162 絶望と後悔と懺悔と
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[次々に斃れてゆく機動隊の只中に、 絢矢は単身飛び込んだ。
円に直円を任せることは 円にとって酷だとわかっているけれど、 今取れる最善は、それしかない。
絢矢の姿が一瞬、鬼達の視界から掻き消え、 機動隊の一人の首筋へと揮われた刃の前に現れる。]
────ッ!!
[漆黒を重ねてホリーの力を受け止める。
あまりの衝撃に編み上げた革靴の底が砂を抉った。]
(196) 2014/02/11(Tue) 00時頃
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[ジャニスから歩法を授けられたのは周だけではない。
周の機動力の目覚ましい向上に気づいた絢矢も、 後を追うようにジャニスに指導を求め、 周に及ばずともそれに近い瞬発力を身に付けた。]
させな──い、
[当然、ホリーの眼に 絢矢の動きは捉えられていただろう。
実力差は刃を交わさずともわかる。
それでも絢矢は退けない。 機動隊は必要な戦力だ。 ここで失うわけにはいかない。]
(199) 2014/02/11(Tue) 00時頃
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[>>194自信なんてない。
そうするべきと判断したからそうしているまで。 無謀の代償は心得ている。]
キミは有名人──だから。
[視線だけは一歩も引かない。
押し切られる前に小太刀を弾き、 押し返そうとするのでなく、 己の躰を後方へ押し出すように距離を取った。]
(203) 2014/02/11(Tue) 00時頃
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[首筋に殺気。
しかし接近は察知している。 察知する──というより、 直円自身が喋りながら近付いて来るので その行動は予測出来る。
首を狙って揮われた鉤爪>>201は 片手を地に突き、 その手を軸に直円の手首を蹴り上げることで逸らした。]
(208) 2014/02/11(Tue) 00時半頃
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[ホリーと直円の 二人共を視界に収められる距離を取り、 また、低く腰を落とす。
一瞬の攻防の間にも 絢矢の目線は周囲へ間断なく巡らされていた。
逃げに徹した機動隊の動きは早い。
東端の広い傾斜地から、 一台を残し駆動音は遠ざかる。
次に彼らが何処へ向かうかまではわからなかったが ここでの全滅は免れ得たと思っていいだろう。]
(216) 2014/02/11(Tue) 00時半頃
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[直円が意味深な言葉を発しても その意味を問う声は返らない。
機械人形のような瞳がただ真っ直ぐに二人を見ている。
正直、言葉を発している余裕もないのだ。 瞬時に情報を分析し 最も無駄なく一部の過失もない動きに変えるには 極度の集中を必要とする。
その証拠に、たったこれだけの対峙で 絢矢の息は軽く上擦っていた。
ホリーはそれほどに“規格外”なのだ。]
(223) 2014/02/11(Tue) 01時頃
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[直円を前にしたせいか、 円はまだ動き出していない。
無理なら逃げろと口を開きかけた矢先 無表情に近い絢矢の眉が一瞬不快げに跳ねた。]
…──キミが、直お兄ちゃんをその名前で呼ばないで。
(224) 2014/02/11(Tue) 01時頃
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やめて───
[言葉通りの『虫』のように、 直円は地を這いホリーの爪先に躙り寄る。
その唇がホリーの靴に口付ける瞬間、 絢矢の声はハッキリと低く震えた。]
(227) 2014/02/11(Tue) 01時頃
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[だから──その瞳>>232から狂気の翳りが消えた時 絢矢はまた、僅かに目を瞠った。]
お兄ちゃん──…、 …───わかってる。
[そして静かに、答えた。]
お兄ちゃんは虫じゃない。
[諦観を、静謐で見据え]
直お兄ちゃんはボクの──… わたし、の
今も昔も大切な『家族』だよ。
(243) 2014/02/11(Tue) 01時半頃
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だから、謝らないで。
お兄ちゃんは、ボクがちゃあんと──…
殺してあげるから───ね?
(244) 2014/02/11(Tue) 01時半頃
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『贖いをなさい──菖蒲』
[耳の奥で聲がする。
己の罪を贖えと、玉を転がすような聲で言う。]
(258) 2014/02/11(Tue) 02時頃
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[優しく笑う直円に やはり絢矢は笑顔を返せぬまま]
うん、識ってる。 こんな痩せっぽちのボクより、 直お兄ちゃんは、きっと強い。
だけどボクは──敗けない。 ボクはこの日の為に、訓練を続けて来たんだからね。
[会話が始まると手を出さなくなったホリーを横目で見て その参戦意志のないことを確かめると、 絢矢は編み上げブーツの下の地面をジャリと踏んだ。]
(259) 2014/02/11(Tue) 02時頃
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周ちゃんやお兄ちゃんを見習って ボクも偶には口上を述べるべきかな?
──行くよ。
(260) 2014/02/11(Tue) 02時頃
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右の漆黒は『菖蒲』 ──母を弑した罪なる名。
[左足を軽く後ろに引き、自然に腰を落とす。]
左の漆黒は『常磐』 ──父を黄泉路へ誘いし姿なき兄の名。
[右手をやや前方へ伸ばし、 左の剣先は急所を守るように心臓の前へ。]
(262) 2014/02/11(Tue) 02時頃
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『妹』と『兄』
対の罪名(つみな)を以って贖いの刃と成す──。
(263) 2014/02/11(Tue) 02時頃
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桜庭絢矢──、参る。
(264) 2014/02/11(Tue) 02時半頃
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アヤワスカは、直円へと、一直線に駆け出した。**
2014/02/11(Tue) 02時半頃
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無理。
[>>293皆で帰ろうと言う円に 残酷なほど穏やかに、きっぱりと告げる。]
一度鬼になった人間は、二度と人には戻れない。 養成所で、習ったよね。
[だから殺すしかない。 殺すしか──。
──嫋やかな手に導かれ、母の頚を断ったあの日のように。]
(308) 2014/02/11(Tue) 13時頃
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[円のホリーへの攻撃はあっさり防がれ、 逆に腹部を狙った膝蹴りが放たれる。
しかしやはり、殺気は感じない。
愉しんで──いるのだろう。 家族が殺しあう様を。
純血の吸血鬼に多く見られる残忍さ。 長大な寿命がそうさせるのか、あるいは種の性質か。
いずれ直円もこうなってしまうのだろうか。
やはり──。]
ここで殺してあげなきゃ───…
[呟くなり、絢矢は走った。]
(309) 2014/02/11(Tue) 13時半頃
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[数少ない、己より視点の低い相手。 左右に揺れるような動き。
戦いにくい──けれど。
下方から繰り出される鉤爪を左の『常磐』でいなし、 地面すれすれを這うように奔らせた『菖蒲』の剣先で 直円の右鎖骨を狙って切り上げる。
刃が当たろうと当たるまいと、 そのまま直円の後方へと駆け抜け、 振り向きざま懐から抜き出したくないを二本、 直円の下半身を狙って投擲した。
ただの鉄の塊であるくないは 当たろうとも傷はすぐに塞がってしまうだろう。
絢矢の目的は、 一瞬でも直円の機動力を削ぐことにある。]
(313) 2014/02/11(Tue) 13時半頃
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[剣先が皮膚を裂き骨を削る感触。 しかし断つまでには至らない。
疾駆の勢いをくない投じると共に外側へ逃がし 直円の呼吸の乱れに乗じて地を蹴り その脇腹を再び下からの斬撃で狙う。]
(315) 2014/02/11(Tue) 14時頃
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[直円は気付いているのだろうか。 再会してから、 目の前の少女が一度も表情を変えていないことに。
一部の隊員から戦う機械と揶揄されるほど 無駄を排し正確さを追求した動きと、 それを可能にする集中力。
感情を殺すことで、僅かなぶれさえなくなった。
反面──一旦集中が途切れると脆い。]
(323) 2014/02/11(Tue) 14時半頃
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[『戦う機械』になりきったつもりだった。
罪を受け入れ、泣くことも笑うことも己に禁じ、 結果、無感情に家族さえ殺せる心を獲たはずだった。
なのに──]
───、
[眼前の敵──直円の発したか細い呟きを聞くと 無感情な絢矢の瞳に、一瞬動揺が過った。]
(324) 2014/02/11(Tue) 14時半頃
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[その──一瞬。 絢矢は直円の動きを追い損ねた。
視界から消えた御器被を探し、 咄嗟に背後を振り返った絢矢の上空から 鋭い爪が降下する。]
──ッ、
[避けるのは間に合わない。
絢矢は何とか腰を捻り、 利き腕に繋がる右肩僅か下に逸らせ その代わりに晒された左肩を庇うように 『菖蒲』の切っ先を突き出した。]
(325) 2014/02/11(Tue) 14時半頃
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[小袖の肩を容易く切り裂き、鈎爪が深く肉を抉る。]
──ッぐ、
[焼け付く痛みを訴える肩と引き換えに、 菖蒲は直円の片腕に傷を付けられただろうか。
彎曲したその形状故に、 腱を断ち切られることこそなかったが、 余りの痛みと衝撃にたたらを踏む。]
(333) 2014/02/11(Tue) 15時頃
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[バランスを崩した絢矢に鈎爪は尚も迫る。
ギリと奥歯を噛み痛みを噛み殺し、 右手一本で繰り出される爪を捌く。
まだだ──もっと。
もっと強くならなければ、 鬼と成った兄には届かない。]
(335) 2014/02/11(Tue) 15時頃
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アヤワスカは、血を吸い重くなった小袖の袖で、直円の右爪を絡め取ろうと**
2014/02/11(Tue) 15時頃
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[絡げた鈎爪──撃ち込んだ刃は逆に捉えられ膠着状態。
円とホリーの会話が聞こえて来る。]
逃げて──ううん、 安吾さんか、ジャニスさんを呼んで。
その鬼はボク達だけじゃまだ無理だ。
[袖が緩まぬよう強く引けば 傷口から血が溢れ地面に血溜りを作る。]
(370) 2014/02/11(Tue) 17時半頃
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───もう、喋らないで。
[静かな──怒気を孕んだ声が漆黒の少女へと。]
聞いちゃ駄目、円。 ボク達の家族は──あの時に死んだんだ。
ここにいるのは人の生き血を吸う鬼。 ボクらとは違うモノだ
(371) 2014/02/11(Tue) 17時半頃
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[ホリーが円を追撃するなら 直円に背中を晒してでも護りに行くつもり。]
直、お兄ちゃん──ねぇ、ひとつ教えて。
[捉えられた右の小太刀が鈎爪の間を滑り抜ける。 金属の擦れる耳障りな音を聞きながら、 唐突に直円へと倒れるように距離を縮めた。]
(374) 2014/02/11(Tue) 18時頃
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[感情のない瞳が間近に直円を見詰め]
お兄ちゃん“達”は───幸せだった?
[只真っ直ぐに、透明な声で尋いた。]
(380) 2014/02/11(Tue) 18時頃
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[円の声と遠ざかるエンジン音>>387を聴きながら 兄の──兄だったモノの答えを待つ。
五年の歳月を経ても変わらない身長。 あのまま時が経っていれば 今頃見上げている筈だったのに。
聖水銀の力と訓練で、 絢矢達保護された子供らもまた、 純粋な人の躯には過ぎた力を得た。
絶望と、後悔と、懺悔と── 夜毎繰り返される悪夢の日々に、 連れ去られた兄姉達に、 僅かなりとも幸いあれと祈らなかった日はない。
例え──狂ってしまった母のようにでも 笑っていて欲しいと───。]
(409) 2014/02/11(Tue) 20時頃
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