191 忘却の箱
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[だから、少しだけ言葉を選ぶように口を開かせる。
いち、にい、さん。
有した時間は3秒。顔を上げて、真っ直ぐと見つめる。]
…あるよ。
[中指を一つ、弦に触れさせて。
ピックではなく指で弾くように右手で弦を摘び音を奏で、首を傾げる。]
……せっかくだから、あんたと曲を作ってみるのもいいかもね。
音が足りないのなら、歌えばいい。
[口遊む声はどこか調子外れであるから、誤魔化すようにストラップを外しながら、隣を指差し彼を傍らへ促そうと。]
…勿論、喜んで。
[零された言葉には、瞬きを数度すれど、やがては破顔したような。
花が綻んだような笑みを向けて。
新しい旋律を紡ごうと、指を滑らせたのだっけ。]**
─回想─
[手前の椅子が小さく軋む。
見上げた先、褐色の青年を映す。]
…やってた、かも。
[不明瞭に答えてはまたすぐスープの入った皿に視線を落とす。
揺れる波紋と、花。]
まあ、今は音が鳴らないんだけど。
[弦を弾けどシャリシャリとした小さな音しか紡げぬギター。
自分はよくそれを弾いていた、筈で。]
アンプ…だっけ。備品室にあればいいけど。
……行くなら俺も行きたい。
[確かそんな名前の機材と繋げば音が拾えた筈。誘いには頷いて。
約束なんて大して信じていなかった彼は、軽い様子で一匙啜り。
“でも今度って、大抵無くなるもんだよ”そんな冗談を一つ、下手くそな笑みを添えて。
そしてようやっと目の前に腰を降ろす青年の瞳を覗き込む。]
俺はサミュエル。
…あんたは?
……もしかして、アコーディオンの人?
[湯冷めするスープなどお構いなしに問いかけたのだった。
彼の問いに青年はどのように答えたのだっけ。
朧気な記憶の中、揺蕩う意識と共に少しの間、思考する。
それは蝶が囁く前の話]*
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