23(Mon) 22時半頃
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[彼はどんな反応をしただろうか?確かめるのが怖くて、そのまま言葉を並べた。]
でもね。雪がやまないのよ。 ヒューが眠ったのに!その後も、雪はどんどん降り続いているのよ。 ヒューは確かに冬将軍だった。おばあちゃんの本に書いてある通りだった、なのに!
[そこで感情的になっていた子をに気付き、声を潜める。]
…だから私思ったのよ、きっと。 これはあなた達が言っていた通り、冬将軍が複数いるか。
「私」が嘘をついているか、どっちかだって。
[涙が溢れそうになるのを懸命にこらえる。 駄目だ、こんなところで泣いてしまったら。きっとブローリンを困らせてしまう。]
(63) 2013/12/23(Mon) 22時半頃
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私ね。昨日のヒューの言葉が「冬将軍」の言葉とは思えないの。
[彼の言葉、表情の数々を。今でもはっきりと、思い出せる。 あの時あそこにいた彼は、「ヒュー」だった。]
そうなると冬将軍は、自分でも気づいていないうちに、誰かに取り込んでいるってことになるわ。その人の意識を、残したままね。 そうなるとね、今冬将軍の可能性が一番高いのは、きっと私なのよ。
[雪が振り始めてから、ヨーランダとジリヤに会ったのは誰だったか?
それは自分だと、彼女は言った。 自分もそうだと、彼は言った。
目の前の青年も当然その会話は覚えているだろう。]
(66) 2013/12/23(Mon) 22時半頃
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もし冬将軍が複数だとしたら。 ヨーランダとジリヤに出会っていたヒューは冬将軍で、同じように私も彼女らと出会っているわ。
そして冬将軍が一人だとしたら。 ヒューは無実で、私が自分でもわからないまま、「嘘の判定」を言っている可能性がある。
そして冬はまだ終わっていない。どっちにしても、私は私が冬将軍である可能性があると思っている。なら、
[そこで一瞬、息をのむ。]
次に飲むのは、私でいいと思うの。
[そう言って、ほほ笑んだ。]
(67) 2013/12/23(Mon) 22時半頃
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[これでいいと思った。 もし自分が冬将軍で。 そのせいで大切な誰かが眠ってしまうのなら、そんなのは耐えれない。
もしブローリンが渋るようなら、安心させるように笑顔を浮かべる。]
心配いらないわ。たとえ私が冬将軍じゃなかったとしてもね。 あなた達ならきっと、この冬を終わらせてくれるって信じているもの。 そうしたら、私はきっと目覚めるわ。それに…。
[少し言いづらいように逡巡したが、やがて意を決したように続ける。]
私、夢があるの。叶えたい夢。 だから絶対に眠ったままにはならないわ。どんなことがあっても目覚めてみせる。
[そして最後に悪戯っぽく付け加えた。]
私の大切な人ね、みんなちょっとお寝坊なの。 だからその人たちが眠っちゃうより、ずっとましだと思うのよ。
(69) 2013/12/23(Mon) 23時頃
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[もし彼が頷いてくれるようなら礼を言い、それでもなお反対するようなら、無理やり約束させた。]
この話、皆には内緒にしてね。 私が冬将軍なら、もし私が冬将軍じゃなかったらとか、余計な心配させてしまうの申し訳ないし。
…冬将軍じゃなくとも、結局起きるんだから、やっぱり余計な心配だもの。
[不意にトレイルとマドカの顔が浮かぶ。 二人とも、私が薬を飲むと言ったら、なんて思うのかしら。 止めてくれるのかしら?それとも仕方ないって、送ってくれるのかしら。 考えても仕方がない。二人に自分の考えを告げるつもりがない以上、その答えを確かめることはできないのだから。 送ってくれるのなら、それでいい。私も笑顔で受け入れられる。]
(でも、もしも止めてくれるのなら)
[…やはり私は、二人に言わないで眠るのが正解なのだろう。]
(71) 2013/12/23(Mon) 23時頃
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−その日の夜・自宅−
[その後家に帰ると、雪の中出て行った娘を両親が心配して出迎えてくれた。 心配かけたことを謝り、いつものように家族で食卓に付き、団欒を交わす。 両親には、何も言わなかった。
心の中でだけ、ごめんなさいと、ありがとうを告げた。]
(心配かけて、ごめんなさい)
(私の人生はあなた達のおかげで、とてもとても、幸せだったわ)
[ベッドに入ると、窓からずっと外を眺めていた。 際限なく振る白を。幼い頃から夢に見た光景を。
瞳に焼き付けるように。 ずっと、ずっと、眺めていた。]
(73) 2013/12/23(Mon) 23時頃
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−次の日−
[雪の結晶のストラップ。 それをお気に入りの紐に通すと、自らの首にかけた。 鏡に映すと、それはあつらえたかのようにぴったりだった。こんな時なのに少し嬉しくなる自分が、不思議だった。
自分は化粧はしない。肌があまり強くないのと、普段の気候だと、汗で流れた時の不快感の方が勝るからだ。]
(…化粧の一つでも覚えているような子だったら、私ももう少し、女の子らしくなれたのかしらね?)
[鏡の向こうには、一見華奢でお淑やかそうな娘が映っている。だがその娘が決してそうでないことは、自分が一番よく知っている。]
ストラップをくれた女性のことを思い出す。 とてもとても、きれいな人だ。外見も心も。 彼女も今、眠っている。
こうして彼女にもらったものを身につけていれば、少しでも彼女の強さに近付ける気がした。
化粧のしない自分にとって、唯一の戦装束であり。 死に化粧だった。]
(76) 2013/12/23(Mon) 23時半頃
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行ってきます。すぐ戻るわ。
[そう言って家を出た。行先は診療所。 そこで礼を言って薬を受け取った。 どこで飲もうかと考え、さすがに二日続けてブローリンに見届けてもらうのは気の毒だと、診療所を後にする。
足が向かった先は、海だった。]
…海は嫌いなのにね。
[それでも凍りついた海面の上に雪が積もり、その姿を覆い隠しているのを見て、少しさびしかった。
幼い頃に溺れてからずっと毛嫌いしていた母なる水面。なのに最後にここに来てしまったのは、きっとこの騒動が始まる前に、行こうとしていたのがこの場所だったからだろう。]
(79) 2013/12/23(Mon) 23時半頃
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−海− さてと、そろそろ行こうかしら。
[凍っているものは仕方ないと、腹をくくる。 思えば今まで自分の願いが成就したためしはなかった。
幼馴染が苦しんでいるのになにも出来なくて。 彼のために雪を見せてあげたくて、やっぱり出来なくて。 代わりにマリンスノーを夢見て、でも泳げなくて。 練習しようと海に入る決心をした瞬間、海は凍りつく。]
(しかも。ねえ、信じられる?) (マリンスノーって、生身の人間ではとても潜れない、深い場所でしか見られないんですって)
[それは昨日、眠る前にポケットから見つけた小さな紙切れ。 >>2:3図書館で見つけたそれは、彼女がずっと探し求めた欠片の一部だった。>>2:23]
(冬将軍が訪れなくても結局無理だったなんて。……本当に何もかも、叶わないのだから、嫌になるわね。)
[怒りを通り越して、なんだか情けなくなる。]
(81) 2013/12/23(Mon) 23時半頃
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(でも、) (それでも、どうか)
『大切な人が幸せにほほ笑んでいてくれますように。』
[幼い頃からずっと願っていたこの祈りだけは。 どうか、叶いますようにと。
頼むわよ、神様。
…そう、静かに祈りをささげ。
小鬢の薬を飲み干した。]
(83) 2013/12/23(Mon) 23時半頃
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[その瞬間、彼女は孤独だった。 永遠の眠りかもしれない旅路。それを見送る人は誰もいなくて。 それはとても心細くて、とても辛くて、 ―――とても、寂しい。]
(やっぱり、一人で眠るのは、嫌だわ)
[ブローリンには強がりを言ったが、自分が冬将軍だとしたら、もう目覚めることはないのだと、誰かが言っていた。 そして違っていたとしても、目覚められる保証はどこにもない。]
(怖い。怖い、怖い。) (こんなのいやよ、一人はさびしい。誰か一緒にいて。お願いお願いお願い――――!)
[それでも、薄れゆく意識の中、ぼんやり思ったのは。]
(こんなにつらい思いするのが、)
あの二人じゃなくて。 本当に、よかった。*
(87) 2013/12/24(Tue) 00時頃
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