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――いっそ、時を止めてしまおうか。
["そうしたら、離れずに済むだろう?"、なんて。戯けるように言葉を投げながら、僅かに身体を離して彼の手を引き。
彼がそれに倣ってくれたのなら、二人で共にソファへと。あの夜語り明かした時のように、寄り添おうとしただろう。]
そう言えば、殴られた…と言っていたが。
口の中は、まだ痛むか?
痛むなら、氷を持って来るが。
[珈琲が染みる、と言っていたから、恐らくは顔を殴られたのだろう。痛みが無いように、そっと頬へと――今更かもしれないけれど――触れながら。
そうしてまた、痛みの具合が解らぬ男は、啄ばむように唇を寄せ。指をそっと握ったのなら――あの時血で濡れていた指は、未だ痛みを伴いはしただろうか。]
しかし情けないかな、俺は君の趣味はおろか…好物すら、知らないんだ。
……ヨハン。
君の話も、聞かせてはくれないか。
[彼へと寄り添い、軽く目を伏せながら。彼を求めるように投げてみた言葉に、彼は果たして応えてはくれるだろうか。]
[頭の中で捲られる物語のページ。
その最後の言葉が終わった後。
列車は音もなく何処かに止まった。
シン、と空気のなる音が耳の奥をこだまする。]
白鳥の停車場ですか―――?
それとも
[降りるべきなのかどうか、自分にはわからない。
そもそも最初から乗っていたわけではないのだから
この列車が今どこを通っているのかわからない。
本屋の店主ならば知っているのかもしれないけれど。
星空を走る列車を一つしか自分は知らなかった。]
南十字星を観たいです……。
[あの本の列車とこの列車が同じなのかはわからない。
けれども、もしも同じものなら。
そして、同じ道筋を通るなら。
獣になることを選んでまで
近づきたかった場所を通るのでは―――
そんな感じがした。]
……気に入ってくれたみたいで、良かったわ。
[嬉しそうに笑う相手
頬に返される口付けにぴくりと体を震わせながら、彼の指す時計へ視線を向けた。覗き込まれる瞳に気付いたなら、すぐに見つめ返しただろうけど]
るー、……ん、
[彼の名を呼ぶ形に開かれた口は、荒い口付け
角度を変え、重ねる度に熱い吐息を零す。やがて唇が離されたのなら、見せ付ける様に唇を舐めてみせた。
手を引かれたのならそれに従って、逃すまいとするその腕に寄り添う。そんなに力を込めなくても、逃げるつもりなどないのに、なんて。胸中でだけ苦笑しながら]
あら、良いわね。
そうしたらきっと、蝶も寂しくないわ。
[最後に一度、彼がそうした様に時計に口付けて、手を引かれるままソファへと導かれた。
座る彼に体を預け、腕を絡ませる。そうして緩む口元を隠しもせず、彼の方を見上げただろう]
……もう痛くないわ。
氷なんか要らない。
[頬に触れる手
実際の所、切れた口は未だに痛むのだけれど。素直にそう言って、彼が離れて行ってしまうのが嫌だった。……例え、氷を持ってくるだけの僅かな時間でも。もう、離れたくはないから。
寄せられる唇と、指先に触れる手と。その二つに目を細める。口内は兎も角、指先の痛みはとうに無くなっていた。
そうして、乞う様に投げられた言葉には、幾度か瞬く。けれどすぐにはにかむ様に微笑めば、よりいっそう彼に寄り添って]
……アタシはね、チョコレートが好き。
後は、ココアとか、ホットミルクとか。甘くて、安心出来る物が好き。
[身を乗り出し彼と向かい合ったのなら、軽く右手を上げ、一つ彼に教える度に指を折っていく。ひとつ、ふたつ。彼が教えてくれたのと同じ様に、自分の事を、少しずつでも彼には伝えてゆく。
たったこれだけで、胸が弾む様に高鳴った。たったこれだけで、満たされてしまう]
それと、やっぱり舞台は外せないわね。
アタシ、人に見られるのが好きなの。舞台に立って、役を演じて。……そこに向けられる視線が、堪らなく好き。
……そして、
[指を折るのを止め、ふと視線を彼に向ける。指先を握るその手を一度離したなら、絡める様に手を繋いだ。
そうして満足そうに口元を緩ませて、そっと。その手を自らの胸元に当て様としただろう]
――アナタの事が、すき。
きっと、これがアタシの中でいちばん大切なこと。
[押し当てたてのひらに、高鳴る鼓動は伝わるだろうか。張り裂けそうなくらいの、この気持ちは。
微かに震えてすらいる手を、ぎゅっと握り締める。少し冷えた指先でも、きっと彼よりはあたたかいんじゃないだろうか。ほんの僅かでも、この熱から。彼への想いが伝われば良いのに。
伏せた瞳を縁取る睫毛が、ふるりと震えた。それでも口元は柔く微笑んでいる。
ああ、愛しさというものは。……こんなにも、泣きだしそうなくらいに、胸を締め付けるものなのか]
……アナタにとっての、いちばんじゃなくても良いから。傍においてね。
[向かい合うのを止め、彼の肩に頭を乗せる。ゆるりと胸元から手を離して、重ねたままその手を降ろす。手袋越しの体温は、何とももどかしいものではあったけれど。柔く伝わる彼の体温が心地良くて、離す事など出来やしない
――そうして小さく小さく呟いた言葉は、彼に届いたかどうか。届かなくたって、別に構いやしないけど]
[コンコン、といつかの悪夢を思い出させるような音
そろりと窓を見ると、銀いろの―――銀河の岸のすすきとおなじいろの紙がはためいていて、声を失った。
半ば取りつかれたようにカララ、と乾いた音を立てて窓を開ける。]
君は…………
[つぶやいてから手を取って列車に招き入れると、折りたたまれる翼に、ふっと目を細めた。いつか落ちていた羽根は、彼女の物だったのかもしれない。
窓に腰掛けてつま先をゆらし、なにもいわない。本当に彼女だろうか。ジョバンニが見たカムパネルラのように、いつか消えてしまうまぼろしだろうか。]
『ぼく、白鳥を見るなら、ほんとうにすきだ。川のとおくを飛んでいったってぼくはきっとみえる。』
[音もなく列車が止まったとき、おもわずそう言った。彼女は振り向いたろうか。]
メモを貼った。
メモを貼った。
[音もなく列車が止まった。
振動も何もないのに確かに『止まった』と思ったのは
車窓から光の尾を揺らし、後ろに流れる赤や橙の灯火や
燐光の三角標が後ろに止まって見えたから。
息をすることも忘れて、列車の止まった先を見つめ
窓から停車場に降り立とうとした時、ふと後ろから聞こえた声
こくんと息を呑み、声の主を振り返り。]
時計は11時かっきりですか?
[彼の方を見つめ、そう問いかけた。]
![]() | 【人】 双生児 オスカー―――――――――――――― (183) 2014/10/10(Fri) 23時頃 |
![]() | 【人】 双生児 オスカー― 現在:本屋内 ― (184) 2014/10/10(Fri) 23時頃 |
![]() | 【人】 双生児 オスカー ――…本当に、いないよ。こんにちは、吉サン。 (185) 2014/10/10(Fri) 23時頃 |
[彼の方に向けていた顔を逸らすことなく、
けれども緩やかに瞼を閉じる。
自分と重ねてしまうことの多かった物語の登場人物。
その台詞が口をついて出る。]
『お母さんは、僕を許してくださるだろうか』
[それは遠い遠い三角票の辺りにいる母親を思って
どもりながら思い切ったように、カムパネルラが口にした言葉。
自分とは境遇も何もかもが違う。
けれども言わずにはいられなかったのだ。
空に近づけば逢えるのではないか―――と
遠いところに居場所を求め
翼をもらった自分のことを許してくれるのだろうか。
そんな不安が心の中にぽかり浮かんで揺れていた。]
![]() | 【人】 双生児 オスカー[彼>>134の前に戻れば、僅かに低い相手の瞳を覗き、一寸喉を唸らせる。 (194) 2014/10/11(Sat) 00時頃 |
![]() | 【人】 双生児 オスカー[――便利屋の青年はまだ店内に残っていただろうか。 (222) 2014/10/11(Sat) 01時頃 |
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