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― ゆうべ:宿泊所・大部屋 ―
[お部屋が足りなくなりまして。
そんな愛想笑いと共に通された、大部屋。
…内実は、鼠が出たことによるちょっとした騒動が原因だったりするのだが、それは青年のあずかり知らぬことだった。]
……広いっていうなら、まあいいか。
[シメオンにTシャツ(たぶん大きい)を貸してやったり、寝る準備をしたりなどしながら、だらだら過ごしていたのだ、が。]
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――えっ?
[大部屋に入ってきた、見慣れた姿
口を開いて、それから閉じる。]
…君も、ここへ来ていたの。
[他人行儀な二人称を使った。
それからややあって、再びぽつりとこぼす。]
それとも、もしかしてさ。僕の幻覚、なのか。
メモを貼った。
メモを貼った。
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―その後 大部屋―
わたしはこのほうがいい
ラルフと一緒だしな
[同年代(っぽく見える)オスカーより小さな身体には大きなTシャツ
捲ってみたり裾をぱたぱたしたり、あまり落ち着かないようだ。
そこから覗いた腹は白く、この暑い数日を過ごしていたにしては不自然に見えなくもない。
大部屋の中を歩き回り色々眺めたり、暇そうに過ごしていた]
……オスカー
[きっと彼もこの部屋であろうことは分かっていた、静かに笑いかける]
……あの子は確かにここにいるぞ。
[あくまでも、静かな声
自分は何も知らないように接してやりたかった、けれど。……
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……少し、席を外す。
ふふ、この建物の中を探険したいのじゃ
[取り繕い笑って見せて、ふいと大部屋から廊下に出た]
[その時]
なあに、すぐ戻って来るからの
心配はいらんぞ
[万年筆を落として行ったことには気付いていない。]
―大部屋→廊下―
[キキーキキッ、大きな白鼠が足元をクルリと回って走り抜ける。]
わッ、モフどこ行ってたの!
[仲良し相手にかける言葉。我に返ってそんな大声が出るけれど、鼠はそのままどこかへ行ってしまった。
お陰で動けるようになった。ありがとうモフ。]
うん、手伝いに来いって呼ばれてた。
兄ちゃんとシメオンも?なんだ、全然知らなかったよ。
さっきちょうど、今頃何してんのかなって気になってたんだ。
[一歩、二歩、ふたりに近づくと頭をかいて笑う。
そういう意味ではないのかもしれないが、明るく返したくて。]
何が幻覚だって?
こんッなにしっかり此処に居るのにさ。
[それは、Tシャツをぱたぱたするシメオンを横目で見ながら、随分懐かれたな、なんて呑気に思っていた矢先のことだった。
聞こえた声
どういう意味だ、と問おうとした、ところ。]
ちょっ、えっ、シメオン……!
[ふいと彼は、笑みと共に出て行ってしまった。
おまけに、二人きりとなれば中座もしがたい。
むっとしかめ面して、オスカーのほうを見やった。]
[
自分より幼く見える彼とどこで知り合ったのか、それは色々な人が集まる宿泊所の事だ。カレーの時も仲良さげにしていたし、ひとり納得するけれど。]
……シメオン?う、うん、行ってらっしゃい。
ええと、お風呂広くて気持ちよかったよ。
[言いつつ、出ていくタイミングにほんの少し慌てた。
誰かが居れば笑い混じりに接することもできようが、二人きりだと何となく緊張してしまうから。]
―宿泊所 廊下―
……
同じ日は二度と来ない。
この夏はもう来ない。
……
その、鼠……、
[さっき触れようとしたら逃げられた白鼠だ。
動物に懐かれるところまで、弟にそっくりだ。
いや、これはそっくりなんていう話ではなくて。]
あのさ。……あざが、あっただろ。
僕が小学校の頃、取っ組み合いの喧嘩して、それで。
[きっかけはおぼろげだ。
だがそれ以来
…まさか、同じ場所にあざまではあるまい。
じいと、固唾をのんでオスカーを見下ろした。]
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……ん。
[こつり、素足に何か硬いものが当たる。
不思議な顔で兄に向け、落ちてるよと言わんばかりに視線をやる。それを落としたのがシメオンだとは、気づけないままで。]
あざ……。ああー、ええと。いつの話してるのさ……どこだっけ?
[シャツを捲ったり腕を回したり。怪我はよくある事だったから、兄につけられた痣の1つ、こちらは気にも留めていなかった。だからわざわざ思い返していて、見つけるのに数秒かかった。
あった、右の腰だ。見下ろす長身をちらと上目遣い。
もしかして、もしかして。信じようとしてくれてる?]
……喧嘩ったって、僕が転んでおもいっきりぶつけた時のじゃんか。
しかもゲーム機きえたって勝手に僕が大騒ぎしたヤツだろ。
[仲直り後に気にするなと何度言ったか、さすがに忘れた。]
[向けられた万年筆
あとで、シメオンに渡しておいてやろう。
[近眼のため、まだそれが何かには気づかず。
手渡されたならば、何気なくポケットへと。
それから、右の腰を示されると、盛大に顔をしかめた。]
…ちょっと待て。
いや、うん、その通りだ、その通りなんだけどさ。
有り得ない。……有り得ない。
[もう、目の前の少年がオスカー・ブラックストンでないと信じるだけの言い訳は、尽きた。
しばし額に手を当てて、唸る。]
オーケー、…じゃあさ。これでどう?
[しばらくして、重い口を開く。]
オカルトなんて、存在しない。
ただあるのは、人間の脳の誤認だけ。
つまりは、これは、僕の夢みたいなものだ。
だけど、いや、夢だからこそ、だ。
―― 君は、僕の弟に他ならない。
[それはオスカーが望んだ形であったかどうかは知らない。
けれども、幽霊の存在を信じこむほど素直でない青年にとって、彼を弟と認めるうえでの精一杯だった。…少なくとも、今は。]
――おかえり、とかすれた声で呟くと、ぷいとそっぽを向いた。
[ずっと部屋の前にいた狐、話までは聞こえ無かったので暫くし適当なタイミングで大部屋に戻る
その頃には二人の会話も一段落していたことだろう。]
うむ、ただいま
探険はつまんなかったぞ。
[二人の顔をそれぞれじいっと見て、何かを察し微笑んだ**]
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[有り得ないと連呼する
今の状態でこれ以上は余計混乱させるだけだろう。きっと。
だからと思って緊張に耐えていたのに、
はあ。でも、いいや……今はそれでも。
やったら現実的になっちゃったんだね、まったく。
[本当に夢のように消えてしまう前に、
弟だとわかってもらえただけでも、今は十分な気がした。
ではこれが現実だと理解させるにはどうすればいいか。
もう一度取っ組み合いの喧嘩でもふっかけようか。
なんて過激な方法を考えていた時、聞こえた、ひとこと。]
…………っ、
[我慢の糸が、切れた気がした。]
――ただいま、ラルフ兄ちゃん。
[そう、泣きそうな声で、抱きついた。
意地とか空気とか、そんなもの投げ捨ててしまえ。
逢いたかった兄に、ようやっと辿りつけたんだから。]
認めるのおっそいんだよッ、……バカ兄。
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[抱きついてきた弟
ずいぶん小さいな、と一瞬感じて、それから、自分が大きくなったのだ、と苦く思う。夢ならば、こんなところまでリアルでなくてもいいのに――と。
それでも、むすっとした顔でちらと見やって。]
バカってなんだよ、バカって。
僕みたいな頭脳明晰な兄貴なんか、世界に二人といるもんか。
[髪の毛を、くしゃくしゃと荒っぽく撫でてやった。*]
[それから、オスカーとは何かまだ話しただろうか。
じきにシメオンが戻ってきて
お帰り。そうそう面白いものなんて、ないだろう?
せいぜい卓球台とか、ああ、旧式のゲーム、とか。
[時代遅れの宇宙人を打ち落とすゲームかなにか、
この手の古い旅館には、なぜかあったりするものだ。]
ああ、そうだ――、
[ペンを返してやろう、とポケットに手を入れて。
ふれた感触に、眉をひそめた。
いや、なんでもないよ、とその場は曖昧に笑った。]
― ゆうべ:風呂場 ―
[脱衣所で一人になったときのこと。
先刻拾った万年筆に、目を近づけて呆然と。]
……有り得ない。
[さっきつぶやいたばかりの言葉を、もう一度。
ワインレッドの万年筆には、金があしらわれている。
昔、宝物にしていたもの。
祠の前にお供えして、それっきりなくなったはずのもの。
そして、キャップには小さく ―― R・Bと刻まれていた。]
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なんだよこれ、どういうわけだ。
僕はうんと壮大な夢を見てる……ってわけ?
[「…頭痛がいたい」と呟きながら、頭を抱えた。
部屋に戻れば、混乱しながらもそれなりに楽しく過ごした。
オスカーと昔みたいにゴミ捨て当番のじゃんけんをしたり。
床で寝ようとするシメオンを、「布団で寝なよ」と引っ張ったり。
そうして結局、今日も早くに寝てしまうことになるのだった。]
― 深夜:大部屋 ―
[真夜中、誰かの声がした。
夢うつつに目を開ければ、間近には少年の白い顔
どこか、現実味がなかった。
聞こえた言葉はひどく子供らしからぬもの。
いわゆる、遠縁の親戚の「大きくなったわねぇ」とは全く違った、慈愛溢れる響きに満ちているように聞こえた。
…まるで、本当にずっと見守ってきたかのような。]
[髪に触れる手を感じ、またうとうとと瞳を閉じる。
聞き覚えのある名前。なくなった像。お供えした万年筆。
見る夢は、懐かしい九尾の狐の神様のもの。]
……しめお、さま。
[うんと小さな頃のように、嬉しげに笑った。
伸ばした指先は無意識に、頬を撫でる手の袖をつかむ。
重ねられる謝罪、それだけはどうしても頭にこびりついて。
眠りに落ちる間際まで、何度も耳に響いていた**]
……バカと天才は紙一重って言うでしょ。
変だとは思ってたけど、ここまで捻れてるとは思わなかったよ。
[
10年間あれだけ揺らめく思考の中で反復した、言いたかったこと、がうまく言葉になってくれない。
かろうじて、父さん達は元気か、なんて質問はしたけれど。
あとはもう一度、主張しておいた。]
僕が僕だってわかったんなら、遊んでよ。
まえみたいにさ。
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[そんな主張の間に
結構広いと思ってたけど、何もなかった?
[後悔のないよう声を掛けて、絶妙のタイミングで席を外した彼は、もしかしたら二人の間に縁があるのを悟っていたのかもしれない。
何故だかは、わからないけれど。
おかえりと笑った顔は、今までと比べ晴れやかだっただろう。]
― 少し前:オスカーと
僕は天才のほうだろ。どこからどう見ても。
[これだけは譲れなかった。
身を離す弟の姿には、ん、と顔を覗き込んで。]
父さんたちは、うん、元気にしてる。
僕は、いまは一緒には住んでないんだけどさ。
おふく……母さんは、園芸に凝っててね。
こないだ、山のような薬草茶が送られてきて、閉口したばかりだよ。ああ、あれ、持ってくればよかった。劇的な美味しくなさだった。
[あえて、家族を昔の通りの呼び名で呼んだ。]
[遊んでと言われた
いいよ。オセロに将棋、チェス。……何にする?
こういうとこになら、借りられるやつがあるでしょ。
[どれも、自分が得意だった遊び。
昔みたいに、勝負を挑むような表情をしてみせた。]
ね。……オスカー。
[不意に名前を呼んでみたくなった。
用だったわけではないので、問い返されれば、しばらく返答に困って。]
…僕が勝ったらさ。さっきの鼠、さわらせてくれる?
[わりと大人気ないことを言ってみた。]
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[まるで、オスカーの前では十年前のラルフを演じるように。
あえて子供っぽい言い回しを使ったり、沢山喋ったり。
本当はこちらも、聞きたいことならあった。
夢でもいいから会いたい、と思ったことも数知れない。
――僕のこと、恨んでるか?
その一言が、どうしても口に出せなかった。
名前を呼んだときも、続く言葉が出なくて。
肯定されたら、と思うと、続きは声にならなかったのだ。
眼前の、何も変わらぬように見える弟を前に、眉を下げた。**]
―深夜―
[寝る前は楽しかった。
結局ゴミ捨てのジャンケンは1(1:オスカーの勝ち 2:負け)だったけれど、勝敗なんてどうでもいいのだ。
目の前にいる兄は10年経った姿でも、生きていた頃を思い出せた。
27歳になった兄を見れて、わいわい騒げるだけでも嬉しかった。
幸せを実感することが生きている時にはなかったからこそ、そんな時間が幸せだと思った。]
……やだな、
楽しすぎて怖いって思っちゃうのは。
[また『夢のような』体に戻り、消える事。
楽しい気分であの世へ行けたらと考えていたというのに
いざ楽しくなってしまうと、それが嫌だなんて贅沢だ。
こっそり抜けだした廊下、昨晩と同じく輝く月灯りの下で、まだ実体を保っている掌を透かして。
少年の泣きそうな顔は月だけが知っている。
今夜も何かに怯えて、しばらく寝付けなかった**]
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