112 燐火硝子に人狼の影.
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[メアリーの瞳が、己のものと重なる>>4:61。 彼女の言が聞けるまでの時間は、短くて、長くも思われた。 そう、漸く伝えられた願い、は。]
………メアリー、
[好き、と。――死にたくない、と>>4:62。]
メアリー。
あァ、ずっと一緒だ。 一緒に、生きてくれ。絶対。
[飛び込んできたその人を、両腕で強く抱き留めた。 男の顔は、少女の頭髪に僅かに埋まる。 ――あぁ、甘くて優しい花の香りがした気がした。]
(8) sakanoka 2013/02/08(Fri) 22時頃
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(もう、ひとりぼっちじゃ、ない)
[――――…そう、思っていた。]
(9) sakanoka 2013/02/08(Fri) 22時頃
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[どの位メアリーを抱き留めていたことか。 男はその腕をそっと解き、扉の方へと向き直る。]
じゃ、行こうかね、メアリー。 ………オレにはまだ、やんなきゃならないコトがある。
[彼女を喰らいかねない獣たちを、この手で殺すために。]
(10) sakanoka 2013/02/08(Fri) 22時頃
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[そうっと扉を開ければ、どの位近くにか、かの少女の姿は見えた>>4:53。 あかい鉄錆の花の香りが、ふわりとより濃く廊下に伝う。]
よ、あんた、か。ケイトちゃん。
“―――…いいや、ミドル”
[自分の直ぐ後ろにメアリーが居ると思っていた男は。 彼女を庇う形で――庇っている心算で――少女の人狼に詰め寄る。さらに詰め寄る。]
協力させられるかって話、あったよな。 ………悪ぃ。ちと、できねェかもしれねェ。
[「少女が」協力できない、という言葉のようでいて。 正確には、「獣たちが」できないだろう、という男の思考。]
(11) sakanoka 2013/02/08(Fri) 22時半頃
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……………………あァ。悪ぃ、な。
[短くごちながら、ミドルの首許に伸ばす両腕が、男の答え。 そのまま、一思いに――と行くはず、だった。]
……………ッ、
[時が、悪かった。 月夜には、牙痕がじくりと痛みを帯びる。 その痛みが、苦しさが、腕の動きを鈍くする。**]
(12) sakanoka 2013/02/08(Fri) 22時半頃
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[残念、と告げる少女>>14の続ける言葉を待たず、男は腕を伸ばしたが――苛む苦痛によって、彼女の息の根を止め損ねた。 爪痕だけが、細い首に刻まれる>>15。 まるで、獣が引っ掻いた傷のように。]
は。 言わねェでも、解ン、だろ。
[彼女の返した答え>>16は、正解。 響くあかいこえに、ぼんやりと意識囚われながら。 男は痛む肩を堪え、少し開いた距離で、遂に牙を露わにした娘を睨みつける。]
(20) sakanoka 2013/02/09(Sat) 00時頃
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[その願いの裏に、メアリー>>17が秘めた予感にまでは気づかずに。 ただその言葉の通りの未来だけを、心に抱く。 あぁ、彼女が抱く、その心>>18にさえも気づかずに――。
傍まで近づいてくる足音>>19に、振り向かず、短く声を返す。]
……下がってろ、メアリー。
(21) sakanoka 2013/02/09(Sat) 00時頃
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―――――…は、
[ずきりと、じくりと痛む肩。微かな息苦しさ。 人狼のすがたかたちに変わりつつある娘>>23の前、男の分が悪いことはもう自覚していた。 それでも下がることは無く、それでも――左肩を抑えていた。手はどちらも、ミドルへとは伸びない。]
は、ざまァねェ、わ……。 宣戦布告、した、トコで、こんなン、じゃ……死にに行く、ような。
[かたり、軽い金属が床に落ちる音。 その喉が鳴るのが聞こえる。 ――それは未だ、威嚇の意を籠めた声。]
(25) sakanoka 2013/02/09(Sat) 00時頃
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………メアリー、
あァ。解ってるさ、メアリー。
[聞こえてくる少女の声>>24に、また短く告げて。 ここで漸く、背後を振り返る。影帯びて見せる顔の、その瞳に、目配せするように視線を。]
逃げろ。 一旦、一緒に、逃げる、ぞ。
[右腕を、ぐっ、とメアリーの腕を掴むべく伸ばし。 そのまま廊下の向こうへと駆け出した。 ――駆けた先の居室、もうひとりの獣が居ることなど知らず。]
(26) sakanoka 2013/02/09(Sat) 00時半頃
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[口走った「逃げろ」の言葉、返されたのは怒った面持ち>>29。 悪ぃ、と呟く余裕も、ばつの悪い顔をする余裕も無いまま。 少女の手の温度を確かに感じながら、駆けて、駆けて――。]
ルーカス。
“……リヒト”
[どちらの名も、「こえ」の方で初めて聞かされたもの。 鉢合わせてしまったその男>>27の出で立ちは、まるでこれから何処にでも行けるよう。 対して、己は。]
(34) sakanoka 2013/02/09(Sat) 01時頃
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解け、ねェな、あの野郎どもの、は。あァ、
[その自警団の力を借りようとしなかったのがそもそもの間違い。 己だけで立ち向かおうとする限り「逃げられや、しない」。 それはミドル>>28も口にしたことだが、駆けていった男の背には、届いていなかった。]
………でも、敵うか、どうか、は。 やってみなけりゃ、解ん、ね……、
(35) sakanoka 2013/02/09(Sat) 01時頃
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っ、ばっ、メアリーっ、……!
[己の前に立つ少女>>29の背は、果敢無くみえて。 それでも何処か、果敢にさえも見えた。 引き戻そうと伸ばし掛けた腕は、痛みによって下がり。何の力も持たなくなる。
告げられる、少女の望み。誰を、と問う男の声。 それは何時かの、己への問いとおなじ。]
め、ぁ、
[その時己はメアリーの名を挙げ、己の名を告げなかった。 そして、そのメアリーもまた、おなじ>>31。]
(37) sakanoka 2013/02/09(Sat) 01時頃
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[サリスが問われたその時と、メアリーのこの時とで違うのは、後から己の名を付け加えられたか否か。 此度はもう、ふたりとも生きることなど許されない。何処かで、そんな思いが過る。 そしてメアリーには確かに、シーシャの、サリスの代わりに喰らわれる意志が見えた>>33。]
………………
[「だったら、せめて、オレが」。 その意思は人間の声でさえも、人狼のこえでさえも紡がれず。 ――聞こえてきた「こえ」が、思考を妨げる。]
(41) sakanoka 2013/02/09(Sat) 01時半頃
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[余裕に満ちたその声>>39に、返る言葉は無い。 試してみるだけの力も、今は持ち合わせていない。 定まらぬ心が、揺れ――それからやがて凪いだのは。 かの人狼に対して問いを投げた少女の、そのもうひとつの願いを耳にした時。]
優しい、な。メアリーは。 ……あァ、優しい。
[おなじようで、違う少女。 彼女は、自警団を――他の人間を、出来る限り、殺さないでくれとも願ったのだから。]
(45) sakanoka 2013/02/09(Sat) 02時頃
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メアリー、
[今再び、振り向いた少女の顔が見えた>>43。 それは眩しく、凛としてさえ見えた。 対してきっと己は、呆然としたまま、酷く情けない顔だったに違いない。]
……………、
あァ、判った、よ。 言わない。さよなら、なんか、言わな、い。
傍に、ずっと、……。
[頬に触れる小さな手。それに従い、その身を屈める。 掠れた声紡いでいたくちびるに、彼女のそれがそっと重なる。 ほんの少しの間瞑った目に、滲む滴の熱さ。]
(46) sakanoka 2013/02/09(Sat) 02時頃
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メアリーっ、
――――… あァ、 好き、だよ 。
[くちびるが触れていたのも、その笑みが見えたのも、きっととても短い時間のこと。 護ってくれたその人は、もう、振り向かなかった。]
(48) sakanoka 2013/02/09(Sat) 02時頃
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[屈んでいた男は、床に膝をついたまま、ルーカスの前に立つメアリーの背を見上げる。 ここで止めようとすることあらば、それは彼女の意思を踏みにじるのと同じこと。故に、動いてはいけなかった。]
…………、
[そしてそれ故に、彼女を「生かす」ことができなかった。 ――まぁた見殺しにした。 そう、誰かがささやいた気がした。 けれどそれでも、動けぬまま。]
(49) sakanoka 2013/02/09(Sat) 02時半頃
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[男はメアリーから目を逸らさなかった。 竦んで逸らせなかった、という訳ではない。 少女の望みを、己の答えの結果を、逸らさずに受け入れるため。
後ろ姿からは、肌蹴られるシャツのボタンは見えない。開いた首筋も髪に紛れて見えにくい。 綺麗な髪。綺麗だと褒めた髪。その髪がふわり揺れて見えた。 其処には、首筋に傷を付け、それを舌でなぞる姿。
――あぁ。それも、何時かの少年に対してのものと似た。 けれども、この場で彼が少女を「見逃す」ということもない。]
………めあ、り、
[小さく呟いた名は、人の形した獣が発したそれと、重なる。]
(53) sakanoka 2013/02/09(Sat) 03時半頃
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っ、――――、
[瞑りそうになった目は、瞑りきらず、狭まるだけ。 その中に映るは、穿たれた左胸と、紅いあかい血の花のいろ。 握り取られたのは、紅い、あかい――、]
……………は、
[其処までを見届けて、男は俯く。 あかい花の香はあまりにも濃く、噎せ返る程。 これから食まれる少女の身体を見続けることは出来なかった。 それでも、全てが終わるまで、その場を離れようとはしなかった。]
(54) sakanoka 2013/02/09(Sat) 03時半頃
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―――…あァ、メアリー。
居るんだろ、 此処、に。
[見えなくても、傍に居る。ずっと一緒に居る。 ――ただ、そう、信じて。**]
(55) sakanoka 2013/02/09(Sat) 03時半頃
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露店巡り シーシャは、メモを貼った。
sakanoka 2013/02/09(Sat) 04時頃
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[その時傍らを通り過ぎた気配>>58。その眼差しをほんの淡く感じるも、顔を上げることはなかった。 やがて耳にする感謝の辞は、何時かメアリーとふたりでシチューを振る舞った時を思い出させるものだった。]
――――…、
[目で見ずとも、血の滴が、裂かれる衣が、咀嚼の音が耳を突く。 胸の内に渦巻く重さは、やはり人の身であるが故。 それでもこの少女が肉を糧とし、かの男が血を味わうを。 其処には無駄などないのだ、とこの人間の男は想う。]
(61) sakanoka 2013/02/09(Sat) 19時頃
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[食餌の終わりを告げた後、先に出ていく旨を告げるミドル>>60。 「お二人」という言葉に、あかいこえの遣り取りはおそらく彼女にも聞こえていたのだろう、と思考は過る。 もはや対峙する意思も姿勢も無く、リヒトの前に膝をついたままのサリスは、去る者の姿を目で追うでもなく、]
……………、
[血濡れの娘に、最後に小さく別れの「こえ」を。]
(62) sakanoka 2013/02/09(Sat) 20時頃
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[斯うして部屋にふたり残されてから。 視線がふと向くのは、あかいいろ――少女の骸。 無残だと人はその有様を言うのだろうが、この男には解る。 その安らかな寝顔が傷つけられずに残されていることが。
――それでも、それはもうただの骸でしかない。 代わりに最後に見た微笑のような、眩しい、優しいような。 そんな漠然とした何かを、近くに感じていた。]
そういや。 お前の「秘密」、何だったンか、聞いて無かった。
[その声も>>-160、その思いも>>-159知ることは無く。ふとごちていた。]
(63) sakanoka 2013/02/09(Sat) 20時頃
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なァ、メアリー、
……いや、やっぱ、良いわ。
また「逢えた」時に、教えてくれ。
[それまでの間は、かの男の腕に寄り添い続けよう。 その腕から離れていった時、かの少女の手を――。 どの位先になるかも判らない、近くて遠い、約束。**]
(64) sakanoka 2013/02/09(Sat) 20時半頃
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露店巡り シーシャは、メモを貼った。
sakanoka 2013/02/09(Sat) 22時半頃
シーシャは、オスカーのしっぽをそーーーーーっとさわってみた。どきどき
sakanoka 2013/02/09(Sat) 22時半頃
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[――あぁやっぱり。実に意地悪だ。清々しい程の悪趣味だ。 そのこえ>>*34を聞いた時には、そう呟きかけた。 呟きかけて――その時、距離が詰まる。見上げていた翡翠が、おなじ高さになる。 続けられた声>>66に、見詰め合わす目を瞬かせた。]
…………綺麗なこと、言いやがって。
[どちらの言葉も冗談には思えなかった。 小さく掠れた声には、震えもまた混じる。]
(77) sakanoka 2013/02/10(Sun) 00時半頃
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[じっと翡翠を見詰めていたから、その揺れ>>67に気づいた。 けれど直ぐに其処に、余裕めいた笑みが戻ってきたから。 何も言わず、ただ判り易く目を逸らしてみせた。
ただ小さく頷いた程度の人狼が、どの程度己の言葉を信じたかは判らない。けれど、その心を此処で二度は言わなかった。 言わぬまま、目を離す。]
(78) sakanoka 2013/02/10(Sun) 00時半頃
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[心向かわす先は、姿の見えない、声も聞こえない、触れられない、けれど傍に居る筈のひと。 呼び掛ける声は人間のそれ。 だから、それはかの男にも、聞こえていた。]
いいや。 あの子と別れた心算なんざ、無ェ …――っ、
[近づく顔に、ほんの僅かに面を逸らして傾けて。 言葉の末尾を言い切る前に、首筋に熱いものが触れる。 小さく息を呑み――ただ其処に痛みと痕を残されただけ。 鏡台で映し見てみればきっと、まるで所有印でも付けられたように見えてしまうのだろう。 けれどそれも今は見ることなく。耳元の囁きに、また瞬き――。]
大丈夫。この身一つで十分さね。
(79) sakanoka 2013/02/10(Sun) 00時半頃
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[だから、この両腕は彼の荷を抱えられる。 そしてその分、彼の腕を自由にできる。
実際に、幾許かしてから彼の荷を預かった。 脱出の準備をと、動かぬようにと告げるリヒトに、小さく頷いたところで、ふいに掌に乗せられたもの。 それは、とてもよく見覚えのある品。]
………これ、
[あの子の髪に咲いていた飾りを、手渡された。 瞠目しつつそれを見下ろし、それからリヒトの顔を見上げた。 暫し見詰めた後――髪飾りを持つ掌を、固く握りしめる。]
(80) sakanoka 2013/02/10(Sun) 00時半頃
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――――…ありがと。
じゃあ、行ってら。リヒト。気ィつけて、な。 ……此処でちゃんと待ってる、から。
[準備に向かうという彼を見送りながら。 漸く、微かに笑うことができた。]
(81) sakanoka 2013/02/10(Sun) 00時半頃
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[先に出て行った筈のミドルのことを、去り際の声>>*35を思いながら、思う。 叶う縁かは判らないが、それでも確かに希望を含ませたこえ。]
―――…扉、が、
[破れたような。けたたましい音が響く>>72。 やがて怒声が、銃声が、遠く微かに夜の空気を震わす。 ――遠く、遠く。けれど確かに、吼える声が伝い届く。]
(82) sakanoka 2013/02/10(Sun) 00時半頃
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シーシャは、それではふたたび、りせき!**
sakanoka 2013/02/10(Sun) 21時頃
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[世に広く知られるお伽話を持ち出して語るリヒト。 感情の滲んで見えないその顔が、ふとそのいろに変わる。 それは今まで知る限り、おそらく、初めて見るいろだった。]
オレ、馬鹿だから、喰われちまうかも。
[小さく声を震わせたまま。 この時はただ、そう返しただけだった。]
(92) sakanoka 2013/02/11(Mon) 00時頃
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[やがてミドルが事を起こし、此方にもそれが伝わった頃。 肩に外套を掛けられ一度瞬くも、直ぐに袖を通していく。 やがて預けられたのは、彼が常に持っていた黒檀の杖と、掌程の大きさのぼろぼろの本。]
ん、………ちゃんと、預ったさ。
[逃亡の折の荷というには、余分と言う人も居るのかもしれない。 それでも此処で持っていくということ。そして、己にそれが手渡された意味。 ――外套の前ごと掻き抱くように、右腕で確りと抱えた。]
その、ちと。 不安っつか、……… 心細かった、っつか。
[向けられた笑みに、掻き消えそうな程の声で吐きながら。]
(93) sakanoka 2013/02/11(Mon) 00時頃
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[硝子窓は開け放たれ、その夜風に金糸が揺れるのが見えた。 そう、目の前にあらわれるのは、お伽話が語る人狼のかたち。 そして――大きな躰の、月明かりにも似た毛並みの狼。]
あァ、 ―――…綺麗、だな。
[あの時の記憶は、死を迫られた恐怖に満ちていた筈なのに。 今見るそのすがたは、何処か、懐かしく見えるものだった。 ともすれば見惚れてしまうその獣に、促され、はっとして]
って……えェと、それでそのシーツの訳、ってことか。 じゃあ、背中、有難く借りるわ。
[圧倒する程の力で組み敷いてきた獣の躰。 今度はその背に跨るというのも、少し不思議な心地がしたもので――。 手の内の髪飾りと銀のクロスは振り落とされぬように、黒衣の内ポケットの中に。 それから促された通りに背に乗り、「手綱」を左腕に絡ませ、握り締めた。]
(94) sakanoka 2013/02/11(Mon) 00時頃
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[人の子を乗せた獣が、跳躍する。 上着の上から羽織る外套が、闇夜の冷たさを遮ってくれる。 頬や髪を掠める夜風は何処か心地良く。 暗さの中でも輝きを持って見える金色が、まるで踊る月そのもののように感じられた。]
(95) sakanoka 2013/02/11(Mon) 00時頃
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[やがて夜明けが訪れたその森の中で。 狼の背に身を預けたかつての少年は、少しだけ眠たげに口を開いた。]
あの海も。綺麗な硝子も。屋台のお客さんたちも。 もう見れねェって思うとあれだけどよ。
ま、遠く離れりゃどこでも、商売はやってける、さ。 ――…ミドルとも、何時か、何処かで。
[巡り合い、約を果たせれば好いな、と。 豪胆な手段に出た彼女のこと。きっと、強く生き抜いてくれていると信じて。]
(96) sakanoka 2013/02/11(Mon) 00時頃
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[怪我のことを問われたサリスは、背に乗ったままぱちりと瞬く。]
特には、あァ、いや。 …………ちと、首、痛む、わ。
あんたにキスされた所為、で。
[大分間を開けて、付け加える。 口を窄めながら低くごちて、それから、小さく楽しげに笑って見せた。]
(97) sakanoka 2013/02/11(Mon) 00時頃
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[朝日に照る金糸の、リヒトの首筋を緩く撫ぜる。 余裕も愉しげな様子も感じてはいたけれど、此処まで駆けぬいた獣の息遣いは、間近に感じていたから。 どこか夢でも見るように、ふと、言葉を紡ぐ。]
あとさ。あン時、あァ言ったけどよ。 やっぱ……喰われるンは勘弁。
だってさ。猟師が撃ち殺しにやって来ても。 赤い頭巾のガキは、腹ン中からじゃ、狼を護れねェだろ。
[あの時の彼の言に合わせて語るお伽話の続き。]
(98) sakanoka 2013/02/11(Mon) 00時頃
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ニンゲンが人狼を護るなんざ言ったら、笑われるかも知れねェけど。
[かのうつくしい獣のことを「人狼サマ」とは呼ばなかった。 もう、畏怖や怯えから彼の傍に居る訳ではなかったから。]
オレの、サリスの命尽きるその日まで。 あんたのこと、傍で護らせて…――なァ、リヒト。
[そのためならば、何処でだって生き抜いてみせる。 どんな海の向こうでも。どんな地の最果てでも。 見えずとも見守っててくれる人と。今目に見える、この獣と。共に。**]
(99) sakanoka 2013/02/11(Mon) 00時頃
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シーシャは、メアリーとリヒトををぎゅううううう
sakanoka 2013/02/11(Mon) 00時頃
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