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-- 前日、ミイユの住処 --
[漸く体は解放される。なのにそれが、なんだか少し。]
(寂しくなんか、ない…っ)
[赤い顔をぷるぷると振ってから降りた。
奥の、服やタオルをおいてある場所へ向かい、なるべく大きい綺麗なものを持ってぺたぺたと戻る。]
ふ、く…… おっきいのない、から…。
[マトリカリアの匂いのついたタオルを押し付ける。
脱ぐのか、脱ぎたいよな、でも脱ぐのか、ここで。
少し睨むような顔になったのは恥ずかしいからだ。
だって上半身だけでもあんなにどきどきするのに。]
…きがえ、る。
[覗くなよ、という視線を投げてから。
しかし大きくもない住処だ、少しだけ離れた位置でちらちらと様子を窺っている。]
メモを貼った。
メモを貼った。
[感じていた重みと熱がなくなるだけで、
半身が引き離された様に感じる。
初めて知った感情はずいぶんと重症だ]
おー、ありがとう。
[流石に服は無いだろうと思っていたが
タオルを借りれるだけでも十分だ。
ミイユの匂いだろうか、爽やかな香りがふわりと漂う]
(見るなってことか?)
(見たいけど)
[家主を怒らせるのは得策ではない、
諦めてミイユに背を向けて服を全て脱ぐと
タオルで改めて全身の水分を拭い去る。
結ってあった髪も一度解いて、ざっと拭けば良いだろう]
[ありがとうが耳に届けば、ふるりと頭を振る。
たった一言が、じわりと甘い。]
っ、!
[別に見ようと思っていた訳じゃない。
ちがう、断じて違う。
向けられた背が振り返ったりしないかと、視線を向ければ
まるで振り向いたのはミイユの方。
髪を解いた後ろ姿を、黒い瞳が捉えてしまった。
どきりと心臓も体も跳ねて、慌てて後ろを向く。
やがておずおずと自分も服を脱いで体を拭きはじめた。]
[ミイユサイズの服は借りられないので
着てきた服が乾くまではタオル一枚で過ごさねばならない。
腰に巻き付けておけば良いだろう。
次いでまだ少し濡れたままの髪を結い直す]
(もういいかな)
[そっと背後を伺う、ミイユの背中が見えて
やはり自分よりもずっと白くて綺麗な肌だ。
――触れたい]
[タオルが水を吸いとっていく。
ふかふかで気持ちのいい肌触りと、マトリカリアのリンゴのような香り。
髪を拭いて、体も撫でて。
ふっと、視線。(
けれどもし振り返ってさっきのようになっては行けない。
視線に気づいてないように、体を拭いて。
動きはどこかぎこちない。]
[
少しだけ見つめてから顔を反らせた。
このままでは抑えられなくなるのも時間の問題か
そうしたらまたミイユに蹴られるだろう。
せめて嫌われない様に気をつけなければ]
ミユ、濡れたのは干したいんだが。
もういいか?
[背を向けたまま見てなかった姿を装って声を掛ける。
それからは慎重に二人の時間を過ごした。
改めて同行を願うと使者である話を聞いて
自分がとても先走ったような気がしたり。
服が乾いて落ち着いて、手順も確認して。
もう一つやり残してあることを済ませたらもう、船*]
―船にのる前―
[ミイユが使者だと知って乗船の直談判したのち、
トレイルも使者だと知らされてとても驚く羽目になる]
トレイルはもう一人で平気だと思うから先に行く。
俺が居ないから悪戯し放題だけどな、
夜はきちんと家に戻って寝るんだぞ。
もう子供じゃないって言いたいなら、
約束を守れて初めて一人前になる。
妖精なら当然のこと。
[実際は見ていない間にどうしようと知り様もないが、
一人残さなければならない不安も強くて
思わず口調は強いものになる]
……トレイルが成長したって俺が安心したいんだ。
[甘えたな息子は、理解してくれるだろうか。
それとも昨日のように感情を見せるのだろうか。
どちらにしてもいつも通り髪を撫でて
小さくごめんな、とつぶやきを落とした**]
メモを貼った。
[ぎこちない動きで、服まで着替え終わる。
声がかかってから、ゆっくりと振り向いた。
どうやらいいと云うまで、こちらを向いてはなかったらしい。
背を向けたままのジェレミーに、疑って申し訳ないと貸すかに眉を下げた。
───ほ、す。
[濡れた服は預かって、洗って干しておいた。
洗うときに顔を赤くしていたのは、また別の話。
二人での時間、会話は少なかっただろう。
けれど確実に昨日よりも、声を出す回数は増えている。
表情も無表情が多いが、少しずつ色を見せ始めていた。]
ぼ、く 夏の使者 ──なん …だ。
[一緒に行こうと改めて云われたとき、ぽつりぽつりと言葉を落とした。
話すのにどうしても言葉が詰まって、時間がかかってしまうけれど。
どうしても言葉で伝えておきたかったから。]
連れて……いけたら、って…思って、て。
……でも、…一緒に いき、たい
──だ から
[真っ直ぐに見つめる。
黒の瞳は逸らすことなく、彼を見つめて。]
明日……あ、さ。
迎え、に ──く、から…
(一緒に、連れていって。)
(夏を届けに。)
[そして夜、彼とは一時離れることになる。
ミイユは手紙を書き付けて、白い鳩の足にくくりつけた。
ほかの夏の使者へ、ジェレミーから自薦があったことを伝えるためだ。]
『夏の使者へ』
『ジェレミーから自薦がありました。
任せられる人だと思うから、ぼくは彼を選びたい。
明日の朝、彼を連れてぼくも船に乗ろうと思う。
わがままをして、ごめん。
───── Miyu=Ma=Argento.』
[飛んでいく白鳩の一羽は、ジェレミーのところにいくのだろう。
トレイルは初めてあったときのように、困惑と警戒を見せるだろうか。
一種の嫌悪を、やはり、向けられるだろうか。
そして暫く離れる寂しさに、あの腕の中へと
自分より素直に、飛び込んでいくのだろうか。]
(寂しく、なんか。)
[外では森の見張り番が、ホゥホゥと鳴いている。
動物も寝床に帰る時間は、昨日の昼下がりとも今日とも違う。
誰もいない、傍にいない。]
(───さみしい。)
[湖で、抱き締めてくれたことを思い出して。
布団をぎゅうと、抱き締めて眠った。
翌朝には会える、だから。]
(寂しくない、へいき。)
[そう、言い聞かせて*]
-- 翌朝、船の入り口 --
[朝になり、いつものように水浴びを済ませてからジェレミーを迎えに行った。
赤きつねの背に乗せてもらい、彼のうちへ。
見送りもあっただろう、その間は静かに邪魔にならぬように口を噤んで。
いざ、船の入り口までやって来て。
ちらりと、ジェレミーを見上げた**]
メモを貼った。
[
(今度は迷わずに)家に帰った。
太めの紐を手に作るのはサンキャッチャー、
朝になれば窓から差し込む光が
部屋のなかをキラキラさせてくれるもの。
明日トレイルがビックリするようにと
カーテンの向こう側に仕掛けておく。
それから使者あての鳩が来て驚いたり
ミイユを乗せた赤狐に驚いたり、
驚くようなことは続いて]
行ってくる。
[出発の言葉はトレイルへ。
それ以降の意識はすべてミイユへ。
姫をエスコートするように恭しく手を差し出し
……乗せてくれなければやや強引に掴んで
二人で船へと乗り込んだ]
―船の中―
[先に乗っている使者の話によると、
昨日あれだけ大騒ぎしていたサイモンは
与えられた個室に引きこもっているらしい。
それから同じく乗船するロビンには会えたかどうか]
案外広いな。
船って言うから狭そうなのをイメージしてた。
[個室を与えられるとは聞いていたけれど、
我が儘を通した分のツケは回る。
ミイユと二人で部屋を使うようにと言われ
嬉しいが恥ずかしがりの彼は怒らないだろうか?
それでも一緒に居ていいと言われたら
喜色が滲んでしまうものだ]
……同棲、するみたいな。
[思わずぼそりと呟くが、
片付け出来ない魔窟に住んでいるのは知られている
ものが少ない内はきちんとしたミイユがやや優勢、か?**]
メモを貼った。
-- 船の中 --
[手を差し出されて、恥ずかしさに乗せることを迷っていれば掴まれてしまう指。(
乗り込んだ船の中、きょろきょろと見回しはするけれど
意識は繋いだ手にほとんど持っていかれてしまっていた。
怠惰の妖精の姿はない、部屋の中に籠っているようだ。(
ロビンに会えたなら、唯一顔見知る彼に挨拶くらいはできただろう。
勿論、声を出すのは極力少なかったが。]
───、……。
[聞くと、部屋はジェレミーと同室になるという。
その時は深く考えることなく、ただ傍にいられることが嬉しくて
こくりと黒髪を揺らして頷いた。]
[部屋にはいれば、ジェレミーの声がひとつ響く。(
(同棲……。)
[船に向かうよりも前。(
赤きつねの上から聞いた『行ってくる』の言葉を思い出す。
真っ直ぐに向いた言葉は、あの子供に向けられていて。
そこには少しでさえ、入る隙間もなく思えた。
あの時、口を噤んでいたのも目をそらしたのも、そのせいだ。
羨ましい。
そんな穢い心を吐き出さないように、口を固く引き結んだ。]
…………。
[昨日よりも少し離れた位置に、座る。
どこか緊張しているのもあったけれど。]
(ぼくは。)
(ただいまも、行ってきますも。)
[聞けないんだろう。
そんな風に、思ってしまって。
せっかく傍にいるのに、俯いてしまう。]
(───さみしい。)
[きゅうと、腕に巻いたまま返せていない紐を握る**]
メモを貼った。
[使者に選ばれた候補者たちが揃うまでは待機と言われ
自室でもミイユ部屋でもないところで二人きり。
本当は無理をさせたのかと心配にもなる。
何度も振り返りそうになったのも事実。
本当はまだ子供で、甘えたがりで、
そんなトレイルを甘やかして実は甘える。
二人だけの生活がとても満ちていたから
其のままでずっとあるのだと思ったこともあって。
それでも、二つしかない手はミイユに使いたい
親になってはじめての我が儘を息子に押し付けた]
[自分もまだ大人になりきれていなかった、
そんな後悔と罪悪感を胸にしまい込んで
せめて帰ってきたら目一杯の我が儘を聞こうと誓う]
(さてと)
[目下悩みと言えばミイユとのこの距離。
一緒に来てくれた事で嫌われては居ないと思うが、
こちらの気持ちもなにも伝えていない。
筒抜けだとしても、口で言うべき、だろう]
俺は、ミユが一緒に来てくれて本当に嬉しい。
俺は君のことが好きだから。
[距離は詰めないまま俯くミイユへと声をかける。
少し震えてしまったかもしれないが、
はじめてだから仕方ない]
これだけは言わないとって、思ってな。
でも、同室が辛いなら言ってくれ。
俺はどこかに部屋を借りてくるよ。
[このままでは普段の癖でミイユを抱いて寝かねない。
湖で暴れられたようにされるかもしれないし、
無理強いもしたくはない。
くっついて寝たいのは本音だが]
触られるのも苦手なら、しないようにするし。
[髪に触れて香りを吸い込み、
頬を撫でて身体を抱き締めたい。
あまつさえ自作の紐で飾ったら……
なんていう下心は全て封印だ**]
メモを貼った。
[沈黙の間に襲われるのは、声なき声の言葉の渦。]
(ぼくといたって)
(トレイルのこと心配する。)
(当たり前じゃん。)
(抱き合って、頭を撫でるくらい)
(仲がいいんだ。)
[笑い声から生まれ、気がつけば森の奥に独り。
家族なんていなかったから、わからない。
ジェレミーとトレイルの関係性を、なんとなく知識では把握していても
淡すぎる知識は心まで納得させるには不充分だった。]
(や、だ。)
(今日も、あえたのに。)
(明日も、あいたいのに。)
[こんな仮の同棲みたいなのじゃなくて、いっそ。
そう思えば俯いた顔が、うっすらと眉間にシワを寄せた。]
(無理だ、そんなの。)
[何を自惚れているんだ、と。
たった一度、誘われただけで。
あいたいと、あいたかったと云ってくれただけで。
そんな時に聞こえるのは、何処か少し震えたような声と言葉。(
(───す、き?)
[距離は遠いまま、顔を上げて向けてしまう。
それは、どういう感情なのか。
ミイユは自覚さえしていないのに。]
女の子、じゃ… ……な、 …い。
[きっと勘違いしているんだ。
体を見られていたことも忘れて、呟きが落ちる。
思い出す、遠い昔の些細な出来事。
そのせいで声はどんどんと失われていった。]
(やだ、一緒にいたい。)
(傍にいてほしい。)
(触られるのも、嫌じゃない。)
[そう云いたいのに声は出ず、首を振ることさえも出来なくなって。
指先が冷たくなってくるから。
痛いくらいに、自分の腕を握った。
細い紐に触れていないと、バラバラに壊れてしまいそうで。]
メモを貼った。
ああ、ミユは女の子じゃないね。
それでも触りたいとか傍に居たいって思ったんだ。
あとは、ミユが親しくするのは俺だけでいいとか。
[動物にだって嫉妬する、
ずっとミイユの傍に居て声を聞いていたなんて
羨ましい、俺もそうしたい。
いっそ動物に成れたらいいのに]
もっと色々なミユを隣で見ていたい。
これからはずっと、手の届くところに居てほしい。
だから、ミユが好きだ。
[これでもまだ想いは届かないかな、
ミイユを見つめ返して自信なさげに眉を下げた]
メモを貼った。
──っ、!
[触りたい、傍にいたい、親しくするのは、なんて。
まるで同じような感情を言葉にされて。(
じわと涙が溢れそうになる。
泣くなんてしたくない、でも瞳は逸らしたくない。
きゅっと眉間にシワを寄せた、無表情ではない顔を向ける。
まっすぐ向けた瞳は、滲んでいた。]
き もち…わる ……く、ない?
[昔から大人しい妖精だった。
初めて街に行ったとき、声を掛けられたことがある。
優しくて、王子様のように振る舞う相手だった。
女の子と間違えて声をかけてきたその相手は、ミイユの声を聞いて
男とわかった瞬間、気持ちが悪いと云って離れていった。
ほんの些細なことだ。
けれどミイユから声や表情を奪うには充分だった。
女の子のような顔が気持ち悪かったのか。
顔に似合わない声が気持ち悪かったのか。
なにもわからないままに拒絶された、小さな出来事。
男と知っても、ジェレミーは好きだといってくれる。
どうしよう、どうしよう、胸が痛くて苦しくて張り裂けてしまいそうで。]
す、き。
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