162 絶望と後悔と懺悔と
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[マユミが壮絶な様で自らの腕を落とし、
その首から手が離れた時に、
もう、意識はなかった。
自身の、周の刃は、マユミを貫いたのに]
[そのあとも、意識は戻らなかったのは、
戻りかけた時に、また絶たれたから
そのあと、その声が聞こえたのは、
どこできいたのか、なにがきいたのか、>>*2]
[ただ、思ったのは、死んで会えるとかなら、
それは幸せなことだろうと。]
[だって、今、見えるものは、何もない気がする。
本当に会いたいから生きてきた。
いくら会いたくても、それは、自分の答えしかわからない。
相手もきっと
そう思ってくれていると、思うだけ。
もう、思うだけしかできない]
[魂という形だろうか。
生きているときよりも、ずうっと見渡せる目をもって、
まるで生きているのと同じ格好で、黒い軍服のまま立っている
自身の亡骸をみると、マユミが死んでいて悲しかった。
彼女はもう、天に召されただろうか]
[夜明けが、光が見えてくる。
哀しさは、光に溶けたりするだろうか。
でも、きっと、自分の哀しさは、もう溶けない。
阿呆だから、
いちばんだいじなともだちと、
いちばんすきなおんなのこを]
殺しでしまっただ。
[そして、座り込むと、死んでるはずなのに、
とめどめもなく、流れ出るものを隠すために、膝を抱えて顔を伏せた**]
[その人生はなんだったのだろう。
孤独になって、孤独から救けてもらって
でも、それが壊れて、取り戻そうと頑張ったのに、
待ち構えてたものは、やっぱり自らまた好きな人たちを葬るという、人でない行為。
なにがいけなかったんだろうかと思う。
でも、一つ願うならば
リーもマユミも、自分のことなど忘れて、
生まれ変わりがあるなら、幸せに生まれ変わるといい]
[自分はたぶん、きっと永遠にこの地獄をみている**]
[東雲の頃、自分もその陽が酷くまぶしく、解けるような感覚を覚える。
月白の環は既に記憶の中になく、
背格好もあの14歳のままではなくて本来なら19歳であっただろう姿へ成る]
……?
[声が聞こえた気がした
周りを見回しても、声を発するような物体は何もない。
聞き覚えがあるけれど、記憶が繋がらない。
自分から殺してしまった存在だとすら思い浮かばず。
ただそれが酷く悲しそうに聞こえたから、
目を閉じて慰めの意を思う]
[自分を覚えていつまでも後悔をするなら
早く忘れて、守りたかったものと一緒に寄り添えればよいと思っていた。
そして自分が死んで忘れられても残るものがあると…思い込みたかったこともあった。
何もかもが絶望と後悔と懺悔に繋がるとしても
その中に慰めにも幸せが少しでも見出せれば、と。
自分から捨ててしまったのだから
胸に覚えていただろう大事な人達へもうそんなものを望むべくもないけれど]
「俺、早く大人になりたいな」
[その言葉に込めた意味は死ぬ直前まで望んだこととそう大差ない。
大人になって、子供の純粋さも子供だった名残も遠い思いでも早く亡くしたい、と]
[死んでしまったもの、なくしてしまったもの
壊れてしまったもの。
全てがもう戻ることのないもの。
そして自身ももう皆が知る自分ではないけれど]
殺して、君も死んだんだね。
せめて君の失ってしまったものが
君が想うようになりますように。
[泣いたような声の主が誰であるかはわからない。
そんな呟きは風がきっとどこかに運んで…散じるだろう*]
[声がしたような気がした。
それはリーに似ていた。
だから、急いで、探す。
声の方向を探してみるけれど、
でも、何も見つけるものはない。
でも、それでも、探す。
探して探して探して
でも何もない]
[声は、形ある言葉を囁いてから去っていく。
それは、慰みなのだろう。
そして、去っていったことを感じれば、やはり項垂れるしかない]
――……
[失った…いや、自分が殺してしまったものが
もう、自分などを思うことはないと思う。
すべてが間違った道で、手遅ればかりだ。
周のこともリーのことも、マユミのことも]
[
絶望は終わらない
後悔は消えない
懺悔は尽きない
ただ、それらは、確かにこれまでの自身をかたち作るもの]
リー、ごめんな。
[ぽつり、それはきっとその存在に似ていたから、
また座り込んで、朝日に謝った*]
[思い出すのは、どうしてか。
少し後ろから見つめていた背中、
いつのまにかずっと大きくなってしまった]
――……、
[ 丸められた背中に両手を伸ばす。
そっと頬を摺り寄せて、ただ目蓋を閉ざした。
寄り添うだけ、
語る言葉は何も無い。
触れる肌も温度も鼓動ももうない、けれど。
自分が自分であった想いの全てが伝わるように*]
[背中に感じたのは、ぬくもり、と表現したくなるような存在感。
振り向いたとき、その姿は目に見えるものなのだろうか。
見えるならば、そのまま、顔はぐしゃりとなった]
……ただいま。
[今度こそ本当に、
こころからそう言える。
ゆっくりと閉ざしていた目蓋を開けば、
緋色は既に失われ、穏やかな墨染めの色。
きっと記憶にあるように柔らかに微笑んだ]
マユミ……。
[顔はひどい顔になって、そして、また俯く。
それはあの頃のようにも見えて、
いや、嘘だ。あの頃よりずっと大人になった]
――……マユミも、ごめんな。
[結局、殺してしまった。
リーもマユミも。
それは
もう忘れることができない]
……理衣くんはね、
あなたに殺してほしいって思ってたんだよ。
あなたが特別な友達だから。
だから、
わたしまで願ってはいけないと思ってた。
[向けられた謝罪の意味を知る、
そんな想いをさせてしまうから、
願ってはいけないと思っていたこと]
……わたしこそ、ごめんね。
ちゃんと自分で死ねればよかった。
――……知っでる。
[マユミの言葉に、顔もあげずに]
だがら、なお、謝るんだ。
そんな想いしがさせられながっだ。
おでは、リーにも幸せになっでほしがっだだ。
いや、リーにもいいたがっだんだ。
おかえりっで……。
[そして、思ってまた顔を歪ませた]
マユミは、
おでが殺すっでいっだし……。
[そういったけれど、やはり辛かったことは間違いなくて]
[その周であった獣の姿、
その存在はわかるのだろうか。
周であったのなら、気がついてしまうだろうか。
マユミを貫いて、そして、己を貫いたその刃が彼のものであることを]
わたしは自分で死ぬべきだった?
お父様にころされるべきだった?
……それとも、あなたを殺すべきだった?
[今彼が感じる痛みは、
本来、自分が負うべき痛みだった]
あなたはわたしを殺すことで、
あなたを殺す苦しみから、わたしを救ってくれた。
だから、
わたしは最期に幸せだった……、
あなたのおかげで、幸せだったの。
[マユミの言葉をきいて、
その重なる単語、やはり哀しくなって……]
――……違うだや。
お前は生きるべきだっだだや。
人間としで……。
[そんなこと無理だった。わかってて、
でも、哀しいから。殺すべきか死ぬべきか、その二つしかない女の子なんて]
おでは、お前を幸せにしたがっだだ。
もっと違う幸せを……。
[丸くなって背中、そのおかれた手を掴めば、振り向いて]
もっがいお前に会いたいだな。
――……こんどはころさね、がら……。
[やっぱりその身体を抱きしめてしまうのだ]
……そうね、
あなたは幸せな未来を描いてくれた。
運命を捻じ曲げた父を、
始祖をいつかこの手で討つ、と。
ただ、それだけしか残っていなかった私に、
未来を聞かせてくれた。
[望みなどなければ絶たれることはない。
幸せを願うことは無かった、
幸福も家族もあの頃ももう返ってこない遠くの場所にある、
だから、その遠くの場所で幸せでいてくれればよかった。
自分はその幸福に微塵も関係なくても、よかった。
だから絶望はなかった、しかし希望もなかった。
生きていようとも、死んでいようとも変わりない]
だから私は、
人間として生きられなかったけど、
……人間として死ねたような気がするの。
[彼の描いてくれた叶うことのない望み。
鬼となってから初めて想像した気がする。
人の心を思い出せた気がする]
うん、そうだね。
もう一回会えたら、今度は――
[抱きしめる腕に、
記憶の中の温度と匂いと甘苦しさに、
泣き笑いのような顔になる]
あなたのお嫁さんにしてね……
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