298 終わらない僕らの夏休み!
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[『泳いでいかないの?』、平泳ぎの身振りを添えて尋ねられた。 首を横に振る。 今日は水着を持ってきてないから]
(143) sizu 2019/09/14(Sat) 00時頃
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― 9月2日:学校・放課後の図書館 ―
[早く帰って勉強をしなければ、と思いつつも足を運んでしまい、何故か、これまで見向きもしなかった郷土史の棚の前に立つ。 こういうのに興味があっただろうかと一冊手に取り、ページをめくる。 中に書かれていた伝承は、読んだことなどなかったはずのにどうしてかその中身を知っていた]
[せっかく来たのだから一つ勉強でもこなしていくかと、書架を抜ける。 出た先は、図書館の奥の奥。窓際の席。 そこにはやはり、後輩の根岸くんが座っていて本を読んでいる。 軽く二回、人差し指と中指でテーブルを叩く。 そうしてから、頭を下げて挨拶。 そして、颯爽と少し離れた席へと向かうのだった。 今日も暑かったけれど、事前にちゃんと汗を処理したから残り香は以前と同じ、女子高生のフローラルな香りのはずだ]
(144) sizu 2019/09/14(Sat) 00時頃
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― 9月2日:放課後の帰り道 ―
[スーパーに寄って夕食を買った帰り道。 エコバッグの中には、ポテサラとナスの煮びたしに大玉のトマトが一つ。 それと、チョコミントアイス。 バッグを揺らし、歩いていると近所の奥様方に呼び止められる。 頭を下げながら、長くなるな、長くなるな、と心の中で祈る。 私のチョコミントアイスが溶けちゃうでしょうが]
[受験生ということが考慮されてか、予想より早く解放された。 これならチョコミントアイスは軽傷だろう。 聞かされたのは、大須賀さんの家の話。 颯成くんのお話]
(145) sizu 2019/09/14(Sat) 00時頃
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― 9月2日:自宅・夜 ―
[帰ってからは、シャワーを浴びてまず勉強。 その間にご飯が炊けているから、夕食をすます。 改めて勉強をしてから、ゆっくりとお風呂に浸かる]
[パジャマに着替え、湯上りの火照った体をクーラーの効いた部屋の空気がひんやりと冷ます。 さらに、チョコミントアイスで内側からも。 空になったアイスの器をテーブルの隅に置いて、しばしぼーっと]
(146) sizu 2019/09/14(Sat) 00時頃
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[ふと、なんとなく、引き出しを引くと見覚えのある文字が飛び込んできた。 見覚えがあるも何も、長年連れ添ってきた私の字だ。 【私は忘れない】、そう書かれた紙に手を伸ばす。 開くとそれは地図になっていて、そこに書かれている内容は良くわからなくて。 それでも、その蛍光ピンクを引かれた能天気な文字を見ていると、胸が苦しくなって、熱くなって。 紙上に落ちた雫が文字を薄めて歪めてしまわないように、*丁寧に丁寧に拭き取った*]
(147) sizu 2019/09/14(Sat) 00時頃
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根岸! よう…久しぶり!
[俺はそう言いながら根岸の肩に手を回す。]
閑居して不善をなすってヤツ? 親友が退屈してんだからさぁ…遊びに来いよなぁ。
[わかってる。根岸がそういう奴じゃないってことくらい。でもいいだろ?俺は俺の思った事をそのまま伝えたいって気がし始めている。]
なあ根岸。 俺も図書館連れてけ。面白い小説かなにか教えろよ。
[俺はそう言いながら、学生服のポケットに仕舞ったあの栞を思い浮かべる。なにかそこだけ暖かいような、そんな幻想を感じる。俺はこの栞を大事にする。だから、大事に使うために本を読みたい。俺には形而上学的な何かなんてわからないかもしれないけど、そんな動機だっていいだろ?な?親友…]
あ。岸! 俺来年も二年だから。よろしくな! **
(148) mononoke 2019/09/14(Sat) 00時半頃
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─ 最後の9月1日・神社 ─ (>>48 >>49 >>50 >>51 >>52 >>53)
[根岸と神社で合流した時、根岸は図書館で会った時みたいに片手をあげていた。あの時みたいにさっさと背を向けてしまうこともなくて、待っていてもらった。 根岸にすぐに謝られたから、あたしはまずは秋山先輩の話をした。]
ううん。秋山先輩に聞いたんでしょ? はずかし…… とりあえず、ありがと。気使わせちゃったね。
[あたしが前から秋山先輩が好きで、ちょっと長めに片思いをしていることも、友達に応援してもらっていたことも、何も。わざわざ根岸に聞かせたりはしなかった。]
(149) gekonra 2019/09/14(Sat) 18時半頃
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[鳥居をくぐったら屋台が並んでいて、食べ物のにおいがあちこちから漂ってきてた。暗くなってきたなか、浴衣の女の子たちが歩いてたのが羨ましかった。 あたしも浴衣を着たかった。 あたしはもうお腹いっぱいだったけど、根岸はトウモロコシを買っていた。]
マジ?まだ食べれる?
[男子すげーなってあたしは笑った。]
根岸は昔からあんまこういうの興味ないかぁ……。
[ああ、そうだ、そんなようなこと一番初めの9月1日に聞いてた。あたしも根岸はこういうのはあまり好きじゃないだろうと思って……付き合いで来てくれているのが、よくわかっている。 少し考えて根岸は近くにあったヨーヨー釣りを選んで、あたしは近くでそれを眺めてた。 話あわせてくれてるんだろう。水色のヨーヨーを根岸が釣って、それを手渡してくれた。 頑張ったで賞だというそれを受け取ってあたしはぽかんとしていたと思う。 手の平の上、水風船のなかに入った水がひんやりしていて、丸い空間のなかを揺れているのがわかった。]
(150) gekonra 2019/09/14(Sat) 18時半頃
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……頑張ったのかな。 よくわかんないや。
[結局はダメだったわけだし。 先輩はあたしのことよく知らないし。当たり前だ。
努力なんていったって、あたしだけでは踏み出せない一歩を、後輩たちに一歩踏み出せるようにしてもらっただけ。
あたしは水風船のゴムに指をひっかけた。 ああ、なんだか今更無性に悲しい。 背のせいで俯いても泣き顔がみえる気がするのが嫌いだ。 あたしは我慢してみようかと思ったけど、失敗した。]
(151) gekonra 2019/09/14(Sat) 18時半頃
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かわい。 貰っていいの?
[鼻がぐずぐずいっている。恥ずかしい。 ゴムで指とがつながった水色の水風船を、地面目掛けて放った。戻ってきて、じゃぼじゃぼ音をたてていた。]
次、なにしよっか。
[じきにお祭もお仕舞の時間がくるんだろう。 それから0時が来て、そう、9月2日が来る。
どうしてか、あたしは今、明日が来るような気がしている。 よかった。千早ちゃんが待っていた、明日だ。]
(152) gekonra 2019/09/14(Sat) 18時半頃
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『ボール!フォアボール!』
(153) fuku 2019/09/14(Sat) 19時半頃
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[オレは今、タコ焼きを焼いている。]
(154) fuku 2019/09/14(Sat) 19時半頃
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― 7 years afterな9月1日 ―
お待ちどうサン、毎度ありっ!!!
[といっても、ただタコを焼いているわけではない。 大学にいけるほどのアタマがなかったオレは、夏呼から遠く離れた具多川(ぐたかわ)市のショッピングセンターでタコを焼いてる。 いわゆるフードコートってヤツだ。]
(155) fuku 2019/09/14(Sat) 19時半頃
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[社長は女性で野球にはそこまで興味は無いが、『槍!三本槍!』とか言いながらフンスフンス言っている。 どうやらソーシャルゲームのキャラクターに重ねているらしいが。なるほどよくわからん。
たまに同期のがっちりした野郎と並べて楽しんでるみたいだけど、正直そっちの気は無いンだよなァ。]
(156) fuku 2019/09/14(Sat) 19時半頃
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あっ、3時じゃんか。今日はオレ、アレだから早く上がるな!あとはよろしく!
[オレは急いで着替える用意をする。
夏呼の連中とはちょこちょこ連絡は取ってる。 随分と遠くまで来ちまったンでなかなか会えないけど。]
(157) fuku 2019/09/14(Sat) 19時半頃
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[なァ、ヒナコ。お前はあっちで元気してるのか?]
(158) fuku 2019/09/14(Sat) 19時半頃
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[オレは練習場の更衣室のドアを開けると、ユニフォームに袖を通し、スパイクを履く。
バタバタしているうちにロッカーから何かが、落ちた。]
(159) fuku 2019/09/14(Sat) 19時半頃
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センス、センス。出口さんのバッティングセンスはハイセンス。
[朝顔の押し花が施された、扇子。 そうだ。ヒナコの部屋から拝借してきたンだ。 勝手に持ってってゴメンな。 頼むから泣くのは勘弁してくれ。会社の人間に昔話したら『出口くんの萎れバット野郎!』って言われたんだぞ。セクハラだろ。]
(160) fuku 2019/09/14(Sat) 19時半頃
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[それは兎も角、オレは今も野球続けてるぞ、お前のいう通り。
来年、社会人野球の予選に出られるから、来てくれよな。 ま、言われなくても来るよな。お前なら。]
(161) fuku 2019/09/14(Sat) 20時頃
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[くだらねーバッティングするようなら、容赦なくヤジってくれや。そいじゃ、*またな*]
(162) fuku 2019/09/14(Sat) 20時頃
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ワタルは、うっうっ……泣きながらお布団へ…*
wallace 2019/09/14(Sat) 23時半頃
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─ 最後の9月1日・神社 ─ (>>149>>150>>151>>152>>*6)
[宍井が先輩を祭りに誘って、断られたこと。それを先輩が話しているのを聞いたこと。 何も言ってないのに宍井にはお見通しだった。 そういう人だ、って知ってるんだな思うと宍井も案外アホなのかもしれないなと思った。 いや、先輩にも補って余りある長所はあるんだろうけど。 「気を使わせた」と宍井が言うから首を横に振る。 別に気なんて使っちゃいない。…と思う。
俺が先に歩きだしたら、宍井がついてきた。俺とほとんど背丈の変わらない髪の短い女の子は、俺が気にしたほどに参ってはいなさそうだった。 むしろ気遣わせることになったかもしれないと思うと少しいたたまれなかった。]
(163) higesorry 2019/09/15(Sun) 04時半頃
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そのあと祭りでは何をしたっけ。 そうだ、宍井にヨーヨーを渡して。宍井はついに、しょぼくれたような顔してたような気がするけど、気まずくて顔なんて見れなかったような気もする。 頑張ったのかよくわかんない、なんて頼りなげな声をしていたのは確かだ。
頑張ったんじゃねえのかな。
だってそれは、今より良くなりたいって 諦められなかったってことだろ。 『踏み出したい』とか『人と一緒に居たい』とか『他人に頼る』とか。 どれもすごいことだと思う。…俺は。
(164) higesorry 2019/09/15(Sun) 04時半頃
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引っ込みがつかなくて半ば押し付けるようにして宍井に渡したヨーヨーは、随分華奢に見える手のひらで居心地悪そうにしている。 貰って良いのか…って良いに決まってるだろ。 きっと宍井は欲しい物が手に入らなかったんだろうから。
まあ記念に。 …要らないモンの方が良いだろ。貰っといて。
俺が昔欲しがったもの。 何年越しに、今手に入れたもの。 今は俺にも宍井にとっても要らないもの。 よく知りもしないやつに素敵なもの貰うより、よっぽどいいだろ。
…そんなおもちゃひとつで宍井が泣き止むなんて思わないけど。 我慢してたんなら、少しくらい泣けばいいと思った。 俺なんてのは居ても居なくても同じだから。 誰にも見られてないことにしたらいい。
(165) higesorry 2019/09/15(Sun) 04時半頃
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──────…
ああ、俺なんとなく、宍井のこと… どうかな。仲間みたいに思っていたのかもしれない。
どこが?って… や、怒るから言わね。
仲間っつったって、俺は全然…なんだけどさ。 踏み出すなんてとんでもなくて、同じとこでずうっとふてくされてるだけだから。
だから俺は宍井が羨ましい。 諦めないで、変わりたいと思える宍井が。
(166) higesorry 2019/09/15(Sun) 04時半頃
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……ああ、あと 別にこういうの、…祭りとか興味ないわけじゃなくてさ。 昔から絶対誰にも誘われないから、嫌いだってだけで。
だっせえよな。
[自分で言っておいて俺は吹き出して。 かなり久しぶりに、声を出して笑った。 久しぶりに笑ったのがこんなことって、俺らしすぎるなと思った。]
(167) higesorry 2019/09/15(Sun) 04時半頃
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また明日な。
[別れ際、俺は宍井にそう言って。 宍井の手元で跳ねるヨーヨーを見て。 宍井を見て、手を振る。
当たり前に来る明日を、ずっと嫌いだった明日を、心のどこかで少しだけ待っていた。]
(168) higesorry 2019/09/15(Sun) 04時半頃
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─ 9月某日・教室 ─
["宍井澪さんがが亡くなりました" ……俺が宍井の死を知ったのはHRで担任がそう口にした時だ。きっと周囲と比べれば随分遅い頃合いだったろう。 進んで俺に噂話を持ちかけるやつなんて、鹿崎くらいのもので。その鹿崎も停学くらっていなかったし。
夏休みが明けてすぐ──始業式にも夏休み中に先輩の女子が亡くなったと聞いた。全校生徒の前でニュース番組のアナウンサーみたいに会長がなにか喋ったりもしていた。騒然とした学内で聞こえてきた分にはギャルの人だったらしい。その日の学校はすすり泣く声と、随分ひどい噂話が印象的だった。鹿崎が誰かに殴りかかったりもした。あまりの惨状に、死んでよかったかもな、と一瞬思う。それでもきっと、多分、俺よりは生きたがってた人なんじゃないだろうか。そう思うと、気が遠くなりそうなほど、気の毒だった。
──けど
宍井も夏休み中に死んでた、っていうならどうして、今頃。 彼女と同じ頃に知らされてもいいじゃないか。 いや、そんなことは 別にどうでも。どうでもよくて。]
うそだろ……
(169) higesorry 2019/09/15(Sun) 04時半頃
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─ 9月某日・自宅 ─
[帰宅した俺は、部屋に入るなり朝から敷いたままの布団に潜り込んだ。暑い。
真っ暗な布団の隙間で目を開いたまま。何も見えないはずの隙間に何かを探しながら。 宍井が死んだのは夏休みのいつ頃だったんだろう。 聞いた話によると宍井の親が宍井の死後もずっと家に寝かせていたんだとか。]
………っ
[もう会えない。
その日俺は、よく知りもしない、友達ですらない女の子の最後に見た日の姿を思って泣いた。]
(170) higesorry 2019/09/15(Sun) 05時頃
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(171) higesorry 2019/09/15(Sun) 05時頃
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