17 吸血鬼の城
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きゃ……っ!?
[がたり。
背後からの声に、震えた手が棚を揺らして幾つかの書が床に散ります。 紙の折り重なる音を背景に振向けば、そこにあるのは白薔薇の花。]
…っ、いいえ。 特には、なにも──…。
[口をついて出たのは、下手な言い訳。 兄の死に祈りの言葉をくれた青年は、それでも「城の人間」。
日記を隠そうと首を振り、仄かな薔薇の香りに瞬きました。 ──どこか、色香を漂わせたその香りに。]
(110) 2010/06/24(Thu) 14時半頃
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花売り メアリーは、迷うように一度口を閉ざし──
2010/06/24(Thu) 14時半頃
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[書庫の影が持ち上がった。 散った書物を即座にもとどうりに並べ、戻してゆく]
……なにも? いいえ、聞こえておりましたよ。
あなたがお嬢様の名を呟くのも、すべて。
[白薔薇は語る 人には聞こえるはずのない音を、聞いたと。
そしてゆるりと微笑めば]
(111) 2010/06/24(Thu) 14時半頃
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───…。
セシルさま、でいらっしゃいましたわね。 あの…。
…マリーねえさまは、どうしてらっしゃるかしら?
[ぽつり。と聞いたのは、どこか2人が親しく見えていたから。]
(112) 2010/06/24(Thu) 14時半頃
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え……っ
[影が音もなく動いて、書を戻していく。 闇の中の怪異、けれどもそれより一層───、]
…どうして?
[はしばみ色の瞳を見開いて、唇から漏れたのは掠れた声の問い。]
(113) 2010/06/24(Thu) 14時半頃
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[問いに答える白薔薇は首を傾ぐ]
――……さあ、詳しくは存じ上げませんが、 ただ、余り宴を楽しまれておいでではないご様子。
あなたの兄君に心乱され、 同属の死もありましたゆえに 日々その憂いは増すばかりでございます。
[そして小さく呟くは、 「海の泡」などという単語、その意味は知れずともよい]
(114) 2010/06/24(Thu) 14時半頃
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[「どうして?」その問いには、いまだ答えず。 ただ視線は再び整頓された書棚へ一度、ちらと向かった。
背表紙と位置は覚えている。 あれは恐らく確かめる必要がある。
果たして 少女が見たものは、 ――――城の禁忌に触れるが否や]
(115) 2010/06/24(Thu) 14時半頃
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……、同属?
[僅かに瞳が揺れて、白薔薇の青年を見遣ります。 薬屋の死は未だ知らず、浮かんだのは僅かな希望と恐れ。]
ねえさまは…、こんな人殺しの宴なんて、 ……よろこぶはず、ないもの。
[きゅっと両手を胸の前で握り締めて青年を見つめます。 書棚の前に立ち、少しでも日記の在り処を隠したつもり。
小さな呟きには、少し眉を寄せて首を傾けました。]
……?
[うみ、と唇の形だけが繰り返します。]
(116) 2010/06/24(Thu) 15時頃
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……、あなたは。
[薄暗がりの書庫の中。 見えぬ恐怖に、何故か足が竦みます。 天の青は変わらぬ青さであるというのに、薔薇の香りは人を惑わすかのように、香り、香り───]
…… …っ
[───ことり。
気がつけば一歩後ずさり、背が書棚に触れるのでした。]
(117) 2010/06/24(Thu) 15時頃
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ええ、なかなか人の身では…… すぐに魔性にはなりきれぬもの、なのですね。 永の年月でも流れれば、少しは異なるのでしょうけれど。
[重ねる言葉に意図はあったか、 揺れる眼差しを捉えれば、目を細めた白薔薇はまた甘く香り]
人殺しの宴、などではありませんよ? ――我々には甘美なる食事、なのですから。
[そして白薔薇はゆっくりと手を伸ばす――]
[書棚との間に少女を挟むようにして、 手の伸ばされた先は書棚。 片手では少女の背を抱きすくめるようにして、書棚から離した。
きつくはない拘束、けれど 人ならざるその力に少女に抗う術があろうか]
(118) 2010/06/24(Thu) 15時頃
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そんな……!
[短く小さく、悲鳴のような声が零れます。 脳裏を過ぎったのはかの青年、苦しげな紅い瞳。]
…サイラスさまは精一杯、ご自分の「選択」をなされたんだわ。
[震える声。 それでも瞳は逸らさずに、白薔薇の青年を見上げます。
変わらぬ容姿、
──なのに、どこかが決定的なまでに、
ちがう。]
(119) 2010/06/24(Thu) 15時頃
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水商売 ローズマリーは、花売り メアリーに話の続きを促した。
2010/06/24(Thu) 15時頃
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我々?
あなたは、人間──…でしょう!? どうして……っ…
[認めたくはない現実。 言い募りながらも、身体の奥から震えが走るのです。]
………っ、離し、て…っ!!
[ふわりと香る、白薔薇の馨。 青年の華奢な腕に絡め取られて、逃れようともがきます。
ひどく軽やかに見える拘束─── けれども人ならざるもののその力は、決して解けない檻のよう。]
(120) 2010/06/24(Thu) 15時半頃
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[触れれば香る、乙女が赤き甘露 朝露に濡れる摘みたてのの野いちごを思わせる]
―――…ああ、
[湿った吐息は少女のうなじをくすぐって、 けれどゆるゆると首をふる――まずは、こちら、と]
しばらく大人しくしておいでなさい。 痛いのは、お嫌でしょう?
[もがく少女を宥めるような声を落として。 薔薇の蔦は一度だけ、きつくその身を抱けば]
(121) 2010/06/24(Thu) 15時半頃
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[触れた指先、日記帳―――はらりと捲れば見覚えのある書体、 そしてその描かれた内容、それが“彼女”の失われた断片であろうことは、察しが付いた。]
―――……これは、
[恐らくこれは、本来あってはならぬもの] [彼女にこれを見せることは、主が望まれぬだろうもの]
ああ あなたは これを
ご覧になって しまわれたのですね――……
[腕の中の少女を優しい青は見下ろして、 けれどその双眸は煌々と濡れた輝きを放つ]
(122) 2010/06/24(Thu) 15時半頃
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───…っ…
[細い首筋に触れる、白薔薇の吐息。 ふと感じた芳香に、恐怖とは別の震えが背筋を走り抜けます。]
…は、な…し、て。
[それでも口にしたのは、精一杯の抵抗の証。 首を振る──それ自体が、無防備に首筋を晒すことになるのだけれど。]
───── ……!
[しなやかな薔薇に抱きすくめられて、僅かな時息が止まります。]
(123) 2010/06/24(Thu) 15時半頃
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花売り メアリーは、奏者 セシルの視線に、ぞく。と身を震わせて──
2010/06/24(Thu) 15時半頃
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だめ……っ、…!
[制止の声が、一体なんの役に立ちましょう。 彼が手にしたのはかの日記、遠い昔の記憶の欠片。]
────…、そんなものが、なくても。
マリーねえさまは、マリーねえさまだわ。
貴方たちの、仲間なんかじゃ、ない。
[薄闇に、どこか昏い光を放つ天の青。 優しげなその瞳を、はしばみ色の双眸が睨み上げました。]
(124) 2010/06/24(Thu) 15時半頃
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[はしばみ色の睨みあげる様、 か弱き乙女の抵抗のなんといとおしいこと。 白薔薇は優しく微笑む]
ひとつ、教えて差し上げましょう。
望まぬ私を「このように」為されたのは、
あの方 なのですよ?
[そして遺す言葉を問うように、 白薔薇の口唇は静寂を保ち、書を書棚に戻せば]
(125) 2010/06/24(Thu) 16時頃
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[その指先、 白い手袋のそれはそっと、無防備に曝された首筋に触れる。 乱れた髪を直せば、とくり、暖かい脈動が伝わる]
――…ああ、お可愛らしいこと。
[乙女の小鳥が如きか弱き抵抗に、 白薔薇はその翼を折る愉悦を知る]
もっと囀って――…
[冷たい舌が一度その首筋を舐れば、 白き牙はその皮膚へと、深紅を飾る]
(126) 2010/06/24(Thu) 16時頃
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[驚愕に、緩やかにはしばみ色が見開かれます。>>125 唇が一度震え、ふるりと小さく首を振りました。]
うそ───。
……、嘘。
だって、ねえさまは──…
[瞬時、過ぎるのは兄の面影。]
…ねえさまは、夢をくれるのだと言ったわ。
望まない夢など、夢じゃないもの!
(127) 2010/06/24(Thu) 16時頃
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あ……、…
[息を呑む。こくりと喉が鳴る。 とくり、とくり──鼓動が伝えるのは、生命の調べ。
白い指が、冷たい薔薇がそっと触れて、]
…っ、やめて。化け物……!!
(128) 2010/06/24(Thu) 16時頃
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[高く細い悲鳴。
いくらもがいても、白き薔薇の蔓に囚われたまま。 必死に声をあげ、つめたい口付けを受け──…]
────…っ…!
[とろりと視界が溶けるのは、痛みにか──愉悦にか。 未知の衝撃は身体を突き抜け、思わず抱きつくような形に縋るのです。]
(129) 2010/06/24(Thu) 16時頃
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[化け物、と罵る言葉に、 一度赤く染まる唇を離す、とろり滴る赤い雫]
私とあの方は、同じもの、なのですよ?
[少女の耳朶を一度食めば、 その深紅は紅玉のように耳を飾る]
(130) 2010/06/24(Thu) 16時頃
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[縋るような乙女の瑞々しき肢体を抱きすくめれば、 やわらかな弾力白い肌のぬくもり、鼓動の儚さ その全てを愛しむように、空いた指先は甘く曲線をなぞる]
――……ああ、甘い…
[流れる命の蜜が如く、 乙女の血のまこと甘美なる。
人の身には過ぎたる愉悦を齎すそれは、 白薔薇にもまた陶然たる昂揚をもたらし、
白薔薇の芳香は書庫を満たす 目を閉じれば、そこはまるで花園のよう]
(131) 2010/06/24(Thu) 16時半頃
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ちっ、違うわ…。 マリーねえさまは……、…。
[白い燕尾服の胸に顔を埋めるように縋って、首を振ります。 涙を溜めた目を上げれば、そこに見えるのは美しき魔性。]
あなたたちが、閉じ込めてるんじゃない…っ
あんなに、あんなに帰りたがってた、のに…!
[訴えるように拳を握り、とん。と、青年を叩きます。 一度、二度。さして痛みも与えない、そんな抵抗。]
(132) 2010/06/24(Thu) 16時半頃
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花売り メアリーは、噎せ返るような白薔薇の芳香に、首を仰のけ──
2010/06/24(Thu) 16時半頃
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…きゃぁ……っ…
[するりと滑る指に、甘やかな吐息が零れます。 それへ抵抗するように首を振りますと、頬に一筋の雫が伝いました。
耳に紅玉、首には赤い筋。 真紅のドレスは、鮮やかな血のように赤く。]
あ……ぁ…
[白き牙の齎す、めくるめく程の愉悦。 穢れ無き乙女の知らぬ、未知なる快楽の園。
白薔薇の馨に包まれて、意識が遠く薄れかけ──]
(133) 2010/06/24(Thu) 16時半頃
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──────ッ!!!
[胸元から抜き放つのは、古びたペン。 遠く古き、思い出の形見が狙いも定めず振り下ろされたのです。]
(134) 2010/06/24(Thu) 16時半頃
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[憐れに囀るはしばみの小鳥、 色ととりどりの あか に彩られ、珠玉がごとく涙を流す。
花の吐息は、甘露を一層甘いものとなし]
――――……、
[愉悦に震える花の稚さ 愉しみが苦痛に変わらぬうちに、 慈悲もてその命を手折らんとすれば――]
(135) 2010/06/24(Thu) 16時半頃
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―――……ッ、
[赤く染まる白薔薇の口唇、 滴る赤の軌跡を残して、頬を掠めたるそれを見やる。 皮肉なこと――それは己が所持を許した彼女の兄の遺品]
……慈悲はいらぬ、ということですか。
[乙女が肢体を掻き抱いた腕を離す。 頬を掠めた傷は、即座に塞がる――薔薇の身は金属では傷つかない]
(136) 2010/06/24(Thu) 17時頃
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………、……
[は──…と、吸い込む息は薔薇の馨。 甘い香りに包まれたなら、絡む茨も慈悲の腕。 ぴちゃりと響く小さな音も、或いは天の調べのよう。]
[──けれど、それはまやかし。]
(137) 2010/06/24(Thu) 17時頃
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[出鱈目に振り下ろしたペンの先は、白薔薇の花弁を掠めたようでした。
はらりと露が飛び、飴色の髪が薄闇に舞う。 柔らかな天の青が───冷える。]
…っ…、
[腕を解かれ、よろめくように座り込みます。 白薔薇の背後の出口は、狭い部屋の出口が、
───あんなにも遠い。]
慈悲…?
[首筋に手を当て、白薔薇の青年を見上げます。 ああ、とろりと色を帯びた姿のなんと魅惑的なこと…! とくりと鼓動が跳ねたのは、恐怖だけではなかったのです。]
(138) 2010/06/24(Thu) 17時頃
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[悩ましげな吐息を落とす、 甘い血で満たされ充溢する魔性の体。
いまだその首筋より、 流れ出でる乙女が甘き生命を青い瞳は優しく見つめる]
……我ら皆、 ガラスの囲いの中の薔薇、
―――……もう、 人の世では、咲けぬのですよ。
[それが>>132散り行く乙女が言葉への答えであった]
(139) 2010/06/24(Thu) 17時頃
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