151 雪に沈む村
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-墓地・>>5:40-
…匂い? 流石に体は綺麗にしとるがのぅ…?
[無論、クシャミの云うそれが物質的な『匂い』では無いことぐらい、老人は百も承知している。 しかし、獣人族独特の知覚の表現に、バーナバスもおどけて応じる。 手を鼻に近付けて、臭いかなぁ?ととぼけた様子で質問したり。]
(10) 2013/11/28(Thu) 03時半頃
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-墓地・>>5:42-
[龍族の寿命は、他の色々な生命体を凌駕する長さだ。 その中でも、人間は特に短い方に分類される。 人間族だったの?とクシャミに質問され、小さくうなずく。]
ああ……ちょっぴり魔術を扱うだけの、半血統(ハーフ)でもない、 他の種族から生命力を分けてもらうこともしなかった、 ただの……か弱い人間族じゃった。
[老龍も、心臓を共有したりなどすることで生命力を共有する契約などは聞いたことがあった。 しかし、龍の血を使って生き永らえることを許さず、他の人間を手にかけてまで長寿を得ようとしなかったその女性は、あっさりと死別した。]
(11) 2013/11/28(Thu) 03時半頃
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[墓石を撫でる間(>>5:39)に女性のことを想起したのか、バーナバスの表情は普段と違った。 クシャミも敏感にそれを感じ取ったのか、気遣うように優しい声色でバーナバスに問う。>>5:42]
……もう、分からん。寂しいんだろうか、私は。 後悔はたくさんした。だが、一方で満足もしている。 あやつが老婆の姿をしてても、その魂を愛した。 百年の生に対して、幾千もの生の愛で応えた。
(12) 2013/11/28(Thu) 03時半頃
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[おそらく、老龍が寂しく見えるのは、]
じゃが、もう何千年も会ってないからかのぅ。
[冬に閉ざされる少年たちの友情のように、]
―――また、会いたいのぅ。
[次に会う未来を今でも夢見ているからなのだろう。]
(13) 2013/11/28(Thu) 03時半頃
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[翳り、染まる白銀の空に、老人の白い息が咲いては消える。]
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(14) 2013/11/28(Thu) 03時半頃
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-墓地-
―――……ピーター?
[遠く離れていても、老龍にはピーターが活動しているのが聞こえていた。
だが、気付けばその声は、しんと聞こえない。]
[深い冬眠へ落ちる前に、ピーターは友人の少年のことを何か言っただろうか。
言っていなくても、今回の冬入り前にさんざ無理をしていたピーターが正しくねぐらへ戻れたのかが心配だった。]
[仮に洞窟に戻れていなかったとして、老いて力もないオセローには何ができたわけではない。
だが、動かないわけにはいかなかった。]
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-墓地→村はずれ-
[心なしか降雪の増した寒空の下を、老人は足を速めて村はずれへと向かう。 それでも速度は一般人が歩く程度の早さなのだが、今のバーナバスにはそれが限界だった。]
(―――……ふむ、まずいな…)
[自分の魔力が、予想以上に腹巻きにとられていた。 ドナルドの鱗製の品は、彼の炎で鍛えられている。 込められた魔力が、属性たる熱を発して所持者を助けるだろう。 しかし老人の腹巻きは違う。元々は外套だったこれに編みこまれた髪と術式は、今や老人の魔力を吸ってしか稼働しなかった。 東の果ての国では炎と鍛冶の神とまで言われたその男は、当然ながらもうこの世にはいないからだ。]
今日が限界か… なんとか夕刻までに滝まで行ければいいんじゃが…
[そうこうするうちに村はずれまで出た。 あとは滝の裏の洞窟まで向かうだけだが…
友人と一時の別れを遂げ、失意にくれる少年の姿が老人の視界に入ったなら、声をかけずにはいられなかっただろう。]
(15) 2013/11/28(Thu) 04時頃
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-回想・墓地>>5:39-
ところで、お前さん冬はどうするつもりじゃ? 冬眠場所のアテはあるのかいの?
[まるで今までの重い雰囲気を振り払うようにクシャミに問う。 どうやら彼は冬眠――この村へ残る選択をしたようだ。 本当に、冬の過ごし方は銘々で異なる。 今度はクシャミから、冬はどう過ごすのだと逆に問われた。 老龍にとって、冬の過ごし方は一つしかない。]
――私は、ここで雪解けを待つんじゃ。 昔、ここの近くにあった村でこやつと暮らしてたんじゃ。 …今はもうその村はないんじゃが… それでも、ここは思い出の地だ。 ――ここで、皆の目覚めを見守っとるよ。
(21) 2013/11/28(Thu) 21時半頃
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[もう、幾星霜を繰り返してきた過ごし方。 古く。古く。遠い時間の向こうから。 村眠たちが巡り巡る中で、この老龍はじっと生きていた。]
毎年、冬になったらここへ挨拶に来るのじゃよ。 まだ冬眠から覚めないのか、ってな。 また冬が来たぞ、とな。 こやつは……冬入りの年に、眠りについたから。
[白く冠を頂く墓石を、またさらりと撫でる。 女性の死以来、若き日の龍はずっとここで冬を過ごしている。 どんなことがあろうと、冬眠をするのはこの場所に帰ってきてからだった。]
(22) 2013/11/28(Thu) 21時半頃
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[まるで雪に沈む村を惜しむように、クシャミと会話を交わす。 やがて、彼が用事を思い出したらしく、尻尾をピンと跳ねさせて墓地から立ち去ろうとする。 が、クルリとしなやかに振り返り、微笑んだ顔で青年は再会を望む。]
そうさな、その時には夢みたいな思い出話を―――
……できるように思い出しておくわぃ。 大分忘れとるからのぅ。
[別れ際までおどける老人に、猫の青年は笑ってくれただろうか。 小さく手を振り、青年が立ち去るのを見送った。]
(23) 2013/11/28(Thu) 21時半頃
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-村はずれ-
[ねぐらの洞窟へ向かうところだったが、遠くから呼びかけられる声に首をめぐらすと、遠くに人差し指くらいの大きさの人影が見えた。>>16]
んー……ありゃあ…
[目深に被った帽子の奥にある目を細め、眉をひそめて人影を凝視する。 どうやらバーナバスに見覚えのある人物のようで、手を振ってくる姿は少年のようだった。]
おお、あの時の鍋少年! どうしたんじゃー!こんなところでー? そろそろ寒くなる時期じゃ、早めに村に引き返した方がいいぞー!
[老人にしては駆け足で、一般人の速度ならおそらく早足程度の速度で、少年へと近づいた。]
(24) 2013/11/28(Thu) 22時頃
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おお、トニーというのか。 私の名前はバーナバス。ご覧の通り神様じゃ。
[どこが『ご覧の通り』なのかまったく分からないが、この老人は純粋な少年に神様だと名乗って惑わすのが趣味なのかもしれない。 だとするなら悪趣味にも程がある。 少年も、『神様』への反応もそこそこに現状をぽつぽつと喋り始める。 どうやら迷子になったようだ。おおよその理由は見当がついたが、バーナバスは敢えて言及しないことにした。 少年からどうしてここにいるのかと問われれば、]
そりゃあ…この先に友人が住んでるんでの、冬の前の挨拶に…
[とはいうものの、この先には人の住んでいる建物どころか小屋の一軒もない。そんなものがあれば二人ともこんな何もないところで出会わなかったはずである。 たまたま『この先』、と指さした先は、はたして若き龍がねぐらにしている洞窟だっただろうか。]
(26) 2013/11/28(Thu) 23時半頃
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まあ……『家』はないのぅ…
[なんといっても生来の姿は龍、カルヴィンもバーナバスも建物などを作った日には変身を解いた瞬間にぶっ壊してしまうからだ。 そして、トニーが迷子になったのかと問えば。]
バカを言うでない、私は… 家に… いえ…に…
うん、まあ家はないのぅ。
[言っている最中に先程の自分の発言と矛盾したことに気付き、老人ははてと首をひねる。]
……いや、迷子ではないぞ? 一旦村に戻るか?
[しかし、ただ迷子になったと思われるのも癪なので、とりあえずバーナバスは村まで戻ろうと提案する。少年が一人で戻れるというなら、そのままこの場で別れるだろう。戻るというなら、道案内として先導するつもりだった。]
(29) 2013/11/29(Fri) 02時半頃
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[少年に冬の過ごし方を聞かれれば、>>30 老人はいつも通りの答えを返すだろう。]
冬はゆっくり休むつもりじゃ。 春に、みんなが目を覚ますのを…じっと待ってるんじゃよ。
[手を引く少年の手が温かい。 老人の手は、氷のように冷たかったことだろう。 腹巻きの効果も、寒さに奪われる老人の魔力に比例して弱まっていた。]
坊やも…家の中で温かい恰好をして、ゆっくり休むんじゃよ? こんな何もないところを宛もなく歩いていたら、寒さで凍えてしまうじゃろう。
[村の方へと歩き続けながら、少年と話を続ける。 正しい方向へ歩けば、すぐに村の明かりが見えただろう。]
(35) 2013/11/29(Fri) 20時頃
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―村の付近―
おお、そう言えば…お主、『ウォーレン』というものを知らぬか? ちょいと用事があっての、そのものに会わねばならんのじゃ。
[手をつなぐ少年に、バーナバスは質問を投げる。 古い友人から頼まれた言伝を届けるためだった。>>4:65]
(36) 2013/11/29(Fri) 21時頃
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-工房前-
[工房前へとやってきた老人は、懐から一通の手紙を取り出した。 内容はたった一文。 春になって、工房の主がこれを読めば、意図は伝わるだろう。 風で飛ばされぬよう、しっかりと玄関扉の奥へ差し込み、老人は工房を去った。]
(37) 2013/11/29(Fri) 22時半頃
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>>38
ほれ、私は神様じゃよ。神様だって冬眠ぐらいするわい。 …とまあ、冗談は置いといて。 冬は雪に閉ざされちまうからのぅ…やることが無いからの…
[孫でもいればオセロでもするんじゃが、と小さく呟いた。]
[どうやら少年は旅に出るらしい。 初めて会った時にも薄着でガタガタ震えていた少年が、 冬に旅に出て大丈夫なのだろうかと老人は心配を覚えた。]
[村が見えてきたころ、ウォーレンなる人物の所在を少年に聞いてみた。>>36 すると、木と一体化するように建つ工房の扉が見える。]
おぉ、あの木じゃな。 ……ちょっと行ってくるわい。
[少年はついてきただろうか。 老人は工房へと向かって歩き出す。>>37]
(39) 2013/11/29(Fri) 23時頃
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>>40
ん?何も面白いことなんぞないぞ? なんなら一緒に来るか? ついでに身体が温まるお茶の店でも知ってたらありがたいんじゃが。
[老人は手紙を残すだけ、少年が居てもいなくても構わないだろう。 むしろ、冷えた身体を温めるためには室内に行く方が先決だろう。 少年も老人も、随分と外を歩いていたのだから。]
(44) 2013/11/29(Fri) 23時半頃
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―ソフィアの店―
[店に入ると、室内の空気が二人を優しく迎える。 他に客は居ただろうか。先客がいれば、挨拶がてら言葉を交わしただろう。]
……坊や、そのブーツは…
[バーナバスの視線が、少年の足元に釘付けになる。 道すがら雪を被った、真新しいブーツ。 同族ゆえか、そこに煌めき宿る『加護』を感じたのだろう。 雪を払うために老人が少年のブーツを触ると、暖かい炎の熱気を感じた。]
おぉ…なるほどのぅ…
[うんうんと感心するように頷く老人。 席へと座り、店のものへ注文を伝える。]
ほれ、お主もお座り。 代金は私が払っとくよ。
(48) 2013/11/30(Sat) 00時半頃
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[少年といくつか会話を紡ぎ、 そしておもむろに、少しだけ静かに何かを考えるように目をつむった。]
………そうじゃのぅ。
[古き存在は、新しき存在へ。 眠るものは、旅するものへ。 己の持つ何かを、受け渡すのだ。 もう見ることのできない、地平の向こう側を見てきてくれと。]
(49) 2013/11/30(Sat) 00時半頃
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[老人は少年に背を向ける。 少しだけごそごそと何かをしていたかと思うと、次の瞬間おもむろに少年へと振り返った。 その手には、なめらかな光沢を放つ外套が握られていた。 大人一人が身につけるには小さいサイズでも、少年が身につけるならば丁度よい大きさ。]
……旅に出るなら、こいつを持っていきなさい。 そのブーツと一緒に身に着けていれば、寒さから身を守ってくれるじゃろう。
[それは、老人が遥か昔に身に着けていた外套。>>4:44 龍族が唯一冬を克服できる、今を生きるものからすれば神話の時代に等しい、遥か昔の時代からの贈り物。 今や老人の身体を寒さから守ることも叶わず、腹巻きでしかなかった布地。細々と持ち主の魔力を吸っては小さく燃える外套だった。]
(50) 2013/11/30(Sat) 00時半頃
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[同じ属性の魔力がこもった品を、ドナルドの鱗と炎から作られたブーツが近くにあれば、魔力に共鳴して外套も効果を発揮する。 身を包めば、冷気を遮断し、柔らかい春の日差しのような暖かさを外套の内側にもたらすだろう。]
[はたして少年はうけとっただろうか。 受け取らなければ、また老人の腹の周りに腹巻きが出現するだけのことだろう。]
(51) 2013/11/30(Sat) 00時半頃
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若者は遠慮なんぞしなくていいんじゃ。 前に会った時にも言ったじゃろぅ。>>2:70
[光の加減に依って柔らかく光る温(ぬく)い布を、少年の手にふわりとかける。 重要なことは忘れたように喋るくせに、細かいことを覚えてるバーナバスであった。]
[やがて、温かい飲み物を飲んで一息ついた老人は、帰路へ着くために席を立つ。 2人分の代金を置いて、店の外へと出るだろう。]
(53) 2013/11/30(Sat) 01時頃
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−外−
[店を出れば、冬の到来はもうすぐそこまで迫っていただろう。 塵のように視界の中を舞う銀粉が、老龍をねぐらへと導く。]
おお、アチャポ、ポプラ、すまんのぅ。 カンテラなんて用意してくれるとは…ありがたやありがたや。
[途中、見知った友の妖精たちがカンテラや小さい炎を持ちより、鱗が露出した老人の肌を温める。]
「寒さにしびれていた老人の手も感覚を取り戻し、 目が爬虫類のギョロ目になろうと、肌が鱗を露出させようと、冬の妖精たちは恩人のために防寒の手を尽くす。]
(58) 2013/11/30(Sat) 01時頃
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[あと少し。 もう少しで。 ほんの目の先のところに洞窟が見えて――――]
(59) 2013/11/30(Sat) 01時頃
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