25 花祭 ― 夢と現の狭間で ―
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[落とした命。
ただ、思う。
あの花は、どんな姿をしていたのだろうと。
一度聴いた笛の音。
耳に残る音ではなかったが、笛を聴いたことだけは覚えていたから。
父が摘む花。
今はもう、遠き場所に]
[散った冬色の花を見やる。
最後まで共にあった花を、その爪を病を。
恨むことなどしようか。
自身が望んだのだから]
…ロビン。
[一つ、言葉にして]
[人を喰らい、血を啜り
種を植えては、また人を喰う
其の身が枯れ果てるまで。
花で有ることに変わり無いと
人食花の、以後を案じる主を見上げて笑む
爪が皮膚を破り肉を引き裂いていく
深く深く
数珠の音がする。
転がる珠が
心臓刳りださんとした其の時に
魔を祓うというその数珠が効を発した]
[崩れ落ちる主の身に爪をたてたまま
花もまた糸が切れたよう。
薄れていく視界に、歓喜のいろを見て
ひとつ
望みが叶った事を知る
人狼病持つ、人食花は散った]
[祓われた魔は、花が持つ
一族の願い
ひとに種植え付けて
望まぬ生を産む
少しずつ、少しずつ
底からこの世を崩してゆく
幾日も、幾年かけても
血を受け継いできたこの花も
願いはひとつであったのだけれども]
[何処とも知れぬ、ふわりと浮かぶ意識
閉じたはずの瞳開けば、変わらぬ姿を目前に]
……主、さま?
[名を呼ばれた。
不思議そうに、首を傾ぐ]
ここは
[届く声。
ああ、意識は落ちたのに、この場所は]
狭間か。彼岸か。どちらでも。
お前がいるのだから。
[傍にある花を手繰り寄せる]
[困惑を顔に浮かべて
手繰り寄せられた相手から視線を逸らす]
ボクは……
私は
[先に散ったのは冬の蕾
後に散らされたのは、病持つ花]
狭間でも、彼岸だとしても
……主さまの傍に、居られるんですね。
[心ふたつ
混じる]
今のところは、というところでしょうか。
仏の教えには、彼岸には浄土があると。
そこに逝く為に、僧は徳を積む。
私は、積まずに参ってしまいましたが。
ですから。
ここも一時の場所なのかもしれぬ。
[声が聞こえる。此岸からの。生者の声。
そして混じるは死したものの声]
私は、浄土まで行けません。
そも人に非ずといわれる身
一時の場所に
何時までも留まっていられたら
[不意に気付く]
声が聞こえる
……セシル、迦陵……
[道は分かたれた
友人二人の声を聞き
はっきりと知る。
学びや同じくした花といえど
花同士であれば
何時か別れは来るもの
寂しいと感じるのは、冬の蕾]
私も行けませんよ。
徳を積めばいける場所ですが…。
私はそも徳を積む事をしなかった。
けれど。お前を地の底に落としたくはない。
ここに留まれるのならば、留まりたいものですが。
[友を呼ぶ声。目を細めた。
契った事は知らぬ。けれども、二人が思い合うことは知っている]
そうですね、色狂いの僧では
たどり着けない場所でしょう。
[返す言葉に僅かトゲ交じり
は、と気付いて口を噤んだ]
私は……ふたり留まれるなら何処だって
[頬を染めて身を離す。
居た堪れないのは
接触に慣れぬ冬混じる所為]
失言を。
[先刻のトゲについて、謝罪をひとつ]
主さま……
[応接間の、洋琴に目を止めた。
近づき、鍵盤の蓋を開く]
現世で聞かせられなかった
うたを、聞いてくれませんか
[触れる
指がゆっくりと白と黒の上で踊る。
音符の連なりにあわせて主の為に歌うのは
優しくも物悲しい鎮魂歌
この世ならぬものなれば音は*聴こえるか*]
[―― 鳥は。]
……―― 厭だ
[鳥は、青から射落とされる。]
…っ、厭だ――…!
朧様、
――っ
……
[白い鳥が、 啼いたのは]
華月…!!!
[届いたかどうか知れぬ]
[―― りん、 と。
鈴の音が 最期に 啼いた。]
手妻師 華月斎は、メモを貼った。
2010/08/07(Sat) 10時半頃
[色狂い、との言葉に僧は眼を伏せる。
口元に笑みが浮かぶ]
美しきものを見れば、この手に抱きたくなるのとは必然と――。
ロビン、貴方はいまだ私の花。
傍におりなさい。
[離れる姿へ手を伸ばす。
触れると、生前と同じようにその髪色へと指を絡ませる]
事実ですから、問題はなく。
お前が謝る必要も、ない。
――ああ。聞かせておくれ。
楽しみにしていたのだからね。
[触れられぬはずの洋琴。奏でられる音。
唄われる声。
音がやむまで、その傍で聴き続ける。
此岸の声はまだ届かぬ。
楽が終われば花に手を伸ばして、その*腕の中に*]
美しい、なんて
可笑しなひとだ。
[苦笑いは冬色、続くは花の色]
嗚呼、おかしなことは
私欲に主さまを使おうとした、私にも。
…………見る間に咲いた花に色がつくとは
是を美麗と謂うのなら
主さまがつけた色故に他為らぬでしょう
[冬の蕾持つ戸惑い僅か含みながら
冷たい色持つ貌は哀愁含む笑みを浮かべる
応接室の洋琴が鳴り響くを、
たどり着いたセンターの人間は聞くことが出来ぬ。
己が爪でころした
主の為に歌う声も]
[やがて曲を終えて、
褒美のように伸ばされた腕に擁かれた時
聞きなれた鈴の音が
彼方から、此方から
聴こえた]
かりょう
[囀りが遠く聴こえ
少年は呟く。
困ったような笑みを浮かべて]
……あの時既に
ボクも、キミも 変わってたんだよ
冬の香は、私が偽ったに過ぎぬと知っても
未だおなじ事を思うかどうか
私欲でない願いなどどこにもありはせぬ。
それが人の為であったとしても、回れば己のためであり。
…お前のそれも。
お前だけのものではなく。
[腕の中の花を優しく包む。
聞こえた鈴の音。
こちらだと気づいたのはまだ僧の耳にはあちらの音が届かぬから。
ようやく。
現世の声が耳に届くと、死した姿をじいと見た。
もう届かぬ花。今は腕の中にあるもの。
腕に感じるぬくもりは魂のそれかと、友の名を呟く花を見る]
……利用されたと謂うのに
怒らない
主さまはやはり、おかしいひと
充たそうといいながら、私は貴方を隠れ蓑にした
冬無き変化を、主得ん為と
其は真となりましたが。
[不思議そうに見上げる眼差し。
聴こえる友のこえに、冬色もまた
応接間に横たわる亡骸と、触れる鳥の姿を見る。
また、鈴の音がした]
――白き鳥の舞は、其の通り同じ結末を?
[泣く音。悲哀を感じるそれは、やはりこちらのもの。
あちらの音は小さく届いていたから]
どなたかが、此方についたのでしょう。
この鈴の音は…。
鵠?
[姿はまだ見えぬ。音がするほうへと眼を向けた]
怒るという思いは、すでに忘れてしまいましたから。
ああ。
お前が誰かに召されていたら――。
それは私の身を包んだかもしれぬ。
[見上げてくる眼差しに触れるか触れないか、唇を寄せて]
利用ならいくらでも、
人に使われることは徳を積むことにも成り得る。
そのようなことでいちいち腹を立てるはずもない。
それに、利用されてなくばお前はここに居ぬかもしれないのだから。
…… ―――誰 だ
[―――静かに、
消え入りそうな声がした。]
|
―日明くる前・食堂―
[虎鉄と別れた後、食堂に向かい茶器を厨房の使用人へと返す。]
夜おそにすまんかって。 ほんま、おおきにな。
[軽い調子で言い、ほなさいならと去りかけた華月に、その使用人の惑うような表情が映る。 去りかけた脚を留めて、小首を傾げれば……。 朝か昼か、華月は弟弟子と食事を共にしたつもりであったが、使用人の目には、多量の食事を傍に置きながらまったく食していない華月のみが見えていたよう――その行動に何か意味があるのかと問われた。]
(133) 2010/08/07(Sat) 12時頃
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