231 獣ノ國 - under the ground -
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落胤 明之進は、メモを貼った。
2015/07/17(Fri) 02時頃
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ああ、ヴェスパタインの手なら、きっと、安心して逝け。
…え?…は…?
[一緒に暮らさないか、と囁かれる。>>51まるで悪魔のささやきだ。いや、その見た目がではない。…その、抗いがたさが。]
お… [お前はそれでいいのかよ。この施設には、来れなくなるかもなンだぞ?お前の職だろう?そんな、言葉は、相手は求めていない。求めて、いるのは…]
[ただ、ひとつ、顔を相手の胸に埋めたままこくり、とうなづく。縛られたかった。自由でいたくなかった。なんでも、好きな事ができる、誰の事も気にしないでいい。それは…とても、とても寂しい事なのだ。あの路地裏でも、この地下施設でも、自由だった、自由で、寂しかった]
後悔、するなよ…アタシが扱いにくいの、知ってンだろ…
[顔を埋めたまま、つぶやく。赤い顔を、隠すために]
殺しときゃよかったって、後悔しても、遅いからな… そンときゃ、アタシの純情を弄んだ報いを受けて、貰うからな…
[ボロボロの上着よりも、直接に、重さが、香りが、入り込んでくる。心を縛る鎖が、とても、心地よい。離れがたい。]
(54) 2015/07/17(Fri) 02時半頃
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…連れてってくれよ。足、挫いたんだ
[ふらふらと、立ち上がる。弱さを簡単に吐き出す。もう、彼相手なら、いくらだって本音を言える。尖った棘で隠した、臆病で寂しがり屋のハリネズミのこころを、さらけ出せる]
(55) 2015/07/17(Fri) 02時半頃
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[そうして、その手を取った。手を繋げるのは…繋ごうと思うのは、同じ生き物である、証だ]
(56) 2015/07/17(Fri) 02時半頃
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[いきていたい>>53その返答に、我に返る。 そうだ。私は、ここから出て行きたい。ここから出て、生きたい。 その為に、ジリヤを置いてまで、ここまで来たのだ。 人間を傷つけたジリヤを置いてきた私が、ここで人間を傷つけた人間をその後を心配するのはおかしな話だ]
フィリップ。
[顔を向けると立ち上がったフィリップ>>47が、私の手を取った>>48。 その顔に、決意をこめて、頷いて。 私は月見に向かって一度深々と頭を下げた。 逃がしてくれることへの感謝か。それとも、旅立ちの挨拶か。それは私にも良くわからない。……今までお世話になりました、でないことだけは確かだけれど。 踵を返し、もう振り向かず、私たちは大扉をくぐる。 外の世界へと向かって**]
(57) 2015/07/17(Fri) 02時半頃
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[ゆうらり、幽鬼のように血塗れた刃を持ち 外の風に着物の裾を靡かせた。 >>57 こちらに頭を下げたマユミの絹糸のような黒髪が揺れる。 彼はそれを無表情で見届けると、 大扉をくぐる彼らの背を見送る。]
(58) 2015/07/17(Fri) 11時頃
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……それはそれは、 …――怖いですねえ。
[ 純情>>54、と 。男は矢張りと思った。思って尚、言及はしなかった。此方の要求――と言うには拒否権など無かったが――に一つ頷いた彼女へ、満足そうな笑みを浮かべながら 。
軈て男はふらふらと覚束なく立ち上がる彼女へ、深く差し伸べた手さえ握り返されたなら、その体躯を寄せ楽に持ち上げた。 お姫様だっこ―――などではなく俵抱きではあるが。男は髪を揺らして出口へと歩先を向け直した 。いついつ彼女を外へ連れ出しても構わないが ―― 今なら殊更楽であろうと。 自身の頬や腕に擦れる「 針 」…ではなく、「 髪 」に擽ったささえ覚えつつ。
以前此処から出た「 鮫 」は、 あの後どうなったのだろうか? 不意に思い出した事柄 。 男はふるりと柔に首を振った。
また逢うこともあるだろう。 ―――いずれ。 ]
(59) 2015/07/17(Fri) 11時頃
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家事くらいはしてくださいね、 ジリヤさん。
[ 男は声色に笑声を含ませながら、彼女に言うた。踵を鳴らし歩けば、靴音は白亜のそこに響き渡ったであろうか。 ……職を辞さなければならなくなったなら、またあの教会へ戻るのみ。 ただ安安と此処を辞めるという気にもなれずに。
暖炉の中 。 梯子を登る前 。 男は物惜し気に白亜のそこを振り返った 。―――「 崇拝 」を得ることは出来なかったが、それでも。 ……存外、悪く無いものであった、 と。]
(60) 2015/07/17(Fri) 11時頃
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[ そうして梯子を登る際一度担ぎ上げた彼女を降ろせば、男は先に梯子を登った 。登ってから、日の刺す第三棟に ―― 大扉から射し込んだ光に、目を細めた 。
微かに海の、香りがする。 ]**
(61) 2015/07/17(Fri) 11時頃
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[ 馬鹿で愚直で工夫もできない鳥頭は、 ひたすらに前にすすむばかりで できることといったら …………。 梟に言ったら許して貰えなさそうな手段ばかり。
( ああ…いつだって兄さんがなんとかしてくれてたんだ )
へこたれたまんまの僕のあたまを優しく撫でる手と 肩にとまって鋭い嘴でどつく兄。
( 痛い、痛い。 痛い痛い痛い。)
生きているから、痛い。]
……いきていたい。 生きていたい。 ぼくは空に、行きたい。
[ こちらを静かに見つめて肩を竦める男>>53に 目的を確かめるように呟いて 僕の翼の手を握る。 僕の名>>57と頷きに、僕もこくりと返して。]
(62) 2015/07/17(Fri) 11時頃
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[「獣を閉じ込めておきたかった」はずの胸の飾り。 翼が無いのに飛んで行ってしまった 彼のたいせつなひと。
( 僕には、翼があるから )
なんて言葉が浮かんだのは どうしてだか。
ふわり、開いた扉が招く風が 床の上で踊る。 血を吸った和装の袂が揺れて ……けれど、靡くはずの長い髪が無い。
切られた髪、彼が鍵に触れた指の意味。]
―――未練は、断ち切れた?
[ 大扉をくぐる直前、卑劣で優しい彼へそれだけ投げかけて 僕は、前を、上を、未だ見ぬそらを 見る。
――――外へ。**]
(63) 2015/07/17(Fri) 11時頃
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[投げかけられた声>>63がある。 それに一つ、首を傾げた。 なにかを言いかけて口を開いたが、それもすぐに閉じて]
さようなら。
[彼はフィリップに向けてそれだけ言うと 二人の獣人が去った後、 彼は蹲る警備員の傍へと歩いていった。*]
(64) 2015/07/17(Fri) 11時頃
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あぁ、そンなことしやがったら、この髪でぐさ…おおっ
[引っ張り上げられて、担がれる…この体格差なら、まぁ、当然だ。たとえ、ジタバタしたとしても、逃れようのない抱き方。それでも、この窮屈さが幸せだった。今日、この日まで、抱きしめられるのはなかったのだから。抱きしめる、緩やかな束縛、自由から離れた、幸福]
…わーってるよ。路地裏とはいえ一人で暮らしてたンだ。大体は出来る。 [この抱き方なら、顔は見えないはずだ。幸せそうな顔が、存分に出る。…声色にもでていることは、気付かないが。下されれば、自分も梯子を登り。後についていく。痛いは痛いが、登れないほどではない。もう、あの檻は振り返らず。なんの未練もない。…マユミたちも、うまくやったはずだ。何せ、これほど抜け出しやすい日は、そうないのだ。]
(65) 2015/07/17(Fri) 11時半頃
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…土と、海の香りがする…
[大扉から入ってくる、久しく嗅いでなかった匂い。庭園のものとは違う、生命を感じる、粗野な土の匂い。潮の香り。確かに、外だ。ずっと、ずっと望んでいた…そして、隣には表に出せないが、ずっと望んでいた…温もりが、ある。神様なんて、きっといないのだろうな、と思った。人を傷つけて、嘘をついて。その直後に、こんな、欲しいものを、くれたのだから…あるいは、本当に、いて、あの本の通り…全てを許してくれるのかも、しれない]
(66) 2015/07/17(Fri) 11時半頃
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[第三棟の少しはずれ。]
やぁ……すまないね。 だけどそんなに痛いのかい。
[蹲り何事かを言う警備員を見下ろし、 血塗れた小刀を掌で弄んだ。]
昔から「警察」には恨みがあるから 少ゥしばかり深く刺してしまったかもしれないが ……にしても、刃渡り五センチだよ?
[気狂いと罵られてはにっこりと朗らかな笑みを深め 彼はそれから監視室の方へ向かった。 監視カメラにはがらんとした施設内が映っている。 机の上においてある手紙をぺらりと捲れば それはノアのものだった。]
(67) 2015/07/17(Fri) 12時頃
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――シャイだねえ。
[別れの挨拶くらい、とは思ったが、 すぐに口を閉ざして、小さく肩を竦める。]
……いや、
[忘れてしまえばいい。ここであった嫌な事は。 そうして”良いこと”が少しでもあったなら それは覚えていきていけばいい。
あの学者の顔を思い出しながら エゴイスティックにそう思って、 彼はからん、と刃を投げ出した。 ]
(68) 2015/07/17(Fri) 12時頃
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常々不思議だったんだよ。 ……ここを創った御仁は、 一体、何を考えていたんだろうかと。
[聴くものもいないが、ぼやく。 ムーンストーンに一つ触れ、]
『……沖に出たらば暗いでせう、 櫂から滴垂る水の音は……、』
[いつかどこかで読んだ詩を、口ずさんでいた。**]
(69) 2015/07/17(Fri) 12時頃
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落胤 明之進は、メモを貼った。
2015/07/17(Fri) 12時頃
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[振り返りはしないけれど、私は少し、考える。 そういえば、あの日私が暖炉の抜け道を知った切っ掛けも、この人だった>>2:3。 考えてみれば、それはあまりにも、無用心。 だって彼は、私が図書室にいることを知っていた>>2:2のだから。 獣を逃がそうとするこの人が、どんな人なのか私は知らない。なぜ管理者なのかも知らない。 10年間、私は孤独を愛してきた。特に人間とは、まともにコミュニケーションをするつもりが全くなかった。 そのことを、後悔はしていない。今更聞くつもりもない。 けれどあの日、一言くらい、返しておけばよかったと。 そんな小さな後悔をした。
――――――“あなたも、本が好きですか”]
(70) 2015/07/17(Fri) 12時半頃
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[空気が、変わった。 私の嗅覚はそれほどいいわけではないけれど、それでも確かに、空気が違う。風が、頬を撫でる。……外の匂いがする。 そう、今まで暮らした鳥籠は、こんな風に空気が動くことが、なかった。風が、なかった。空が、なかった。 私は手を取り合ったまま、フィリップの方を見て、口元に笑みを浮かべる]
はぐれてしまわないように、側にいてね。 外の世界は、広いから。
[嗚呼、潮の匂いがする。土の匂いがする>>66。10年振りの外の世界で。 私はとうとう翼を広げる。さて、飛ぶのも実に10年振りだ。飛び方は覚えているつもりだけれど、ちゃんと上手に飛べるかしら**]
(71) 2015/07/17(Fri) 13時頃
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[ 太陽というものは、こんなに優しくないものだったっけ。
記憶に靄をかける甘い匂いは、思い出せないくらい遠く 世界に光が満ちるにつれて 塗りつぶされていた記憶に色が差してゆく。
兄は、そんな僕を知ってか知らずか 我慢ならないというように ひとあし?ひと翼?先に 僕等を置いて蒼穹へ餐まれ 見上げた空のまんなかで 紅の星になった。
繋いだ手>>71は 温かい。 向けられた微笑みは、僕を守るように大きく、優しくて 僕はたからものを守るように彼女をつつむ。]
はぐれそうなのは、兄さんのほうじゃないかな。
[ 僕らの頭上、おおきく旋回する兄を茶化して 彼女が翼を広げる感覚に、両腕に力を込めて目を閉じた。]
(72) 2015/07/17(Fri) 15時頃
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[ この躰からも剥がれ落ちてゆく”甘い匂い”が 僕に過去と兄を返すかわりに 大切なそれを奪っていく。
…………もっとも、兄の時とおなじように 奪われたことにすら 僕は気づけないのだけれど。
耳はバタバタとはたく海風に塞がれて 頬を撫でる潮風が、目元にぴりりと滲みる。 細くひらいた瑠璃色の目は それ以上に美しい水面を映し 世界は白砂青松の如く。
「 にゃぁ ミャォ 」
うみねこが自分達の空に 見慣れぬ客人を迎え入れた。**]
(73) 2015/07/17(Fri) 15時頃
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大丈夫よ。 あなたのお兄さんは、あなたを見失ったりしないわ。
[もちろん私もそのつもりだけれど、と言い添えて、私を包み込む優しい腕>>72に体を寄せる。 大切な人を、間違っても落としてしまうことのないように、私もしっかり抱き返して。 行くわ、と短く囁くと、10年振りの空へ飛び立った。
赤い星のような彼の兄を視界に収めながら、本来は夜の住人たる私が、光の下を飛ぶ。10年振りの太陽の光は、いっそ暴力的だと思うほどに眩しくて、まるで私は笑顔を作る時のように目を細めた。 夜に溶けるはずの翼は、青空の中の染みのように目立つだろう。逃亡中の身としては、それはあまり都合がいいことではないけれど、私の翼は大きいから。きっと追いつけるものなどそうそういない。
羽音のあまり立たない梟の翼で、人間の気配を避けるように、建造物のない方を選びながら飛び続ける私は。 自由と引き換えに失った大切なものに気づくことはなく**]
(74) 2015/07/17(Fri) 16時頃
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[ 兄が何かに気付いたように進路を定めてから どのくらい飛んだだろう。
傾いた太陽が眼下の森を赤黒く染めて、 沢の水はオレンジの絵の具を溶いたみたいな朱。 高度を下げれば鼻を掠める森の馨は もしかしたら 彼女にも馴染みのある匂いだったかもしれないが。
人里遠く、ひときわ大きな楢の木の上に 蘇ったばかりの思い出と、 夕日を映して真っ赤に燃える兄が 灯る。
彼女の翼がその下に降り立てば 僕は人でない脚で木に宿り 僕の翼を抱きとめるだろう。
僕ともうひとりの兄さんで作った 文字通りの鳥小屋は 住人を失って埃にまみれていたけれど その一角に、我が物顔の お客がひとり。
『 Coucou, coucou, coucou, 』 **]
(75) 2015/07/17(Fri) 18時半頃
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―― 大扉前 ――
[ ―――声が柔らかくなった>>65と、思った 。 今やどんな表情をしているのだろうと思えば、 …少しだけそちら” も ”振り返ってみたくなりつつ。 ……されど男は素知らぬ振りで、またずる賢くも平生と変わらぬいろを灯すのだった。 ]*
(76) 2015/07/17(Fri) 21時半頃
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[ 第三棟を見渡せば、遠くに誰ぞの姿>>67でも見ることはできただろうか ? 出来たとして、男は特に何も動かずに。 ……そう、どうせまた逢えると思っていた為に。彼の視線が此方へ、また歩先さえ向かうことがあれば、軽く会釈くらいはしたことだろう。]
これから先階段ではありますが 、―――歩けますか?それとも先のように担ぎますか。
[ 男は後から梯子を登る彼女へ、最後の段にて手を差し伸べた。その手が取られることもあったなら、ゆるりとその体を引き上げたことだろう。 そうしてふわりと包む潮の土の香に、何故か懐かしささえ感じながら。―――かつりと、靴音を鳴らした 。 「 さいしょのいっぽ 」の踏み出し方を 彼女はどう選ぶだろう。
まるで望んでいたと、願っていたと、……祈りにも似た表情を浮かべる彼女を尻目に映し。その隣、矢張り男はゆらりと影を揺らめかす。
―――長い長い階段を 上り切る先。独つだった男の影も、いまや隣に並びて二つ。 何か景色が変わることは ――あるだろうか? ]**
(77) 2015/07/17(Fri) 21時半頃
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…担いでくれよ
[梯子の最後、手を差し伸ばされて、引き上げられる。担ぐかどうするか、という質問には>>77こう答えて。遅くていいなら、歩けはする。だが、歩けるが…それでは、むしろ相手を待たせるだろうことと、それと…身体が、ぴったりとくっつく不自由を、もう一度味わいたくて。そう告げる。『さいしょのいっぽ』は、ひたすら不自由に。それが、誰かと関わり、生きるということなのだ。あれほど大切にしていた自由を失ったハリネズミは、終始幸せそうで。本人は表に出していないつもりなのだから、驚きだ。]
[潮の香りが、どんどん強くなっていく。この、海すら内包する広い世界で、自分はこれから、この男の心のぬくもりを感じれる範囲を離れずに暮らしていくのだろう。もしかすると、この施設よりも狭いかもしれない世界。でも、そこに積極的に囚われていたいと思う。…ハリネズミは本当は、いままで、凍えて死にそうだったのだから。毛を逆立てて、反抗して、怒って、それで発した熱で、心を温めて生きてきたのだから。ハリネズミのジレンマ。たとえ、ハリネズミは棘で自らも傷つけようと…ぬくもりを求めることは、やめられないのだ。]
(78) 2015/07/17(Fri) 22時頃
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…ヴェスパタイン
…相手の身体が、近くにあるってのは、こんなに、あったかいんだな。…知らなかったよ。
[抱きしられた事のないハリネズミは、担がれた状態で幸せそうにつぶやいて。扉の向こう、射す太陽の光は、プラチナの髪の毛にキラキラと反射して。まるで、その髪の毛に、ハリネズミのずっと欲しかった宝物が、宿ったようだった。自由を失ったハリネズミ。それは、居場所を、見つけた…という、事だった。]
(79) 2015/07/17(Fri) 22時頃
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[外の世界に、たった一人だけ会いたい人はいたけれど、今どこにいるのかわからない。 10年前まで暮らしていた場所は、私を匿うための、人里離れた森の奥。 私がいなくては、その場所は意味を失うから。一人になったかあさまが今も尚そこに住み続けているとは思えなかった。 といっても、そのうちあの場所にも行ってみるつもりではいる。 フィリップに、私の育った場所を、見てもらいたいから。 かあさまに、いつか会えるという希望も、捨てない。 世界は広いけれど、時間はあるし、そしてなによりも、もう私は自由なのだから。
赤い鸚哥に導かれる>>75ようにして、場違いな昼の空を梟は飛ぶ。 嗚呼、空から見た世界は、とても広くて綺麗。 そうして、夜の気配が少しずつ忍び込む頃、どこか懐かしいような森が眼下に広がった。 目印になりそうな大きな楢の木に宿るフィリップの兄を追いかけて降りていけば、先に木に移ったフィリップが抱きとめてくれる]
(80) 2015/07/17(Fri) 22時半頃
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ありがとう。 お邪魔します。
[着いた場所は、かつての兄弟の住処のよう。 抱きとめてもらったことと、お招きに感謝してそんな挨拶を。 長旅お疲れ様、なんて言おうかと思ったけれど、当然ながら長らく住人を失っていたその住処は埃まみれで。まだちょっと一息つけそうにない]
まずは……お掃除かしら。
[第二図書室を片付けたことを思い出す。あれはこのための予行演習だったのかしら、なんて思って。 そして、私はようやく、その場所に先客がいることに気づく。 掛けられたその声は、歓迎の声なのか、それとも迷惑がられているのだろうか? 瞬きを一つして、先客を見つめた]
(81) 2015/07/17(Fri) 22時半頃
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……今回限りですよ、と言うのは。 ―――意地悪ですかねェ…
[ ” 要望 ”に、男は嗤った。” にやり ”は今でも変わることなく、ただ不気味に影を落とす。 幸せそうな” にんげん ”の表情を見た男の単なる思い付きの 。 ” 意地悪 ”は、果たして。
軈て男は隣に在る影を柔らかに担ぎ上げた 。ちくりと刺さった髪先も、大して意にも介さず。 ――否。ひとつ、 「 貴女に似合う頭巾でも、買って来ましょうか 」とのみ。言葉を浮かせたのだったか。 ]
(82) 2015/07/18(Sat) 00時頃
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[ ………螺旋の階段を登る 。地下に居れば果てし無くさえ思われる其処を 怠惰な足取りで。 塔の壁、隙間から垣間見得たひかりは確かに――「 そと 」のものであった。 男はそれを鬱陶しそうに見つめては、また一段と足を乗せた 。脳裏、思考の端。 ちらりと「 鍛える 」との文字も過りつつ。
その道中で、紡がれたのは ―― 「 自由 」で「 孤独 」であった針鼠の声>>79だった。言葉の底に、過去のしがらみ――実際は寧ろ彼女は柵など嫌っていたが――その背景、また心うちが見えた気がした。 まるで「 しあわせ 」で、「 さみしかった 」ような言葉付きに、男はほうと息を吐く。 ]
(83) 2015/07/18(Sat) 00時頃
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