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【人】 掃除夫 ラルフ―校舎 昇降口― (2) 2010/08/06(Fri) 00時半頃 |
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【人】 掃除夫 ラルフ―グラウンド― (21) 2010/08/06(Fri) 01時頃 |
[咆哮も、足を止める理由にはならなかった。
と言うより多分、何もその時は聞こえてなかった。
ただ、信じたくて、信じられなくて、カルヴィナやマーゴの制止も知らず、正門へ駆ける足は]
…… いぅっ!?
[ずぐり。
身体の内側から芽吹いた痛みに、引き攣った悲鳴が漏れる。
なに。なにが。
テッドの声
でも、口を開けば悲鳴しか漏れなくて、ただ何処からくるのかも分からない痛みに、胸を押さえ。
その手が、どろりと緑に形をなくしていくのを、あー、ぐろいなー、あたしゾンビ側だったんだぁ、なんて崩れていく意識の中、思ったから]
…… ないっ、 で…
[みないで、と。
たったひとことも、自分の悲鳴に掻き消され。
何が起こったのか、何が起こっているのか。
ぜんぜん、何にもわからないけど。
こちらへ手を伸ばそうとするテッドの頭上に降る光は、今度こそ、赤くは無かったから。
よかったな、とにへり笑ったのは、誰に伝わることもなく。
みどりの海に溺れるように、意識は完全に崩れた]
[ふわり、蜘蛛の糸みたいなひかりが、緑の染みにひとしれず、溶け消えた。
小指に揺れていた、自分以外は見えなかっただろう、褪せた桜色の糸は。
たとえば運命の赤い糸とか、そんな強固なものではなくて、ただ。
置いて行かれたくなかった、でも我侭には巻き込めないから、一方通行でいいよ、と願ったそのままに。
あちらへは引いてくれただろう強さも、こちらが引けば、ぷつりと、儚く千切れ*]
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― 伝説の樹 ―
[誰かに、名前を呼ばれた気がした。
誰か、じゃないかもしれない。
それはいくつかの声で、男のひとも、女のひとも混ざっていて。
そんなに、切羽詰って呼ばれるほど、今度は何をしたんだっけ。
また心配かけてしまったんじゃないか。特に、]
『何寝ぼけてんの。さっさと起きなさい』
へ……?
[木漏れ日を背に、覗き込む誰か。
眩しさに目を細めてから、こしこしこすりつつ、よくよく見つめる]
なんだ、アネットか……。
『何だとは何よ、居ないと思ったら、やっぱりこんなとこで寝てるんだから。
数研に呼ばれてたよ、検定の書類がどうので。
ほら、目は覚めた? あんた、お兄ちゃんとか居ないでしょうが』
[きょとん、と友人の言葉に首を傾げる。
自分は一人っ子で、勿論兄弟なんか居なかったから。
……でも、何故かそれに反論しようとする、心の何処かに、更に首をかしげた]
うん、居ないよ。なんで?
『もう……。何の夢見てたのよ。
お兄ちゃんお兄ちゃん、て魘されてたよ、あんた。
ほら、』
[そう言って拭われた頬は、確かに友人の手を濡らして。
けれど全然、意味が分からないから、きょとんとするしかないのだけど。
あんまり反応がないから、心配になったんだろうか。
具合が悪いなら、保健室に行くよう言い含められて、大丈夫だよー、と樹の根元に座り込んだまま、手を振って見送るのも未だ、夢のなかのように、ぼんやりしたままだった]
ゆめ……
[樹に寄り掛かったまま、その単語を反芻してみる。
太陽の無い空。赤と青。それから、みどり。
おぼろげな色合い。誰かが言った。ライトノベルのような世界だと]
本、ってゆーか。夢、だよ。
[本なら、忘れてしまってももう一度読み返せばいい。
けれど、今、ぼんやりとおぼろげに浮かぶ光景は、夢としか思えないほど曖昧で、非現実的で、振り返るにも危ういもの。
そう、まるで。
強いひかりの下、真昼の月みたいに儚く浮かび上がる、ぎんいろみたいな―……]
わひゃっ!? え、え、な、なんでっ!?
[『願いごと』をしたことはなかった。
だから、その姿を見るのは初めての筈で、でも。
その眼差しには、なんでか、覚えがあって]
……あのぅ。何処かでお会いしたことありましたっけ……?
[おそるおそる、尋ねてみる。
怖くは無いが、何しろ普段から、かみさまが居るという桜の下で、あーだこーだ下らないだろうことを語ったり、すやすや昼寝させて貰っている身である。
かみさまにまでお小言言われたら、それはそれですごいけどさぁ、とかやっぱり下らないことを考えながら、銀の奥を、見上げていたものの]
……? ……えぅ、ごめんなさい。聞こえないや。
[何か、答えようとしてくれたようなのだけど。
口元が僅か震えるのが見えただけで、言葉も声も、さっぱり届かなかった。
やっぱりあたしが不信心だからですかねぇ、と申し訳なさそうに笑うと。
表情のうかがえないそのひとは、少し、疲れたように見える所作で、目蓋を閉じ。
さあっ、と軽く吹いた熱い風に掻き消されるように、見えなくなってしまった]
【人】 掃除夫 ラルフ―三階 2-C― (71) 2010/08/06(Fri) 13時頃 |
うーん。元気ないのかな。
まあ、こーもあっつくちゃねー、みんな引っ切り無しにお願いに来るし、バテちゃうかー。
[燦々と照りつける太陽を、手で陰を作って見上げる。
暑いばかりのそのひかりが、懐かしくも思えるのは、何故だろう]
よっし、お水汲んできてあげよう。ホースは……、ぁー、使ってるか。
んー、裏庭にひとつくらい転がってないかな。ちょっと待っててね!
[木陰から飛び出せば、未だ高い太陽が、容赦なく照りつける。
途中で、白線引きを蹴飛ばして粉を撒き散らし、ぶつかりそうになったサッカーボールを咄嗟に蹴り返したら、タイムをとっていた陸上部のストップウォッチを直撃し。
いくつかの怒声を浴びるも、もう自分のお騒がせぶりには慣れてしまったのか、本気で怒るひとも、本気で追いかけてくるひとも、そして本気で名を呼ぶひとも居ない。
明るすぎる太陽から逃げるように、駐輪場へ滑り込み。
校舎の陰に滑り込めば、ふぅ、とひとごこち]
……? ……すー、はー。
[そうして深呼吸した空気が、ああ、いい空気だなー、なんて。
空気と水が美味しいのは、今更なのに、やけに感慨深い。
さっきから何なのか、と首を捻りつつ]
ひえっ、自転車っ!
……いやいやいや。駐輪場に自転車あるの、当たり前じゃん……。
そんな、メアリーじゃあるまいし……、 …?
[てか、メアリーって誰だったか。
本当、何なのか。アネットの言うように、寝ぼけたままなのだろうか。
夢にしてはリアルで、でも現実には到底昇華されそうもない、儚い記憶。
ぼんやり浮かぶ光景は学校のそれなのに、空に映える月のいろも、幽霊よりまだ不確かに居る人々の姿も、まったく知らないものばかり]
[ただの夢だ。
リアルさに感情移入し過ぎただけの。
いつまでも気にするようなことじゃない。
そう、思うのに]
わっ、
[ぐだぐだ考えていたら、足元が疎かになって。
壁に手をつく暇もなく、べしゃっと転んだ]
いったー…… ?
[肘をさすりつつ、起き上がれば。
何故か、焼却炉の煙突を見上げていた。
別に何の変哲も無く、焦げ付いて古びた金属が、ぎらりと太陽の光を反射しているだけで。
何の、何も。おかしなところは無いのに]
……ほんと、保健室いこっかな。
[首を傾げながら、スカートの土埃を払い。
とりあえずは、如雨露を見つけなきゃと、てとてと歩き出した]
― 裏庭 ―
お、あったあった。こりゃまた年季入ってるわ。だいじょぶかな?
[裏庭の片隅、じめりと日の光が届かない場所に、置き去られた如雨露がひとつ。
水漏れなどしないかと、手に取れば]
(―― ♪)
……え?
[揺れた水面が奏でたのは、静かな水音ではなく。
覗きこんでいる自分の顔は何処にもなく、ギターを奏でる誰かの手元が揺れ。
この曲は、知っている。
ずっと追いかけているバンドの曲だ、知らないわけが無い。
でも、ギターはこの音じゃない。
誰か、コピーバンド? いや、でも、 ……ちがう]
……ズリエ、 っ!
[これで、いいんだ。『今の』センス・オブ・チェリーブロッサムは。
いくつかの記憶が呼び覚まされて、その名を呼ぼうとするも]
…… ぁ…
[ちゃぽん、と間抜けにちいさな水音。
勢い込んで揺らされた水面は崩れ、ただ、泣きそうな顔で覗き込む自分を映すだけだった。
耳にはまだ、ギターの余韻が残っている。
でも、呼ぼうとした名前を、思い出せない。
そのひとが、どんな顔をしていたのか、思い出せない。
古ぼけた如雨露を抱きしめて、へたりこんだまま。
みーん、みーん、と鳴く蝉の声をひどく遠く感じながら、暫く立ち上がることも出来なかった]
― 2-C ―
[樹に水を遣った後、また何か見えはしないかと、水を張って如雨露を覗き込んでみたが、何も映る気配は無かった。
あの時確かに感じた喪失感は、痛いほどだったのに、何も無いまま時間が経てば、やはりただ寝惚けていただけなのかとも思う。
それでも、とぼとぼと数学科準備室へ向かう様子は消沈していたらしく。
顧問のことは考えておくから、と珠算同好会について、思わぬ励ましをされたり。
教室に戻れば、アネットを始めとする友人らに囲まれて、うりうりもみくちゃにされ。
ぜーはー、と息を切らせて席へ辿り着くことになったり]
もー、大丈夫だってば。モチロン甘味屋は行くけどー。
おごりねっ?
『……現金なやつめ。心配して損したわ。
でもあんた、宇治金時って珍しくない?』
そんな気分なんだもん。あたしも大人の味に目覚めたってことだよ!
[味覚だけなら子供からかけ離れてるから大丈夫よ、なんてまた、頭をうりうりされて机に沈む。
どーゆー意味!?と机をぺちぺち叩いて抵抗するも、押さえつけられたまま]
……あ、
[窓の外、グラウンド。
硝子の一枚だけが、夜のいろを透し。
シャベルらしき棒を手に、何かを掘る人影、ふたつ]
フィリップ先輩、サイモン……。
[珍しい組み合わせだな、なんて自然と呟きが零れ]
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