人狼議事


179 仮想現実人狼―Avalon―

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――、私は死んでいた。
そのことに、気がつきもせずに。

――あなたは、命を落としました。
そんなシステムメッセージが、マユミの前に表示されている。

――、膝を抱えて。
じっと、虚空を見ていた。


メモを貼った。


メモを貼った。


― 虚空を見る眼に映るは、無だった。 ―

仲の良い家族だったと思う。
マユミは、兄さんが心配なだけだった。
ノリが良くて気のいい兄さんだった。
物作りが好きで、その姿には尊敬さえしていた。

アヴァロンに来たのは、どうしてだろうか。
その理由は、なんてことない興味本位だった。
物作りの好きな兄が、はたと大学に行かなくなった。
そのことを心配し、時には両親が喧嘩していることを兄さんは知っていただろうか。あんなに仲が良かった家族が、ばらばらになっていくのが恐かった。
それを伝えようと思っていたわけではなかった。
ただ、兄が何を見ているのか。
それほどまでに、帰ってこれなくなるような世界があるのか。
それが気になって――、捜しにきたのだ。


両親へと二人だけの水入らずで家族旅行をプレゼントしたいという理由で、マユミは色々なことを頑張った。
友人は快く引き受けてくれて、兄さんのことまで含めて様々な協力をしてくれた。

初めて体験したVRの世界は、とても綺麗で。
楽しかった。
優しい人が沢山いて、思い出が沢山出来た。
初めて声をかけてくれたチアキには、ちょっと憧れもあったかもしれない。
初めてのことばかりが連続していて、そのどれもが驚きの連続で――。
――初めての戦闘は、大きな兎の首を跳ね飛ばすという少し衝撃的なもので。

しかし、そういうものなのだろうと彼女は世界を誤解していった。
輝かしい世界は、いつからだろう。
血に濡れてぬらりと輝く、黒の世界へと変わっていた。


[あんなに、元気に笑っていた子供を殺した。
ワンダさんに愛されていた様子を、見ている。
その息の根を止めた時。
苦しんでいる様子を、ただ茫然と見た時。
刺し身を美味しいと言って食べてくれた記憶が。
愛おしそうにワンダさんから撫でられている記憶が。
悲痛な叫びをあげるワンダさんの声が。
覚悟を決めたように、眼を閉じるトニーの姿が。
あの独白の声が。
手に残る、首を切った感触が。
吹き出す鮮血の光景が。
その臭いが。
広がる血だまりが。

――彼女の虚ろを、支配していた。


現実と虚構の境目は、どこからか曖昧になっていた。
殺した。
殺した。
殺した。
ゲームでのこと、という認識はなかった。

マユミは、誤解をしていた。
あるいは、それは誤解ではなかっただろうか。

この世界は、残酷なのだ――と。


――心が、耐えきれなかった。
平然として、淡々としていたのは。
ゲームだと認識して、ゲームとしての行動をしていたのは。
そうでなければ、恐くて逃げ出してしまいそうだった。

ただの、ポーカーフェイスだった。
「シロガネ」としての振る舞いは、いつものマユミとは全然違う行動を取らせた。
シロガネだから出来ることが沢山あった。
シロガネだから、私は――。


――???――

[光射さぬ細井戸の 澱んだ水溜り
少年は身を丸め ゆうるり ゆるり 堕ちて行く
遥か上を見上げれば 鏡の如き空に 映る貌
白い面で泣く彼は まごう事なき 己自身]

 『 嗚呼 俺は 』

[途端に気付く 己は最早彼ではなく
あの時流した 一粒の涙だったのだ
彼があの時手放した 少年の心だったのだと]

 『 俺は 消えて行くのか …… 』

[ゆるり ゆうるり 堕ちて行く
絶望の巣食う 闇の底へ と]


[澱の中に堕ちたかと 思うた瞬間
ふわり と躰が浮いた
波の様に優しく 羽の様に柔らかい
それは誰かの腕のよう
温かい声が木霊して
   『 大丈夫ですか 』
魂を揺さぶり 霧散しそうな意識を呼び留める
       『 トニー 』
嗚呼 そうだ 彼女は……]

  ……ワン、ダ……、

[消滅と再生の狭間で まどろむ少年の幽体が 
その名を紡ぐ
死の瞬間に口にした 同じその名を
彼女の心の安寧を願いながら―――**]


[ふわり、ふうわり
少年は虚空で身を丸める
このまま総てを手放そうか
さすれば この悪夢から 絶望から
耐え難き罪悪感から解放されるのだろうか、と
だが―――]

 『 死んだら泣く奴は居るって 絶対 』

[不思議と、心を動かしたあの、詞>>*2:30
このゲームで、そしてアヴァロンの世界で共に過ごした
心優しき仲間達の顔が
そして、最後に見たのはいつだろう
母の、父の顔が――心に、浮かんだ]


[純粋無垢な眼差しの侭、手の中で息絶えた、愛する子犬
死の恐怖に脅え、肢体を割かれる痛みに苦しみながら
己が牙と爪に散った、親しき友
生を願う想いが浮かんでは
その頭を血塗られた澱へと沈める
二つの――追憶]

 ( ごめんなさい あやまるから
   ごめんなさい 何度でも …… )

[あの夢と同じ 贖罪の言葉を>>*1:3
祈りと代え 少年は唱える
どうかこの罪深き魂の代わりに
二つの御霊が救われますように
そして、自分を愛してくれた母が、父が
アヴァロンの地で、共に泣き笑うた仲間が]

 ( どうかもう これ以上
   苦しみません ように ――― )


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